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集中山行・甲武信ヶ岳 その五 大洞川井戸沢(2)(集中編)
荻原 健一

山行日 2003年7月25日~27日
メンバー (L)荻原、越前屋

 先日例会で井戸沢(敗退)に行った時の下山途中。
越前屋 「集中でもう一回井戸沢行こうよ。今、俺達が歩いている稜線と甲武信ってつながってるんだろう?」
荻原 「つながっていることはつながってますけど、井戸沢遡行後にそんなバカげた縦走する人いないですよ。第一、集中の週は、俺用事あって山行けないんですよ」

「そんなバカ」がいたのである。
「私」と「越前屋」さん(すいません。私が強引に誘いました)。

 集中の週末、予定が変わって暇になってしまった私。よかった。よかった。これで集中に行けるぜ。さて、どこに行こうかな?
 そんな私にふと悪魔は前述の会話を私に思い出させてしまったのだった。
 少しだけその気になって「エアリアマップ」を手にとって、コースタイムを足し算してみる。長いとは思ってたけど、こりゃ長いなんてもんじゃない。一日有休をくっつけるつもりだったが、それでもきつい。転職後、有休に極端に融通が効くようになってしまった私でも2日の有休を突然とるのはさすがに無理だ。だいいち付き合ってくれる人もいまい。そして結論が出てしまった。2日目の奥秩父縦走は懐電歩行。きついが3日で行く。そして相棒は「越前屋さん」。「三峰」広しと言えども、こんなバカげた、もとい、ストイックな山行に付き合ってくれる体力と技術と知力と暇?(すいません)を兼ね備えた人は「えっちん」しかいないのである。早速、「越前屋さん」にメールを打つ。翌日、越前屋さんから「快諾」の返信が届いていた。(あの時は本当に嬉しかったです)

(7月24日)
 前回、同様22時20分発西武池袋発飯能行で出発。やっぱり「横瀬」で仮眠するが、今回は「武甲キャンプ場」まで行かず駅で仮眠。

(7月25日)
 始発で西部秩父へ。お花畑経由で6時50分に三峰口。タクシーで「荒沢谷出合車止ゲート前」に8時前に到着。8時半惣小屋谷出合。
 8時50分遡行開始。ここまでは前回とほぼ同じコースタイム。
 遡行を開始すると、前回と沢の顔相がまるで違う。前回よりかなり増水しているせいだ。それでも二人しかいないこともあり、「キンチヂミ」を抜けたのが12時(前回より1時間早い)。「栂の沢」出合が12時半(同1時間半早い)と順調にルートを消化していく。
 そして、前回の鬼門となった「サワラ谷」との分岐には13時に到着。分岐は本流の方が沢床が高く、みかけの水量もサワラ谷の方が多くみえるが、通常見逃すような分岐ではない。ただ、丁度分岐のところに小滝がありこれを手前から小さく右岸沿いに高巻くと分岐が確認出来ないままサワラ谷に入る可能性はあるように思えた。(実際前回はその通り迷い込んでいる)
 サワラ谷との分岐あたりから、それまでぽつぽつ降っていた雨が本降りになってくる。しまいには本降りところか、スコールのようにたたき付けるような雨になる。途中右岸のほうから轟音とともに一抱えもあるような岩が凄まじい勢いで落ちてくる。たまたま対岸を歩いていたが、さすがに怖くなって走るように通過する。増水も激しくなり右からへつれば越えられるはずの4m2条の滝は高巻きと懸垂でなんとか越える。次の10m滝はルート通り左のルンゼより高巻く。滝上はゴーロとなり程なく前新左衛門窪と出合う。時間は15時。明日以降のことを考えると更に進みたいところだが、スコールのようなたたき付ける雨が引き続き降っており、落石のことを考えるとゴルジュ帯にはとても突っ込めず、本日はここでビバークとする。テントを張り終えほっと一息していると、なんと越前屋さんは、時間もあるし釣りをしたいとおっしゃる。この大雨の中、とてもそんな気分にはなれず「いってらっしゃい」と言ってやりすごすが、数分後、興奮のあまり雄叫びを挙げながらテントにやって来た。生まれてはじめて岩魚を釣ったとのことだが、バカでかい。尺岩魚だった。その後も立て続けに釣って全部で4尾。私もすっかり興奮して竿を出すが、全く反応なし。本日は、越前屋さんのおかげで岩魚の刺身、味噌汁のご馳走にありつけた。

