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南アルプス縦走
野口 芳裕

山行日 2003年5月16日~28日 / 6月26日~27日
メンバー 野口(芳)

 3月のネパール、4月の北海道旅行+知床登山と大きな計画が終了すると、取りあえず行くところが無くなりボーっとした毎日が続いた。ルームに出て酒を呑んでいるうちに、やはりふだんは出来ない山行をしなければと、南ア縦走を思いつく。南アというとアプローチが不便でなかなか行く機会がなかったので、久しぶりにどっぷり入ってやろう。どうせやるならと、戸台から北沢峠に入り、甲斐駒、北岳のピストンを入れながら塩見、赤石岳、光岳へ至り寸又峡に下りるという壮大な計画を立てた。これは、登山か、修行か?

5月16日(金) 曇り、昼より時々晴れ間
 夜行電車が無いので最終のあずさ号に乗り込む。最近の登山者は夜行で山に行かないのだろうか、不便で仕方が無い。JR君、なんとかして欲しい。上諏訪駅でステーションビバークしたが待合所は夜間閉鎖の為駅の入り口で横になるものの、一晩中前の国道をトラックが走り回り、後ろでは貨物車がガッタンゴットンうるさくて全く寝られなかった。
 伊那北で予約していたタクシーに乗り、戸台河原の駐車場のすぐ手前の橋本荘まで入ってもらう。
 いよいよ長い縦走に出発だ。戸台川は雪解けで水量が多く、いつもの渡渉点は渡れず、ずっと先まで行くが適当な所が見つからず堰堤まで戻って堰堤を渡る。1時間近くロスってしまった。
 17日分の食料の入ったザックはさすがに重く(27-8kg)北沢峠まで喘ぎ喘ぎ登る。最近こんな重量を背負っていないので先行き少し不安だ。
 北沢峠では九州から来た造園業のおじさんが一人張っていた。彼曰く、庭師は1月~5月はヒマなんだとか。二人で酒を飲み始めすっかり酔っ払って飯も食べずに寝てしまった。
【新宿(前夜21:00あずさ69号) → 上諏訪(23:29~6:37) → 伊那北(7:40) → 橋本荘(8:40~50) → 赤河原(12:35~13:00) → 北沢峠(15:30)】

5月17日(土) 晴れ
 予定では甲斐駒をピストンだったが、荷が重く今後の行程がきつそうなのでピストンせずに仙丈に向かう。
 北沢峠から夏道を仙丈に向かうが、2,100m付近から雪の上を歩くようになる。この雪が始末が悪くボコボコと踏み抜くので非常に消耗する。樹林限界を超えると少し雪が締まるがずっとキックステップの登りだ。重荷と悪雪に疲れてしまい、少し早いが仙丈ヶ岳を越えずに仙丈小屋に向かう。
 小屋は、3階が冬季用に開放されていて大きくてきれいだ。軽量化の為97度のウォッカを持ってきたのだが昨晩と今晩とで呑み尽くしてしまった。明日からはアルコールもタバコも一切無い地獄のような、いや、健康的な環境の中で、まじめな中年登山者として頑張るのだ。酔って気がついたら12時過ぎてたのでメンドッチィのでそのまま寝てしまう。
【北沢峠(5:45) → 4合目(7:40~7:50) → 5合目(7:40~50) → 小仙丈岳(10:35~50) → 仙丈小屋(12:00)】

5月18日(日) 晴れ
 小屋から一登りで仙丈ヶ岳に着く。仙丈ヶ岳の下りからアイゼンを付ける。軽量化の為アルミのアイゼンを持ってきたが、少し爪が短く効きが甘いようだ。
 仙丈ヶ岳から先はぐっと赤布が少なくなり、古いトレースも全く無くなる。大仙丈ヶ岳を過ぎ樹林帯に入ると雪が緩み、踏み抜いて歩きにくいこと甚だしい。時に股まで落ち込みひどく消耗する。高望池で力尽き幕にする。
【仙丈小屋(6:00) → 仙丈ヶ岳(6:30~40) → 大仙丈ヶ岳(7:30) → 伊那荒倉岳(10:55~11:10) → 高望池(11:25)】

5月19日(月) 曇り
 夜明け前小雨。天気予報を聞くと今日は雨とのことで停滞とする。
 暇なのでテント横で小焚き火をして遊ぶ。結局雨は少しぱらつくだけで降らなかった。

