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アパラチア山脈視察山行
別所 進三郎

山行日 
メンバー (L)別所(進)、(由)

 アパラチア山脈は北米大陸の東海岸線に沿う、古い褶曲山脈で3,500kmに渡り横たわっている。その長さは、鹿児島駅から稚内までの鉄道路線距離より400km位長い。最高峰の高さは2,037mのミッチェル山で、ちょうど西吾妻山位である。
 全山を一挙に踏破するには半年かかると言われ、それを成した者はスルーハイカーと呼ばれ、一目置かれる存在になるらしい。USAのバックパッカーにとって、誰もが一度は思いを馳せるあこがれのトレイルとのことだが、どんな感じか行ってみることにした。

 五月連休を利用し、バージニア州に住む友人を訪ね、その足で妻と4泊の小屋泊まりハイキングをしてきた。
 山行の対象として、アパラチアの山脈の一画を占めるシェナンドウ国立公園内の主脈稜線縦走コースを選んだ。そこはバージニア州の北西にあって、ウエスタン歌手ジョン・デンバーの"故郷に帰りたい"に歌詞で"ブルーリッジマウンテン、シェナンドウリバー"と出てくることと、国立公園の名前に惹かれたからである。

1日目 前夜公園内のスカイランド リゾートのロッジに泊まり、今日は滝見のショートトレイルを行くことにした。トレイルの始点は、稜線上を縫う様に建設されたスカイライン43マイルポイント地点からの下りである。
 整備された山道を沢沿いに下り、1時間半でホワイトオウク滝に着く。40m幅の岩床を傾斜の異なる滑滝が何段にも連なって100m以上の落差である。この滝が良く見えるポイントで荷を置き、妻はスケッチ、私は下流の滝を見に行ったりしてくつろぐ。昼食を摂った後、乗馬道を選んで登り返し、ロッジに4時に着いた。

ホワイトオウク滝 由季子画 2日・3日目 アパラチア主脈のトレイルの道標は5cm×10cmの白ペンキで統一されている。昨日の様なサイドトレイルは空色で示され区別がつき易い。樹木や岩角の白標識を確認しながら、ほぼ稜線に沿った縦走路を南行する。標高1,000mぐらいの丘陵性山脈はほぼ平坦で極端な上り下りは無く、話しながら歩ける。2日目は18km、3日目は19km歩いた。今回縦走したルートは、稜線上を走るスカイラインと平行に付けられた山道で、ところどころで車道との交差があったり、車の走行音が聞こえたりして、深山幽玄を行く状況ではなかった。箱根の外輪山の車道と山道のような関係である。自然を車でも味合うことが出来るよう設定された国立公園内のトレイルと思った。

三日目のロッジの窓から 由季子画 景色 稜線上は芽吹きが始まったばかりであったが、100m下方は新芽の森の絨毯であった。西方向は低い山々が広がり、その中に家が点在し別荘地の様に見え、東方向は山並みで閉ざされた視界であった。全体的な感じとして、北八ケ岳を行く様であった。

動物 角の無い鹿に数多く出会った、大抵2頭以上で10m以上離れているときは無視して草をゆうゆう食べ歩いていた。ガッサと音がする方に顔を向けるとたいていリスがいた。野鳥を見、鳴き声を聞いたが日本の山より種類が少ないような気がした。勉強不足で鳥名をほとんど特定できなかったが、野球チーム名になっているオリオールズ(ムクドリモドキ)にはよく出会った。又真っ赤なベレー帽を頂いたオオアカゲラを近くで見られたことが良かった。
 焚き火のできる暖炉のある一戸建てロッジではマーモットを窓越しに見た。そのロッジで夜中、ねずみにバターとパンを齧られたので、ラットが出てきたとフロントに言ったら、"マウスですね"と訂正させられた。実際、見たのは二十日ねずみぐらいで小型であった。

 山は春浅い時期の様子だったが、地表は異彩色のスミレや、見たことのない小さな花が数多く咲いていて、目を楽しましてくれた。中でもトリリウム(大輪延齢草)の開花の時期だったので、三枚の葉、三枚のがく、三枚の花弁、六本のオシベを持ったシンプルで整った花を充分に見ることが出来た。朝は俯き加減であるが日の光を浴びると、ピンクのぼやかしが入った花弁をおこし、すっきりと正面を向き美しい。

トリリウム 由季子画 宿泊 二つのダブルベット、風呂、トイレ、タオルとTVが付いたり付かなかったりしたが、二人で一泊約100ドル、山小屋ではなくてホテル泊まりと言った方が適切であろう。 残念ながら無人小屋、避難小屋に立ち寄るチャンスがなかったので、それらの様子は報告できない。

スルーハイカー 既に2ヶ月経過していて、これから2.5ヶ月かけて全山縦走しょうとしているカップルに出会った。二人とも20代に見えた。60リットル位のバックパックに7日間の食料を背負った後ろ姿はザックが体に馴染でいてかっこ良かった。(もう一度若返えられるのならなあと思った。)他に単独行者2名とすれ違ったがどちらも急ぎ足で、距離を稼ぎたい気持ちが読み取れた。

スルーハイカーのカップルと 全山踏破 水、食料、テント泊や季節等その気になれば大きな障害にならないだろう、1日の歩行距離が30km前後のスピードを保てるならば、半年でスルーハイカーになれるだろう。
 1回に1週間ぐらいずつ歩いて、数年掛けて四季を楽しみながら遣り遂げるのが良いと思うが、USAで暮らしながらが条件となろう。

資料
地図: 1/62,500の山岳地図が一部約700円で入手できる。地図の長手方向は56kmの縮尺が乗る。トレイル縦断図、歩行距離そしてハイクの情報も網羅されていて、必携品である。
インターネットからの情報、ガイドブックの購入を始め、各人の興味別に情報の収集は結構出来ると思う。


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