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阿弥陀岳北西稜
荻原 健一

山行日 2005年2月19日~20日
メンバー (L)荻原、越前屋、橋岡

 昨年11月に続いて今度は厳冬期の北西稜に挑戦するチャンスがやってきた。メンバーは、11月にザイルを組んだ小幡さんが風邪で来られなくなってしまったのがちょっと残念だが、経験豊富な越前屋さんと三峰最終秘密兵器(ラッセル用)の橋岡さんが参加してくれることになった。19日(土)の朝7時に八王子駅に集合して、えっちん号で美濃戸へ。新えっちん号にチェーンを巻けば、向かうところ敵なし?で赤岳山荘駐車場まで入ることが出来た。昼頃到着して2時間余りいつもの南沢沿いの登山道をえっちら歩き、行者小屋手前の北西稜への取付あたりで幕を張る。トレースは全くなく、雪も想像以上に多い。この時点で完登の確率は40%から20%に下がってしまう。と、いってもこのまま酒だけ飲んで帰るわけにもいかず、15時から明日のために空身にわかんを装着してラッセル開始。場所によっては、上記装備でも腰ぐらいまで潜るが、2月の八ヶ岳じゃあしょうがないか。1時間半程で、景色の開ける露岩帯に到着。今日のラッセルはここまでとして17時頃幕場に戻る。本日は、明日に備えてさっさと寝る。
 翌日は4時起床6時に気合を入れて懐電歩行で出発だ。露岩帯手前の明瞭な尾根に乗っかったところでアイゼン、ハーネス等を装着。露岩帯から先も雪は深くラッセルに苦労するが、3人で力を合わせて前進する。9時に森林限界の小ピークに到着。ここまでは予定通りだ。ここからが実質上の登攀開始(全7P)。1,2P目はナイフリッジを右から巻くようにして進む。特段難しいところはなくノーザイルで行く。3P目もただの雪稜だが傾斜のきついトラバースがあるので念のためザイルを出す。ここまでは登攀よりもラッセルに時間をとられる。4P目は岩稜・草付のトラバースで、11月に来た時は多少いやらしいとは思ったもののノーザイルで抜けたところだが雪が付くと全く別のルートに変身していた。雪がべったり付いてはいるが、さらさら雪でバイルが全く効かず、雪を丁寧に掻き分けながらホールドをひとつひとつ探し出していく作業に大変な時間をとられる。登攀グレードも11月のときは3級程度に感じたが、今回は4級くらいに感じられ途中ビレーも全くとれないので緊張を強いられた。ビレー点に着いたが、ハーケンが雪で埋まってしまっている。11月の時の記憶で雪を70~80センチも掘ると漸く出てきてセルフビレーをとりほっとする。ザイルもあと5mだったので、11月の下見が本当に役に立った。後続をビレーするが、橋岡さんがだいぶ苦労しており何回かテンションがかかった。5P目も同様に雪を掻き分けながらの登攀で非常に時間がかかる。リッジ沿いに出てからは50cm程度のきのこ雪をおとしてからホールド探しを始めるといった具合でかなり苦労した。ビレー点はあいかわらず少ない。終了点は核心となる第二岩壁の基部になっている。6P目は前回は右からトラバースしたが、雪が不安定だったことと、今回はトポ図通り行ってみたかったことから予定通り左からトラバースを開始。こちらも雪が細いバンドに大量に積もっており、雪の下のバンドの微妙な状態が全くわからず、慎重に時間をかけじわじわカニの横歩きで前進する。20~30mほどトラバースするとルートは右に折返し、4,5mの垂壁が現れる。結構厳しく4級+はあるだろう。残置シュリンゲを使ったりバイルを引っ掛けてなんとか越える。垂壁を越えると更に右に向かってバンドが伸びているが、非常に微妙な細さで雪も相変わらずかぶっているのであんまり行きたくない感じである。バンドの入り口に残置ハーケンが一本打ってあったのでここでビレーする。