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杉田川と沼尻源泉
さとう あきら

山行日 2005年6月11日~12日
メンバー (L)佐藤、鈴木(章)、別所、田原、西尾

 あっ、ながされるっ。このすぐ下流には5m滝が渦を巻いて待ち受けているというのに。
 台風による大雨を避けるため、我々は予定を遅らせ土曜日朝に東京を出発。まっすぐにこの沢を目指して来たのだった。待ち構えていた太い水流は予想を超えて白濁し、水底の起伏を覆い隠している。ぬめった転石でバランスを崩した私は、うかつにも流れの中央付近に腰を落としてしまったのだった。
 私は安達太良山の優しい山容が好きだ。中学一年生時分の安達太良山登山教室が、私にとっての始めての本格的登山であり、くろがね小屋から安達太良山経由で鬼面山へ縦走したときの情景を今でも鮮明に思い出す事が出来る。その時特に印象深かったのは、くろがね小屋の白濁温泉、そして安達太良山西側に広がる沼ノ平旧火口の美しくも異様な風景だった。一度足を踏み入れてみたいとかねてから気にかけてはいたのだが、発生した火山性ガスで登山者が死亡する事故を機に通行禁止に。好機がないまま過ぎる年月に身をゆだねていたのだった。
 沼尻鉱山は、この沼ノ平に源を発する川沿いにある。往時は軽便鉄道が磐越西線から下の部落まで通い、福島県屈指の硫黄の採掘場として栄えたという。しかし今となっては採算の合わない鉱業はすたれ、無人となった鉱山跡には、硫黄川が今も変わらず流れているだけだというのだった。
 林道終点に車を捨てて登山道を歩く事小一時間。眼下の谷は月世界のような荒涼とした様相に変わる。ここが鉱山跡だ。親指ほどの根曲がり竹を採りながら下降し、硫黄川の岸に着いてその沢水に驚いた。白濁濃厚の熱い湯がどうどうと流れているのだ。しかもそのまま垂れ流しなのだ。
 風呂だー、と子供のようにはしゃぎながらジャボジャボと沢に入ったため、冒頭のように滑って尻もちをついた次第である。それにしても温泉水の湯勢は強い。流されぬよう岩につかまりながら湯に沈まねばならず、リラックスなど出来ない。源泉水をそのまま浴槽にちょろちょろと流入させる「かけ流し」だけでも、本物温泉だとありがたく入浴させてもらうのに、これは言うなれば「激流温泉」。温泉水をためることなく、流れの中だけで入浴するのはとてもぜいたくであり、野湯の豪快さでもあるのだ。入浴場所を変えながら1時間以上も湯を堪能してから車に戻った。
沼尻源泉は野趣あふれる  今夜の幕営地はフォレストパークあだたら。ここの売りは温泉付きキャンプ場である。早速沼尻源泉の硫黄臭をぷんぷんさせながら浴室に入ったところ、こちらはものすごい塩素臭。湯量不足で衛生上仕方がないとはいえ、我々温泉の達人にとってはちょっぴり不満が残る風呂だった。一方芝生のキャンプサイトは雨でも快適で、おっさん連中は章子シェフの気の利いた山菜料理に酔いも早い。ちなみに楽しみにしていた西尾さん持参の一升瓶の銘酒は、行きの車中で誰かに半分飲まれてしまっていた。
杉田川は美しい  翌日曜日、尾根組の田原、西尾両氏に遠藤滝まで見送ってもらい、杉田川入渓8時。落ち葉や倒木が多いものの、日本百名谷にあげられる程の美渓である。白いナメの上をさらさらと流れる水は初夏の木漏れ日を小刻みに反射させ、こちらを歩いてよと誘惑しているようだ。滝も落差5m程の、丹沢水無川のF1を少し難しくしたようなものが続き、適度に快適で飽きさせない。別所さんはノーザイルでどんどん直登して行くのだが、残り2名は数回高巻いてしまった。ちなみに関東周辺の沢とは違って、入渓者はそう多くはないらしく、高巻き道もあまりはっきりはしていない。
 二俣で滝場は終了し、さらに50分ほど歩くと多くの赤布の付いた遡行終了点となった。12時。ここより笹のかぶった廃道をたどり、仙女平まで30分。さらに山つつじが満開の登山道を登り、尾根隊の待つ仙女平分岐へ1時半到着となった。かなり待ちくたびれさせたようで、申し訳ない。それどころか、田原氏が冷えたビールを我々のために準備していてくれたのだ。ありがとう。さぞや自分で飲みたかっただろうに。
 また予想よりも遡行時間がかかってしまったが、西尾氏の強力アンテナ付き無線機のおかげで沢の中でも連絡がスムーズだった。改めて携帯電話とは違うアマチュア無線機の実力を思い知った次第だった。その後ゴンドラで奥岳温泉に降り、3度目の温泉入浴を楽しんだ。

仙女平分岐に全員集合

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