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5月合宿 剱岳・早月尾根
成田 義正

山行日 2005年4月30日~5月3日
メンバー (L)紺野、鈴木(章)、峯川、成田

 今年の春山合宿に紺野さんから剱岳の誘いを受けた。剱岳はこの15年山頂を踏んでいなかったので、ソロソロ行きたいなぁと思っていた山である。高度差2200mの早月尾根はまだ登っていない登路であり、歳を考えるとラストチャンスかもしれないので参加することにした。

【2005.4.30 馬場島10:10 松尾平12:30】
 急行能登に大宮から乗車。予想に反してガラガラの空き具合。一人一枡とゆっくり座る。閑散とした滑川で下車。下りたのは我々だけのようだ。ガードを潜って地鉄富山に乗換えて上市駅で下りる。予約していたタクシーに荷物を積んだが章子さんが現れない。どうしたのかと駅に引き返すとベンチに横たわっている。気分がすぐれなく何回も吐いたと言う。顔色が悪く元気が無い。2時間ぐらい様子を見たいというのでタクシーをキャンセルし我々もベンチに横になる。ベンチには全て座布団が敷いてあり寝心地が良い。8:30章子さんが起きだし少し回復したというので馬場島に向かう。快晴で気温も高い。何とも平和なこの春の陽気は初めてのコースなら緊張するものだが長閑な気持ちにさせられる。登山口には「試練と憧れ」と書かれた石碑があり、いきなり急登が始まる。章子さんがやはり遅れだした。やがて登山道は沢道と尾根道に別れ、章子さんと逸れてしまう恐れがあるし、章子さんのザックをボッカするので適当なところで引き返して来てくれとリーダーから要請される。これ以上の行動は無理なので早いが松尾平でテントを設営する。予定では早月小屋手前で幕営し翌日真砂沢で合流するはずだがどうなることか。しかも明後日は天気が崩れるらしいから停滞も予想され他パーティーとは合流は出来ないだろう。夜行列車の睡眠不足解消と体力回復を願って7時頃に就寝。

【2005.5.1 出発5:00 早月小屋10:20】
 出発する5時はもう明るい。今日も快晴。夏道と残雪の急登が続く。標高1600mくらいから雪尾根というより雪斜面を登る。思っていた以上に傾斜がきつい。しかし徐々に広がってくる展望に見とれてしまう。左手には赤谷山、その右には小窓尾根の鋭い岩峰。急峻な尾根にも1700m付近や1900m付近には適当な幕場が結構あるものだ。正月合宿はどの辺りで張ったのかなと観察。続々と下山の人と会う。駆け足で下る人や小窓尾根から長次郎谷を下り八ツ峯を登り返した強者も居た。
 もう早月小屋も見えているし早く着いても後続を待つだけなので山岳展望。右に大日連山と立山連峰、正面に剱本峰が頭上高く聳え、後方に毛勝三山とすこぶるいい景色。じっと眺めていると山に来ているのだという実感に浸り何とも言えない気分である。
 最後のピークに喘いでいたら「登りはここまでだっちゃ」と小屋番の励ましの声。田制さんといって今年で引退するらしい。「65歳までやりたかったが体がもたないから」と。まずはビールを買って本日の仕上げ。
 幕を張るには早過ぎる時間だがこれが幸いした。2時過ぎから雨が降り出し、風も強い。夜半はテントが浮き上がり、ポールは寝ている頭の辺りをかすめる。は~これが山の天気か。

【2005.5.2 出発10:10 平蔵谷コル16:00】
 朝になって風は収まり小雨に変わったが視界が悪くて登高意欲が湧かず、登ることを諦めていた。テントの中は水浸しであちこち水溜りが出来てコッヘルで水をかき出す。私は靴の中に水が入り一生懸命水抜きをする。田制さんが時々様子を見に来ているのが分かる。まもなく晴れになるらしいから小屋の乾燥室を使ってもいいと言ってくれたので言葉に甘えてテントやら何やら持ち込んで乾かす。時折声が掛かり蟹の味噌汁を振舞われたり、ストーブで暖を取りながら談笑したり楽しく過ごさせて頂く。北アルプスの小屋でこの様に親切にされるのは珍しい。大変お世話になりました。味噌汁は美味しかったです。パッキング中急速に天気が回復し、出発する頃は晴天になり日差しが眩しく雪の反射で焼かれそうだ。しばらく登ると展望がどんどん良くなってくる。立山・室堂方面を見下ろす高さになり、小窓王と小窓ノ頭の間から白馬三山も見えてくる。鋭い雪の断崖をピッケルで確保しながら慎重にトラバースする途中で雷鳥を見かける。岩にうずくまる白い雷鳥だった。核心部の獅子頭はいつの間にか通過していた。山頂まで700mの標柱があり、もう最後の登りだがピッチが上がらない。14:50、別山尾根と合流しやっと山頂に立つ。高度感があり360度の大パノラマ。たどって来たルートを眺めると早月の雪稜が美しい。山頂から続く北方稜線や小窓尾根、その先の稜線を眺めるとどこまでも続いている。次はこの先、あの先に行ってみたいと山に来てはいつも思う。10分居ただけで直ぐ下山。神々しい景色に後ろ髪惹かれる思いだが仕方が無い。別山尾根に入り蟹のヨコバイを下り平蔵のコルへ。時間を考えここで幕を張る。富山湾、針の木・蓮華が望める絶好のテン場だ。

【2005.5.3 出発6:20 黒部ダム15:10】
 真砂沢集中は果たせなかったが真砂沢までならほんの一息で行ける。予定では仙人山ピストンもあるのでリーダーに確認すると本日下山すると明言。まあそれは付録みたいな物だから良いか。
 最短の平蔵谷を下る。アイゼンが利いて急斜面を楽に降りるが長いので次第に腿が痛くなってくる。それでも一気に剱沢出合に出て真砂沢に向かうとスキー隊が登ってくる。モートーのエール交換をして暫く報告しあう。
 真砂沢ロッジは雪に埋もれて見えないので適当な処からハシゴ谷乗越に向かう。カールは見た目も急斜面だが「大した事ないよ」と言われ取り付くが登るにつれて傾斜が増し何と50分もかかって尾根に出た。ここからは下り一方。内蔵助平はだだ広い雪原で、それだけに開放感があって箱庭の様な眺めだ。内蔵助谷のスノーブリッジを越えると登山道は不明瞭でとても歩き難い。基本的には沢沿いに歩くのだが迷って薮を掻き分けて下ったり、崩れかけた斜面を恐々通ることもしばしばでようやく黒部川にたどり着く。亀裂が入ったセッピを高巻いたりほぼ平坦な登山道になったところで黒部ダムが姿を現す。対岸に渡る橋が流されてしまい冷たい黒部川を渡渉。仕上げはダムへの急傾斜の登山道が待っていた。
 大町温泉・薬師の湯で山旅の垢を流し、来て良かったな・・・と満足感に浸る。そして評判の「白馬錦」を買いタクシーで松本に向かい帰宅。


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