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御前ヶ遊窟
菅谷 征弘

山行日 2003年11月15日~16日
メンバー (L)越前屋、野田、天内、橋岡、菅谷

 「バリエーションハイキング」という趣旨で募集がかけられていた御前ヶ遊窟(ごぜんがゆうくつ)に登る。今までは、○○山、××沢というイベント名だったが、遊窟ということで、まずは面白そうと思った。入会しておよそ1年になる。それまでは、一人でハイキングをしていた。知識も経験もなく、一人ではハイキングの域を出られなかった。いろいろなところへ仲間と行けるのはありがたい。
 豪雪に鍛えられた400メートルの大スラブだ。越後には、雪の重圧に鍛えられた急峻で壮大な岩壁が多く、ほとんどは登山の対象にはならないらしいのだが、今回の御前ヶ遊窟は例外で、貴重な存在とのことだ。この遊窟は、余五将軍平惟茂(これもち)の夫人が隠棲したとされている。平安中期、平将門を討った叔父平貞盛の15番目の養子の夫人で、15番目にあたるので、余五といわれ、この地域には、数々の武勇伝がある。
 朝8時に東川口駅に集合したが、越前屋さんの車がなかなか来ない。東北自動車道の事故が原因で渋滞が首都高まで続いていて、身動きがとれないとのことだ。天気は曇り。上半身はセーターだけだが、風もないため、待っていてそう寒いことはない。話をしながら車を待つ。入会して、ようやく話に入れるようにもなったが、知らない山の話は黙って聞いているしかない。野田さんと天内さん、橋岡さんがどこかの山の話をしているが私だけ村八分だ。
 当初の予定より2時間遅れて東川口駅を出発する。目的地は新潟と福島との県境である。東北道~磐越道を走って、片道数時間の長丁場である。出発こそ遅れたが、渋滞はない。高速にのってから運転を代わる。郡山JCTから磐越道に入る。車の少ない、舗装の新しい道が伸びている。車内に射し込む日差しはやさしく、助手席の越前屋さんと後ろの橋岡さんは寝ているようだ。
 今年は暖冬だと聞く。見渡す山々の尾根には、枯れ木が林立し、白いものは見られない。
 「今度のスキーはどうしようかしら・・・」2月は、山スキーと称される例会に連れて行ってもらった。ゲレンデコースを少し外れて、尾根の新雪を、佐藤明さんの後ろから付いていくと、止まることさえままならず、足の自由がまったくきかないことに戸惑った。進路を変えるのに転び、止まってはまた転ぶ。起きあがるのにえらい時間を要するため、滑っているより雪の中でもがいている時間の方が多かったような気がする。ゲレンデとはまったく違う世界なのだと思い知らされた。「今シーズンは、テレマーク用のスキーを買うのかなぁ。金がかかるなぁ」そんなことを考えながら運転しているうちに、津川インターに到着。昼過ぎだ。
 時間が余ったので、たきがしら湿原に寄る。もとは水田で、荒れた休耕地を造園業者が湿原に作り替えたらしい。ゆっくり一周りすると10分~15分くらいだ。木で作られた歩道をぶらぶらしながら時間をつぶす。展望台を兼ねた2階建ての小屋に入るといろいろ説明が書いてある。もう秋なので、花の姿はないが、ミズバショウやニッコウキスゲ、ヤマユリ、リンドウなどが咲くらしい。
 車に戻ったのが3時。ここで運転手交代。越前屋さんに戻った。ここから遊窟の登山口までは15分程度だ。
 舗装道から、道幅1車線の舗装されていない道に車が入っていく。登山口へ行く最後の道だ。思っていたより長い。まだかな?と思っていると、車が2、3台とまれる広場につきあたった。正面に「御前ヶ遊窟登山口」と書いた看板がある。先着が1台いる。車の向きを直し、そこで幕営となった。夕食は、すき焼きだった。800グラムの肉を5人でほとんど食べてしまった。
 翌朝はパラパラと雨まじりの天気。歩き出すと降りが強くなった。
 山行の目的は色々である。ただ目的地に辿り着けばいいというものから、トレーニング、景観眺望を楽しむ、食物採集、写真撮影等々。プロの場合は、1つに絞られるのだろうが、我々アマチュアは、複数を兼ねることがあり、むしろその方が多い。当然、天気は良い方が嬉しい。
 広い道を水路沿いに進み、鍬の沢を丸木橋で渡る。道は次第に細くなった。沢沿いに進むと、右手にはすでに大スラブがそびえている。道はぬかるんでいる。最初は、ぬかるみをよけるようにして、狭い道の端を歩いていたが無駄だと分かったので、自分の歩幅で足を運ぶようになった。ところどころ滑るうえに谷側に少し傾斜していて、滑り落ちると上ってこられないような箇所もあり、危険だ。
 シジミ沢が、壮大なスラブの入り口で、鎖に助けられて大きな石を登ると、大スラブがそびえ立っていた。「凄い」の一言につきる。雨は激しくなっていた。
天気さえ良ければ行けたはずの・・・  ところどころについている鎖と、木の枝を頼りに登っていく。晴れていれば、岩の上を登っていくことも出来るのかもしれない。登っているうちに、ゴロゴロという音が鳴り出した。雷だ。「冬なのに雷?」と思ったが、あまり間をおかずにピカッときた。近い。一般的に、地震、雷、火事、おやじなどと言うが、私は地震より雷の方が怖い。大地震を経験すれば、順番は変わるのかもしれないが。子供の頃は、雷の下でも平気で遊んでいた。こんなに怖くなったのは、いつ頃からだろうか。そんなことを考えているうちに、ゴロゴロ、ピカッ。更に近い。ここでは身を隠すところもない。少し登ると、越前屋さんと野田さんが止まって話をしていた。聞けば、危険なのでこれから途中まで登って引き返そうとのことだ。少し先に、遊窟を見渡せるところがあるので、そこでみんなで写真を撮って降りようとの指示だった。
 帰りは、七福温泉に寄ってから帰路についた。また行きましょうね。こんどは晴れている日に。

【リーダーコメント】    越前屋 晃一
 残念ながら悪天に阻まれて肝心の御前ヶ遊窟まで行くことができなかった。取り付きのシジミ沢は大スラブの水を集めて「シジミのようにちょろちょろしみ出る流れ」の様子をすっかり変えて文字どおり「沢登り」になってしまった。
 それにしても自然は油断がならない。6年前にここを訪ねたが、当時に比べて様子は大きく変わっていた。磨かれたスラブにはボサが蔽いかぶさり、おりからの雨のためもあってか何か欝蒼とした状態になっていた。前日、下ってきた地元のパーティーの話によれば、豪雪の新潟も近年は雪が少なくなりスラブが磨かれなくなってきているようである。
 入山者は増えてきているようでシジミ沢にはフィックスロープと鎖が張りめぐらされていたが、まだまだ天候にさえめぐまれれば充分楽しめそうである。今度は計画に手を加えて御前ヶ遊窟を越えたところにある井戸小屋山まで歩を進められればと考えている。


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