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両神山に続く尾根(1) (一位ガタワ~両見山)
鈴木 章子

山行日 2006年4月8日~9日
メンバー (L)鈴木(章)、土肥、川崎、成田、道祖土

 何年か前、図書館で、変色しかけた本に、「『四阿屋山から両神山に延びる尾根』、『秩父御岳から白井差峠に延びる尾根』が、気に掛かる」と書いてあり、此処で初めて、「両見山」の名前に出会う。出会いから「山名」、「ルート」に心惹かれたが、岩場が多そう。まず、尾根を見てからと手始めに「白井差峠~秩父御岳」ルートに挑戦(このルートは何時か話す機会も有るでしょう)。このルートから見る限り問題無さそうだったので、メンバーを募り、最終的に集まったのは、還暦を迎えても益々元気なN氏、今まさに山青春中のマダムK、私には、山を始めた動機が不明なD嬢(?)、毎回、私の誘いのパワーに負けているS君、そして、益々「ヤマンバ」と化してきたリーダーA。今回は、何だか不安な以上5名で出発。

 三峰口(4/8)8:09着集合、早い集合に異議を唱える者もいたがそんなことは無視。当日は全員集合できたのだから、努力を始めから惜しんではいけない。
 前日予約しておいたタクシーで、「日向大谷」まで。この運転手さん、我々が目指す「両見山」についてなかなかの通、自分の名字のルーツを探しているとか。車中の他4名はウトウト顔だが、さすがリーダーA、情報収集に暇が無い。40分の乗車も「アッ」と言う間だった。車中、窓にポツポツと雨、今日の天気予報は雪でも降りそうな話。この時点では、本日が核心部と信じていたので、先のことを考えると不安だった。
 日向大谷で身支度を整え一般登山道を清滝小屋へと向かう。この道を歩くのは20年振りになるだろう(その時のことはすっかり忘れているが懐かしい)。
 会所を過ぎた辺りから、D嬢が遅れだす。「小屋までは」ということで、他の4名は先に行く。弘法の井戸まで来ると急に雨足が強まったので、急いで小屋に着き休んでいると、雨は霰へと変わった。40分位過ぎた頃、D嬢が到着。着くなり、
「私、小屋に泊まる。」
と、言い出す。何時ものことと聞き流し、小屋でたっぷりの水(一人2L)を貰い出発する。天気予報では、「2~3時間で上がると言っていたよ」と、何とかD嬢を宥め、全員雨具で身を包み「一位ガタワ」まで行く。
 「一位ガタワ」に着く頃には、誰も帰るとは言わなくなった。ただ、三笠山に向かうヤセ尾根が濡れた肌で誘っていた。
 以前、会員だったI氏の記録には、
「当初考えていたほど難しいところも無く・・・気持ちはだらけてしまい・・・」と、あったので、何とかなるだろうと取り付く。(彼は、1194Pで下山している。ここからがもう一つの核心部、実に勿体無い。)
 三笠山~エビツルの頭~辺見岳まではあっけなく着いてしまったが、念のためハーネスを着けての前進になる。
 辺見岳~大谷まではコンパスを出す必要は無かった。其れほどのヤセ尾根であり、ただ、登り降り、左右のトラバースを繰り返すのみだった。
 どれだけのピークを過ぎたのか、現在位置さえ全く判らないままの前進、途中一ヶ所、前進不能になり懸垂下降をする。更に、D嬢はこの準備中に荷物を落としてしまう。
 ザイルの張り方に少し不満が有ったが、彼らに任せた。まず、私が先に下降に入ったが、案の定、ザイルの張り方が良くない。末端は落ち葉に隠れた一枚岩。ザイルが足らずに、自参のスリングと、上から投げてもらったスリングを繋ぎ何とか急場を通過した。その後、ザイルの張り直しを告げ、私はD嬢の荷物回収と次の尾根に向かうルートを探した。
 ザイル回収を終えると、時刻は16:30、そろそろ幕場をも考えるが、適当な場所は、全く無かった。1284P辺り手前の鞍部だと思うが、其処の斜面左側を20m位下山したところに炭焼跡があり、斜めながら一張は張れそうだったので今宵の宿とする。
 翌朝気付いた事だが、あと5m下ると大きな岩室が有り其処は平で快適そうだった。
 北風が強く、一晩中フライを持ち上げていたが、それでも、全員ぐっすり眠っていた。私は、何度も目が覚めたが・・・
 翌朝(4/9)鳥の声に目覚める。快晴だ。風も弱まっている。今日こそ両見山、四阿屋山、薬師の湯・・・。夢はドンドン膨らむが、果たして現在位置は?
