トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ321号目次

山スキー・立山~双六岳、新穂高温泉
箭内 忠義

山行日 2006年5月3日~6日
メンバー (L)箭内、小堀、成田、竹内

5月3日(水) 快晴
 山スキーヤーにとって、垂涎のルートの一つが日本のオートルートと呼ばれる立山~槍ヶ岳のコースです。
 なんと、行って来ちゃいました。
 この時を何年も前から狙っていました。今年は5連休なので、やっと念願が叶いました。
 小堀さん、成田さん、竹内さん、有り難うございました。直前に不参加となりましたが、1万円のカンパで送り出してくれた藤井さん、有り難うございました。
 出発は2日、新宿からです。バスで扇沢まで行き、室堂から板をはき、歩き始めます。
 一ノ越に向け、小堀さん、竹内さんがガンガンとばします。私は体調が悪くピッチが上がらず額に汗をたらしながらゼエゼエとやっとの思いでついて行きました。

室堂到着滑走開始

 一ノ越からは初めての滑降、いよいよオートルートに突入です。ここから先は引き返せません。程よい緊張感で御山谷を2,300m辺りまで滑り込み、鬼岳と龍王岳のコルへの登り返し地点を見定めつつトラバースします。トレースがあり、目の前を2人組みパーティーが登っていきます。
雄大な景色  鬼岳を越え、その下りか、次の獅子岳からの下りかが、40度程の急斜面でした。
 こえー、下を見ただけで縮み上がります。フォールラインにスキーの先を向けたらまっさかさまに落ちていきそうです。横滑りで、ズリズリと雪を削りながら高度を下げていきます。竹内さんが、コケたら数十メートルずり落ちてしまったと話していました。怖いとこでした。
 ザラ峠を越え、五色ヶ原山荘に到着です。予約していたので個室でした。軽量化を図ろう、絶対に軽量化だと言っていたのに、小堀さん竹内さんのリックから缶ビールが出てきました。嬉しいことです。ビールはえらくおいしく持参したウイスキーも体の隅々までしみわたりました。ちなみに、山小屋には缶ビールが残り9本しかありませんでした。20人程泊まっていましたが、近年にない混雑だと小屋の人が話していました。
 小屋は素泊まりなので夕食は自分たちで作ります。明日の超、超ロングルートに期待と不安な思いを抱いて、早々に布団に潜り込みました。

5月4日(木) 快晴
 今回の山スキーでは、荷物をどの程度持って行くかで悩みました。完全小屋泊まりとして軽量化を図るか、5月の北アルプスということを考え、テントを持ち縦走型重量荷物とするか。
 結論は、小屋泊まりの上、山スキー縦走型重量荷物となりました。だから荷物が重く、リックが肩に食い込み、スピードは遅くなるし、疲れは倍増するはで、かなりへばりました。
 同じルートを行く人たちは皆、軽量化し、リックはディバックです。何をリックに入れているのかと尋ねたら、緊急用は、シュラフカバー一つだと言っていました。
 日程にあと2日余裕があれば、すべてテント泊として、のんびりと、好きな場所にテントを張り、気分よく行けるのです。
 今回は、縦走型重量荷物だったので、二日目、4日の予定コースを完全に消化できませんでしたが、テントを持っていったので、薬師岳下の避難小屋の横に安心してビバークすることが出来ました。夕食は、竹内さん自作のペミカンのカレーでした。うめーこと。
 さて、今日の行程の長さを思い、5時発と早出のつもりです。(5時もちょっと遅かったようだ)小屋を出発すると、あたり一面まばゆいばかりの真っ白な雪原です。シールを効かせて一歩一歩登って行きます。
五色ヶ原山荘から朝日を浴びて出発  鳶山を越え、越中沢岳を快適に登ります。越中沢岳からの下りはやせ尾根となり、スキー板はスゴ乗越小屋まで担ぐとルート図集には書いてありましたが、雪がたっぷりありスキーはつけたまま行きます。途中、疲れたのと、天気がよく、周りの雪景色が良いので、お湯を沸かし、コーヒー、紅茶タイムとしました。これがメチャクチャおいしく、すこぶる贅沢な気分にさせてくれました。
 疲れ切ったなあと思うころ、やっと、スゴ乗越に到着です。ここまでも長かったなあ、というのが正直な気持ちでした。
 ここからシールを付けての登りです。朝の5時からもう十分頑張った、もう勘弁してほしいと思うころスゴ乗越小屋に着きました。12時前です。ちょうど今日の行程の半分のところです。予定として11時台に着きたかったので、内心今日の行程は何とかなりそうだとホットしていました。
 小屋から真っ白な山なみを見上げると、間山そして北薬師岳らしき山々が遥か遠くまで連なっています。
 とりあえず北薬師までと気合をいれて出発です。  このピーク、あのピークと、いくつもの偽頂上にもめげず、やっと北薬師岳に到着です。
 体力も限界に近づいているというのが実感でした。そろそろビバークという声もありましたが、明日の予定行程を考え、さらに、前方に聳える薬師岳まで渾身の力を振り絞って頑張りました。
 薬師岳の頂上に来たときは、夕暮れが訪れ、もう雪の斜面はガリガリの状態に凍っていました。
薬師岳頂上にて  頂上から下に見える避難小屋にテントを張ろうと、ガリガリ、よれよれと各自下って行きました。
 辺りは暗く、星が薄く見える時間となりました。ヘッドランプを頼る時間になっていました。もーとーコールでお互いを確認しあい、ランプの光を頼りにテントを張りました。
 へろへろでしたが、竹内さんが3時間かけて作ってきたという夕飯のペミカンのカレーがおいしく、癒されました。カレーに舌が踊り、胃をキックする芳香と風味がありました。元気も回復しました。ウイスキィーが身体に染み渡りました。