5月20日(火) 曇り後雨から雪
 3:00起床。空が明るみ始めたら出発する。10時を過ぎると雪が緩んで歩き難くなるので雪が締まっているうちに距離を稼ごうという作戦だ。が、昨夜は気温が下がらなかったようで朝から雪が腐っている。ズボズボと潜りながら独標(2,499mピーク)に到着。仙丈がきれいだ。塩見も見えるが実に遠い。
 横川岳の登りは悪雪と藪漕ぎに苦労する。横川岳から野呂川越、2,488mピークまでは雪は無く夏道が出ていてはかどったが、その先はまた雪道となり倒木も増えて消耗する。
 9時から雨降り出し、やがてミゾレとなりやっとの事熊ノ平に到着。熊ノ平小屋は2階が開放されており、キレイで快適だった。小屋に着いたらまもなく雷雨になり夕方からは雪になった。積雪は朝までに10cm位。
【高望池(4:50) → 独標2499mピーク(5:55~6:05) → 横川岳(7:00~10) → 野呂川越(7:30) → 2355m(7:50~8:00) → 2510m(8:55~9:05) → 2699mピーク(10:30~40) → 三峰岳(12:20~30) → 三国平(13:10~30) → 熊ノ平(14:15)】

5月21日(水) 晴れ時々ガス
 今日から全国的に晴れ。
 小屋から裏の樹林帯を直登し尾根に出、仙塩尾根の後半に突入する。朝から雪が腐っている上、昨夜積もった雪が融けて木からぼたぼた落ちてきて全身ビチョビチョになってしまう。尾根が広く赤布も殆ど無いのでルートが判り難い。地図は2.5万図だと相当の枚数になってしまうので山と高原地図しか持っておらず、細かい地形が読めず苦労する。今日は、新蛇抜山手前岩峰の所以外は夏道は出ておらず、藪漕ぎと悪雪との格闘に終始する。昨日三国平から見たとき、雪が多くて大変そうだなと思ったがその通りだった。北荒川岳手前のコルの一部に草地が出ていたので幕にする。
【熊ノ平(6:30) → 2658m(8:25~35) → 新蛇抜山手前岩峰(10:20~40) → 北荒川岳手前コル(12:30)】

5月22日(木) 晴れ
 朝、アイゼンがギシギシ効き昨日がうそみたいだ。少し藪を漕いで這松の中の夏道を登ると北荒川岳の三角点は目の前だった。北荒川岳を下りきってから北俣岳までは夏道が露出していた。北俣岳からはまた雪道となり8時頃からは雪が腐り始める。ふうふう言いながら塩見岳到着。ここまで入山してから1週間もかかってしまった。
 塩見岳から塩見小屋までは夏道が露出していたが小屋からすぐまた雪道となる。権右衛門山のトラバース道は赤布がたくさん有るが、ひどい倒木帯となっていて最悪であった。
 さらに本谷山、三伏山を越えやっとの思いで三伏峠に到着する。三伏峠小屋には単独行の人がおり、北沢峠以来初めての人だ。戸台から入山して光に向かうと言ったら、信じられない、信じられない、とぶつぶつと呟いて首を振っていた。
【北荒川岳手前コル(4:50) → 北荒川岳(5:35~55) → 北俣岳(7:35~45) → 塩見岳西峰(8:35~50) → 塩見小屋(9:45~10:00) → トラバース終了点(12:10~20) → 本谷山(13:50~14:10) → 三伏峠(15:40)】

5月23日(金) 晴れ、午後霰
 三伏峠から烏帽子岳、前小河内岳、小河内岳と雪も締まっており快調に進む。小河内岳から荒川三山が良く見えた。小河内岳を下りきってから悪雪に苦労する。特に板屋岳をトラバースする所は最悪で枝に掴まりながらのキックステップのトラバースが延々と続く。昼頃より荒川岳あたりで雷が盛んに光っているのを遠望する。
 高山裏小屋に到着後まもなく雷が鳴り、激しい霰となる。
 小屋には時々オコジョが愛嬌を振りまきに登場する。
【三伏峠(4:50) → 前小河内岳(6:40~50) → 小河内岳(7:35~55) → 板屋岳(12:00) → 高山裏小屋(13:30)】

