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阿弥陀岳北西稜
小幡 信義

山行日 2006年1月21日~22日
メンバー (L)小幡、金子

 昨年計画したが風邪をひいてしまい、私は行くのをやめてしまった。荻原君リーダー3名で完登したようだが、かなり厳しい登攀であったようで、今回も行く前から敗退であろう・・・という気持ちで前向きでない。参加者がいなかったら中止しようと思っていたところ金子さんが参加すると聞き、少しやる気が出てきた。
阿弥陀岳北西稜  新宿発23:54ムーンライト信州81号に乗車、全車指定である。ガラガラの車内であったため座席を向かい合わせにし、2人伸び伸びと足を投げ出しての出発である。茅野3:35着、始発のバス発車まで2H強あるのでシュラフに潜り込み仮眠をとる。タイマー5:30にかけておいたが目覚めたのは5:55であった。始発のバスは6:05、急いでパッキングするも間に合わず、次発の時刻を見ると8:30となっている。タクシーで行こうか金子さんと相談したが、本日の予定はラッセルでのルート作りのみであったため、急ぐこともないだろうということで約2時間30分待つことにする。駅舎にはストーブも設置されており、4~5人の人が椅子に座りのんびりと暖をとっている。私達も仲間に入れてもらい、何することなくただボケーと時間を待つ。
 今日はセンター試験の日となっており、学生が次々と改札から出て来る。待ち合わせでもしていたのかメンバーがそろうと皆笑顔で駅舎から出て行く。特急で東京方面へ向かう人達、それを見送る人、ストーブの脇でそれぞれ忙しく動き廻る人々をのんびり見ているのも楽しい。
 茅野発8:30定刻にバスは発車するが、乗客は私達2人と老人女性1人のみ。外は息が白くなるほど寒かったが、車内は十分ほどの暖房であった。今回もうとうと寝入っているうちに美濃戸口に着いた。外に出た途端寒さが体を刺す。「ああ、これから北西稜をよじるんだ!」と思いながらも体が今一動かない。しかしスパッツを取付け9:50ゆっくりながらも雪道の林道を歩き出す。
 途中、山荘が3つほどあるが、いつも美濃戸山荘で休憩をとる。ザックを降ろしていると中から小屋番が見計らうようにお茶と野沢菜を出してくれる。無料なのでありがたい。帰りは酒を買いますからと心の中で言いつつ小屋を後にする。
 左へ行けば赤岳鉱泉、右は行者小屋へと行く。柳川南沢を見ながら、しっかりとトレースのついた雪道は歩き易い。途中凍結した道も出て来るが問題なし。行者小屋手前に幕営の予定であり、一張りのテントがあった。多分このパーティーも北西稜のアタックだろうと、私達も近くの沢の中にテントを張る。4~5人用のエスパースは2人では余るほどの広さである。ワカンとピッケルを持ち下見に出掛けると、3人パーティーが通り掛かり「私達も北西稜に行きます」と言っている。見たところ若そうであったため「ラッセルは頼むよ!」と心の中でつぶやいていた。
 金子さんが先陣を切って沢をつめて行く。私はワカンをつけ、しばらくして後を追うが「ここは違う、氷の壁で先は行けない」と戻って来た。しばらく取付きのルートを捜していると赤テープの上に北西稜と記入された目印を見つける。昨年の11月に荻原君と一度来たのに取付きを間違えてしまった。感覚で行動するのは危険だなと反省する。
 本日は誰も入っていないようだ。しかし踏み跡らしきものが、うっすらとついているので、迷うことなく歩き出す。心配するほどのラッセルもなく、明日は「行ける」と確信できた。2人で先行していると、途中で話し掛けられた若者が、ラッセルを代わるということで、どんどんトレースをつけて行く。ありがたいことである。尾根をひと登りし、森林限界となり、小ピークに着く。何とか本日の予定であった取付きまでたどり着き下山とする。
 テントに着いたのが17:00となる。明日を考えると早く飯を喰いシュラフに入りたいところだが、まずは酒(菊水)でノドを潤す。晩飯は金子さん担当、玉ネギにピーマンとかなり凝っている、「おまえらは、ろくなものを喰ってねえから俺がいいものを喰わせてやる」ということで出来上がったのは酢豚であった。これがなかなかの美味で旨かったが、正月合宿での残り物のパスタらしきものが御飯代わりで、これが酢豚と合わず。「何だかなぁー?」
 寝る前にキジ打ち、空は星が輝いて明日の晴れを約束している。就寝21:00頃か。