5月5日(金) 快晴
 何と3時30分起床です。疲れがたまり、身体の節々が痛い。ラーメンを食べ気合をいれテントを撤収です。昨夜作っておいた水は凍っていません。今日も快晴だが、夜中はそんなに冷え込まなかったようです。
 5時。まず、太郎平小屋を目指します。本来なら薬師の頂上から薬師峠まで快適に滑って行きたいところですが、この時間ではまだ雪面はガリガリに凍っています。スキーをリックに付けつぼ足で行きます。峠まで下りなので快調に進みます。6時には太郎平小屋に着きました。
 昨日私たちとほぼ同じ時間に薬師岳に着いた2人組のパーティーは夜の8時30分すぎにやっと小屋に到着したと言ってました。夜中に疲れてふらふらと歩くよりテントに泊まって正解でした。
 小屋には宿泊の予約をしていましたが、キャンセル料は取られませんでした。
 小屋からはシールを付けて、北ノ俣岳までのゆるい斜面をゆっくり登って行きます。
 北ノ俣岳では、昨夜同じ避難小屋の所でテントを張っていた若者4人組みパーティーが神岡新道を下っていきました。下に車をおいてあるということでした。毎年部分的にオートルートを走破しているようです。今夜のビバーク用にインスタントラーメンを譲りますとの申し出がありましたが、きっちりとお断りしました。(絶対双六小屋までいけるもんね。と思いつつ、太郎平小屋で、非常時用ラーメンを買ってきてあるのです。とほっ)
 北ノ俣岳から中俣乗越まで、長い長いトラバース、斜滑降です。
 鞍部でシールを付け、目の前に聳え立つ黒部五郎岳の肩を目指します。最初はシール登行が可能ですが、上部はつぼ足です。
 ズシンと肩にリックの荷重がこたえたころ、やれやれ黒部五郎のカールの滑り口に到着です。
 まず、テレマークの竹内さん、そして、小堀さん、成田さんと飛び込んでいきます。
黒部五郎へのトラバース  下部まで行くと、そこから先はトラバース、斜滑降です。斜滑降が終わると、黒部五郎小屋に向けて広く長い快適な斜面を小屋をめがけて滑り降ります。小屋の前で大休止です。空はどこまでも青く澄み渡っています。
 ここまでに何度も雷鳥に出会いました。鳴き声と共に雷鳥の飛ぶ姿を近くで見るのは久しぶりのことでした。しかし、この時点でも、疲れはずっしりとたまっています。荷物が重いのは本当につれーことです。
 小屋は冬季使用可能です。今朝3時に新穂高温泉を出発してきたという人がちょうど滑り降りてきて、小屋で休んでいました。
 さて、小屋の裏手の急な斜面をシールを付け登り、三俣蓮華岳を目指します。
 オオシラビソの森を抜け、尾根をひたすら、ゆっくりゆっくりと登っていきます。
 2,841mの三俣蓮華岳にやっと到着です。正直、疲れ果てました。しかし、ここからが最後の気合のいれどころ、勝負のしどころです。
 4時を過ぎたので、薬師でのことを考え雪面はガリガリになるだろうと思ってつぼ足にしました。しかし、三俣蓮華、双六のこちらの山域は夕方でも雪はザラメ状態でした。
 稜線上は薄くガスがかかり始め、寒くなってきました。成田さんが疲れ遅れ始めましたが、改めて結束を固めると、竹内さんと小堀さんが、ぴたり、双六岳東面のトラバースルートを見つけてくれました。
 双六小屋をめがけ快適な斜面を気分良く滑り降りることが出来ました。
双六小屋だ!ビールが呑める!  小屋でのビールのウメーことウメーこと。料理も満足できるものでした。
 予約しておいたので部屋は個室でした。乾燥室があり助かりました。