 7:00出発。尾根に戻り、昨日と同じヤセ尾根のピークを3個過ぎると平坦になり、始めての三角点:「大谷」だ。此処まで1時間45分要した。嬉しかった。現在位置が判ることが此れほど嬉しいなんて。
 大谷からまた尾根は細くなりだすが、1199Pまでは問題なく進める。1199P直下の尾根には岩場が有りトラバースになる。今きた方向のまま尾根を20mほど先に進み、左側谷上部ギリギリの所を50mほどトラバースすると目的の尾根上に乗る。なかなかスリルのある処だった。
 1194Pから尾根の方向は北東に変わると、段々ヤセ尾根になりアリの戸渡り(仮称)の下部に着く。此処では必ずザイルを出して貰いたい。怖さ知らずのN氏は切れ落ちた斜面を細い木を頼りに行ってしまった。その後を恐々とS君も行ってしまった。残された私達はどうなるの。幸いS君にザイルを預けていたので助かったが、どうもまたザイルの張り方が不安。三番目に行ったD嬢が直してくれたので後の2人は安心して登り終えることが出来た。登り終えると古い虎ロープがあったが安心できる物ではなかった。ザイル回収を終えた頃、余りに遅いからとS君が戻ってきた。彼にはもう少し慎重さが必要だ。
 アリの戸渡り(仮称)は、幅約50cm、長さ約70m位で平坦では有るが両脇は切れ落ち、決して居心地のよい所ではない。 戸渡りを過ぎ、少し下った後、上り返すと、其処が本日2番目の三角点「両見山山頂」。全員心から「ほっ」とした。時刻は13:40。山頂には、三角点と紅白の(道路に良くあるアレ)棒のみ。せめて「山名板」でも欲しいなー。
山名板がない静かな両見山にて  N氏は此処から先の「相撲場」に心惹かれてやまなかったが、リーダー権限で、本日の山行は此処までとした。N氏の落胆振りは手に取るように理解できたが、此処まで要した時間を考えると、先のことは全くの予想もつかない。明日は全員仕事がある。近いうちに、必ず来ることを約束して、下山をお願いした。その代わり本日最後のピーク、ゆっくり休む事にする。
 此処からの両神山は木々の間から全景が見え、実に神々しい。
 昔、山岳信仰盛んな頃、両神山は、八つの頭を持つ龍で、「雨乞いの神」だったとか。
 「龍神」がなまって「両神」になったという話も聞いたことがある。美形とは言えないが、心惹かれる山だ。
修験道にまつわる石像  浦島沢方面への下山道は赤いビニールテープに導かれるが、決して気の抜ける道ではない。更に、朽ちた立ち木も多く信用できない。手首に痛みの残る私には、なかなか大変な思いをさせられた。尾根が安定してきた辺りに、テープの量が急に増えたので、林道に出る分岐と判断して、谷筋にと方向をかえ、道が途切れた辺りから、勘と力ずくで急傾斜をくだる。その後、僅かなふみ跡に出合いそれを辿ると、水の無い沢を横切り林道に出た。此処で全員集合するのを待って、後はゆっくり浦島口バス停へと1時間歩く。余中、道路端に咲き乱れるカタクリの花に心奪われることはあってもやはり終盤の林道歩きは気が入らない。

歩きながらS君との会話
 「怖かったですよ。何も知らずに付いて来てしまって・・・」

 「私だって怖かったんですよ。アリの戸渡りは特に苦手。(できれば私は「バンバの戸渡り」と呼びたい)。此れからの誘いは、慎重に考えたほうがいいね。」 と、私。ゴメンナサイ。

 土地の人はこのルートを良く知っていた。修験道だったとか。野良仕事をしていたおじさんも何度か歩いた事があるのか、両見山から降りてきたと話すと、嬉しそうに相槌をうってくれた。

 浦島口バス停に着くと1日に5本しかないバスに20分待ちで乗れるなんて余りにも付き過ぎた待遇。全てに感謝の2日間だった。

〈コースタイム〉
4/8 日向大谷登山口(8:55) → 会所(9:55) → 清滝小屋(10:55~11:45) → 一位ガタワ(12:00) → 辺見岳(12:40~12:50) → 幕場(17:30)
4/9 幕場(7:00) → 大谷(8:45) → 1199P(9:40~10:20) → 1194P(11:50) → アリの戸渡り(仮称) → 両見山(13:45~14:15) → 浦島沢林道(15:25) → 浦島口バス停(16:25)

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