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雪山登山・北八ヶ岳(天狗岳)
平 真里

山行日 2005年3月26日~27日
メンバー (L)小堀、川崎、前野、坪松、平

 朝7時にJR八王子駅に集合。天気は快晴。幸先がいい。小堀さんの車に4人が乗り込み、予定通り出発。3時間ほどで渋ノ湯着。駐車場から旅館前に向かうと、すでにいくつかのパーティーがたむろしていた。
 まず高見石に向かう。踏み跡はしっかりしていて歩きやすいが、荷物が重くてすぐに息切れ。早くもザックを捨てたくなった。30分ごとの休憩を待ち遠しく思いながら、樹林帯を歩く。樹林から出たところが賽ノ河原。何も遮るものがなくなり、風にあおられて、雪を踏みしめる足に力を込めた。時に道を踏み外して雪に埋もれるので、かなり体力を消耗。凍っているところでは特に慎重に歩く。のしかかってきそうな空を、何度も見上げては息を整えた。ようやく森に入ったところで、ちょっと緊張がゆるむ。「耳をすませて」といわれて立ち止まると、木のなく声が聞こえた。不思議だ。さらに標高が上がると、木の枝につく雪は厚みを増して白一色になる。日が差し込んだとたんに、雪が光って目がくらみ、現実離れしたところに迷い込んだ気がした。
 ひたすら登って空腹もわすれかけた午後1時ごろ、高見石小屋に到着。小屋でどぶろくを仕入れたのは誰だったか。おにぎりをお腹に入れて、高見石まで登る。風が強い。遠く、白駒池のところだけ樹林が切れて白い楕円形に見える。せり上がった岩場で周囲を見渡すと、いかにも登った気がして満足。が、浸っているには寒いので、証拠写真を撮影して切り上げた。
 小屋の前に戻ると中山をめざして出発。反対側からきたパーティーはずっとラッセルしてきたとか。その跡をたどって、森の中を忍耐、辛抱のことばを胸に前進。立ち止まっては、先を行く2人(小堀さん、坪松さん)を目で追い、後ろの川崎さんが追いつかないでくれるよう願って、しょっちゅう振り返った。高見石を出発しておよそ1時間半、中山にたどり着いて、視界が開けた。風が強く、舞い上がった雪の粒が顔にあたって痛い。平坦な場所なのに、ふらふらする。道標があるところで記念撮影。
中山にて  あと少し。ところが、踏み跡が風で消されてどこにもない。前野さんと小堀さんが道を探しに離れたのを見守りつつ、途方にくれて待つ。30分弱くらいか、雪で埋もれた木にテープらしいものを発見。ほんとうにここ?という不安を拭い、雪をかき分ける。わかんを着用。雪がさらさらして気持ちがいい、と楽しんでいると、まもなく踏み跡にぶつかり、歩きにくいわかんは外してしまった。
 それからは下りなので早い。ほどなく黒百合ヒュッテ。手助けというより邪魔をしてテント設営は完了。幕営代1人千円也。きれいなトイレのせいかも。
 暖かいテントの中で豪華な夕飯。ハム、ウィンナー、焼肉、パスタ。幸せ。食糧は荷物の軽量化にあたって例外らしい。どうもごちそうさまでした。食べるだけ食べたら眠くなり、これまでになく健康的に21:30に就寝。
 ぐっすり眠って、人声で目が覚めた。外はすでに明るい。お湯をわかしてお茶、朝食はラーメン。それぞれ持っていた食材が具になって、朝からちゃんとした食事になった。後かたづけのあと、テントはそのまま、アイゼン、ストック(ピッケル)を身につけて出発。きょうも快晴。朝の冷気と日差しに生き返る。
 森のなかから中山峠に出ると、やっぱり強風にさらされる。山頂を目前に見上げ、ああ、あそこに登ってしまうのか、と思っても実感がわかない。雪面のトラバース、キックステップによる登り。下に滑り落ちそうで腰が引けるが、とにかく前へ、と何も考えずに進むことにした。荷物が軽いのが何ともありがたい。
 稜線に上がると、反対側の斜面が見える。あとはまっすぐ登るのみ。途中現れたくさりを命綱のようににぎりしめた。山頂に出ると、間近に迫る赤岳、遠くにくっきりと見える南アルプスの稜線。山肌の起伏を雪がなぞって神々しい。正気にかえってカメラで写真を撮ろうとするが、気温が低すぎてシャッターがおりない。サングラスを外してぐるりと一周し、記憶に焼き付けた。10分くらいいただろうか、記念撮影をして名残惜しい山頂ともお別れ。
天狗岳山頂にて  下山は勢いがついて早かった。もっとも、下が見えるので怖くてほとんどお尻ですべりおりたのだが。樹林帯に入る前にひと休み。ようやく急坂が終わり一気に下山。三、四十分で黒百合ヒュッテに戻る。
 テント撤収、荷物の整理をすると一路、渋ノ湯へ向かう。荷物も軽いし、息をきらさず歩く森のなかは気分が良い、ときょろきょろしていると、すぐに前と離れそうになる。あとちょっと、というところで、前野さんがコンタクトレンズを落としてしまった。集合して雪の上のコンタクトを探すが見つからない。あきらめて周辺の雪をビニールにかき集め持って帰ることに。(帰宅後、奇跡的に見つかった。)
 渋ノ湯着。温泉を探しながら車で移動。偶然見つけた、河原の湯に立ち寄り汗を流した。入っているのは地元の人たちばかり。さっと汗を流して帰路につく。途中、ドライブインで軽い昼食をとり、八王子には早めの15:30に到着。渋滞もなくスムーズだった。
 翌日出勤するも、会社にいる自分を認識できないままに数日過ごした。雪山の威力は現実感を喪失させるものらしい。

〈コースタイム〉
3月26日(土) JR八王子駅集合(7:00) → 渋ノ湯(10:20~10:50) → 高見石小屋(高見石往復)(13:00~13:30) → 中山(15:00~15:30) → 黒百合ヒュッテ着(16:20)
3月27日(日) 起床(5:00) → 黒百合ヒュッテ出発(7:30) → 天狗岳山頂(8:30~8:40) → 黒百合ヒュッテ着(9:10~10:00) → 渋ノ湯(11:00~11:40) → 河原の湯(12:10~13:10) → JR八王子駅(15:30)

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