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紅葉の浅草岳
内山 弥生

山行日 2005年10月29日~30日
メンバー (L)三澤、前野、石川、内山

 山行前夜、リーダーの三澤氏から参加者全員にメールが届いた。
 「週末の天気は予想していたよりも悪くなっているようです。土曜日の雨は前線の通過に伴うもので予測の範囲ですが日曜日は前線通過後の冬型によって氷雨か雪になるかもしれません。冬型が弱ければ天気は回復して秋晴れも期待できます。ということで日曜日に山に登れるかどうかはかなり博打的な感じです。」
 それで不参加とする人は朝連絡を、と、メールは続いていた。私はギャンブラーではまったくないのだけれど、すぐに返信した。
 「『博打』にのります。」
 さて、結果はどうだったのでしょう。少なくとも今回もまたひとつ学びました。気圧配置の微妙な変化、等圧線の幅のわずかな違いで、日本海側と太平洋側の境にある山では天候が大きく変わるのだということを。
 それにしても今回は紅葉がすばらしかった。それに新そばを味わって、二ヶ所の温泉に入ったら、少しぐらいの雨や霰は、よしとしましょう。そう、少しぐらいなら・・・、ね。
 と、10月は毎週山で雨に降られ続けた私は思ったのだった。

 浅草岳(1,585.5メートル)は、新潟県と福島県只見町の県境にあり、春から夏はヒメサユリなどの花、秋は紅葉で知られる。登山道は何本かあり、新潟県の五味沢からは短時間で登れる。今回の入叶津からの道は距離は長いが、田子倉から剣ヶ峰を通る尾根や、鬼ヶ面山を通るコースと違ってヤセ尾根や急登がないのがありがたい。みぞれにならなければ距離に不安はない。(遅いけど。)

 土曜朝、駒込駅に集合。ここから登山口にたどりつくまでがとっても長く、でも中身がぎゅっと詰め込まれた一日だった。車をだしてずっと運転してくださったリーダー、ありがとうございました。
 道中の紅葉が、まず、みごと。今年は色づきが遅かったが、それだけにさまざまな姿をみせてくれた。標高が少しあがると色相が一変する。あざやかな日本の秋。
 会津に近づくにつれ、道路わきに「新そば」の看板が増える。この看板を「焼きそば」と読んだつわものが三峰にいたそうだが???
 私たちもさっそく三澤氏おすすめのお蕎麦屋さんに立ち寄り、香り高い新そばをあじわった。限られた季節の、豊かな恵み。
 舘岩村に建築中の三澤氏のまるみ山荘にたちよると、電気を引く作業がまさしく進行中。水周りの取り付け作業も遅くまでかかりそうだとのことで、山荘ビバークはあきらめて只見町へ。雨が激しくなってきたので、登山口のテント泊はやめ、屋根を探すことになる。
 宿泊者しか食べられないというお蕎麦を目当てに三澤氏お勧めの「蕎麦民宿」にも立ち寄ってみたが満室で、結局、近くのキャンプ場へ。(で、なにしろ中高年なので)「ぜいたく」をしてトイレつきのバンガロー(6千円)を借りることにした。4人だと余裕の広さだ。夜はゆっくりお鍋を味わい、「屋根があるとありがたいね」と感謝しつつ、ぐっすり眠った。