5月24日(土) 晴れ
 小屋から直ぐにトラバース道となるが雪が締まっておらず厳しい。やっとの思いでトラバースを終了して荒川前岳下の大斜面に出る。だだっ広い雪の斜面でどこか涸沢に似て気持ちの良い所だ。稜線までずっとキックステップで登る。稜線は昨日の霰が吹き溜まっていて足元がとても不安定だった。踏んでも固まらないので発泡スチロールの粒のような霰を根こそぎ払いながら進む。
 荒川前岳でしばし休憩後荒川小屋へ下る。この下りは一面の雪でルートが良く判らないので適当に下るが、雪が緩んでいるのでアイゼン付けると団子になり、付けないとスリップすると言う感じで結構時間が掛かってしまった。
【高山裏小屋(4:45) → トラバース終了点(8:15~30) → 荒川前岳(11:30~12:00) → 荒川小屋(14:30)】

5月25日(日) 曇り時々晴れ
 小屋から出て大聖寺平へルートが判らず尾根の上に向けて直登する。アイゼンがビシビシ効くがかなり急でヒーヒーゼーゼー言って稜線に出る。稜線に出ると夏道が露出していて赤石岳までは殆ど雪を踏まない。今日は風が強く、赤石の登りは風に押されるような感じだった。赤石岳に着き少し離れた避難小屋を覗いてみる。大変きれいでちゃぶ台まで付いている。泊まりたくなるのを必死に抑え百間洞へ向かう。百間洞への下りも夏道が出ていて快適だった。今日は入山以来初めてラッセル、藪漕ぎ、キックステップ等が無く快適な1日だった。靴も歩いているうちに乾いてきて、小屋に着いて乾かしたら完璧に乾いた。これも入山以来初めての快挙だ。
 気分も上向きで、この調子なら諦めかけていた光岳まで行けるのでないかと思う。
 とにかく、明日が勝負。明日、聖を越えられれば光が視野に!
【荒川小屋(5:00) → 大聖寺平(6:15) → 赤石岳(8:40~50) → 百間洞山の家(11:20)】

5月26日(月) 濃霧
 3:00起床。
 気合を入れて起きたものの、風強く、濃霧で視界殆ど無し、ガッカリする。出発準備をして待機に入ったが、10時になっても状況変わらず予報も午後の方が悪いので停滞とする。
 百間洞山の家は非常にきれいで快適だ。小屋の横に水がチョロチョロ流れていたので、コッフェルに溜めて、靴下、パンツ、バンダナ、手袋等洗って時間を潰す。洗ったのは良いが乾かすのに苦労する。
 雨は降らなかったがガスが切れず寒い1日だった。

5月27日(火) 雨、雪
 今日も天気がぱっとしないが視界が効くので小雨の中を出発する。大沢岳へはトラバース道を使わず尾根上を行く。中森丸山を越え兎岳までは順調に進む。
 兎岳からは下りは、所々にあるトラバースの雪が腐っていて非常に悪く、急で足元が崩れそうな所は這松伝いに遠回りしながら通過する。雨とラッセルでグショグショで聖を越える気力が無くなり、聖兎コルで幕とした。
 明日、明後日の天気はまあまあのようだが、その後は台風が近付き悪そうだ。天気が悪く、この雪の状態が今後も続くとなると光までの縦走は厳しい。明日、明後日の天気の良い内に西沢渡に下山することにする。(この時点では、携帯が使えずタクシーが呼べないと思っていたので、西沢渡から更に1日かけてバスが通っている国道まで歩くつもりでいた)
【百間洞山の家(4:20) → 大沢平(5:40) → 中盛丸山(6:20~30) → 小兎岳(7:30) → 兎岳(8:45~9:00) → 聖兎コル(11:00)】

