トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ316号目次

北岳バットレス第4尾根(敗退記)
川崎 恵美子

山行日 2004年9月18日~19日
メンバー (L)小幡、(SL)荻原、紺野、山口、成田、川崎

 多くの岩登り初心者が憧れる北岳バットレスへ行ける喜びで数日前から興奮気味の私でした。前夜23時八王子駅に集合するとすぐリーダーの小幡さんから2台の車にそれぞれパーティーごとに分かれて乗るように指示され、山口車に荻原、紺野、成田車に小幡、川崎と3人ずつ分乗して今夜のテン場奈良田へ。ベテランクライマー3人にひよっこクライマー3人。私達のパーティー3人は三ッ峠岩登り講習会の2日目、天狗の踊場へ抜けた時にザイルを組んだ以来で、あの時5Pでもあんなに大変だったのに今回は10Pもあるのに大丈夫だろうか?と不安。不安なのはリーダーか!
 翌朝はまずまずの天気で早々と広河原へ向かった。交通規制に振り回されるのが難だが今日はベースキャンプの白根御池小屋へ行くだけなので気が楽と思いきや、小屋のテン場へ着き幕を張るとすぐに取付への偵察に出発。最初、今日は明日に備えてゆったりと作戦会議なんていう名前の酒宴をするだけだ、と思っていた私は自分の甘さを思い知りました。やっぱり三峰は違う!
 ここは取付へのアプローチが複雑で暗闇の中、間違えて取り付いたりすると大変なことになるし、崩壊も進んでいるらしい。明日の安全の為には不可欠ということで場所を確かめ下部で練習することになり、食当の紺野さんとお手伝いの私は先にテン場へ戻ったが(本当は明日の為に体力温存しようと)帰ってみるとムムム!なんだ、なんだ!今朝ほどほんの7、8張りだったテントが御池の淵ぎりぎりまでいっぱいになっている!まさしくテントの洪水だ!後で紺野さんが45まで数えたと言ってましたが確かに50位はありそうだった。
 時間とともに雲行きが怪しくなり、霧雨から時々少し強く降ってくるようになり、残って練習しているみんなのことを紺野さんがしきりに心配し始めた。みんなずぶ濡れになって帰ってきたら気の毒だ、と。紺野さんて本当にやさしい人なんです。おいしいトン汁で温まってもらおうと早く食事の支度を始めてみんなの帰りを待っていたが、中々戻ってこないのでちびちびやりながら彼の手際良い食事準備の助手を務めさせてもらいつつ、キャンプ料理の知恵とか肉の保存法など色々教えて頂きました。
 夕方ちょっと狭いけど外は雨なので6人ぎゅうぎゅう詰めのテントで明日の作戦を立てながらおいしいお食事&酒宴タイム。天候その他の状況により明日の起床は2時と決定!ひぇー!夜更かしした時寝る時間より早く起きるんだ。
 明日に備えて早々シュラフインすると隣のテントから4尾根がどうこう、Bガリーだ、Cガリーだと遅くまで話し声が聞こえて来る。明日みんなごっそり4尾根へ集合かな?!
 ここからはちょっとむなしい。いや、かなりムナシイかな。ちゃんと2時に起きてうどんをすすり、3時には予定通り出発したが。もし出る時に雨がざあざあ降っていたらその時点で終わっていたかもしれない。しかし、ちょっと諦めるにはもったいないような霧雨の中、取付目指してヘッデン行列が続いた。
 出てくるわ、出てくるわみんなこんな真っ暗闇のなか行列作っていったい何やってんだ!って言うくらい数々のパーティーの行列だ。聞いてはいたが3連休の混雑の凄まじさ。混んで混んでなかなか登れないって本当なんだ!
 紆余曲折を経てやっとのことで取付に着いたはいいものの順番待ちが又大変で、その間霧雨から時折本降りになり、冷え切った体がぶるぶるしてくるし、指先はかじかんで感覚がなくなってきた。先に登った荻原組の後、横入りされたりして真面目に待っていた私達はもう2時間位スタンバイしていたのだ。
 その間まだまだ下から来るパーティーもいたが、混み具合と天気に観念してか撤退して行った。岩の間から水が流れ落ちるようになり、もうすぐ登れるとしても、途中の順番待ちを考えるとビバーク必須になってしまうとリーダーは時間計算を始め、無理して登ってもろくなことはないだろうとその時点で敗退が決定した。
 先に行った荻原組もどこまで行けたのかとテン場で待っていると暫くして戻ってきた。Cガリーの上まで行って戻って来たようだった。
 晴れ渡った空の下で乾いた岩の上を登攀できたらどんなにか気持ち良かった事でしょう。残念でしたが、私自身は"もっと練習してから来いよ"って言うことだなと納得できます。小幡さんからは来年来る時はツルベだ!と課題を頂き、又新たな目標ができました。
 三峰に入ってやっと1年の私が敗退とは言えこういう山行のメンバーに入れて頂けたことを皆さんに感謝しております。敗退で学んだことはもしかしてうまくいった時以上ではないかしらと思っています。


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ316号目次