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日光戦場ヶ原周辺探鳥ハイク
服部 寛之

山行日 2005年6月4日~5日
メンバー (L)服部、別所、田中(恵)、(講師)青木

 3日金曜夜、東京駅に集合し、雨のなか服部車で出発。メンバーは今回講師をお願いする青木裕之氏と別所さん、それに私。田中さんは明朝戦場ヶ原で合流の予定。予報では、明日は雨、明後日は曇のち晴れとあまり芳しくない天気だが、1時頃光徳駐車場に着くと雨は降っていない。駐車場には誰も居らず、即車中で仮眠する。
 4時に起きると雨は上がってアスファルトも乾いている。シメタ!と思って支度していると、あっと言う間に大雨となった。
 取り敢えず、赤沼の駐車場まで移動する。この時期、赤沼~小田代原~千手ヶ浜を往復する自由乗降バスは朝4時から30分間隔で動いているのだ。ワイパーを止めると視界が閉ざされてしまうほどの大雨の中、まんじりともせずクルマで待機していると、到着したバスからカッパ姿の人達がぞくぞく降りてくる。一番のバスで小田代原に行ったものの大雨ではどうしようもなく戻ってきたのだろう。それを見て講師の青木さんがバスの方に偵察に行ったかと思うと息せき切って戻ってきて、「雨があがりそうなので、すぐに千手ヶ浜行きが出るからそれで行きましょう」。傘と双眼鏡をひっつかみ、あわててバスに飛び乗る。
 西ノ湖入口で降り、ポツポツ雨を傘に受けながら西ノ湖へ向かう。新緑の回廊に赤い絨毯を敷いたようなきれいな唐松林の道を気分良く歩いていると、一緒にバスを降りてうちらの後方を歩いていたオッサンが電気増幅式の笛のようなものでプ~ヒョヒョロとやりだした。深閑とした森の空間に我が物顔の駄音が響き渡る。雨が落ち着いてきてようやく鳴き出した鳥たちの声がだいなしだ。別所さんとともにひとりよがりの笛吹き童子ならぬ笛吹きジジイを呪う。
 20分ほどで湖岸にでた西ノ湖は、小さな宝石のようなみずうみ。この辺り(中禅寺湖西方)には初めて来たが、整備されている割には自然の景観がよく残されている。湖岸の林でオオルリの声が聞こえ、さっそく青木さんが梢で囀るオオルリの姿を枝の隙間から望遠鏡に捉えた。オオルリは声姿とも非常に美しい鳥で、見ると誰もがうれしくなる。まさに幸せの青い鳥だ。林を抜けて誰もいない小さな浜辺に出ると、雲がきれて青空がのぞきだし、朝の光が射してきた。キラキラ輝く景色をながめながら、しばらくボォッとする。
 腰を上げて次に湖の北側を流れる柳沢川沿いの林道に入る。こちらはハイキングルートからは外れていて仕事用の道だ。少し歩いてみたが鳥の声はあまり聞こえず、田中さんとの待ち合わせ時間があるので、バスルートに戻って赤沼行きのバスをつかまえた。このバスは手を挙げればどこでも乗せてくれる。料金は距離に関係なく1回300円。赤沼に戻ってみると、まばらだった駐車場はすでにマイカーで埋まっていた。
 予定通り09:40のバスで赤沼バス停に降り立った田中さんと合流し、今度は戦場ヶ原を中心に歩く。取ったルートは赤沼~青木橋~泉門池~小田代原~小田代原バス停。そこからはバスで赤沼へ戻った。戦場ヶ原はさすがに人気が高く、大小グループの大勢のハイカーに混じって釣りの人やら絵を描く人やらもいる。だが、鳥見趣味はここでもマイナーなのか、三脚を持っていると写真の人とよく間違われた。
 このルートでは戦場ヶ原に入ってすぐのところで、コムクドリとニュウナイスズメを見る。コムクドリは街で見かけるムクドリよりやや小さく、頭が白っぽく、嘴と足は黒い(ムクドリは嘴と足は黄色)。ニュウナイスズメは市街地で普通に見るスズメによく似ているが、♂は頬の黒斑がない。講師によるとスズメとの力関係でニュウナイスズメの方が山に追いやられているとか。
 その先の湯川沿いの木道では、ホオアカと営巣中のオオジシギをじっくり見た。ホオアカは草原にいるホオジロの仲間で、その名のとおり赤い頬をしている。視界の開けた湿原にまばらに生えた背の低い立木に止まるので、望遠鏡に捉えやすい。大きさはスズメを一回り大きくした程度。オオジシギは30cm位の大きさで長いまっすぐの嘴が特徴だが、乾燥化の進む湿原では色模様がまぎれて目立たない。木道から100メートルと離れていない地中に巣があるらしく、地上に出てきてはしばらく佇んで巣に戻るという行動を繰り返している。講師によると、戦場ヶ原では通常湿原の真中あたりで繁殖することが多く、遊歩道から見られるのは珍しいという。シギの仲間は水辺で見られると思っていたのでこういう所で見るのは奇異なかんじがしたが、繁殖は草原などでするそうだ。そういえば、オオジシギは別名カミナリシギといって凄まじい音をたてて急降下するディスプレイの様を尾瀬に見に行ったという話を西尾さんから聞いた憶えがある。青木橋に近づいてゆくとカッコウの声がよく響いていた。
オオジシギ  青木橋の先では、声が聞こえたミソサザイの姿を探しているときにアオジを見た。正面を向けて木にとまったので、お腹の鮮やかな黄色が非常に印象的だった。たまたま通りかかったおばちゃんに望遠鏡を覗かせてあげたら、タメイキをついていた。またマガモの番(つがい)が目の前の空に大きく円を描いて飛んでいったが、ここで繁殖しているそうだ。
 泉門池まで来たところで、持ちこたえていた空から雨が落ちてきた。泉門池~小田代原バス停の区間では雨のせいか鳥は殆ど姿を見せなかった。
