トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ318号目次

山スキー・鍋倉山と容雅山
さとう あきら

山行日 2005年3月19日~21日
メンバー (L)佐藤、三澤、藤井、福間、飯塚、山沢、田中(恵)

 上信越自動車道信濃IC脇の道の駅「しなの」は、登山愛好家の入山前の仮眠地として好評のようだ。休息所は夜間閉鎖となるものの、その玄関部分の屋内スペースは広い。雪降りとなった事もあり、ここにはテントを濡らしたくない多くの登山者が所狭しと休んでいた。案外暖かく、なかなか快適そうに見える。一方我々は三澤氏の指南で、最奥の豆腐製造所の裏のスペースに雪をものともせず幕営。おかげで道の駅にありがちな深夜のエンジン音とは無縁の、静かな一夜を過ごすことが出来た。
鍋倉山山頂で妙高をバックに

 3月19日、テントから出ると何と20cmもの積雪だ。新雪なだれの危険も高いため、予定を変更し鍋倉山へ向かう事にする。野沢スキー場の信濃川対岸に位置する標高1300mにも満たないこの山は、ぶなの原生林で有名だ。森太郎や森姫と名付けられる程のぶなの巨木が林立し、その間のツリーランが楽しめるという。
 温井部落の登り出し10時。尾根に入るとぶなの巨木がぽつぽつ出始める。遠目にはその大きさが分からないが、すぐ近くまで寄ると幹の直径が1.5mもあるようなりっぱな木で圧倒される。樹齢は300年位とのことである。雪に耐えた枝は大蛇のようにうねり、それを支える幹には深いひだが走り、暗いうろへと続く。またかぼちゃのようなこぶに不規則に覆われた様は、若木の頃のつるんとした木肌からは思いも及ばないような老醜ではあるが、枝を大きく広げて雪の中に厳然と立ちつくす姿は手を合わせたくなるほど神々しい。
鍋倉山のぶな林は美しい  約500m登った1050mあたりからは展望も良くなり、周囲の山々も見えてくる。また壮年ぶなの疎林帯となり、霧氷をまとった枝々も春の陽光にきらきらと輝き美しい。
 12時半、鍋倉山頂上着。360度の展望台だ。西には妙高の山々や、明日行く大毛無山も見え雄大だ。下山ルートは、先月の岳人誌で紹介されたコースを採用することにした。最初は急斜面、その後左下がりの片斜面だが、ぶなの木々の間を縫うように滑るのは楽しい。そんな中、立木の風下に発生する雪のくぼみでバランスを崩した三澤氏が木に胸を強打してしまった。以降時間をかけて下り、14時に登山口に戻る。病院に急行し見てもらったところ、骨には異常なく一安心。今しがた迄意気消沈だった三澤氏もこの結果をもらって急に元気になり、皆に高級地ビールを振る舞う始末。ケガが軽くて良かったね。オラもダブルでうれしいよ。ゴクゴク。その後戸狩温泉で入浴後、ARAIスキー場近くで幕営する。

大毛無沢上部を妙高に向かい滑る  翌3月20日、無風快晴。山スキーツアーには絶好のコンディションだ。ARAIスキー場のインフォメーションに登山届を出し、パトロール隊員にコースロープを解いてもらいスキー場のトップを出発。何でも容雅山を目指す我々は、今シーズンの3パーティ目との事。人気ルートと思っていたが、まだ時期的に早いらしい。また連休のなか日ながら他には山スキーヤーを見かけないため、我々がルートを独占できそうだと思うとつい士気も高まる。特に今回のメンバーは山岳スキーのベテランばかりであり、パーティ編成への不安が皆無というのは、リーダー担当としてもありがたい。さあ念願のロングルートに出発だ。
容雅山から大毛無沢を遠望  まずシールで20分ばかり登り、大毛無山直下の標高1400m地点から滑り出す。10時。大毛無沢上部は快適雪面が大きく広がり、樹林も薄い。昨日の新雪はわずかに湿った圧密状態となって旧雪のクラスト面上に積載しているが、層は安定しターンの際にもはがれて流れる事はない。この予想外の雪質にターンのたびに皆の歓声が上がる。パーティが前後に広がり過ぎないように時々停止して集合するものの、これほど途中で停まりたくない程の爽快滑降は記憶に久しい。
 30分もかからずに悪水沢出合となったが、付近は既に雪が割れ水面が少し出ている。また雪が腐り、なだれも心配になってきた。ここから大きく張り出した雪庇の尾根を心配しながら登り、さらに急登を越えて1220m台地に出た。ちなみにこの尾根はミズナラの巨木が林立し、秋には舞茸ウハウハを確信させるのだが、雪の無い時期にどうやってここまで来るのかは思案のしどころだ。
 この先、北桑沢から往復するパーティのトレースがあり、それを借りて容雅山頂上を北尾根から目指す。しかし途中の急斜面で雪が堅くなり、アイゼンを持たない我々は進退窮まるが、田中、山沢両名が尾根東縁の雪庇ライン近くに登路を発見し、何とか1時45分頂上に立てた。風の通り道はクラストするのは常識だが、標高が低い事もあり甘く見てしまった。これは失敗だった。
容雅山頂上稜線はちょっぴりこわい  容雅山発2時。本来であれば待ちに待った楽しい滑降なのだろうが、今朝の大毛無沢の痛快さと比較してしまうと全然だ。尾根上はクラスト、北桑沢は腐れ雪で悪雪に弱いテレマーク族には特にきつい。それでも北桑沢は快適斜度が続き、なるほど納得の滑降ルートだ。澄川出合で大休止後、第三発電所3時20分着。今回のルートの最大の難所と心配だった悪水沢出合下流のスノーブリッジ帯も、かなり雪がつながっており、苦労なく川床を滑れたのはありがたい。ちなみに本日のARAIスキー場積雪は561cmだったので、今後トレースされる方は参考にされたい。
北桑沢はいかにもスキー向き  第三発電所からは林道を下ったが、途中より地図に無い道に導かれたらしく、岡沢本田の標高284m点の200m南東のあたりに出てしまった。無線で連絡し、5分ほど歩いたバス道で本日静養の三澤さんに迎えに来てもらった。4時50分。足のそろったパーティ構成で大きなトラブルがなくてもこの時刻なので、やはり日帰りツアールートとしては上級になるのだろう。改めてメンバーと天候に感謝した次第だった。
 その後明日のシャルマン火打スキー場からの放山ツアーに備え能生に行き、マリンドームのカニ屋横丁へ。田中さんの交渉が成功し、お手ごろサイズの紅ずわいガニをゲット。2000円ながら7名で満足出来る分量だった。しかしその後風雨となり、能生での幕営を断念。初日の道の駅「しなの」まで戻ると雨もあがり、ご当地2泊目となった。翌日は快晴ながら、我々中高年スキー隊は若干お疲れモードなため、長野で風呂に入り帰京と相成った。


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ318号目次