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北鎌尾根
橋岡 崇史

山行日 2003年10月10日~13日
メンバー (L)小幡、橋岡

 北鎌へ行ったと言うと、「へぇ~(繰り返すとトリビア)」とちょっと感心されることがある。一般的なガイドブックでは、西穂~奥穂のルートでも破線になってるのに、北鎌は破線もないのが普通だから、一般ルートとバリエーションルートの境目、なにか自分も初心者クラスを卒業したような(錯覚!)を感じるのであった。
 北鎌尾根は知名度抜群。でもそれは山ヤとか「孤高の人」を読んだ人の間でのことであって、一般的にはそうでもないんだろうな。夏に槍ヶ岳に登った人に北鎌から登ったよ~といったら、どこそれ?と言われてしまった。
 さて、山の話である。小幡氏とは本当に久しぶりに対面した。遙か昔、4月のまだ雪深き頃、私はお試し山行で小幡氏と共に甲斐駒ヶ岳に行き、無事に頂上にたどり着いた。あの感動のひとときの後、5月に広沢寺に行ったことはあったけど、それからしばらく会うことがなかった。小幡氏は膝を痛めて、山行にもルームにも来られなくなってしまった。ルームにも来られないなんて、相当悪いんだろうな。膝が人工の膝になり、「オバターミネーター」となって歩いてくるのかもしれないと期待、いや心配していた。
 しかし心配は杞憂だった。小幡氏は普通の小幡氏であった。しかし普通の小幡氏は、やはり普通の人とはちょっとサムシング違う。小幡氏という世界の中で普通なだけであった。

10月10日(金)
 当初の計画では夜行列車で行く予定だった。でも「アルプス」の時代と違って、「ムーンライト」の時代になると週末しか運行しなくなってしまったのだ。それに気づいたのは数日前。仕方なく金曜の朝の特急あずさで行くことになった。でも山は夜行で行くのがいい。うとうと眠りの時間を経て、日常の世界からちょっと異常な?世界にワープできる楽しさがある。朝の特急じゃビールも飲めないし、気分が盛り上がらない。そういうせいもあって?松本で乗り換えの電車に乗り遅れてしまった(関係ないか?)。松本駅のホームのベンチでボーッと1時間以上も座っていた。
 信濃大町の駅に着いたのは、12時過ぎ。タクシーで高瀬ダムまで行く。出発時間は午後1時と遅かったので、幕場は当然ことながら湯俣温泉。私は500円払って温泉の内湯に入りに行った。小幡氏はこれまた当然のことながら、温泉などには見向きもしない。温泉はちょっと温かった。でもお湯の感じはよかったように思った。しかし、湯俣の少し上流の川の中に温泉が湧いているのを知ったのは、翌日歩き始めてからであった。川の中の天然温泉に入りたかったなあ。(スコップが必要?)

10月11日(土)
 今日は北鎌のコルまでの長丁場。私はこの日が一番大変かも?と思っていた。長いし標高差もある。天井沢の紅葉の中、景色はきれいだけど、渡渉があるので気は重い。(でもこの後、冬に渡ったことを思えば、今度のこの季節は平気かなあなんて思ったりもする)。渡りはじめは結構勇気がいる。でも水に入ってしまえば、大したことないかなあ・・・なんちゃって。ただし転ばなければ。転ぶと悲惨(経験者は語る)。川沿いの道は荒れていて崩れそうな箇所もある。残置ロープが所々にあるけど、思い切り引っ張ったら、一度ブチっと切れてしまった。
 出合からは急登。水場ともおさらば。木の根につかまりながら、登ってゆく。P2からの稜線は紅葉がきれいだ。ピークがたくさんあるので何番目か分からなくなってしまう。小幡氏に「あれが独標ですか?」と尋ねると「まだまだ先だ」と言われた。
 北鎌のコルに到着したのは、2時半頃。順調だ。テントがちょうど1張り張れる場所。天気もよかったし、誰もいなかったし、小幡氏は歌いまくっていた。大天井岳方向に向かい、夕暮れまで叫び続けた。明日もキットいい天気だろう。そう確信してシュラフにくるまったのだ。しかし後日聞いたところによると、小幡氏は翌日は二日酔いで調子が悪かったそうだ。

10月12日(日)
 なぜか雨になった。それほど風が強いわけでも雨量が多いわけでもないが。でも時々、熱帯の雨のようにパラパラと急に強く降ってくることがあった。私は川口探検隊の、未踏の地に行くとなぜか頭上から大量の蛇がドサッと降ってくるシーンを思い出して、一人でにやついていた(変かな)。独標はトラバースした。落石が多い。視界があまりよくなかったせいか、踏み跡が至るところにあるせいか、方向がよく分からなくなってしまった。1時間くらいロス。でも2時くらい?には槍ヶ岳山頂に到着。最後はロープを使った。驚いたことにすぐ前にパーティーがいた。どこにもいなかったはずなのに。聞くと、上高地~水俣乗越~北鎌出合を通って、北鎌を登ってきたそうな。そんなルートがあったんだ。時間短くて済みそう。
 頂上に着くとたくさん人がいた。ひどい天気になっていたけど、やはり3連休、山荘も水槽もヒトデあふれかえっていた(オヤジギャグですよ)。寒く、風雨が吹き荒れ、人がいっぱい、昨日とは正反対の状況だ。雨の中慌ただしそうにテントを設営する人たちをみていると、ああ三千メートル級の山なんだとなぜかほっとする(変かも)。それにしても、たまに嵐をみると興奮してしまうのはなぜだろう。

10月13日(月)
 今日は下山。予定では大喰岳から下るはずだったが、天気が悪いこともあって、一般ルートからの下山となった。6時半ころ出発して、8時頃に槍平小屋に着きしばらく休憩していたが、バス時間をみたら10時過ぎ頃新穂高から松本行きがあったので、小幡氏は間に合うように降りるという。次第にスピードを上げて、走ってゆく小幡氏。頑張ってついて行くのも次第に気が進まなくなってしまった私。結局バス時間には間に合ったが、その次のバスに乗ることとし、無料の新穂高温泉に入ってビールを飲んで、長い時を過ごす。
 ここで小幡氏から電撃発表があった。正月にも北鎌に来るという。私にも来いという。今回は下見だったのだ。ちょっと冬は~!?○△□※~と思ったが、結局行ってしまった。「大丈夫だよ!」なんて言われたが、私にとってはあんまり大丈夫じゃなかったみたいだったが・・・・・・。5月には頑張って成功させてくださいね。

 でも今回の山行も記憶に残る経験だったように思う。困難なものを求めたいか?と聞かれると、全然そうではないけれど。自分でも予想できない新しい経験は求めていきたいなと思っている。
 一人では行く気になれなかった北鎌に今回行くことができた。小幡氏には感謝しています。

KITAKAMA-ONE・・・なんてステキな響き!

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