 再び雨となったので、湯元のキャンプ場で幕営する予定をやめて中禅寺湖畔の菖蒲ヶ浜キャンプ場でバンガローを借りることにした。キャンプ場の前の浜ではアオサギが一羽、雨の波打ち際にひとり寂しく佇みながら、近くの水面に遊ぶオシドリの夫婦を横目で見ていた。その墨絵を思わせるような寂寞とした風景が自分には印象的であったが、だがその近くのキャンプ場内の川ではキセキレイがピョコピョコ遊んでいるのだった。そして荷物を一旦バンガローに入れて、華厳の滝へ行った。滝の断崖でハヤブサが営巣しているという講師の情報だったが、望遠鏡で探しても巣の位置はよくわからなかった。それから湯元へ行って硫黄臭ぷんぷんのまぎれもない温泉につかって心身ともに健康を快復したが、ヨロコビも束の間、旅館から出てきたところで目の前の湯ノ湖の浜を飛び回るイワツバメの群れを見て書かねばならない原稿のことを思い出し、気分は一気に萎えた。その後バンガローに戻り、畳の上で宴会。畳の上でも銀マットを敷かなければ落ち着かないこの性分はいったい・・・。
 翌朝は確か3時起きでラーメンを食し、荷物をクルマに戻してから出発。天気は晴れ。探鳥は鳥の都合で動かねばならないところがつらい。鳥を見ながらのぶらぶら歩きなんぞたいしたことないと思われるかも知れないが、やってみるとこれが結構キツい。同じ8時間の行動でも、ハイキングや縦走ならリズムは人間の都合に合わせられるが、探鳥ではそれは不可能。そのとき出会う鳥次第で動いたり停止したりしなければならない。写真を撮りたいと思えばハイキング装備にしっかりした三脚やカメラ機材の重量が加わる。じっと待たねばならない状況はしばしば暑さや寒さ或いは虫とのタタカイだったりする。不規則なリズムの行動は運動量の割には結構疲れるのだ。この日もそれを思い知ることになった。
 この日取ったルートは、まず(1)菖蒲ヶ浜から、中禅寺湖に張り出した高山の裾野をなぞる遊歩道を千手ヶ浜まで行き、(2)千手ヶ原を通って西ノ湖へ出、西ノ湖入口からバスで石楠花橋に移動、(3)そこから湯川沿いに竜頭の滝の下まで歩いてその先のキャンプ場の駐車場に置いたクルマに戻るというものだった。(1)の区間は大半が山道で、高山へ登る分岐の少し手前でやっと湖岸沿いの平坦な道となる。途中ピンクや白のツツジがきれいだった。(2)は平坦な森の中のゆるやかな上り道、(3)は森を流れる川沿いの下り道である。
 (1)で印象的だったのは、アカゲラとキビタキだ。山道に入って間もなくアカゲラが目の前の木にとまった。ケラというのはキツツキのことで、アカゲラは黒い背中に白い縞模様が入り、下腹部が赤い。♂は後頭部が赤くダンディーだ。大きさはムクドリ位。木を叩く音は結構森の中で大きく響く。よく聴くと、コゲラとは叩く速さや響きの大きさが違うようだ。キビタキはノドがオレンジっぽい黄色、胸から腹にかけて黄色く、上面は黒、黒い目の上を黄色い眉斑が走る。頭の上で鳴いているがなかなか見つけられないでいたが、やがて青木講師が望遠鏡に捉えた。下から見上げる格好だが、ものすごくきれいな黄色。黒とのコントラストがおしゃれな鳥である。
キビタキ  (2)ではまず枯れ木のてっぺんで日光浴をするゴジュウカラを見た。ゴジュウカラは頭を下にむけて逆さまに木の幹にとまる姿が図鑑に載っている変わった奴で、流線型の体型はスルドク恰好いい。カラ界でハード路線を堅持しているおあにいさんといったかんじだが、羽を片方ずつコラショと広げて陽に干すこの日の姿に精悍さはなかった。
 次いで、林床をぴょんぴょん跳ね回るアカゲラを発見。望遠鏡で見ると虫を何匹かくわえている。新たに何か見つけると、くわえていたものを一旦地面に置いてから新しいものと一緒にくわえ直す。ものすごく器用。オレにはとても真似できない。ヒナにでもやるのか、しばらくすると森の奥の方へ急いで飛んで行った。その先ではジュウイチが盛んに鳴いていた。ジュウイッチと鳴くのでジュウイチである。とてもわかりやすいネーミングだ。そういえばウルトラマンはジュウハッチと発して飛んだが、垂直離陸がその特徴であった。
 西ノ湖では大きな団体がぞろぞろ歩いて賑やかだったが、幸いにも昨日オオルリを見た林の方まで来る人はあまりいなかった。是非ともオオルリを見たいという田中さんのために、昨日のポイントでオオルリを待つ。しばし待っているとオオルリの歌が近づいてきた。近くの梢にとまったところを望遠鏡で覗いていると、うちらへのサービスのつもりなのか、もっと近くの枝まで降りてきてくれたので、じっくりと見ることができた。たぶん昨日見たのと同じ個体だが、雨に濡れてボサボサぽかった羽が今日は陽光をうけてつややかな青だ。しばしの幸福なひととき。
 オオルリが行ってしまったので、腰を上げ、西ノ湖入口で満員の赤沼行きバスに乗り込む。バスを待っている間は暑いくらいだった天気もバスに乗っている間に急激に曇ってきた。石楠花橋で降り、大勢のハイカーに混じって湯川沿いの道を下る。少し行くと雄のオシドリが一羽流れに抗して泳ぎながら何か流れてくるものを食べているのを発見。ご存知のようにオシドリの♂は色彩豊かでものすごく派手だ。講師の話では、オシドリの♂は子育てには参加しないと言う。子どもは放っておいてキメキメ姿で好きなことをする。しかもオシドリは毎年番の相手を変えるという話も聞いたことがある。こうなると、今後「オシドリ夫婦」と云われるカップルを見たら文字通りイロイロソーゾーしてしまいそうだ。鳥ヤから「オシドリ夫婦ですね」と言われたことがある人がいたら、悪い事は言わない、ここらで生活を考え直した方がいいかも。
 オシドリが何を食べているのか確かめてみるつもりでその下流で岩場に下りてみたら、なんとカワガラスが岩の間を歩きながら採餌していた。ラッキー!カワガラスは渓流に棲むスズメより2回り位大きい全身濃い茶色の鳥なのですぐわかる。オシドリが盛んに食べていたのは主に流れてくる藻のようであった。
 その先でとうとう本降りの雨となった。「オシドリを見てカワガラスを見たらあと川で見るのはミソサザイだね」と言っていたら、竜頭滝の下の茶店前の滝壷にそのミソサザイが居てまたまたラッキーな締め括りとなった。
 雨のいろは坂を降りて日光宇都宮道路に入ると、宇都宮インターの手前で雨はあがった。都内に戻り、講師に感謝して大崎駅前で解散。お疲れさまでした。

