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私の近況報告
松尾 修

 もう随分と三峰の山行に参加していないため、知らない人は全く知らず、知ってる人の記憶からもほとんど消えかかっている私です。東京から長野の南信州伊那谷(駒ヶ根市)へ単身赴任の継続で移動したのが03年4月。
 翌年9月には伊那谷の中川村に自宅を建築し、ようやく家族(妻)と同居できたのもつかの間、半年後の05年4月からはまたしても名古屋に単身赴任となってしまった。
 03年4月からの2年間は、中央アルプス東面、南アルプス西面の砂防事業に従事することができ、両アルプスの谷々の源頭部の踏査やイヌワシの生態調査をしたりと、実に幸せな日々だった。とりわけイヌワシに関しては、岩壁にある古巣の修復作業を自らロープを背負って陣頭指揮した。が、幸せの時間は短いもので、昨年4月からは名古屋の整備局に異動し、ダム(水を貯める)事業の担当となってしまった。
 今日、ダム事業への風当たりは厳しく、内外からのプレッシャーにひたすら堪え忍ぶ毎日で、例えて言うなら、厳冬期に荒天下の稜線(ナイフリッジ)で、ハーネスを外しキジを撃つようなものである。[・・・余談ではあるが、20代の頃、一月の風雪の爺ヶ岳北稜のナイフリッジをセカンドで通過中、強烈な腹痛に襲われたため、やむを得ずハーネスを外しロープを胸に直巻きしキジを撃ったところ、何を勘違いしたのかトップの連れがロープを強引に引き始めた。私は違う意味で踏ん張ってはいたのだが、ロープの力にはかなわず、叫びながらリッジをアクロバチックに這いずった恐怖の思い出がある。]
 そんなこんなで、山に関しては、週末の帰宅時に中アの山麓を犬を連れて歩く程度で、この一年山らしき山はやっていない。犬の散歩とガーデニングで休日を過ごすという柄にもない生活を送っている。しかし、こんな内容で岩つばめへ寄稿するには山屋(一応)としてはあまりにも忍びなく、申し訳に直近(3月4、5日)の山行(中ア・黒覆尾根)を報告させていただく。
黒覆尾根は、中ア主稜線の赤梛岳(2,798m)から田切岳(2,730m)を経て東方の黒覆山(1,910m)へと延びる尾根で、森林限界から上部はナイフリッジと雪壁によって構成される中ア東面における冬季バリエーションの好ルートである。
 3月4日、名古屋のメンバー三人と5:30に自宅を出発し、与田切林道を駆け上る。駐車場を6:20にスタートし、雪の締まった林道をノンストップで歩き、8:00には黒覆尾根からの派生沢に取り付く。沢を詰め尾根上(黒覆山とP1919とのコル)に抜けたのが11:00。雪のコンディションが良かったことと、休憩を入れずにひたむきに歩いたために早い!(実は一昨年の一月にチャレンジした時には、林道のラッセルにバテてしまい、尾根への取り付き箇所の偵察でギブアップした経験から、春期の再チャレンジを課題としていたのである。)
 コルからは樹林帯の登りとなり、12:00にはP2176に到着。これより先は尾根が痩せてくるため、早々にテントを設営し、飲酒・昼寝で贅沢な時間を過ごす。
 5日は、真面目に3:00に起床し、4:55に出発した。しばらくは幅広の尾根が続くが傾斜はきつい。2,400m付近からは尾根も痩せ、短いピッチでナイフリッジが出現する。鎖場を過ぎると、右斜面の灌木の中をコルに降りる。コルより見る正面の尾根は岩壁となっている。ロープを出し基部の右側の雪壁を10mトラバースし、ガリーに取り付く。ダブルアックスで登るものの雪が腐っており、最後の抜け口では雪庇に頭を押さえられ、抜け出るのに苦労した。その後、短い雪壁、リッジで懸垂場となる。20m程度の懸垂でコルに降り立ち、雪壁を登ると緩傾斜のクラスト斜面となり、田切岳のピークに到着した。
赤梛岳をバックに田切岳のピークにて  時間はまだ9:30である。眼下に見える自宅の妻と携帯で連絡を取り、一応手を振るものの相手からは見えるはずもない。30分後には後続も全員そろい記念写真なんか撮ったりして、360度のパノラマを十分に堪能した後、往路を下降したが、雪の痩せ尾根は登りより下りの方が大変である。テントを撤収し、駐車場に帰り着いたのは18:30であった。
 今回、自分の熱意が強すぎたためか?、行動中の休憩をほとんど取らなかった。初日のアプローチで早くもメンバーの一人がバテ、二日目にはさらにもう一人が半死の状態となってしまい、下山時にはザックの解体セールとなり、結局、自分のザックの重みが倍増するというツケが回ってきたのであった。
 以上が山行報告であるが、今月末には、御岳山で行う愛知県山岳連盟の指導員研修会へ参加する予定であり(いよいよ資格剥奪の危機に直面)、徐々にではあるが、山に対し真面目に取り組んでいこうかな?と考える今日この頃である。勿論、三峰の山行にも参加させていただくし、こちらの山域へもご招待しようと考えている。
 まぁ、こんな感じで何とかやっておりますので、皆様もこちらへお越しの際は遠慮無くお立ち寄り下さい。自宅周辺は、リンゴ畑と梨畑だけで何もない所ですが、中アの越百山~空木岳、南アは塩見岳~赤石岳の山並みが眺望できます。とくに5月は、残雪のアルプスをバックに山桜とリンゴの花が最高ですよ! 以上、近況報告でした。


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