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集中山行・甲武信ヶ岳 その三 鶏冠谷左俣
土肥 雅美

山行日 2003年7月26日~27日
メンバー (L)藤井、土肥

 鶏冠谷左俣隊は、当初メンバーに入っていた紺野さんが都合で行けなくなり、二人での出発となった。西沢渓谷入口駐車場を朝9時半に歩き始めた頃、空は青く晴れわたり、今日で梅雨明けかも? と喜んだのもつかの間、以後は雨が降ったり、いっときは晴れるもののすぐに曇って雨が落ちてきたりの変わりやすい天気となった。  東沢本流に降りると、ずいぶん増水している。大荒川谷チームはR140の土砂崩れで足止めを食ったということなので、奥秩父は昨日大雨が降ったのだろう。体重に自信がない? わたしのために3回のうち2回はスクラム徒渉で、鶏冠谷出合は11時近くなっていた。1時間ぐらい前にここを通過したはずの釜ノ沢隊はどうしてるかなぁ? ひとのこと心配している場合じゃないんだけど・・・。
 出合の水量からして平水時とは全然違う。入ってすぐのゴルジュは、チョロチョロのはずが一気にドバッと滝(!)である。その先も小さな滝が連続するが、いったいどこがサカイ目なの? という状態だし、とにかく水線通しでは全然行けないのだ。わたしが先を歩くとすぐに詰まってしまうので、藤井さんが終始先を行ってくれたが、聞きしに勝る達人は、すごいんです、これが。一瞬にしてルートを見つけ、迷うことなくさっさと上がってしまう。詰まるということがない。感心しているヒマもない。
 轟々と水を落としている10mほどの「魚止ノ滝」は左岸を巻いた。ちょっと上がり、そのまま左へトラバースして落ち口に抜けられそうでもあったが、そこからやや右へ戻ってさらに上がったため、高巻き過ぎた。ここは結構緊張した。その後も、次々と出てくる傾斜の緩いナメ滝でさえ水量の多さから直登できない。絶壁の滝で入ってくる奥ノ飯盛沢を右岸に確認、その先の20m「逆くの字滝」も真ん中あたりに残置シュリンゲがあったが、水飛沫を跳ね上げながら怒濤の流れになっていて登るなんてとんでもない状態で、滝の左側から這い上がる。ここをはじめとして厳しいワンポイントでは、絶妙のタイミングで藤井さんが何度もシュリンゲを出してくれる。
 パッと開けた二俣へ着いたのは13時半過ぎ、休んでいるうちに雨が降り出した。状況によっては短い右俣にしようかとの選択肢もあったけど、なんとかなりそうだねーということで当初の予定どおり左俣に入ることにする。ガイド本の遡行図を見ると、トイ状ナメ滝とか、大岩の滝とか書いてあるが、これほどの水量だとそんな区別はつかない。トイも大岩も階段状も全部水流の下!
 一ノ沢出合手前の10mほどの滝は右側の端のラインから越えた。藤井さん、渓流タビで忍者のごとくずり上がっていく。わたしの番、厳しかった。「ほら、そこにガバあるよ」「どこ、どこ? ないよー!・・・あっ、あった・・・ヨイショ! ヒ~ッ・・・フッ」その先の一ノ沢出合に落ちる15m位の滝はちょっと戻って右側から巻く。さらに二ノ沢を過ぎる。何段かになったナメ滝のテラスを横切るのに躊躇する。水が少なければたぶんなんでもないところ。おっと、こういうときは下を見てはいけない。気持が引いたらダメ! わかってはいるんだけど、転んでしまい、藤井さんのシュリンゲに助けられる。スラブ状の急傾斜で入ってくる三ノ沢(?)はあんまり水量がなく、このあたりから現在地確認があやふやになる。
 遡って行くにつれ、だんだん水量が減ってくるので水線通しに登っていけるようになる。最後の滝らしい滝、2列にトイ状になった10mほどの滝は、ホールド、スタンスともしっかりあって、ようやく「快適な登り」にありついた! という感じ。この滝の直前、左岸からどしゃ降り状態で落ちてくる滝のほうが本流か? とわたしは一瞬気になったが、水が少なかったとしてもとても直登はできそうもない逆層だ。
 このあたりで既に16時を回っていた。もちろん、その前からテン場を探しながら来たが、これが全然ない。鶏冠谷の形や地図から見てもなさそうだなーとは予想していたけど、何とか探せば一か所ぐらいあるのでは、との期待も虚しく、結局稜線まで上がってしまうことになった。急傾斜の長ーい詰めだった。びしょびしょの身体だから止まると寒い。石楠花がチラホラ出始めたがほんとの密ヤブコギは最後の20mぐらいだった。それよりわたしの場合、大きな倒木の迂回が大変だった。
 ようやく、鶏冠尾根の踏跡に出たのは18時。予定どおりの2177ピーク北側の鞍部と思われる。登山道というには頼りないけど、全部核心だった今日の沢を遡ってきた身にはとってもうれしい。石楠花に覆われているここに泊ることもできないので、ひとやすみしてから木賊山方面へ向かう。もうこうなったら今夜中に甲武信小屋まで行ってしまいたい気持にもなったが、西側の巻道を30分ほど歩いたところで、藤井さんが道の平らなところを見つけてくれ、ここに大きなタープを張る。
 コメツガの原生林の静寂の中、まさに奥秩父そのものを満喫した夜だった。夜半にまた、雨が落ち始めた。遠くにかすかに聞こえる水の流れは釜ノ沢だろう。水平距離にして700mぐらいなのに、道のない山ではとても遠い。

