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70周年記念山行 北海道・大雪山

山行日 2003年8月11~19日
メンバー (L)飯塚、鈴木(章)、土肥

その1 クワウンナイ川
土肥 雅美

 8月19日、苫小牧から20時間近くをかけて、夕方18時過ぎに大洗に着いたフェリーから次々と吐き出されては走り去る北海道ナンバーの大型トラックが積んでいるのは海産物だろうか? 見送るわたしたち3人娘の旅の終わりにふさわしい感傷的な風景だ。
「男だったらああいうトラックの運転の仕事したかったよねーそー思わない?」
「いいねーぇ」
「でもヨーコちゃんなら今でも全然オーケーだよ」
「そーぉ?」とまんざらでもない様子。
いい旅だったね。
8月11日
 11日の午後、JR三郷駅に集合、野口さんが大洗のフェリーターミナルまで車で送ってくれる。今回の例会を企画し、フェリーのチケットを取るのに奔走し、ネットでいろいろ調べてくれたオリジナルリーダーの野口さんが直前にのっぴきならない事情で行けなくなってしまったため、急遽3人で決行となった。不安要因はもうひとつあって、前夜のニュースでは北海道は台風10号の影響で大雨が降り、河川の氾濫で行方不明者が出ているという。実際、前日までフェリーは欠航していたのだ。
 しかし、今宵フェリーは暗い闇の海をただ緩やかに一路苫小牧へと進んでゆく。呑気なわたしたちは出航前に既に1次会を終え、2次会へと突入していた。そして新しい事実を発見していた。「フェリーの中では酔いにくい」らしい。
8月12日
 午後1時半過ぎに苫小牧着。予約しておいたレンタカーで道央道経由でとりあえず旭川へ。旭川は落ち着いた静かな街だ。夕食をいただいたちょっと上品な日本酒処のお店ですてきなママさんから早速情報を仕入れる。
 「日高地方は台風で川がすごいことになっているそうですが、こちらはどうなんですか?」「旭川はだいじょうぶなのよ。大雪が壁になって守ってくれるからいつも穏やか。台風のときもだいじょうぶだったの。」
林道の不通などもないとのこと。気を強くして、天人峡温泉へと向かうが、途中雨が降り出した上に、今夜の泊場予定地の天人峡温泉駐車場も工事関係の車が駐車していて泊る気になれず。数キロ戻って忠別ダム湖畔の待避パーキングのひとつにわたしたちのテントがピッタリ納まる東屋を見つけ、ラッキー! とばかりにここで幕とする。
8月13日
 翌朝、雨は上がっていた。再び天人峡温泉に向かう。クワウンナイ川が合流する本流の忠別川の濁り具合から今日の入渓は無理かと思われたが、とりあえずクワウンナイ川の偵察に出かける。駐車場からほんのちょっと先がクワウンナイ川出合でその右岸の林道に入る。この周辺は新しい橋を架けるため工事中だ。すぐに山道となり、ポンクワウンナイ川出合まで15分ほど。クワウンナイにはここから入渓する予定だが、まず渡るべきポンクワウンナイも、クワウンナイも濁流となっている。今日はダメだね、ということで戻ることにする。翌日を期して、この日は近くの「羽衣の滝」を見学後、旭岳温泉への観光となる。旭岳温泉の露天風呂は小さな沢沿いにあって昼間からゆったりと貸し切り状態で幸せ!
 その後、天人峡温泉に戻り、ちゃんとパッキングし、再びポンクワウンナイ川出合(標高586m)まで行く。この二俣の高台にテントを張り、ポンクワンナイで釣りも試してみるが成果なし、何で? 背の高い蕗のヤブ?に覆われたこのポンクワンナイ出合は雰囲気がくらーく、奥深く魅かれるものがある。この夜はささやかながら前祝いの焚き火もして盛り上がった。
8月14日
 早朝からテントの前を数パーティーが通り過ぎ、クワウンナイへと入っていく。それにしても、みんな早いなー! 入渓直前に、息子(北大山岳部出身)が単身、今月の1日にクワウンナイに入り行方不明となっているというお父様(大分県の高校の先生)から何か彼の手がかりがあったら連絡してほしいとの依頼を受ける。クワウンナイ川は5回目だという息子。遥々九州から来ている父の心境を察するところ余りある。
 7時前に出発する。クワウンナイ川は、今朝は澄んだ穏やかな流れとなっている。天気も上々だ。ゴーロの河原をしばらく進むとゴルジュ帯となり、右岸をトラバース気味に捲く。危なげな所には残置シュリンゲがあって問題ない。今後も抜きつ抜かれつすることになる男性2名と女性1名の中年パーティー(札幌の山岳会)がさらに上を高捲いており、「こっちはわるいよー、下のほうがいいよ」と親切に声をかけてくれた。
 その後はゴルジュもなく、穏やかな河原歩きが続く。このあたりは沢と言うより浅瀬が続く幅の広い川である。流れは淀みがなく、縦に走る大きな柱状節理を示す岩肌や白樺の鮮やかな緑があっけらかんと、ただただ明るく、美しい。久しぶりにもらった心の休養日。
 水量は多くはないが、水勢は案外強いのでかよわきわれら? ヨーコリーダーの「さあ、行くよー」の声を合図にスクラムを組んで徒渉。これを何度繰り返したことだろうか? これが、慣れた頃には楽しくなってしまった。緩やかな流れなので、大きな中洲もいくつか出てくるが、水量から見て迷うような支流もないはずなので坦々と進んでいく。
穏やかな下流部 白樺の緑がきれい!  で、いくつかのパーティー(この日はざっと10パーティーぐらい入っていたようだ)と抜きつ抜かれつ、今夜の泊場予定地である化雲沢(かうんさわ)出合の二俣(標高980m)に着いたのは午後2時頃だった。出合ちょっと手前の左岸の平らな台地は一般登山道の指定キャンプ地のごとく整地されており、真ん中はただの焚き火跡のレベルを超えて、もうしっかり、薪はここにくべてね!という感じの炉状態である。
