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黒又川赤柴沢
金子 隆雄

山行日 2005年9月23日~25日
メンバー (L)金子、高木(敦)、中澤(道)、福間、天城、山崎

 書き出しはいつもこうだ。「いつもの東所沢駅に集合し」、今回もやっぱりそうなのだ。メンバーが多いので車2台で目的地へ向かう。小出ICからシルバーラインを通り泣沢口へ着いたのは2時頃だった。一杯やって3時頃にテントと車に分かれて就寝。
 23日、天気予報に反して朝は快晴であった。赤柴沢へのアプローチは色々ある。三又口より黒又川を下降して赤柴沢出合へ至るルートや羽根川沿いの林道最奥のキンカ沢から尾根越えで黒又川へ降りるルート、または黒又第二ダムのダム湖を船で渡って黒又川へ至るルート、などがある。どのルートをとっても赤柴沢へ入るまでに丸1日はかかる。今回の我々のアプローチは三又口から四十峠への踏み跡を辿り三角山から赤柴沢へと下降する山越えのルートだ。これもやはり丸1日かかるルートだ。
 三又口までは未丈ガ岳への登山道を辿るが、途中で泣沢を2度渡る。転石伝いに渡れるが良く滑るので注意しないとドボンとなってしまう。黒又川本流に架かる橋を渡ったらすぐに左に入る踏み跡を辿って水頭沢へ降りる。水頭沢を渡渉して対岸に渡って踏み跡を探す。草が伸び放題に伸びて踏み跡を隠している。初めてだと踏み跡を見つけるのは難しいだろうと思われる。三年前に来た時は取り付き付近の草が刈り払われていてすぐに見つけることができた。踏み跡が見つかれば後は途切れることなく続いているので問題ない。標高1000mくらいまでは結構急登だ。踏み跡は1192mピークまで続いておりピークには三角点(のようなもの)が設置されていた。前回来た時にはこのピークまでは踏み跡は続いておらず、南側斜面に付けられた切れ切れの踏み跡を辿ったのだった。三角点(のようなもの)を設置するために付けられた踏み跡だと思われる。稜線上の踏み跡はまだ先に続いており、斜面の踏み跡より格段に歩き易いのでこれを辿る。踏み跡は四十峠を越えて三角山の手前まで続いていた(2万5千分の1地形図では1251.6mピークが四十峠と記されているがこれは誤りで、1251.6mピークは三角山であり、四十峠は三角山の西隣の1192mピークとの間のコルを指す)。
四十峠と三角山  三角山の手前で踏み跡はなくなるがそのまま藪を漕いで三角山のピークまで登る。三角山は藪に覆われていて展望はゼロだ。ここまでは順調に来ている。三角点を確認して北に延びる尾根へ下降する。このルートをとったのは山行前のルームでこのルートを経験しているS氏に赤柴沢へ降りるルートを聞いたとき、三角山を捲いて北に延びる尾根上に踏み跡があったような、という情報を得ていたのでこの尾根を下降すればやがて踏み跡がでてくるだろうとの読みだった。しかしである、この読みは大外れであった。かなり下っても踏み跡は現れず、ただただ藪が続いているだけだった。こうなればもう踏み跡は諦めて尾根を藪漕ぎ覚悟で強行突破するしかあるまい。
 標高1150m付近から東に分かれる尾根の方が傾斜も緩く楽そうなので尾根を乗り換える。藪はそれほど濃くはない、だが地図で見るほど尾根は単純ではなく幾度も方向修正したり、登り返したりで結構時間がかかる。途中で水も底をつきピンチだ。16時を過ぎると赤柴沢へ降り立つ前に暗くなってしまうんじゃないかと焦りがでてくる。水は何とか細々流れていた沢で補給でき一息つく。更に尾根を下降し最後は小さな沢を下って16時55分ようやく赤柴沢へ辿り着くことができた。
 しばらく何もする気になれず座り込んでいたがすぐに暗くなるのでそうもしていられない。幕場を探して上流へ行ってみるが良い幕場を得られないまま釜の深い滝に阻まれる。中澤さんが泳いで滝を越えて偵察に行くがその先はゴルジュとなっているようだ。暗くなりかけているのにゴルジュに突っ込むわけにはいかないので引き返す。最初に赤柴沢に降りた所が少し広くなっていたのでそこまで戻って泊ることにする。増水したらアウトだがいざとなれば逃げ場はある。タープを張り何とか6人が寝られる幕場に仕上がった。焚き火も燃え出し緊張から解き放たれてホッとするひと時だ。明日はゆっくり出発しようと申し合わせてシュラフに潜り込む。3時頃雨の音で目を覚ましたがじきに止んだのでまた深い眠りに落ちる。
 24日、6時起床の予定であったが30分ほど寝過ごす。天気は、いつ降り出してもおかしくないような雲が低く垂れ込めた嫌な天気だ。出発も30分遅れだったが焦る必要はない、もともと今日は短時間で行動を終える予定だったからだ。
