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上越国境(白毛門~巻機山)縦走
越前屋 晃一

山行日 2003年6月21日~24日
メンバー (L)越前屋

 信州、上越の国境をはしる三国山脈の東端に谷川岳がある。山脈はそこから北に向かって、越後と上州の境を走る。
 朝日岳、柄沢山、米子頭山、巻機山等が16キロメートルに渡って並んでいる。この国境尾根について終戦間もないころの登山案内書はこう説明している。
(このルートはいわゆる登山路ではない。ところによっては狩人が開いた径があるが、全体としては、這松と熊笹に蔽われた尾根続きである。根拠地は清水村であるが、従走路としては未開である)

 新田次郎の小説『先導者』の冒頭の一節である。この作品は昭和31年(1956年)に発表されたものであり、当時、このルートは手付かずのルートだったことがうかがえる。3年程前に清水村の農家の人がなつかしそうに「あの路は20年前にオラたちが入ってから手が入ってねえはずだ」と話していたことを覚えている。つまり、20数年前には登山道として整備されていた縦走路が今再び『先導者』の舞台となった当時の状態にかえっているということだ。
 この縦走の目論見はここにある。今風に言えば、コンセプトは50年近く前に書かれた小説の舞台をあえていま実体験すること、少しおおげさになるかもしれないがそんなことを考えてみた。
 19日の悪天が予想されたので、幸か不幸か他に参加希望者がなかったのを良いことに出発を2日ずらして条件を整えることにした。

 【21日】 前夜、PAで仮眠。早朝、土合駅に到着。この日、土合駅は改良工事中でいつもの仮眠風景はなかった。車は駅前にデポ、帰りは六日町駅から上り電車に乗って回収する手はずだ。
 昨夜は雨のようで登山道は雨にぬれていた。今日は一般ルートなのでまもなく追いついた中年のご夫婦と入れ替わりながらのんびりと登る。登山道の左に一の倉沢を展望し、松ノ木沢の頭を越えるとジジ岩・ババ岩が見える。
 まもなく白毛門に到着。少しゆっくり休んでから御夫婦に「気をつけていってらっしゃい」と激励されて出発した。
 白毛門から50分。笠ヶ岳ピストンの人たちだろうか、単独を含む3パーティーとすれちがう。山頂はすこし風があり寒くなって雨具を着る。
 朝日岳へは岩壁の左を捲くようにして山頂に立った。ガスが白くたちこめていて展望はないが凛としてどこか気品のある山だ。
 まだ2時前ですこし早いが、水をとることのできるここに幕を張ることにする。残雪が山頂から宝川温泉へのルートの周辺にかなりあって、水場の水もかなり濁っていたが明日からは稜線上で手に入れ難くなるのでここで二日分の水を補給しておく。
 【22日】 明るくなるのを待って出発。まもなく、『先導者』で「1744高地」と云うジャンクション・ピークに立つ。分岐点には「難路・道なし」の指導があった。JPから西の鞍部に下り、露岩のついた尾根を登って稜線を行くと、まもなく大烏帽子岳山頂に着く。熊笹に道は蔽われているものの注意深く進めばかすかな踏み跡を辿ることが出来た。
 大烏帽子岳から先は潅木の密藪に苦しみ1時間にわずか3~400mしか進めなくなってしまった。おまけにこの日大量発生した蚋(ブユ)の集中攻撃には閉口した。
 檜倉山に着くと池塘があり、密藪から解放されて一息つく。藪との格闘で飲みすぎた水もここで補給できた。しばらく藪を漕いで柄沢山直下に到着。1686mの小ピークの平坦な草地に幕とする。ブユはテントの中までついて来た。ブユ退治に小1時間ついやす。
 【23日】 朝早く、目の前に大きく立つ柄沢山を登る。山頂は熊笹に蔽われ三角点がかろうじて顔を出していた。
 柄沢山を下り始めて尾根が広くなったところで一帯はガスに包まれて展望がなくなった。
 コンパスを振り、念のため赤テープを数箇所につけて慎重に進む。2万5千図上二つ目の1802Pでようやくガスが切れて右前方の尾根を確認。鞍部に下りて北北東に進路をとる。
 米子頭山までは古い登山道の跡が所々に出始める。まだ残っている残雪とつなぎ合わせてちょうど尾根の東側づたいに進む。
 山頂は縦長で、三角点は手前にある。降り口はわかりにくいが明大ワンゲルの青い山名プレイトのあたりから潅木の中をトンネルのように踏み跡が残っている。また藪が濃くなってくるがまもなく巻機山だ。『先導者』でアウトになったのはこのあたりということになるようなので、とりあえず丁寧に地図を確認する。
 ここでのポイントは1928Pの潅木帯をかわして東の山腹を大きく捲くようにする。まもなく古い登山道の跡が出てくる。巻道でシラネアオイの群生を見た。薄紫色のおおぶりの花弁が言いようのない気品を感じさせていた。巻機山々頂には残雪のスプーンカットを拾って一歩一歩感激を踏みしめて登った。
 今夜は避難小屋で止まることにする。手入れのいきとどいた気持ちのいい小屋だった。
 【24日】 小屋を叩く雨の音で目を覚ます。バスに間に合うかもしれないというかすかな期待を持って急いで朝食をとって出発。しかし、おしいことに路線バスは5分前に出発していた。次のバスは午後1時までない。これはもうタクシーしかないと近くの民宿にタクシー会社の電話を聞きに行くと、腰の曲がったおばあさんが出てきて「沢口まで行けばバスが出ている。もったいないから歩け。小1時間もすれば着く」と言う。それじゃあ、ということでせっせと歩くとピッタリ1時間でバス停に到着した。もしかしたらこのあたりのおばあさんはこの距離を1時間で歩くのだろうか・・・。

〈コースタイム〉
21日 土合駅(6:30) → 白毛門(10:10~50) → 笠ヶ岳(11:40~12:00) → 幕場(14:00)
22日 幕場(5:15) → JP(5:45) → 大烏帽子岳(7:10) → 檜倉山(12:00) → 幕・柄沢山直下(15:00)
23日 幕場出発(5:30) → 柄沢山(7:05) → 米子頭山(10:55~11:30) → 巻機山(3:30)
24日 小屋発(5:10) → 清水バス停(7:29) → 沢口へ(7:40) → 沢口バス発(7:55)

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