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キーワードは「自由」、かな。
内山 弥生

 今、三峰山岳会にいることが、ほんとはちょっと信じられない。
 三年前、山岳会に入りたいと思って資料を探し始めたころ、三峰は沢と岩が中心だからムリ、と決め込んでいた。縦走だって、なんでこのコースを一泊で歩けるの?まさか走っているんじゃないよね、という日程だったし。
 でも、『岩つばめ』を読んでみて、とにかくほんとうに自由に山を駆けめぐっている、と思った。ときに大胆すぎるようなことをやっていても、技術と力量の裏付けがあるからこそ。同じ人間とは思えん。山に浸って、山で遊んで、山で眠って。(もちろん三峰だから、食べて、飲んで、登って、飲んで)・・・いいなぁ。でもその中にいるのは、自分ではありえない。そんなふうに見ていた。
 山は、楽しく歩きたい。
 ずっと、そう思っている。でも、職場の会にもあまり参加せず、ひとりで山を歩き回っていた三年前は、行き詰まっていた。長い距離の縦走が大好き。それなのにご存知の鈍足。二十数回登った丹沢・塔ノ岳。大倉尾根の登りはずっと3時間が切れなかった。岩場では渋滞をひきおこすし、高い所がコワイ。だから、斜面のトラバースが大きらい。雪のある山は好きなのに、滑るのがこわい。夏にひとりで北アの山小屋泊まりの縦走をしたときは、くだりでころんで顔から着地した。
 ・・・つまり、鈍いんですね。
 その分、コースや日程は慎重すぎるくらい慎重にしていたが、行き先はずいぶん制限された。もう少し自由に山を歩けるようになりたくて、一般の人が参加できる岩場通過(岩登りではありません、念のため)の講習会や雪上訓練にも参加してはみたが、そこまで。
 冬、それでも行動を起こすことにした。いくつか見つけた会の中で、いちばん興味があったけれど、いちばんムリだろうと思った三峰にいちばん初めに問い合わせをした。
 それから実際に入会するまでにも、二回ほどあきらめかけたけれど(入会前の山行に参加させてくださった当時の委員長、服部さんに感謝)、今、こうして三峰にいて『岩つばめ』の編集をやったりしている。
 入会して初めてテント山行を経験した。雪上訓練で凍てつく中のテント生活も楽しかった。あこがれのステーションビバークもやっちゃった。岩登りの練習にも入れてもらった。02年にはこども沢教室で、これもずっと、ずっと行ってみたいと思っていた沢に初めて足を踏み入れた。最高の気分だった。
 もちろん、三峰に入れていただいても私の鈍足が改善するわけではなく、かかる重力が減るわけでもなく、高度に対する恐怖感がなくなるわけもなく。岩場では上にたどりつくまで他の人の5倍くらい時間がかかるし、ザイルにふられるし。沢では水に落ちて土肥さんにひっぱり起こしてもらった。最後の大滝は、上で確保してくれていた小堀さん、重かったでしょ?(ん?なにか編集の方々に山でもたいそうお世話になってますね)さらに縦走でも足をひっぱるし。皆が軽やかに登って行くあとを、よいしょ、よいしょ、とついていく。それでも、楽しいなぁ。たどりつくまで辛抱強く待ってくださってありがとう。
 と、いうわけで入会して二年半たって、物理的にはあまり自由になったとはいえないけれど、いろいろな山の世界をちょっとだけのぞかせてもらって、自分の山が少し豊かになったような気がしている。
 もちろん、これから先、岩を登れるとも思っていないし、沢に行けるようになるとも思っていない。余りに力量が違う者が加わることで、他の人たちを危険にさらすようなことは絶対にさけたい。でも、基本的なことをもう少し身に付けられたら、私ももう少し山で自由になれるような気がしている。
 いくつになっても山の空気のなかを自由な気持ちで歩いていたい。
 仲間に入れてくださってありがとうございます。これからもよろしく。それから皆さん、怪我にはほんとうに、気をつけてくださいね。


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