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前穂高岳北尾根
坪松 聖幸

山行日 2006年5月3日~5日
メンバー (L)荻原、越前屋、坪松

前穂北尾根

 上高地に自分が初めて訪れたのは、4年前の真夏のことでその時は、弟と二人で上高地から槍沢、槍ヶ岳、キレットを越えて北穂、奥穂を通るコースを計画していたが、槍ヶ岳を登るのに大分時間を使ってしまい、北穂まで来た所で、涸沢に下ったことを覚えている。その時に、涸沢からから見た穂高の山々がとてもきれいで、岩の山なんだなと言う印象を受けた。今回、久しぶりに上高地へ行くが北尾根を登って、山を十分に楽しみたいと思う。
 5月2日の夜、ザックを担ぎ、新宿へ向かう。泊まりがけで山へ行くのが久しぶりでもあり、重いザックを背負って涸沢までたどり着けるのか少々不安になる。新宿駅から夜行バスの停留所まで場所が分からなかったが、とりあえず同じ格好をしている人の後をついていった。そこで荻原さんと合流し、夜行バスに乗り込み、仮眠をとる。そして午前6時頃に上高地に到着。朝食を取り、調子を軽く上げようとゆっくり歩き始める。途中、徳沢と横尾で休憩を取り、山を眺めながら一段落する。あんな所、登れるのだろうか。少し不安になる。横尾山荘前の吊り橋を渡ってからがきつく、途中でばてそうになる。荷物が重い、靴ずれが痛い。こんなに涸沢って遠かっただろうか。そんなことを考えながら登っていくと、ヒュッテの鯉のぼりが見えて来て、元気が出てくる。午後2時頃に涸沢に到着。ここで越前屋さんと合流。とても疲れてしまった。越前屋さんが作っておいてくれたゼリーをみんなで食べ、眠たくなってきたので、食事前に少しの間眠らせてもらう。1時間位眠っただろうか。テントから出て見ると日が暮れてきており、寒さを感じた。本日の調理長は自分で、野菜炒めとパスタを作る。自分で言うのも何だが、おいしくできたんじゃないでしょうか? お腹も満腹になり、明日も早いので早めに就寝する。明日も頑張って登るぞ。
5峰へ・・・  2日目、午前2時30分に起床。これだけ早く起きれば最初に取り付けるだろうと思ったが、朝食を取り、テントから出て見ると何組かが、5・6のコルへ向かっており、自分たちも雪渓を登り始める。5・6のコルには幕営した跡があって、ここまでテントを持って登って来るのも随分大変だろうなあと思った。5峰を登っている途中、アイゼンでスパッツに穴を開けてしまい、ひどく落胆する。アイゼンを着けて登るときは、もっと気を遣って登るようにしよう。5峰を登り終えて3・4のコルからいよいよロープをつける。トップを行くのが、荻原さんで、越前屋さんが確保をする。この時に、スタンディングアックスビレイを教わり、やり方だけを覚えた。肩絡みをしっかりと覚えないと駄目なようである。今年は、雪が多いそうで、支点を見つけるのも大変そうだ。待っている間がとても寒く、指をグーパーさせながら登るルートを見る。何処をどう登ればよいかなと少しだけ考え、とりあえずあまり雪が付いていない所を進もうと、いつもの感じで登り始めた。雪のない所の方が登りやすいと思っていたが、雪の中に手を入れるとけっこう安定し、ピッケルも雪に突き刺すと、どんどん登っていける。手袋を着けて岩を掴むより安心できる。ただ、やっぱりアイゼンを着けて登ると足のふくらはぎが疲れてくるし、いまいち前足の爪に安心して体重をかけられない。そんなことをやっているうちに、またアイゼンでスパッツを引っ掻いてしまった・・・。
 2ピッチ目では、左に洞窟のようなチムニーがあるが、それを抜けて行った後にどうなっているのか分からないと言うことで、右にトラバースして、荻原さんが登る。いつもながらとても安定した登りで、確保する地点までするすると行ってしまう。時折、風が強く吹くことがあるが、天候も悪くなく、視界が妨げられる心配もなさそうである。じっとしていると寒いが、自分は今、雪のある岩場を登っているのだなと実感させられる。越前屋さんも難なく登り終えて自分の番が回って来る。足下を確認し、アイゼンの爪を岩に引っかけて、雪をどかしながらホールドを探す。使えるホールドがけっこう雪の中に埋まっており、それを使って登る。ホールドがうまく掴めない時は、ピッケルの刃を岩に突き立てて体を引きつけて登る。体も温まり、途中強引なこともしたが、2ピッチ目も登りきることができた。3ピッチを登り終えれば、3峰の登りも終了である。3ピッチ目は、切り立った角度のある岩壁で、雪もあり、どこから登ると上に行けるのかが、よく分からない。トップを行く荻原さんは、どのようにしてここを登って行くのだろうと思ったが、当然の如くというか、ごく自然に登っていってしまった。やはり、相当の自信と経験がなければ、トップでは、登れないと思う。