5月6日(土) 快晴
 今日は、本来なら西鎌尾根から槍ヶ岳、そして槍沢滑降の予定でしたが、新穂高温泉に下ることにしました。理由は簡単、体力の限界。双六小屋に着いたらもう充分でありますという気分になってしまいました。ゆっくりと8時近くに出発です。嬉しいことに、小屋の前から双六谷を滑り降ります。歩きません。2,150m辺りの大ノマ乗越への登り返しまで、各自快適に滑ります。デブリもなく気分良くかっ飛ばすことができました。
 大ノマ乗越の登りは疲労が蓄積している身体にはきつく、こたえました。
 乗越からは、またまた大滑降です。雪の斜面をまっぷたつに切り裂くようにシュプルールを残したいとこですが、雪質が悪いのです。
 雪が柔らかく板が沈み、もぐります。さらに、雪がおっもったああいのです。タアンというものが出来ません。何とか頑張って強引にターンしても2回3回続けると腿がつる感じになり疲れ果て、雪に跳ね飛ばされるというか雪に足をからめとられてしまいます。ダウンです。
重たい雪質の中を  滑り降りるのにかなり時間がかかりました。終了地点の林道入り口の橋が見えたところで昼食です。双六小屋の弁当はなかなか良かったです。
 最後はデブリの斜面を悪戦苦闘して乗り越え、無事林道到着です。
 林道は2箇所にデブリがありましたが、新穂高温泉のすぐ近くまで滑り降りることが出来ました。助かりました。
 到着したらすぐに温泉です。源泉が熱いので薄めているようでしたがかけ流しです。
 本当にやり終えることが出来たのだなあという感謝の気持ちで一杯になりました。小堀さん、成田さん、竹内さん有り難うございました。

〈コースタイム〉
5/3 扇沢(5:35) → 室堂発(9:30) → 一ノ越(10:15~10:30) → 鬼岳(12:35) → 獅子岳(13:50) → ザラ峠(14:20) → 五色ヶ原山荘着(15:30)
5/4 起床(4:00)、五色ヶ原山荘発(5:05) → 越中沢岳(8:20) → スゴ乗越(10:30~10:50) → スゴ乗越小屋(11:50~12:10) → 間山直下(12:50~13:20) → 北薬師岳基部(14:25) → 北薬師岳(17:20) → 薬師岳(18:20) → 避難小屋(19:30) テント、就寝(21:15)
5/5 起床(3:30)、避難小屋発(5:00) → 太郎平小屋(6:00~6:30) → 太郎山(8:45) → 2,338m地点(9:25) → 黒部五郎岳(12:00~12:15) → 黒部五郎小屋(13:15~13:40) → 三俣蓮華岳(16:20) → 双六小屋(18:20)
5/6 起床(5:40)、朝食(6:00)、双六小屋発(7:50) → 2,150m地点(8:35) → オオノマ乗越(9:45) → 弁当休憩(11:40) → 林道(橋)入口(12:40) → 滑走終点(14:00) → 中崎山荘(温泉)(14:40)

竹内 豊

 箭内隊日本版オートルート参加によって自分に何が足りないのかを改めて再認識することができて本当にとても有意義な山行だった。
 ありがたいことに箭内・小堀両氏から「オートルート」に挑戦しようとお誘いを受けた時、これまた山歴の浅い僕は『オートルート、なんじゃそりゃ?』とその有名な山岳スキールートのことを知らなかった次第である。
 いろいろ調べてみると立山から入山して、高所をひたすら進み、上高地(もしくは新穂高)に降りる、けっこう厳しい山岳スキールートということがわかった。そこをGW後半の休みをつかって、重装備の上、3泊4日という短期間で走破しようというのである。
 まず初めに思ったことは、

 などと、残念ながらかなりネガティブな発想から入っていってしまったのである。しかし、ものは考えようで、ひとつの事柄を様々な方面から考えてみるとすべて対処可能なワケであり、おまけに今年は例年稀な晴予報マークが続く天気予報であった。もう、こりゃ行くしかないと家族の同意をえて、深夜バスに勇ましく乗り込んだのであります! 多少、皆さんに迷惑がかかることになろうとも(笑)。
遠方に見えるのが多分(笑)目的地の山並み  詳しい記録は隊長の紀行文におまかせするとして、初めて行く黒部アルペンルートの乗り物や晴天の中の室堂からの登高。太郎平からの雄大な景色を見ながらの斜滑走や黒部カールへの緊張のドロップイン。黒部五郎小屋までの快適な斜面。そして14時間の長時間行動の末、たどりついた双六小屋までのビールに向かっての滑走。安全を考慮しての新穂高行き。双六谷のパークハイク。大ノマ乗越をこえてからの重たい雪質の雪面滑走。その時に皆でひろげた山荘特製のお弁当のうまさ。新穂高温泉での湯の香り。帰りのバス・電車の中での大宴会。家に無事に到着したあとの充実感! 楽しい事がいっぱいありました。
太郎平からの斜滑降 ここの雄大な景色を見ながらの滑走は気分良し!  普段の山行が殆ど単独行の僕にとって、パーティで入山することがとても新鮮であり、難しい行程ほどお互いの良い所を伸し、足りない所を補う今回の日本版オートルートは一生の記憶に残る山旅になりました。誰かが言っていた受け売りなんだけど「厳しかった山行ほど記憶に残り、忘れない!」ということを本当に実感する事ができたのであります。
 隊長の念願、完全走破は残念ながらできなかったけれども各人の充実感ははかり知れなかったと思う。なんていったって体脂肪6%も落ちましたからね。箭内氏、小堀氏、成田氏、有り難う&お疲れさまでした!


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ321号目次