 翌日は、5時に起きる。6時出発の予定が、ゆーっくりして7時過ぎになった。もう、ここまで来てるんだもんね、なんてお気楽に考えていたわけじゃない。濡れたものを全部詰め込んだザックは昨日よりもずっしりと重い。
 テン場からすぐ先は大きなコメツガの倒木が道を遮断し、これを乗り越したり、くぐったり、迂回したり、と大変だ。その上、びっしりと密生する石楠花が踏跡を覆い隠している。明るいからなんとか行けるけど、昨夕ここに入り込んでいたらルートはわからなくなっていたと思う。しばらくして石楠花が身をひそめるとずっと歩きやすくなった。途中、そこだけコメツガの幼木ばかりの不思議な雰囲気の林があった。結構な登りが続いたあと、急に傾斜が緩くなったと思ったらすぐに明るい木賊山の頂上にポンと出た。甲武信小屋前には9時ごろに着いた。
 まだ、三峰の人は誰も来ていなかった。小屋のおにいさんやおじさんと話したり、タープやシュラフを小屋前のテラスに干したりして、みんなの到着を待つ。しばらくして野田さんが甲武信岳から降りてきた。鶏冠尾根をやめて、北側から雁坂峠に上がり、笹平避難小屋に一泊して今朝8時に到着されていたとのこと。それとほぼ同時に、金子さんチームの3人が身軽な出で立ちで木賊山から駆け降りてきた。不本意にも戸渡尾根の登山道から来ちゃった金子さんはなんか照れくさそうだ。そして、集合時刻のちょうど10時ごろ、釜ノ沢隊が到着。釜ノ沢ももちろん大変な水量だったようで、東沢本流はまるで「上ノ廊下」みたいだったよ、と小堀さんは喜んで(?)いた。みんなのザックから残りの行動食やビールが出てきて、ワイワイ言いながら、井戸沢隊を待つ・・・・・・と、正午少し前、ふたりが満面の笑みで現われた。はるばる井戸沢を遡行して、ほんとにここまで来ちゃったんですねー。
 「集中」ってとっても楽しい遊び! 特に今回は状況が厳しかっただけに感慨もひとしおです。

〈コースタイム〉
26日 西沢渓谷入口駐車場(9:30) → 東沢河原(10:15~35) → 鶏冠谷出合(10:55) → 奥ノ飯盛沢出合(12:40) → 逆くの字滝(13:00) → 二俣(13:40~14:00) → 一ノ沢出合(14:30) → 二ノ沢出合(15:05) → 鶏冠尾根(18:00~25) → テン場(19:00)
27日 テン場(7:15) → 休憩地点(8:00~20) → 木賊山(8:45~55) → 甲武信小屋前(9:05)

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