そんなことを考えながら登り始めるが、ホールドを探して、慎重に登っていくのは、やはり難しい。アイゼンで登るのには、大分慣れてきたが、いつもとおりの力ずくでの登り方になってくる。ロープで上から繋がれていなければ、絶対にこんな強引な登り方は出来ないだろう。下から見ている人にはとても危なっかしい登り方をしているように見えるに違いない。ガバがあったら、がっちりつかんではい上がる。不安定なホールドも途中あり、つかんだら取れそうな時は、ピッケルを雪に刺したり、岩壁に刃を引っかけて登る。こんなにも使える道具だとは、知らなかった。3ピッチ目も身体と道具と少しだけ頭を使って登り終える。これで、難しい所は無いだろうと思っていたが、そんなことはなく、3峰から2峰へ行く所がとても怖かった。尾根が細く岩稜に雪が乗っていてここもロープを付けて通過する。ここで懸垂下降する支点が見つからなかったので自分が少し前に探しにいくが、この移動の時が一番怖く、腰が引けてしまう。安定した場所に来て辺りを見回すが、それらしい物が見つからず、また、少し移動すると支点があり、そこから2峰を下降する。
 いよいよ最後の1峰を残すのみとなった。真っ直ぐ進むと斜度の緩い岩稜帯があり、右の方には、雪が残っており岩稜が見えない。支点も無さそうに見える。真っ直ぐの岩稜帯に進むが、こっちも支点が無くて、前のパーティーが打っていった真新しいハーケンを使おうとしたが、全然効いておらず、打ち足す。ここを登れば頂上だと思うと、身体が自然に早く動いてしまい、慎重さを欠いた登り方をしたと思い、反省する。少し歩くと、前穂高岳の山頂に到着。荻原さん、越前屋さんと固い握手を交わす。有り難うございました。途中、怖い思いもしたが、ここまで頑張れて本当に良かった思う反面、自分の技術の未熟さで途中に無駄な時間を費やしてしまった事が大変申し訳なく思った。
前穂山頂にて  さて、これからが一番大変である。吊尾根を通り、涸沢まで戻らなくてはいけない。荷物は、重たくないが行程が長いので、陽のあるうちに天場まで戻れるだろうか。山頂で休憩を取った後、すぐに歩き始める。雪が多く、溶け出してきて非常に歩きにくい。雪庇にも注意しながら、ひたすら歩く。天候も快晴で、とても暑い。危ない所を慎重に通過し、途中で休憩を取りながら、荻原さんに南稜や東稜の説明をして頂く。機会があればそちらからも登ってみたいが、今は、早くテントにたどり着きたい。奥穂高山荘前で、最後の休憩を取り、雪渓を滑るように下って午後4時10分頃、涸沢に到着。とても足が痛く、テントで休みたかったが、ヒュッテで生ビールとおでんを注文して、乾杯する。ビ-ルとおでんがとてもおいしく、叫びたいくらいだ。疲れと空腹ですぐに酔っぱらってしまう。ヒュッテ前で他の若い登山客と(大学生くらいの男女)、今年は、雪が多いとか管理トイレの話等をしましたが、後は酔っぱらって覚えていません。寒くなってきたので、テントに戻り、夕食を食べ、(荻原さんが煮込みラーメンを作ってくれました)、くたびれていたのですぐに眠ってしまった。
 3日目、午前4時半に起床して寝袋を畳み、帰る準備を整えつつ、朝食を取る。身体がだるい。荷物を担いで出発準備が完了したのは6時くらいだろうか。荷物の重さが来たときと変わって無いような気がする。登った道を上高地まで下るが雪がだいぶ溶けたようで、残雪の季節が終わり、夏山の季節になって行くのだなとしみじみ感じた。途中、小さい熊がいて人に驚くこともなく、のんびりしていた。冬眠から目覚めたばっかりで眠たいのだろうか。ちょうど正午に上高地にたどり着いたのだが、河童橋周辺の人の多さに驚かされた。直ぐにバスの切符を買い、松本まで向かう。身体の臭いもいい感じだったので風呂に入る事にするが、最後に寄った銭湯(温泉が出る。店の名前が塩井の湯)が、昔ながらの感じで良い味を出していました。あんな銭湯、今まで行ったことがなかったです。身体をきれいにした後は、松本駅から特急に乗り込む。とても混雑していて、ザックと一緒に座り込み、荷物の一部のようだ。今回も身体は疲れたが、充実した山行ができて、とても満足しました。最後にリーダーの荻原さん、色々と教えて頂いてくれた越前屋さん、本当に有り難うございました。自分もまだまだ未熟者ではありますが、もっと技術と経験を積み力量を上げていきたいと思います。大変お疲れさまでした。

〈コースタイム〉
1日目 上高地(06:05) → 横尾山荘(09:15) → 涸沢(14:05)
2日目 涸沢(04:25) → 3峰頂上(08:05) → 前穂山頂(11:07) → 奥穂山頂(14:05) → 涸沢(16:13)
3日目 涸沢(06:03) → 上高地(11:57)

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