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胎内川楢ノ木沢堂沢
金子 隆雄

山行日 2003年8月30日~9月1日
メンバー (L)金子、荻原、藤井、高木(敦)、橋岡

 飯豊の沢へ足を踏み入れるのは初めてだ。飯豊の沢というととんでもない所というイメージがあって足を向ける気が起きなかった。今回、俊介君が例会山行を企画したので参加することにしていたのだが、当人は2週間前に大田切川で膝を負傷してしまい、当分の間山はお預け状態になってしまったので急遽私がリーダーを代行して決行することになった。

 8月30日 曇り
 関越道を中条で降り、どこをどう走ったか覚えていないが、明け方に胎内ヒュッテ前の駐車スペースに到着した。まだ雨が降っていたので狭い車内で身を縮めて1時間ほど仮眠をとる。明るくなって雨も上がったので準備して出発する。
 初めてなのでどこから胎内川へ降りるのか判らず、胎内ヒュッテの裏手から潅木に掴りながら降りる。胎内ヒュッテは少し奥に建替え中だった。すぐに対岸に徒渉して尾根に取付く場所を探すが、どこも急過ぎて上がれそうな所がない。やむなくまた徒渉して戻って下流へ行ってみる。少し下流へ行くと道路から下ってくる道があった。
胎内川本流の徒渉  黒石沢の出合い付近を胸までの徒渉で対岸へ渡る。ここは増水したら渡るのは無理そうだ。黒石沢の右岸尾根に上がるとすぐに踏み跡があったのでこれを辿る。アゲマイノカッチ直下はかなり急だがしっかりと踏まれたいい道で、1時間ほどでアゲマイノカッチ(667mピーク)へ到着。一本入れた後で楢ノ木沢へと下降開始する。所々不明瞭な踏み跡を辿り、途中からルンゼを下降して楢ノ木沢に降り立つ。楢ノ木沢は澄んだ水が滔々と流れ、我々を歓迎しているかのようである。
 二俣まではさしたる悪場もなく、頻繁に出てくる廊下状の瀞を胸まで浸かりながら楽しく溯行する。気温が高いのでどっぷりと水に浸かっても寒くないのがありがたい。堂沢と鴨沢との二俣には昼前に到着し今日の行動を終える。2泊3日の計画なので、先を急ぐ必要がないため今日は二俣に泊ることにする。
この様な廊下が頻繁に現れる  早速幕場を探すと堂沢へ入ってすぐの右岸にブルーシートで小屋掛けされた幕場があった。ブルーシートが張りっぱなしのため陽が当たらないせいか、ジメジメしているが他に適当な場所がないのでここを使うことにする。使わせてもらってこんなことを言うのもなんだが、ここは非常に汚い。釣師が残していった物と思われる、食料を除くありとあらゆるものが残置されている。また来て使う積りで残していったのだろうが私にはゴミとしか思えない。釣師のモラルは低いと常々言われるが、持ってきた物ならなぜ持って帰れないのだろうか。きれいな沢だけにこの汚点は非常に残念だ。
 今日は時間がたっぷりあるので堂沢へ釣りに入ってみる。流れに放り込んだ毛鉤に次々にイワナが飛びついてくるがどれもリリースサイズばかりだ。1ダースほども釣り上げたがキープできるほどのサイズはなし。ま、楽しめただけでもいいかと諦めて幕場に戻る。焚き火の傍らで一杯やっていると下流へ釣りに行っていた荻原君が尺級のイワナを携えて戻ってきた。
 この日はちょっと飲み過ぎてしまったようで、夕飯を食べた記憶もないし、いつ寝たのかも覚えていない。夜中に雨の音で何度か目が覚めた。

