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錫杖岳 前衛壁 左方カンテ
天内 基樹

山行日 2005年9月10日~11日
メンバー (L)荻原、天内

 錫杖岳・前衛壁左方カンテは、高度差280m、8ピッチ、ルートグレードIV下(本によりIII上など色々)。ピッチグレードV+(IV A1)。ちなみにバットレス四尾根はIII、一の倉沢南稜がIII上。
 私にとって2度目の本チャン。
 初めての本格的なアルパインルート。

 今回は車がなく、レンタカーを利用(手続きした荻原さんの話では費用はガソリン代こみで2万円ちょっととか)。
 荻原さんは以前ギックリ腰をやり、腰に不安があるというので、コルセットを巻いての運転。私が車を運転できないので1人で長時間の運転、申し訳ない。ありがとうございました。八王子を前夜8:30ころ出て、登山口の槍見温泉駐車場には翌日午前1時頃着く。

 10日6:15他のクライマー達と相前後して出発。ペースがあがらず他のパーティーに抜かれながらも7:45錫杖沢出合着。錫杖沢へは明瞭な踏み跡がついている。
 早速テントを張る。そんなに広くなくせいぜい5、6張位ではないか。
 時おり雨がぱらついたりするあいにくの天候だが、とりあえず出発。錫杖沢をつめ約50分で取り付き。先行二人、後から2パーティー4人。トポでは2つ目のルンゼから取り付く人が多いと書いてあったが、ここは1つ目のルンゼとのこと。私がいる間は2つ目のルンゼに取り付いている気配はなかった。
 1ピッチ目。荻原さんトップ。出だしは、左右2つとれそうだが、先行に倣い右のチムニーを登る。登りついたテラスでIII+にしてはむずかしい、左が正解かもと話し合う。
 2ピッチ目は私がリード。以降つるべで登る。左方カンテのピッチグレードは、おおむね奇数ピッチが難しく、偶数ピッチが易しい、とはっきりしている。
 このルートは各ピッチごとにりっぱなテラスがあり、しっかりした木がはえていて、それでビレーできるけれど、2ピッチ目だけは、それより数メートルあがった所(古いボルトが3、4個ある)でビレーした方が3ピッチにはいい。3ピッチ目3mほど右上した所が第一の核心。1、2手なのだけれど、結局A0.荻原さんもそうしたとか。
 4ピッチ目はチムニー。といってもほとんどフェース登り。
 5ピッチ目はフェース。
 ビレー点近くまで登ると、上から荻原さんが、ロープは直上しているけれど、細いバンドづたいに右上するように言われる。
 右上してから水平トラバースしてビレー点へ。6ピッチ目はほんの数メートルで7ピッチ目下のテラス。テラスには4人もの人。1人が登りだし、残った3人は学生風の初めて見る顔。違うルートから登ってきたのか、それとも先々行パーティーか。7ピッチ目でだし、ここがV+の核心部。彼らはフリーでいこうとチャレンジしているのだが、うまくいかないでいる。それで私達の先行パーティーが先に行かせてもらったようだ。荻原さんも私はアブミで登るので先に行かせてくれとたのみ、先に行かせてもらうことになった。3人の後と、ザックをあけ、のんびり行動食を食べていた私はあせるはめに。後続の人が昼過ぎから雨になるといっていたので気がせいていたのかもしれない。
 また、彼らは時間がかかりそうでもあった。その彼らもさらに2人登ってきたのを見て、カラビナとスリンゲで簡易アブミを作りはじめた。セカンドの私はA0でもいけそうだったが、待っている5人の強い視線を感じ、あっさりアブミを1台だしこえる。アブミは2台必要ないでしょう。なんといってもじゃまだから。不要といえば、今回2人ともチョークを持ってきたが、真夏はいざ知らず、今回は不要だった。
 このルートは岩が硬くしっかりしているのだけれど、7ピッチ目のクラック内に大きな浮き石があった。初めいいスタンスになるなとおもいつつ触れたら、グラッと動いたのであせった。
 この後フェースを左上しカンテへ。8ピッチ目は私のリード、それまでの岩と違い赤茶けたザラザラした岩。今にも剥がれそうなフレークがはしり、それをホールドに登る。途中バンドを右にトラバース。そこからまた白っぽい硬そうな岩質に変わる。ここを数メートル直上すると根の発達した太い木が生えていて、これでビレー。荻原さんを迎える。ここが実質終了点。懸垂で下る時はここから下るとのこと。私達は、荻原さんがそのままロープを引きずってさらに上へ。
 10数メートルで稜線。そこから数メートル登ると、目の前に焼岳から槍ヶ岳までの広大な展望が広がる。といっても今回見えたのは焼岳から西穂独標までで、槍は雲に隠れて見えなかった。
 ここから歩いて下るには、P2をこえ、鳥帽子岩の基部をトラバース。側面からの鳥帽子岩はまさに天を突く槍の穂で、圧巻。一見の価値あると思う。
 ここから右へ下るのだが、クリヤ谷まで長かった。
 荻原さんから大分遅れる。もともと速くなかったが、膝を痛めてからますます下りがおそくなった。クリヤ谷に着いてホッとした。
 水流は細く簡単に渡れた。ここからは一般登山道を歩くだけだ。休憩。あたりは緑におおわれたブナ林。穏やかな沢の音。私にとって初めての本格的アルパインが、これで何事もなく終わったという安堵感。
 やはりアルパインはスピード優先だと思う。
 スケールの大きさ、長い下降も控えている。
 アルパインにはアルパインのリズムがあると思う。ロープワークにも馴れないと。

 テントに着くと、焚き火しようと思っていた所にテントがはられていた。幸いもっといい所があき、そちらに移動。焚き火もできた。そのうち錫杖沢から私達の後続パーティーも下ってきた。彼らは懸垂で下ったのだが、こうしてみると時間的にはそう差がないようだ。状況によってはかえって時間がかかるかも。
 この後も暗くなってから懐電をつけて下ってくるパーティーもいた。思っていたより多くのパーティーが入っていた。
 夜、雨、時々雷。
 11日(日)朝食も食べず下山。下山中は雨降らず。
 振り返ると、前衛壁は白いガスにつつまれ、水墨画のごとく現れたり消えたりしていた。

 駐車場着。すぐ近くの無料露天風呂はぬるいとあったので、宿の温泉を探したが、開館が遅く、結局最初の槍見温泉へ。思ったより温くも無く広くて気持ちいい。しかしすぐ上に橋がかかっているので丸見えだ。
 この後一路東京へ。八王子には13時ころ着いた。
 1人ずっと運転してくれた荻原さん、お疲れさまでした。ありがとうございました。
 そして、例会山行に出してくれた俊介君にも感謝。
 おかげでひそかに登ってみたいなと思っていた錫杖岳前衛壁に、思いがけなくも登ることができた。ありがとうございます。

 錫杖岳前衛壁。とてもいい岩場だと思う。他にも色々ルートあり、また行きたい。その時には、もっと力をつけ、余裕を持って登れるようになりたいと思う。

〈コースタイム〉
10日 駐車場(6:15) → 錫杖沢出合(7:45~8:20) → 取り付き(9:10~9:50) → 終了(13:40~14:05) → クリヤ谷出合(16:00~16:15) → テント(16:30)
11日 テント(6:30) → 駐車場(7:45)

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