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山スキー・剱沢・真砂沢定着
小堀 憲夫

山行日 2005年4月30日~5月4日
メンバー (L)三澤、福間、飯塚、田中(恵)、小堀

 今回はゴールデンウィークに相応しい素晴らしい山行となった。一ノ越から御山谷を黒部湖まで一気に滑り降りたあの爽快感は筆舌に尽くしがたい。大きな感動は言葉にしてしまうとこじんまりしてしまうので、そのままの大きさでとっておきたいのだが、記録係を仰せつかったので仕方が無い。
 大型連休の初日29日金曜日、昼間ゆっくり荷造りし、夜8時半駒込駅集合・出発という楽なスタートだった。三澤車は高速をひた走り扇沢到着は12時前だった。途中、八ツ峰隊、早月隊から携帯に連絡が入る。早月隊は鈴木隊員が体調を崩しているらしい。心配だ。その夜は混雑している駐車場の片隅にテントを張りいつもどおりに寝酒を楽しんだ後仮眠。
 翌朝は快晴。8時半に駐車場を出発した。トロリーバス、ケーブルカー、ロープウェイ、トロリーバスと乗り継いで行くが、観光客の数が物凄い。まるで朝の通勤ラッシュだ。黒部ダムで1時間以上の順番待ちとなり、早く出発すれば良かったと悔やまれた。待つ間、まずい立ち食いそばを食べたり居眠りをしたりして時間をつぶす。結局室堂出発は1時過ぎになってしまった。いざ出発とスキーを着けていると、サンダル履きの観光のご婦人に「雷鳥はどこにおるんかねぇ~。」と尋ねられた。「もっと上まで行かないと見られませんよ。でもその靴では無理です。」と丁寧に答え、気合を入れて出発。初日に真砂沢の幕場まで入っておかないと、本命の池平山へ日帰りで行くのがちときつい。ともかく行けるところまで行こうとひたすら登る。みくりが池温泉の臭いが雷鳥沢に近づくに従い濃くなってくる。雷鳥沢にはテントの花が咲きほこり、即席テーブルで早くも焼肉宴会などが始まっている。場所は確かにもっと奥だが、自分達も同じようなことをやろうとしているくせに、『ああ、いやだ、いやだ。ここはまだ下界だねぇ~。』などとうそぶいて、先を急ぐ。小堀は滑りは遅いが登りは速い。先頭で雷鳥沢を登る。しかしこの登りはきつかった。それでも、別山乗越・剱御前小屋に4時過ぎに到着。少し休憩した後、少し日はかげってきたが、これなら真砂沢の幕場まで行けそうだと頑張って出発。途中、剱沢小屋の幕場でテントの中でアルコール漬けになった八ツ峰隊と出会う。エール交換もそこそこに、陽がかげって寒くなった剱沢を滑り下った。途中雪崩跡の通過に苦労しながらも、5時半に真砂沢の幕場に到着。やはり小堀は下りは一番遅かった。辺りには沢を少し下った対岸にテントが2~3張りあるだけで、こちら側の幕場は独占だった。真砂沢ロッジの屋根辺りと思われる台地に余裕を持って幕営。その夜は焼肉宴会。やはり雷鳥平の連中としっかり同じことをやったのであった。
 翌朝はまずまずの天気。5時に起床して6時40分には出発した。二俣で近藤岩を眺め、「何で近藤岩なんだろうね。」と誰でもが思うようなことを命名した人の期待通り(たぶん)に思い、北俣を登って行った。平ノ池に9時到着。その後の登りがまたきつかった。3時間かけ最後はつぼ足でようやく正午に池平山の頂上に到着した。途中、尾根の北斜面、小黒部谷方面が切れ落ちていて少し緊張させられた。頂上で休んでいると、小窓方面へ向う縦走者達が見えた。ぐずぐずの雪でトラバースにかなり手こずっている様子が窺える。寒いので昼飯もさっさと済ませ、「さあ、テントに戻るか」と、滑降モードに切り替える。出だしは急で、小堀は腰が引けた。三澤氏を始め後のメンバーはベテラン揃いなので、どんどん行ってしまう。三澤氏は飛び跳ねるようにウェーデルンで決めて行く。結構体格が良い方なのに、普段歩いている時にもそれを感じさせない歩き方なので、相当膝上の大腿四頭筋が鍛えられているはずだ、と小堀は見ている。そうでなくてはあの滑りはできないはずだ。田中さんはともかく丁寧に華麗に滑る。その人柄のように落ち着いていてお手本になる滑りだ。福間さん、飯塚さんの滑りはともかく豪快だ。安定感があって「ああ、山屋だなぁ」などと感心してしまう。小堀もだんだん慣れてきて、平ノ池辺りでは先行して、なんと生意気にも「福間さんも陽子ちゃんも無理やりパワーでターンしているねぇ」などと偉そうなことを口走るようになった。当然、「コボ、何だってぇ?10年早いヨ!」とお2人からはビシバシとガンを飛ばされた。三澤さんの注意で、雪崩対策として各メンバー前後に少し間を空けながら慎重にかつ素早く北股を抜け二俣に着くと、雨が降り出した。休憩していると、近藤岩の周辺でウロウロしている不審人物がいた。
「あれは何をしているのだろう、怪しいなぁ。」などと、自分達もかなり怪しいくせに好き勝手に思いつつ、雨の中テントへ戻った。3時前到着。その夜はかなり激しい風雨となった。八ツ峰隊の安否が気にかかる。
 翌朝は6時半起床。まだ小雨が降っていたため停滞日となった。10時半ころ晴れてきたので、外へ出てスキーを4本立て、細引きを渡し正方形の物干し場を作成した。谷間の上空には濃い青を背景に雲が流れる。そこへ濡れた物を全て干した様子は、さながらヒマラヤのネパール側で見られるタルチョー(宗教上の旗の飾り)の様であった。魔方陣のようでもあるその物干し場の真ん中に即席ダイニングセットを作り、のんびりパスタのランチ。
「これでビールがあれば最高だね。コボなら剱沢小屋まで直ぐだよ」などと散々ベテラン陣から脅されたが、山々に囲まれた聖地での寛ぎの一時に恍惚としてしまい、小堀の腰はついに最後まで上がらなかった。この贅沢な時間も今回の山行を強く記憶に留める要因の一つとなった。
 翌朝3日は5時半起床。休養も十分で剱沢を快調に登る。7時20分に幕場を出発してすぐに、モートーコールが聞こえ始め、長次郎谷の出合で上から降りてきた早月隊と合流。お腹の調子が悪くてほとんど食べていないと言うわりには元気なアッコさんを見て安心した。小さい体のどこにあのパワーが隠れているのだろうといつも感心させられてしまう。しばしエールを交換しそれぞれのルートへ向った。登りの途中で田中さんの調子が悪くなった。息が異常に荒くなり少し心配された。それでも、途中、雷鳥沢を滑り終わり安全地帯に入ってからビール休憩などを楽しみ、雷鳥沢の幕場に2時に到着した。テントを張ってから皆で温泉に浸かりに行った。宿の売店で生ビールを飲んでプハー。帰りに銘酒・銀嶺立山を買って帰りテントで一杯やっていると、八ツ峰隊がボロボロになって到着した。稜線上で暴風雨にやられ、テントのフライが裂け、飛ばされるかと思ったそうな。雪が悪くトラバースに難儀し、「もう当分登りはいやだ!」と半分ヤケ気味の俊介隊員であった。あの夜稜線にいたのならさもあらん、お疲れさま。両隊ともお疲れで、お酒もはかどらず、大人しく寝た雷鳥平の夜だった。
 翌4日は5時に起床し、7時に出発。八ツ峰隊はそれより少し早く出発して行った。一ノ越を目指す途中で再度田中さんが不調となり、別行動で乗り物を使い扇沢に向うことになった。本隊は引き続き一ノ越を目指した。小屋でトイレを借りて、さていよいよメインイベントの始まりだ。滑降の用意をしていると、「どこまで行くのですか。」などと観光登山客が尋ねてくる。黒四ダムまで行くのだと応える自分自身が本当に行けるのか半信半疑なので苦笑してしまう。最初の出だしは斜度があって何度か尻餅をついたが、その内調子が出てきた。ノンストップでどんどん滑った。広い雪面がどこまでもどこまでも続く。やがて頭は真っ白になり、滑っていることさえ意識から遠ざかる。
『ああ、クワイカン!!』この一時で完全に山スキーにはまってしまった。黒部湖に流れ込む沢の流れが雪下から顔を出し長い滑降が終わった。スキーを外して途中フキノトウを採りながら林道を黒四ダムまで歩いた。ダムの上、福間さんを先頭に観光客をかき分け颯爽と進む我らスキー隊。映画のワンシーンの様だと思ったのは後で聞いたら小堀だけではなかったようだ。1時に扇沢の駐車場に到着し、待っていた田中さんと合流し、いつものとおり途中の温泉に入り、そばを食べて帰京した。