 8月31日 小雨
 夕べ飲み過ぎた割には二日酔いもなく快調だ。だが天気は不調で雨が降り続いている。ここは蚊が多いようで橋岡君は顔がボコボコになっている。7時前に幕場を後にする。
 堂沢は平瀬とゴーロが延々と1時間近く続き飽きてくる。縞模様のナメが現れだすといよいよゴルジュ帯の始まりだ。最初の4m滝は左壁に垂れているお助け紐を使って越える。次に現れたのが難関の15m直瀑、落口に巨大な岩を乗せ流れを狭めている。この滝は手も足も出ず捲くしかないようだ。どこから捲くかが問題で、記録では右岸のカンテ状を登って捲いているが結構悪そうに見えたので手前のルンゼに取付いてみる。しかし、このルンゼも思った以上に悪くて断念。カンテ状を途中まで登ってみたがやはりこっちも行き詰ってしまう。先ほど断念したルンゼに今度はザイルを使って荻原君が再度トライする。2mほどの岩場を登りきり後続を引き上げる。トラバースするには更に登らなければならないが、正面は岩壁に塞がれているため、左に少しトラバースし潅木頼りの腕力全開で垂直な木登りとなる。ほんの10m程度だがかなりきつく、腕力が尽きかける頃ようやく傾斜が緩みピッチを切る。トラバースしてルンゼを1本横断して小尾根に取付き、この小尾根を下って沢に戻った時はホッとしたが滝場はまだ終っていない。この捲きは大高捲きになってしまい1時間以上を費やしてしまった。
15mの直瀑、落口には巨大な岩が  続く3m滝は右岸は側壁が高く、右壁も岩が磨かれてツルツルだ。右壁の細いバンドをへつれば何とかなりそうでもあったが難しそうで、左岸を低く捲けそうであったので捲くことにする。ズルズルの草付きを先ずは荻原君が登り始める。橋岡君がそれに続いたが途中でスリップ、4mほどの高さから転落し河原に叩きつけられしまった。まずい事になってしまったと青ざめてしまったが、幸いにも背負っていたザックがクッションになってかすり傷程度で済んで一同胸を撫で下ろす。この時の被害はビリーカンが歪んでしまったことと菊水の缶に穴が開いたこと、それと肘の擦り傷であった。以後慎重になったことは言うまでもない。
 ようやく滝場が終わり沢は開けて開放的になり、ゴーロ帯を少しで中の二俣に到着。二俣を右に入りゴーロを進んでいくと正面から枝沢が入り、本流は直角に左に折れる。巨岩のゴーロ帯を進んでいくとだんだんと側壁が立ち始め圧倒的なゴルジュへと突入していく。岩という岩は磨かれてツルツルで、側壁は高く捲くことは叶わず中を突破する以外になさそうだ。
 最初の5mほどの滝は藤井、荻原の両名は左岸のチムニー状を登って逆層のスラブから潅木帯に入っていった。私はそこを登る気がしなくて水流左の岩の上にハンマー投げを試みる。うまくいくとは思っていなかったが4回目にうまい具合に引っかかったのでそーっと引っ張ってみるが大丈夫そうだ。空身になって水を浴びながら、外れないでくれよと祈りながらぶら下がり、四苦八苦してやっとのことで這い上がる。ザックを引き上げ、後続の2人を引き上げる。その上は斜めの岩と岩との間を這い上がり、上の穴から抜けようとしたが穴が狭くて潜れない。チョックストンにシュリンゲを掛けてアブミ代りにして何とか這い上がることができた。ここで懸垂で降りてきた藤井、荻原両名と合流。
 すぐに4mの滝が待ち構えていた。ここは左岸の外傾したバンドからテラスに上がるしかルートは考えられない。残置ハーケンが何本かある。浅打ちのハーケンは根元まで打ち込み直して空身でザイルを付けて登る。外傾したバンドは体が空間に放り出されそうで苦しい。テラスに上がる所はホールドがなく、奥の方にハーケンがあるが届かない。きわどいバランスでテラスに這い上がり後続を確保する。
 続く3m滝は左端を荻原君がきわどいバランスで登りきりお助け紐で引っ張り上げてもらう。最後の12m直瀑は落口がハングしておりどこにも隙がない。右壁にハーケンを1枚打って荻原君がリードする。よく見ると残置ハーケンがあった。潅木帯を捲き降りてようやく核心部を終了した。
 穏やかになった流れを幕場を探しながら辿ると奥の二俣に着いてしまった。この先に幕場は得られそうにもないので戻ることにする。5分ほど戻った左岸を整地してタープを張り幕場とする。狭くて凸凹だが贅沢は言えない。
 今日は厳しかったので皆疲れているようだ。私なんぞは水と焼酎を間違えて、ウィスキーの焼酎割りを飲んでいても人に指摘されるまで気がつかないほどだった。流木がなくて焚き火もできないので夕食後は早めに寝る。

 9月1日 小雨
 今日は早発ちするために早めに起きる。夜中になにやら騒がしかったが、聞けばタープに雨水が溜まって顔に貼りついて窒息しかけてパニック状態になった者が2名ほどいたとか。今日も天気は悪くガスっていて視界が悪い。今年は沢へ行ってもすっきりと晴れたことが一度もない。なぜなんだろう、超強力雨雲吸引男になってしまったか。6時前に出発。
 奥の二俣で目指す右俣は2段40m滝で出合っている。正面のルンゼを登ってヤブをトラバースして下段の落口に立つ。上段はホールド豊富でノーザイルで登ることができる。その後も登れる滝がいくつか続き、楽しく溯行を続ける。やがて2段15m滝となりこれは直登はできそうにない。下段を登って左岸のカンテ状から草付きに入り落口に降りる。ここはザイルを使用した。
 しばらく滝は現れず、最後に4m、3m、トイ状5m滝を楽に登ると全ての滝場は終わり、すぐに二俣となる。やれやれ、後は草原に出て終わりだなと安堵したが、そうは簡単に終らせてはくれなかった。二俣を右に入るとすぐに7mの黒い滝が現れる。こんな所に滝が現れるとは、ルートが違うんじゃないかということで二俣まで戻って左へ行ってみる。しかし、左も違っているようなので再び戻って右沢へ入る。黒い滝は左のルンゼから捲いて降りると更に登れない滝が二つあり、まとめて左岸より捲いて降りると沢は開けて草原の中に吸い込まれていく。最後に10mほどヤブをこぐと登山道に飛び出した。
フィナーレは草原だった  下山は今は廃道同然となっている黒石山経由で胎内第一ダムへ降りる道を辿る。草が覆いかぶさってはいるが道はしっかりしている。黒石山からナリバ峰間は両側が切れた痩せ尾根で、ナリバ峰からは急下降となる。黒石山からダム直下までは太いロープが切れ間なく張られており、急な所ではとても助かる。鉄梯子でダムに降りて車道へ上がる最後の階段が足に堪える。
 荻原君が車の回収に行ってくれたが、近かったようですぐに戻ってきた。締めくくりの温泉は帰り道の途中にあるロイヤル胎内パークホテルにいく。西洋の城のような立派なホテルで我々のようなこ汚い山屋は入るのを躊躇してしまうが快く入れてくれた。
 どこかで飯を食おうと中条へ向かったが、散々迷った挙句に中条って何もない町だねということを確認しただけに終わり帰途についた。

〈コースタイム〉
8月30日 胎内ヒュッテ発(7:15) → アゲマイノカッチ(8:20~8:30) → 楢ノ木沢(9:15) → 二俣(11:45)
8月31日 出発(6:50) → 中の二俣(12:30) → 奥の二俣(15:50)
9月1日 出発(5:50) → 登山道(9:10~9:30) → 黒石山(11:30) → 胎内第一ダム(13:00)

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