セカンドは橋岡さんだが、垂壁が全く登れない。引っ張りあげようと試みるもうまく行かないので、垂壁下でセルフをとってもらいサードの越前屋さんに先に登ってもらう。途中ポイントとなるガバにシュリンゲをかけてもらい、A0工作を終了し、そのまま橋岡さんには待機してもらって、最終P(7P目)のリードに入る。時間は15時半。17時までに全員を終了点まで引き上げないとこのまま壁の中で一晩過ごさなければならないが、これまでのペースだとぎりぎりのところだ。ツエルト、コンロ、シュラフカバー等最低限のものはあるが、コンロが使える状態ではなく、厳冬期の阿弥陀山頂直下でそんな状態で一晩持つ保証はない。必死の思いで登り始める。細いバンドは5m程で終了して凹角のルートが左上している。連打されている予定のピンはないが、凹角沿いの雪を落とすとすぐ出てきた。3~4回ほどのアブミの架け替えで稜の縁まであと2~3mに迫るが、次の支点がない。雪を掻き分けても出てこない。おそらく左に1m弱移ってフリーで上に抜ける感じだが、雪でホールドが分からないままフリーに移るのもちょっと怖い。真上のルートは被っているが、あと2mたらず。一本ハーケンを打てば、人工で稜上に抜けられそうだ。と、いっても適当なリスがない。11月に持って行ったが使わなかった為、今回持参しなかったジャンピングセットを後悔しつつ強引にハーケンを打つが結局入らなかった。さんざん考えたあげく、左足をアブミ上段に乗せると右足にスタンスがとれ稜の縁に手が届いた。雪を適当に掻いていると、両手で掴めるガバが出てきた。かぶっているので両手でぶらさがるようにしてから体を引き上げて漸く乗っ越すことが出来た。稜線上に左に5m程でしっかりしたビレーポイントに到着。でもまだ安心は出来ない。後続の二人、特に橋岡さんを引き上げる大仕事が残っている。時間は16時を過ぎていた。最後の乗っ越しで回収出来なかったアブミをそのままにして、セカンドの越前屋さんには、サード用に更にアブミを二つ残置してもらい、核心部は完全なはしご状態となるようA1工作をしておく。二人とも最後の乗っ越しで苦労したが、上記の要領でなんとか上がってきてもらい全員が無事終了点に到着した。時間を確認すると17時を過ぎていた。感激する間もなくザイルを解き雪壁を詰める。御小屋尾根の一般道に17:20に到着して漸く握手となる。 阿弥陀岳山頂 17:30に阿弥陀岳山頂に到着し、だいぶ暗くなりはじめている中、越前屋さんに記念写真をとって頂く。こういう状態での越前屋さんの遊び心?にはいつも本当に精神的に助けられる。下山路に中岳沢をとるが、南稜組と思われるトレースがしっかりついていた。途中、本日2回目の懐電歩行となり、19時すぎに幕場に到着。合計13時間のアタックとなった。
 よれよれの状態でテントの撤収に1時間弱を要し、南沢の下りもペースは上がらず赤岳山荘の駐車場についたのは21時半を回っていた。心配をお掛けしているであろう金子さんに下山連絡をして、やっと今回の山行が終わったと実感した。
 厳しくて敗退したり、予想以上に天気等に恵まれて完登出来たりといろいろなことがあるが、今回の阿弥陀岳北西稜は、私の未熟な登攀経験のなかで厳しくて完登した数少ない(はじめて?)経験となった。最後に素晴らしい感動を共有出来た、越前屋さん、橋岡さん有難うございました。これからもよろしくお願いします。

厳しかった北西稜

〈コースタイム〉
11/20 行者小屋(6:00) → 小ピーク(9:00) → 終了点(17:10) → 阿弥陀岳(17:30) → 行者小屋(19:00) → 赤岳山荘駐車場 → (21:40)


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