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毛無山
宮坂 和秀

 三月二十二日
 新宿を〇時二十五分の臨時列車で出発。ガラ空きで横になって寝て行く。
 甲府から身延線の一番電車に乗換え、約一時間、下部で下車する。山あいの温泉地も早朝の事とて静かである。下部温泉を通りぬけて湯之奥部落に入る。入野沢から離れて下部川本谷を見下す尾根上から取付いて尾根を登って行く。まだ霜柱は消えていなかったが陽ざしが強いので、例によって裸チョッキになる。
 先刻の尾根から分れている枝尾根を登るようになってから雪が現われ始め、登る程に次第に積雪量が多くなる。縦走路に出て、朝霧高原の向うにそびえる壮麗な富士山の姿に暫らく見とれてしまった。目の下には麓という名の部落がまるで箱庭のように見える。ふと気がつくと足下の沢筋を、男一名を混えた女ばかりの一団が、がさがさと登っていた。地蔵峠へ向うべきものを沢一筋誤ってしまったらしい。上から見下ろしても相当な傾斜で危険に思われたので、左へ廻るよう指示したが、何とか強引に登ってしまったのでホッとする。
 こゝから毛無山頂までは約一時間。一米の積雪はあると思う。ルートはよく踏まれているので歩きよいが、登山者とすれ違う時はうっかりすると股までもぐってしまう。
 頂上は登山者で賑わっていた。三〇分程休憩してから「麓」へ向って中央尾根をかけ下った。約二時間近い下りだ。地蔵峠からの路と合してから十分ばかりで麓部落につく。
 朝霧高原の中につけられた道を正面に富士を仰ぎながらバス停留所(富士山寮入口)へ向った。東海道廻りで帰ればよかったのだが河口湖へ出る事にして昼食の残りをパクついた。陽が落ちると急に寒くなってきたので、こゝでバスなど待っておれないと本栖湖方面へ向って歩くことにした。途中で十分位トラックに乗せて貰い、根原部落から精進湖行のバスに乗る。
 乗客は少く、車掌に聞くと、河口湖へ行くバスの連絡はもうないという。困っていたら親切な運転手は精進湖入口附近で、後から走ってきたダンプカーを止めて我々の同乗を頼んで呉れ、八〇キロ位の速度で走り、丁度七時に河口湖駅に到着する事が出来た。
(タイム)下部駅6:10-湯之奥橋7:30=7:55-尾根取付点8:10-縦走路11:25=12:25-毛無山13:30=14:00-麓部落15:50-富士山寮入口16:30=17:00-根原17:50=18:05-(バス)-精進湖入口18:35-(ダンプ)-河口湖駅19:00
(参加者)宮坂、大村

昭和39年7月23日発行
岩つばめNo.178 掲載

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