 野口さんが貸してくれたGPSを試して、その正確さに感心しつつ、夕飯の用意。あっこさんの炊くご飯は毎回おいしい。これが明日の元気の素!
 ところで、昨日今日と見る感じでは北海道には「沢ヤ」という概念がないんだろうか? このテン場に張ったパーティーはみな、焚き火にはほとんど関心がないようだし、夜も早々とご飯食べて、お酒飲むこともなく7時ぐらいには寝てしまった。「正しいアウトドア派」という感じである。オショロコマ釣っている人たちもいたけど、おかずの確保と言うよりスポーツ的フィッシングという雰囲気。メットも今風のヤツだし。そういうわけ?で焚き火の周りに最後まで残っていたのはわたしたちだけ。7時ごろ既に薄暗くなった中、到着した2人組のパーティーがいたので「プライベートな焚き火じゃないのでどーぞ!」と声をかけたが、濡れてるはずなのにテント張ってそのまま寝てしまった。
8月15日
 7時過ぎに二俣を出発。今日は標高を上げる日。ゴーロの岩をよじ登って行くとしばらくでこの沢初めての滝に出会う。幅広く水を落とす魚留ノ滝だ。左岸のしっかりとした踏跡を辿るとその上はきれいなナメ。さらにそのすぐ上に10mの滝。ここも左岸の道を登って捲いたが、後続のふたりの男女ペアは難しそうに見えた対岸のルンゼ状から楽々登っていた。普通は左岸のようだが、たぶんあっちの方が正解。上がったところからすぐ「滝ノ瀬十三丁」のナメが始まるからだ。で、こちらは捲き道がいつまでも続くのでいい加減なところで沢に戻る。
最強ベストコンビ! 10m滝で  20~30m幅の一枚とも言うべき岩盤の上を余すところなく流れる水は清冽だ。サラサラとサラサラと、この水はいったいどこから来るのか? クワウンナイの源頭は「神々の庭」そして、秋にはイワイチョウが黄金色に色づくという「黄金ヶ原」。天の国への道。今、流れていくこの時間をいとおしむ。はるか前方をさきほどの男女ペアが手をつないで歩いていく。わーっ、胸キュン! これは夢かもしれない。
 しばらくして黄金ヶ原から落ちてくる二段の直爆の滝を左岸に見ると沢は左に折れ、さらにナメが続く。増水したときには確かに逃げ場がまったくないよねー、などと話しつつ、9時半ごろ、このナメの終着駅とも言うべき沢幅全面いっぱいの5mほどの滝を迎える。この滝は右側の階段状のところを問題なく登れる。1時間20分ほども延々と続いたナメはここでぴたっと終わった。
滝ノ瀬十三丁の中ほど 黄金ヶ原から落ちてくる滝  この滝から少し上で20mほどのオーバーハングの滝に至る。ここは、右岸に高捲ルートがしっかりあり、途中の岩場は3本の残置ロープを利用させてもらって登る。上がってみるとこのロープは3本とも岩角に懸かり、今にも擦り切れそうだった。その後、1:1の奥ノ二俣になり、両滝の間のルンゼ状のところの踏跡を辿る。この上の小さな滝の釜にオショロコマを見つけた。顔を洗っていると、放流サイズのちっちゃいのが2匹パクパクしながら、なんと自分からこっちに寄って来るではないの~! 北海道の岩魚はスレてなくてかわいい。
 11時45分、この沢最後の滝、W15m×H10mのスダレ状の滝を捲くと、このあたりはすでに源頭の雰囲気。高山植物は花のピークを過ぎているようだったけれど、種類も多く、あっこさんが次々に出てくる花の名前を教えてくれる。チングルマが咲いたあとの風車のような実がなかなかの風情でステキ。右岸に踏跡があり、ここを行くと、クワウンナイのまさに源頭に着いた。雪渓から1滴1滴、ポタリと溶けては沢が始まる。そして、ここから稜線を見上げるとすぐ先から巨岩帯だ。周囲は黄色に色づき始めたイワイチョウの大群落。ここを今宵の宿に決める。後ほど着いた札幌3人パーティーも、今朝はヒサゴ沼避難小屋まで行くと言っていたが、わたしたちがここに張っているのを見ると気が変わったらしくおとなりさんになった。
1時間20分も続いた滝ノ瀬十三丁  しかし、まだ1時である。残っているお酒は僅かであるし、まあそういうことが比較的重大な問題であるのはこのメンバーの中では主としてわたしぐらいであるが、そもそも主義主張として、じっとマッタリしているのを潔しとしないのがアッコ&ヨーコさんである。今からトムラウシを空身でピストンしようということになった。最近ヤバイ左膝の状態がさらに良くないわたしは留守番してようかなとも思ったけれど、まっ、でも稜線までは行ってみようと同行した。巨岩帯とハイマツを縫い、小さな雪渓を横切って45分ほどで稜線の登山道に出たが、周囲はガスっていて視界はよくない。霧雨も漂い始めた。ここからトムラウシの往復はエアリアのコースタイムで3時間ほど。さらにテン場への最後の強行軍の下りを想像するとわたしにはとても自信がない。ここでリタイアを申し出る。「ひとりで戻るから、ふたりで行って来て」と強く主張したが、許されず。ここから3人で戻ることになった。
 テントに戻ったのが3時。わたしのauの携帯がテントの通気孔からのみ電波をキャッチする。野口さんにメールで報告、返信もすぐ届いた。北海道では、どうもau>docomoのようだ。
 ゆっくりと大雪山の沢の原初に身を浸す。夜の闇が落ちてきて、満天の星を望む。あまりに見えすぎて星座が判別しにくいほど。東の空に白鳥座が颯爽と輝いている。キュッキュッというナキウサギの声が途絶えることなく、その中で眠りについた。