 2日め。ようやく登山口。お天気は細かい雨が降ったりやんだり、というところ。
 登山口にはいい水場もあるし、駐車場も広い。
 登りはじめから気を抜くとすべりそうな泥道。登山者はほとんどいない。私たちの前に地元の二人連れが登っていたが、すぐに追い越した。大阪ナンバーの車で来ていた若者は雨のためか、結局登らなかったようだ。
 入叶津から平石山、避難小屋を経て天狗の庭を行く道は、私の地図のコースタイムだと5時間の登り。前野さんの地図だと4時間。何回か登っている三澤氏の予想だと、このメンバーでは3時間半ぐらいだろうけれど余裕をみて4時間、とのこと。(それでもまだまだ、アマイ、かも・・・。なにしろ三峰最鈍足なので。)
 まず山神ノ杉まで、私の地図だと1時間半のところを、前野氏バージョンの55分でカバー。ここで最初の休憩。地元の二人連れはここでなんと、すでにビール。はぁ。。。
 平石山手前までは少々急登。そのあとはブナの林のおだやかな登りが続く。ところどころ山の中とは思えないほどの平坦で広い道もある。このあたりからはとくに紅葉がみごと。
 すだれ岩のあたりでようやくわずかに陽が射すと、対岸の山の紅葉が映える。
 この地域の山ではどこに熊がいてもおかしくない、とリーダーがいうので、先頭を歩いている私としては少々不安。なにしろ心肺機能は弱いけど、心配機能は高いので。曲がりかどでは鈴をならし、「くまさん、くまさん、人間が行くよ~。でてこないでね~」と唱えながら進む。
 ひとりで歩いているときはよく、熊よけに『森の熊さん』を歌う。今回は石川さんがリフレインをいっしょに歌ってくださった。
 ようやく草原に出て、木道をたどると、避難小屋。思えば浅草岳の名を知ったのはガイドブックで小屋の写真をみて、こういう明るい草原の中で泊まるのもいいだろうな、と思ったのが最初だった。7年ほど前のことだ。
 でも、雪深いこの地で、現実の小屋は風雪でかなり傷み、入り口の戸はゆがんでなかなかあかない。床も気をつけないと抜けてしまいそう。緊急時にはそれでもありがたいが、地震があったらコワイなぁ。それでも後から着いた地元のおふたりは、私たちが降りてきてみると、この寒い小屋で宴会の最中だった。う~ん、山の楽しみかたは、いろいろだ・・・。
 小屋からもうひとがんばりすると山頂。ほぼリーダーの読みどおり、4時間5分かかった。山頂が近づくころから、雨はとうとう霰に変わった。10月なのに、さすがに東北。新潟県側はさらに悪天候のようだ。
 山頂近くではじめて数人のグループと、女性の二人連れに出会う。
浅草岳山頂にて  寒いし展望もないので(それでもしっかりビールで乾杯した人も)山頂をそうそうにあとにする。
 くだりはいつもながら慎重に行く。でも、雨でぬれた木道は角度がなくても滑る。後ろで石川さんが滑った気配がしたとたん、振り向いたわけでもないのに私もどしん。その瞬間、あ、やってしまった、と思った。あまりの痛さに五回くらい「痛い」と連呼し、お騒がせしてごめんなさい。でも、少し呼吸をととのえたら立ち上がれたし、歩けてほっとする。石川さんも無事。(と、このときは思っていた。)
 ここでまた心配機能が高まってしまい、さらにペースダウン。それでも紅葉はきれいだし、すだれ岩でまた陽がさすし、いい山だなぁ、と思いながら歩いていたら、30メートルほど先を黒い影が走りぬけてドキッ。目撃したのは先頭の私だけ。でもとても小さかったので、たぶんリスだったのだろう、ということになった。(そういうことにした。)
 少し道が登りになると右足にずきん、と痛みが走るが、これもまぁ、いいか、ということにした。でもやっぱり超低速で、最後の杉からのくだりは、三澤氏いわく「あと15分くらいだから」でも、35分かかった。登りで、なんでこんなところにトラロープがあるの、と、思ったところも下りはその効用をじゅうぶん認識した。
 下山したら、なんと青空。温泉でゆっくりあたたまり、またお蕎麦屋さんをさがしながら帰途につく。でももうあいている蕎麦屋がなかったので、きのこがいっぱいの喜多方ラーメンで、とっても満足の締めくくり。

〈コースタイム〉
入叶津登山口(7:15) → 山神ノ杉(8:05~15) → 平石山(9:20) → 避難小屋(11:35~45) → 浅草岳山頂(12:20~45) → 登山口(16:15)


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