5月28日(水) 晴れ
 聖岳の登りは所々残雪有り。下部の方は締まっていないが上部はアイゼンが良く効く。聖岳に着き最後のパノラマを楽しむ。北を見ればこれまで走破して来た山々が見える。良くここまで来たものだ。南を見れば、光岳までの稜線が穏やかにつながっている。樹林帯が多くラッセルに苦労しそうな稜線だ。最後の眺めを楽しんだ後下山にかかる。小聖岳までは雪は無くあっという間に着く。小聖岳から西沢渡の分岐までは樹林帯となり雪が多く最後のラッセルを楽しむ(?)。分岐に着いた時、「本当に下るのか?後悔しないか?」と別の声が聞こえた。でも、体は何の躊躇も無く西沢渡の方に向いていた。
 西沢渡に向け尾根をどんどん降りて行くと、途中に「ケイタイ可」の標識あった。辺りを探すと確かにかろうじて電波が届くポイントがある。ウヮー、ラッキーとタクシー会社に電話するが、電話が掛かるも電波が不安定で途中で切れてしまう。しかし、こっちも必死。タクシーを呼べないと便ヶ島から20-30キロはあると思われる林道を国道まで歩かなくてはいけない。それも、マップ裏面の40万分の1の広域図だけがたよりなのだ。20分位携帯にしがみ付き、何度も何度も電話してやっと理解してもらう。タクシーを確保したので、それからはルンルン気分で下る。尾根の下の方では早くもセミが鳴いており、ずっと生き物の声を聞いていなかったので新鮮で心に沁みた。西沢渡に着き大休止して濡れ物を乾かした後、タクシーを呼んだ便ヶ島に向かう。便ヶ島には何も無いと思っていたが、新しい立派な山荘が建っていた。聖光山荘という名で、今年5月1日オープンしたばかりだそうだ。ビールを飲みながら山荘のマスターと歓談しているとタクシー到着。飯田までタクシーで行き、飯田からは高速バスで新宿に帰った。
【聖兎コル(4:50) → 聖岳(7:10~15) → 小聖岳(7:50~8:00) → 分岐(9:15) → 西沢渡(12:30~13:40) → 便ヶ島(14:30~15:00) → 飯田(16:30~17:00)】

 南ア全山縦走は成らなかったものの、充実した山行でした。思ったより雪の状態が悪く、特に樹林帯ではしっかりしごかれました。修行したいと思う物好きな人にはお勧めです。ちなみに、出発時より6kgもダイエットできましたよ。もっとも、直ぐにリバウンドしちゃいましたけどね。

 そしておまけ・・・
 5月の南アから帰ってきて梅雨空の下で何することも無くぶらぶらしていたが、ひょんなことから意に反して7月から働くことになってしまった。
 前回の南アが最後まで遂行できなかったのがなんとなく心残りというか、のどに刺さった小骨のように気になるので、社会に復帰する前に梅雨の晴れ間を利用して聖~光を縦走することにした。

6月26日(木) 晴れ、午後ガス
 前夜車で出発し易老渡で仮眠。
 今回は2泊3日なので荷も軽く出発する。聖光山荘の手前で山荘のマスターとすれちがい声を掛けられる。私の名前を覚えてくれていて嬉しかった。帰りに寄りますよと約束して別れる。
 長い尾根をえっちらおっちら登る。稜線に着くが雪は無く、一月前とはえらい違いだ。
 聖平小屋に着くと、単独の青年が到着。彼は数年前から放浪生活をしており、チャリで日本一周をした後100名山を登り始め現在99山登頂、何故か赤石岳のみ残っていると言う。今月始めに挑戦したが雪が多くてビビッテしまい断念したそうだ。早く済ませて四国にお遍路しに行きたいなどと言っていた。夜遅くまで、小屋に残置されていたちょっと変な味のする焼酎を飲みながらだべってしまった。
【自宅(前日20:30発) → 易老渡(3:00~6:00) → 聖光山荘(6:20) → 西沢渡(7:00~20) → コケ平(10:00) → 携帯可2,100m(10:20~30) → 聖平(11:30)】

6月27日(金) 晴れ
 心配していた天気も問題なく小屋を元気に出発する。上河内岳までは少し残雪があった。今日は光小屋までのつもりでのんびり歩いていたが、雪も無く快適な縦走路なので段々ピッチが上がってしまう。易老岳に昼前についてしまったので、ここに荷をデポして空身になって光岳までコースタイム往復5時間半のロングピストンに向かう。静高平への涸沢には残雪がしっかり残っていた。光岳ピークに着き、先月からの長かった山行を思い出し感慨無量となる。何か、心の中でストンと区切りが着いた気がした。帰りも飛ばしに飛ばし、バテバテになって易老渡に到着。聖光山荘に寄り少しだべって帰路に就く。 実は、今回の核心部はこれからで、車を運転していて眠くて眠くて仕方がなくかなりヤバイ状態だったのでSAで仮眠を取りながら帰る。家に着いたのは、翌日の昼に近かった。
【聖平(5:50) → 上河内岳(7:50~55) → 茶臼小屋分岐(8:45~50) → 茶臼岳(9:10~15) → 易老岳(11:00~20) → 静高平(12:50~13:00) → 光岳(13:30~35) → 静高平(13:55~14:00) → 易老岳(15:20~35) → 易老渡(17:45)】


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