その2 トムラウシ岳~旭岳縦走
飯塚 陽子

8月16日
 そして今日も晴れ。空は澄みやかな青に染まっている。昨日で沢登りを終了した3人娘は、今日から縦走隊に変身! 当初の予定では、トムラウシ岳をピストンし、化雲岳から天人峡へ下るという計画であったが、大雪山の地図を目で追っていた私は、せっかくここまできたのだから、旭岳まで縦走したい! と計画変更願いを、あっこ&土肥さんに申し出て、半ば強引に実行することにしてしまったのである。「ナンダーカンダー」と言いながらも、私の我儘にお付き合いいただき、2人には感謝してまーす。
 ってな訳で、本日の長ーい行程は白雲岳避難小屋キャンプ場までの12時間コース。まずは、この夢のような美しいクワウンナイ川源頭のテン場を5:00に出発し、昨日既に偵察済みの稜線には約50分程で到着。岩陰にザックをデポし、トムラウシ岳を目指す。
 途中、山の斜面を覆う岩礫の中に、昨日から声だけは確認できていたナキウサギの姿を初めて間近に目にすることができた。
 その独特な声とは反対にかわいらしい顔をしていたが、常に遠方に目を向け、一心に鳴く姿に、なんとなく哀愁を感じてしまった。
 空身とはいえ、日差しの強い中、さえぎるものが全く無い北海道の雄大な道をひたすら歩いていく。トムラウシ岳手前の雪渓に覆われる北沼をトラバースぎみに登り、最後の急登を上り詰めて、ようやくトムラウシ岳山頂に立つ。時間はまだ7:15だが既に大学生パーティーがいて、山頂は賑わっていた。ここからの眺めは最高だ! 土肥さんの持ってきたトムラウシ周辺の山々のパノラマ地図を見ながら、皆で「あの山が十勝岳、あっちが美瑛富士、あれは・・・。北海道の山って壮大でいいねっ!」の連発。そして「今度は十勝連峰へ行こう!」等と、次の夢へとどんどん広がっていくのだった。
 トムラウシ岳からの眺めを楽しんだ後は、そのままザックのデポ地点までそそくさと戻り、また重いザックを背負いヒサゴ沼を越えて、化雲岳へ歩を進める。この化雲岳には化雲岩があり、それは「大雪のへそ」と言われているとのことで、遠方から見ると'ちょこん'と尖がった岩の姿がとても愛らしいのだ。あっこさんはその岩の形がとても気に入った様だった。この山頂でクワウンナイ川でずーっと行動を共にしてきた、札幌の3人パーティと再会したが、彼らは天人峡へ、私達は旭岳へと、ここでお互いの健闘を祈り、本当のお別れをしたのだった。
 五色岳では餌をあげると、カメラに向かってポーズをとってくれる不思議なシマリスに出会ったり、その後は、ただひたすらに広大で雄大な山々の景色、お花畑を堪能しながら歩いていく。
 しかし14:00過ぎ、突然山はガスに包まれ雨足が強くなり、今度は必死になって、永遠に続くかと思われる、白霧に覆われた広大な大地のような尾根を歩いていく・・・。いい加減に嫌気がさす頃、その雨もやみ、視界が開けてきたその先に、白雲岳避難小屋が見えてきた。
 黙々と歩いてきた皆にようやく笑顔が戻る。「お疲れさまー。今日はよく頑張ったよね!」
 テントを張り終える頃には、360度のパノラマの景色に雲海が広がりだし、その先に見えるトムラウシ岳が絶景であった。今宵も満天の星空の下、本日は早めに就寝。