(7月26日)
 3時半起床。5時半出発。昨夜の大雨はすっかり止んでいたが、水量は昨日よりだいぶ増えている。既に行程に遅れは出ているものの、安全第一で遡行し、必ずどこそこまで行くというノルマは立てずに、とにかく今日は進めるところまで進めればいいやという気持ちで出発する。
 ちょっとした徒渉や小滝の直登もままならず、ルートでない高巻きを繰り返すことになり、相当に時間を食う。奥新左衛門窪手前のビバーク適地まで1時間の予定が、2時間半かかってしまう。ビバーク適地に着いた頃、丁度つかの間のお天とうさんが顔を出し何となく竿を出したくなってしまう。20~30分くらいなら。ということで竿を出してみると餌が水面につくかつかないかのうちにいきなりヒット。型も悪くない。わずか数分であっというまに3匹。越前屋さんも2匹釣り上げて大満足。このまま何時間でもやっていたかったが、明日の集中を考え竿を早々に納めて出発。奥新左衛門窪出合が9時。20m大滝は一度確認し写真を取ったあと、少し戻って左のルンゼから高巻く。高巻き開始地点には、赤テープがあった。
 最後、将監峠への突き上げ時は大きく南へ方向を曲げるが、所々踏み跡があるのと曲がるポイントにやっぱり赤テープがついており分かりやすい。将監峠に出たのは12時半だった。
 ここからがある意味核心部?そう、ここから甲武信経由西沢渓谷までのコースタイムは合計で15時間。これを一日半であるかなければならない。相次ぐ大高巻きでもともとない体力を使い果たしているうえ、今回は増水に備え三ツ道具等金物類も前回よりだいぶ多めに持ってきてしまい、50mのザイルもたっぷり水を吸っている。これらが身にしみて重い。いろいろ言い訳を並べたが、要はバテバテ、ヘロヘロ状態でのカメさん縦走。予定の雁坂峠にはコースタイムで3時間超手前の雁峠避難小屋に着いたのが17時半。タイムアウトというよりは、体力アウトで今日はここまで。そのかわり明日は3時出発という条件付きで。水場は峠から北方の沢沿いに5分程下った所にあった。ちょろちょろなのでコップ等あったほうが良い。
 夕食の岩魚の塩焼きが旨かったなぁ。

(7月27日)
 2時半起床、予定通り3時出発。朝食抜き。雁坂峠に6時半到着。その少し手前で金子パーティーと連絡がとれ、予定より1時間~1時間半遅れそうである旨伝える。そして11時40分、1時間40分遅れでなんとか甲武信小屋に到着し集中する。既に我々以外は全員無事揃っている。
 「みなさまお待たせしました。だいぶ遅れてしまい申し訳ございませんでした」
でも、と越前屋さんの顔を見るといい顔してる。多分私もそんな顔をしてたと思う。バカげているが、こんな充実した山行はいつ以来だろう。
 戸渡尾根の下りでは無事集中出来た安心感からか、もはや体が動かなくなってしまい、越前屋さんに付き合ってもらいながらみなさまから大幅に遅れて16時頃西沢渓谷駐車場に到着。待ちきれずに他の人が帰ってしまったなか、金子会長と土肥さんが待っていて下さり三峰口の大滝温泉経由東所沢駅まで送って頂いた。(本当に有り難うございました。)

 こんなバカげた山行に最後まで楽しい、楽しいと言って付き合ってくれた越前屋さん、本当に有り難うございました。また行きましょう?

〈コースタイム〉
7月25日 荒沢谷出合ゲート前(8:00) → 惣小屋谷出合(8:30) → キンチヂミ8m滝上(12:00) → 栂の沢出合(12:30) → サワラ谷出合(13:00) → 前新左衛門窪(15:00)C1
7月26日 C1(5:30) → 奥新左衛門窪(9:10) → 将監峠(12:30) → 雁峠(17:30)C2
7月27日 C2(3:00) → 雁坂峠(6:30) → 甲武信小屋(11:40) → 西沢渓谷(16:00)

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