1/22 天気 晴れ
 携帯のアラームで目覚めるはずであったが、シュラフの中で時計を見ると4:50であった。起床4:00の予定であったため50分寝過ごしてしまった。昨日、後から1パーティー2人も北西稜に取付くということで、計3パーティー7人が入ることとなる。出来たら一番先に取付きたい思いがあり、早々に朝食、パッキングを終え6:30には出発することが出来た。外は明るみはじめヘッドランプは必要なかった。天気も穏やかで晴れそうだ。昨日のトレースはしっかり残っており、小ピークの取付き迄は特に問題なく順調に行ける。
北西稜下部の樹林帯を行く  丁度3人パーティーが2P目を登攀しているところであった。私達もハーネスを付け、ザイルを結ぶ。1、2Pはナイフリッジを右から巻くようにして進む。特にザイルを組まなくてもよかったが確保しながら登る。3P目で先行パーティーに追いつき待つこととなる。若くてバリバリやるものだと思っていたが、リードとセカンド・サードの息が合ってなく無駄な時間が過ぎる。「ザイルワークが出来とらんぞー!!」と心の中で怒るも他にルートがないのでただ待つのみ。金子さんが、3人の動作を見かねて大声で怒鳴っている。「もう登っていいよ、と言っているから、行ったら!!」下から見ていても、どうもアイゼン登攀に慣れてないようだ。4Pに着いてからは無言のうちに私達が先に行く。
全貌を現した北西稜  草付バンドを20mほどトラバースし、バンドが切れた所から草付フェースを登る。フェースは支点が取れず落ちたらアウトだ。アイゼンを蹴り込み、バイルを打ち込むが雪の下が石ころでなかなか効かない。何回もバイルを打ち込む。緊張で心臓の鼓動が速くなっているように感じる。余裕のない登り方に、さぞかし金子さんも心配しているだろう。しかしながらザイルは少しずつ伸びていき、何とかクリア出来た。
 5P目の凹角もかなり苦戦したが、ハーケンが何個所か打ってあり、ランニングを取れたので無事通過、登り切った所で屏風のような垂壁下にビレーポイントがあった。ここからが北西稜の核心部といわれている所だ。北壁側の草付バンドは雪で被われているため、一歩一歩アイゼンを効かせて進む。20mほどトラバースしたところで左ルートか右ルートか迷う。右側の垂壁に残置スリングが2本ぶら下がっているため、多分右だと思いよじるが、アイゼンの爪をかけるリスがなく、ここは強引に全体重をスリングに掛け通過する。その先には細いバンドが伸びて、ここもまた雪で被われ、非常にいやらしい所だ。ここも何回もアイゼンで踏み固め通過。この頭上がアブミを使っての登攀となる。凹角にはハーケンが連打されており、アブミの掛け替えで越えるが、最後の個所で岩の縁に手が届くものの強引に乗越すことが出来ず、しばらく岩につかまったまま時間が過ぎる。
核心部の最終ピッチを登る  ここは思い切って勝負するか・・・。いや待てよ、このバランスだと落ちるかもしれないぞ・・・。自問自答を繰り返しながらの数分間、手探りでガバを捜していると「あった、あった」。これで越えられると思い両手でぶら下がるようにして体を引き上げ、岩の縁に馬乗りとなる。「フゥー」助かった。
 アブミを回収し、稜線上左のしっかりとしたビレーポイントに到着し金子さんをビレーする。最後の乗越しで私と同じく苦労していたようだが、さすが昔バリバリにやっていたクライマーは今も衰えることなくスムーズに北西稜を完登することが出来ました。
 御小屋尾根の一般道に12:00到着、阿弥陀を通り中岳沢を一気に下り行者に13:00着、最終バス16:10には乗れるようだ。帰り美濃戸山荘でビールを飲み、2人で完登の乾杯をする。
 最後に、金子さんと山を共にするのは久々であり、平成12年の正月山行、穂高に行ったきりで、5年ぶりの山行でした。昨年の荻原君の岩つばめの記録を見て、今回は無理せず、50%敗退の気持ちで臨んだが、雪の状態、天候、そしてよきパートナーに恵まれ完登出来ました。金子さん、お付き合い下さりありがとうございました。「人生、これからだ」じゃなく・・・??「山も、これからだ」を合言葉に親爺パワーで頑張りたいと思います。


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