 出発してすぐに昨日引き返した所に着き、ここからゴルジュが始まる。最初の滝は釜が深く早速の泳ぎとなる。釜の左側を一泳ぎで水流左の岩に這い上がると後は簡単だ。朝一番の泳ぎに気も引き締まる。次の滝は右壁にシュリンゲが残置されている4m程の滝。空身で残置シュリンゲを使って越えてザックを荷上げする。ゴルジュの中の滝はまだまだ続く。大きな滝はなく全て3~5mくらいだ。しかし、どの滝も一筋縄ではいかないやっかいなやつばかりだ。側壁は両岸とも高く捲こうという気にはなれない。
ゴルジュの真っ只中  2時間ほどでゴルジュは終り水量の多い支流が出合う。どちらが本流かわからない、さてどっちへ進もうか。実は昨日沢へ降り立った時から我々は現在地がわかっていなかったのだ。時計に付いている高度計は誤差が大きく、また中流部はまだ高度をそれほど上げないので当てにならない。地図では左岸からは大きな沢は出合ってこないのでとりあえず右に入ってみる。しばらく進んでみるがどうも方向が違うんじゃないかという話になり引き返し今度は左の沢へ入ってみる。こっちも違う、やっぱりさっきの方で良かったんだということでまたも戻る。こんなことをしている間にどんどん時間を浪費していく。現在地がわかっていないことがこれ程溯行を難しくするとは思いもよらないことだ。でもまあ、なんだかんだと言いながらも正しい方へ向っているようだ。
 やがて右岸に格好の幕場が見つかる。この先には良い幕場はなさそうなので(実際になかった)今日はここに泊ることにしてタープを張る。今日は行動時間が短かったので夜までにはまだ時間がたっぷりとある。雨は降っているが焚き火をしたり釣をしたりと楽しい時間を過ごす。
 25日、今日の行動時間は長くなりそうなので早起きして早めに出発する。天気は昨日同様に小雨が降っている。昨日の時点でかなり上流まで来ているのかなと思っていたが、そうではなくまだかなり下のようだった。
シャワークライムとなった滝  出発して間もなくゴルジュ帯になる。シャワークライムあり、ツルツルの滑る滝あり、嫌らしい草付きのへつりありと昨日同様に気の抜けない滝が続き一息つく間もないほどだ。かなりの時間を費やしてゴルジュを抜けて穏やかになった流れをしばらく行くと右岸より水量の多い沢が出合ってくる。多分これがダワノ沢だろうと思われる。だとしたら昨日は随分と下で泊ったことになる。
 滝もなくなりどんどん高度を上げるようになった沢を黙々と辿って行く。どこまでも本流を詰めて行くと未丈ガ岳には出られないので左岸の枝沢に入らなければならない。最初にこれかなと思った沢があったが検討の結果まだ先だろうということになって更に上流へ進む。入った枝沢はガレた沢で直ぐに水が涸れそうだったので藪漕ぎに備えて水を汲んで先に進むと2mほどの黒い滝が現れた。直登を試みるが岩がボロボロで登れずに左のズルズルの草付きを登って滝上に出てみると、沢はそこで終っており上には潅木もないズルズル、ドロドロの草付きが続いていた。どうしたものかなとしばらく躊躇している間にあることを思い出した。今回の山行前にネットで公開されていた一橋大ワンゲル部の記録を読んでいたのだが、それに間違って入り込んでしまった沢のことが書かれていた。ガレた沢、滝、ズルズルの草付き、全く同じじゃないか。我々も同じ間違いを犯していることは明白だ。
 このまま突破してしまおうという意見も出たが戻ることに決めた。戻って最初にここかなと思った沢へ入る。出合に緑の苔がびっしり付いた岩がある沢だ。こちらの沢はかなり上まで水流がありガレてもいなくて登り易い。水が涸れても沢形はずっと続いており、未丈ガ岳から北西に派生する尾根の直下まで藪漕ぎなしに行くことができた。未丈ガ岳から北西に派生する尾根に上がり、この尾根を上り詰めれば未丈ガ岳に出ることができるはずなので藪漕ぎを開始する。見通しが利かず、潅木が四方八方に枝を伸ばし、時々蔓まで絡んできて行く手を阻む。
 いったいどのくらいの時間藪と格闘していたのか覚えていないが、最後はその一角だけ藪のない未丈ガ岳の山頂にポンと飛び出て感動のフィナーレを迎えた。一本だけ残してあったビールを回し飲みし無事の溯行完了を祝う。雨は上がっていたがガスっていて眺望はなく残念であった。周りに高い山がないので晴れていれば素晴らしい展望を楽しめたことだろう。
やっと辿り着いた未丈ガ岳にて  下山は登山道を下るだけなのでどうと言うこともないのだがこの登山道は長い。コースタイムで3時間半となっていたがやはりそのくらいかかってしまい泣沢口の広場に着いたのは暗くなりかけた18時頃になってしまった。
 広場には我々より一足先に戻った赤柴沢へ行ってきたという三人組のパーティーがいた。そのパーティーは黒又川本流を下降して赤柴沢へ入ったのだと言う。彼らが未丈ガ岳まで詰めたとすればどこかで我々を追い越したはずだが、この広場を出て帰って来るまで誰にも会ってない。二日目に我々は半日しか行動していないので常に少しだけ先に居たということは考えにくい。峠ノ沢へでも上がったのだろうか。よく分からない。
 下山が遅くなってしまったので風呂にも入らず、途中で食事をしてそのまま帰ることになった。