8月17日
 あけて翌日も晴れ。
 今日は旭岳までなので、ゆっくりと余裕をもって6:40に出発。
 北海平を経由して北海岳へ。いたるところに雪渓があり、御鉢平周辺にも巨大な雪田が残っている。北海岳で会った地元のおじさんによると、北海道も今年は冷夏で、雪が溶ける時間がなかったらしく、かなりの雪田が残っているらしい。ここからの眺めも素晴らしく、おおらかな曲線を描く山々の景色が連なり、大雪山の主峰旭岳が、いよいよ近づいてきた感がある。
 御鉢平の火口壁になっている間宮岳から、裏旭キャンプ指定地へ。見上げると旭岳が眼前に聳えている。そして最後の旭岳への登りは、思いっきりザレザレのザレ場である。足元に注意しながらも旭岳ピークに10:45到着。ピークは大勢の登山客で賑わっており、そこはもはや観光地のようであった。
 旭岳から目にする大雪の壮大で雄大な景色を、最後に目に焼き付け、山頂を後にする。
 そして長かった縦走を終え、旭岳ロープウェイを利用して下界の人となった。
 この晩は、静かな旭岳キャンプ場にテントを張り、もちろん温泉&ビール三昧の宴会で、充実した山行をしめくくった。

8月18日(おまけ)
 観光客となった私達の、苫小牧までの観光ルートです。
キャンプ場出発 → 美瑛(丘の上からの景色最高!) → 富良野(ラベンダーファーム見学後北海道で食べたかったものを全て食べつくした!~北の国から~気分で♪) → 占冠(観光センターで、冬の-25℃の厳しい生活の写真等を見学) → 二風谷(アイヌ博物館を見学後、沙流川で台風10号の生々しい傷跡を目の当たりにする) → 門別(豊富なカニを見学) → 苫小牧(「海天丸」という回転寿司屋にて、念願のお寿司をたくさん食べて、フェリーターミナルヘ) → 翌19日大洗着

 充実した山旅でした!
 残念ながら参加できなかった野口さん、そしてあっこさん&土肥さん、ありがとうございました!

〈コースタイム〉
8月14日 ポンクワウンナイ川出合(6:50) → 化雲沢出合(13:55)
8月15日 化雲沢出合(7:05) → 魚止ノ滝(7:45) → 滝ノ瀬十三丁終了(9:25) → 源頭部幕場(13:00~35) → 稜線(14:20) → 源頭部幕場(15:00)
8月16日 幕場(5:00) → 稜線(5:50~6:00) → トムラウシ岳(7:10~30) → ザックデポ地点(8:35~9:00) → 化雲岳(10:30~11:00) → 五色岳(12:00~20) → 忠別岳避難小屋分岐(12:50~13:05) → 忠別岳(14:15~30) → 白雲岳避難小屋(17:35)
8月17日 白雲岳避難小屋(6:40) → 白雲分岐(7:10~7:25) → 北海岳(8:10~35) → 間宮岳(9:15~40) → 旭岳(10:50~11:20) → ロープウェイ駅(12:50)

(なお、残念ながら行方不明になっているという青年の痕跡を見つけることはできませんでした。)


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