〈コースタイム〉
4/29(金)

 20:30駒込駅集合

 23:50扇沢駐車場着
4/30(土)

 08:30扇沢駐車場発

 09:30トロリーバス5,460円+210円荷物代+ケーブルカー400円スキー代+400円荷物代=6,470円

 12:30ロープウェイ発トロリーバス

 13:10室堂発 雷鳥沢経由

 16:20剱御前小舎着(別山乗越) 途中の剱沢小屋前のキャンプ場で八ツ峰隊に会う。剱沢雪渓を滑る。

 17:30真砂沢ロッジ付近着
5/1(日)

 05:00起床

 06:40テント場発

 07:10二股着 近藤岩 北股へ

 08:10小窓雪渓出合着

 09:00平ノ池着

 12:00池の平山山頂付近着 稜線を縦走している人達が近くに見えた。

 12:55平ノ池着

 13:35二股着 近藤岩

 14:45テント場着 雨が降りだした。夕方から夜にかけて風雨が激しくなる。
5/2(月)

 06:30起床 小雨 停滞日と決定。10:30頃晴れてきた。スキーにロープを通してシュラフなどを干した。一日のんびり過ごす。
5/3(火)

 05:30起床

 07:20テント場発

 07:55長次郎谷出合い着 早月隊と会う。

 10:35剱沢小屋着

 12:00剱御前小舎(別山乗越)着 雷鳥沢を滑る。途中で大休止してのんびり降りる。

 14:00雷鳥沢キャンプ場着 テント設営後、雷鳥荘の温泉へ入りに行く。

 16:30八ツ峰隊がキャンプ場に到着。隣にテントを張る。
5/4(水)

 05:00起床

 07:00雷鳥沢キャンプ場発 (07:30田中は不調のため別行動) 本隊は一ノ越へ登り御山谷を滑って黒部湖へ (10:30扇沢駐車場着)

 13:00山スキー隊扇沢駐車場着

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