 今回、赤柴沢の溯行は何とかできたがどうもスッキリしない。出合からの溯行ではなく途中に降りたため現在地が良く判らないままの溯行だった。溯行図と地図との対応付けも全くと言っていいほどできなかった。特に今でも疑問なのが溯行上のポイントとなるダワノ沢の位置である。ダワノ沢は溯行対象にもなっているくらいだから地図上に水線の記載があってもおかしくないと思う。登山大系の大まかな溯行図では尾根の入り具合などからみて標高728mで出合う水線の記載がある沢をダワノ沢としている。今回、参考にした溯行図は唯一入手できた「沢登り」という山溪から出版されているガイドブックに載っていたものだが、これではダワノ沢はもっとずっと上流になっている。どっちなんだろうか今でも判らない。本記録のコースタイムのダワノ沢は標高900m付近で出合う沢をダワノ沢としている。
 今回の溯行ではっきりしたのはゼンマイ小屋跡へ降りる道は尾根上にはないということ。三年前に途中で迷った道はそこまでは正しかったと今では確信している。

〈コースタイム〉
23日 泣沢口広場発(7:30) → 1192mピーク(10:40) → 三角山(12:10) → 赤柴沢(16:55)
24日 出発(8:40) → 幕場(12:30)
25日 出発(6:20) → ダワノ沢出合(12:00) → 未丈ガ岳(14:30) → 泣沢口広場着(17:55)
赤柴沢ルート図

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