小田代原にて

見聞きした鳥 ( )=声のみ
4日/光徳駐車場、赤沼周辺、西ノ湖周辺:(クロツグミ) (アカハラ) (マミジロ) (シジュウカラ) (ゴジュウカラ) (ヤマガラ) (ヒガラ) ハシブトガラス、ハシボソガラス、カワガラス (キビタキ) オオルリ (アオゲラ) (アカゲラ) コゲラ (コマドリ) (コルリ) (アオジ)
戦場ヶ原:ニュウナイスズメ、ムクドリ、コムクドリ (カッコウ) ノビタキ、オオジシギ、キビタキ (ミソサザイ) アオジ、マガモ (モズ) チゴモズ (ツツドリ) イワツバメ、キセキレイ、セグロセキレイ、ハクセキレイ、オシドリ、アオサギ、トビ (メボソムシクイ) (ウグイス)
5日/菖蒲ヶ浜~千手ヶ浜:アカゲラ、キビタキ (センダイムシクイ) (メボソムシクイ) (オオルリ) セグロセキレイ (シジュウカラ) (ヒガラ) (コガラ)
千手ヶ原~西ノ湖:ゴジュウカラ、アカゲラ (ジュウイチ) キジバト、オオルリ (ウグイス) ハシブトガラス、ハシボソガラス、アオサギ、トビ
石楠花橋~竜頭滝:オシドリ、カワガラス、ミソサザイ (キセキレイ)


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