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隠れ会員のたわごと
箭内 忠義

 鳥は「飛ぶ」。魚は「泳ぐ」。馬は「駆ける」。花は「咲く」。・・・これらの動詞は、その動植物の在り様を端的にあらわしています。では、人間に対してはどんな言葉をつけるのが最適なのでしょうか。人間は「遊ぶ」、かな?人間は「笑う」かな。いいや、人間は「働く」か?さてさて、どんな言葉がいいのか。これは、人それぞれに考えが違うのだろうと思います。そして、時期時期によっても思いつく言葉は違ってくるのでしょう。私は、人間は「挑む」―挑戦―としたい。(かっこいーなー。ぱぴょ~んだな)
 三峰に入り、岩を登攀し、沢を遡行し、雪稜を歩き、雪原を滑り、藪を詰め、道に迷い、そして、いつもいつも酒に挑戦し、へべれけになっていると「挑む」という言葉が思い浮かんでくるのでやんす。山は日常的感覚から離れるから余計にそんな言葉が浮かんでくるのかも知れません。そして、日常的な感覚から離れた「挑み」に焚火があるのです。
 どうも三峰の人間は、焚火を目の前にすると誰もが単純にコーフンするようであります。
 老若男女を問いません。そのコーフンは焚火をこしらえる前から始まっています。例えば、鳥海山に行った時のことです。鳥海の頂上から日本海を眺めながら、皆、華麗に、コケながら滑り降りてきました。途中で飲んだワインもうまかった。気持ちよくて、気分が最高に昂揚しています。そして、幕場を決め、テントを張り始めました。でも、勝部さんを筆頭に三峰の人間は、同時に、そこらを歩き回り薪をしっかりと集めてきます。薪の山を作ります。テントが張リ終わると同時に煙が立ち昇ります。そしてじきに盛大な焚火が始まるのです。満天の星空のもと闇夜を照らす炎が夜遅く、遅くまでゆらめきます。そして、どういうわけか、必ずテントに入れず焚火の側で爆睡する人間がいるのです。(あなたのことですよ)
 朝、目覚めるとしっかりと焚火から煙が立ち昇っています。埋め火、オキを利用して手際よく火をおこしているのです。流石です。
 焚火をめぐる山行は数限りなくありますが、コボリーダーの小川谷廊下の時も気合が入っていました。なんたって雨が降っていたのですから。雨でも焚火はします。やるのです。絶対やるのです。たじろいだり弱気は許されません。断固やるのです。その時は越前屋さんが雨よけにブルーシートを張りました。もちろん焚火は昼間から赤々と燃え上がり、宴会も激しくがんがんと続くのでした。
 焚火に関しては、いかなる困難をも乗り越えても必ず、絶対にやるのだという「挑戦」する気迫が三峰にはみなぎっています。それは、山に持っていく道具にも端的に現れています。御神楽沢でリーダーだった野口さんの装備、格好はユニークです。沢を遡行する時は杖をついています。沢で杖ですから、それだけでもちょっとおかしなやつです(失礼)。そして、左の腰には釣り竿がついています。納得です。この時は一つの釜から5匹ほど岩魚を釣り上げました。(その時のおかずでした。すばらしい)そして、右の腰には、きびだんご、ではなく銀色に輝くのこぎりをぶら下げていました。
 幕場に着くと早速、山の斜面を這い登ります。するとほどなくボキバキベキと大きな音をたてて木が倒れてきます。焚火の材料です。見ていると、思わず腹の底から「ウオォー」という声が沸き起こります。もちろん、木は枯れて朽ち果てている木です。のこぎりという道具はすごいなと思い、帰宅後俺はすぐに道具屋に行き買いました。
 焚火に関しては、更に、焚火の正しいおこし方、スピーディーなおこし方、そしてまた、焚火を活用しての料理の仕方など話題は尽きません。
 楽しい思いをさせてくれている三峰山岳会に俺は心から感謝しています。生涯を通じ山に触れ、関わっていこうという三峰をこれからも大切にしていこうとも思っています。まったくの隠れ会員で、何の貢献もしていなくて申し訳なく思っています。これからも安全登山を心がけていきましょう。


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