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雪上訓練・富士山
峯川 正行

山行日 2005月4月16日~17日
メンバー (L)小幡、峯川

 5月合宿の前に雪上訓練がある。これは毎年の恒例の事であり、12月の雪訓には20名以上集まったので、今回は同じくらい集まるのであろうと思っていた。しかし、蓋を開ければ私と小幡さんのみでなんともびっくりであった。
 場所は富士山で頂上へのピストン。これも恒例のようであった。私は今まで富士山に登ったことはなかった。「日本人なら富士に登れ」というが全く興味がなかった。しかし、人が大挙して訪れる頃の富士には興味がなかったが、この4月のまだ雪山である富士にはとてつもない魅力を感じた。毎年、八合目付近では滑落死亡事故が多発していて気が引き締まる。
 当初の予定では富士スバルラインで五合目に入り、そこで幕営しピストンするはずであった。しかし、昨年末の崖崩れの影響で車は四合目までしか入れないので、"正統派"の小幡さんもいることだし古の吉田登山道の一合目馬返しから入ることとなった。
4月16日
 八王子に9時集合し11時近くに馬返しに到着。天気は良好である。今日の行程は五合目まで荷揚げするだけであり、2時間程小幡さんといろいろお話しながら淡々と登っていく。
 スバルラインが出来る以前は馬返しからのルートがメインであったが、今では物好きな人しか来ないようで、いくつかあった茶屋は廃屋となってしまい、物悲しい気分であった。
 2時頃に標高2,400m付近の五合目に出る。いつも佐藤小屋ではなくスバルラインへの道路脇に幕営するそうで恒例の場所にバクエイスル。翌日のアタックに向けてしっかりと体を休めることとした。
4月17日
 起床3時、4時30分出発。佐藤小屋脇から登っていく。風は多少あったが天気は今日も良好である。懸念されるのは八合目付近が蒼氷になっていないかである。富士の独特の砂利道をつづら折りで登っていく。ここはすでに雪は無くなっている。いい加減同じ景色で飽きた頃に七合目付近で小屋が見えてきた。高度2,700mくらいであった。ここでアイゼンをつけて多少夏道とはずれたルートを直登気味で進む。それにしても小屋ばかりあり、何か要塞のようである。夏になると人でごったがえすのが目に浮かんできた。締まって登りやすい雪質で高度を稼いでいると、とんでもない物が目に入る。靴が逆さまに刺さっているような感じで、一瞬人が埋まっているかと思い、ぞっとしてしまった。近くによって見るとさらに摩訶不思議である。靴+アイゼン+スパッツ3点がセットの状態で木に結ばれていたのである。あまりに不可思議なので小幡さんとその状況をいろいろ考えてみたが結論は出なかった。とにかく事故があったことは確かであり、さらに気を引き締めて登っていく。
 鳥居館を過ぎ東洋館上部で幕営しているパーティーがあったが、とんでもない風が吹き始めてテントが潰されそうになっていた。私も一本とって地面においたザックがとたんに流れ出すような強さであった。いよいよ富士の魔の突風が襲いかかってきた。これ程の風は体感した事は無いと思う。よく書物では風の呼吸を読んで耐風姿勢を取れと記載されている。しばらくするとその感じは掴めてきた。一瞬静寂になった後に突風が襲いかかるが正確に耐風姿勢をとることが出来た。これを身につけないと核心の本八合目以降では命取りになってしまう。八合目付近の小屋群であろうか、非常に目を覆いたくなる光景を目にする。雪がはげた所から多くのビニール、缶のゴミが耕されたかのように土と同化していたのである。一瞬動きを止めて見入ってしまったほどである。世界遺産になれなかった理由がよく理解できた。
 須走口登山道と合流し、ようやく本八合目に到着する。この辺もクラストしていて快適に高度を稼ぐことができる。高度は3,400m近くであり、自身の今までの最高高度が北岳の3,100mぐらいであり、この後、体が順応していくのか不安が募る。
 木造の鳥居がある八合五勺で最後の一本をとる。いよいよこれからが核心部分である。山頂もいよいよ望める所まで来た。後は一気に直登のみであるが、いよいよ呼吸が苦しくなってきた。懸念していた雪面は蒼氷にはなっておらず、クラスト状態でアイゼン、ピッケルを慎重に使えば問題なく行けると思ったが、足が思うように進まない。とにかく息苦しかった。20歩進んで立ち止まるような感じである。途中で自分で歩数を「1,2,3,・・・20」と数えながら進むようにして敢えてリズムを作るようにした。山頂直下の真新しい木造の鳥居が目にはいるのだが、なかなか近づかない。小幡さんは慣れた歩調でスタスタと前へ行ってしまう。自分の体力のなさを痛感してしまう。最後の力を振り絞って何とか鳥居を潜り久須志神社にたどり着く。氷結したベンチに小幡さんがニコニコして座っていた。
 時間は9:40くらいであったか。出発が4時であったので5時間半くらいであったか。時計などは見る余裕は実際なかった。お鉢周りは今回は省いて下降することとした。
 この下降が最大の核心であり、山頂直下のこの斜面は突風で体を倒されたら一気に滑り台状態である。出発前に下りでの耐風姿勢を小幡さんよりレクチャーしてもらったが、勢いよく体を後ろに振り返った際にレインコートをピッケルで破ってしまった。何とも情けない。一歩一歩アイゼンを駆使して慎重に下っていると、途中何回か突風が襲来したが、体を山側に回して耐風姿勢を確実にとることが出来た。核心部を抜けると後は小幡さんの後を追い一気に高速下山である。
 12時には五合目に到着しテントを撤収し、馬返しまで下ったが、非常に充実感を感じての下山であった。
 私にとって富士山はいつまでも登る山ではなく、眺める山であった。しかし、この時期の富士山はやはり別格であった。高度に対しての順応、耐風姿勢など本当に勉強になる事が一杯であり、先日の谷川岳東尾根に続き、"真剣"登山であった。ただ今回は天候に恵まれた感はあった。これが途中で天候が悪化して吹雪になったときなどの対処など私にはいまだ勉強の余地はある。GWの剱岳・早月尾根に向けて収穫のある雪上訓練となりました。来年またこの4月に富士山に登ってみたいです。

クラスト状態で快適な八合目付近
〈コースタイム〉
4月18日 馬返し(11:10) → 三合目茶屋(12:10) → 五合目幕営地(13:30)
4月19日 五合目幕営地(4:30) → 七合目(6:10~6:20) → 太子館(7:00~7:10) → 八合五勺(8:40~8:50) → 久須志神社(9:40~10:00) → 五合目(12:00~12:50) → 馬返し(14:00)

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