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生保内川~マンダノ沢・堀内沢下降
金子 隆雄

山行日 2006年8月12日~15日
メンバー (L)金子、藤井、高木、山崎

 以前から行きたかった生保内(おぼない)川へようやく行くことができた。高木、土肥、山崎、金子の4名が東川口駅に集合し夜の東北道で盛岡を目指した。藤井さんは電車で先発することになっている。深夜、繋温泉で藤井さんをピックアップし国道46号線沿いの道の駅にて仮眠する。この道の駅は24時間開いている休憩所があるので仮眠するにはもってこいだ。

12日 晴れ後雨
 昨夜、土肥さんのもとに娘さんから体調不良を訴える電話があり、心配なので電車で帰るということなので近くの赤渕駅まで土肥さんを送って行く。赤渕駅は駅舎もない1日に5本程度しか電車が停まらない無人駅だが丁度良いタイミングで電車が来たので待つことなく乗ることができた。土肥さんを見送った後、4人で目的地を目指して再び国道46号線を走る。
 仙岩トンネルを抜けその次の大平トンネルを出た所にちょっとした広場があるので車を駐車する。電話ボックスが目印だ。準備を整えここから踏み跡を辿って林道へ下降する。途中で踏み跡が判らなくなったのでそのまま大平沢へ降りて堰堤を捲き下って生保内川へ出たが、踏み跡はもっと高い所にあって出合まで続いていたようだ。
 生保内川もこの辺はまだ里の川という感じでドブ臭い。ここから生保内川右岸の踏み跡を辿り小黒沢出合で田沢湖線の鉄橋の下を通りしばらくで大きな堰堤が現れる。堰堤を過ぎた所で一旦河原へ降りるがすぐにまた踏み跡に戻り踏み跡がなくなった所より入渓する。
 水量は平水で広い河原歩きを今日は1日続けることになるはずだ。入渓地点の標高が350mで幕場予定地が500m付近なので今日は150mしか標高を上げないことになる。滝もない淵もない広い河原を水を蹴散らしながら辿って行くのも悪くはないが単調なので飽きてくる。
初日は1日中こんな感じ  大奥沢(大ゴ沢)出合を過ぎてしばらく行った標高500m付近で予定通り行動を終える。12時を少し過ぎた時刻だがこの先に幕場に適した所はないのでしかたない。右岸の少し高くなった所にタープを張る。タープを張り終わるか終らないうちに雨が降り出してきた。予報通りだ。雨はじきに止んだので上流へ釣りに出てみたが戻る途中にまた激しい雨に降られてずぶ濡れになってしまった。
 雨は降っているが焚き火も何とか燃え出していつも通りの夜が更けていく。

13日 晴れ一時雨
 出発してしばらくは昨日と同じような単調な河原を歩くことになる。左岸の斜面に少し雪が残っておりウドが生えているかもと探してみると1本だけだが立派なのがあったので採っていく、ついでにモミジガサもあったのでそれもいただいていく。山菜に詳しいメンバーがいると山の幸にありつけるので有難い。
 標高600mくらいの所には幕場に適したところがあり昨日はここら辺まで来ておけばよかったなと思ったが知らなかったので仕方ないか。根菅沢出合を過ぎると沢幅も狭まってきてそろそろゴルジュ帯が始まるのかなという予感と共に沢を埋める雪渓のお出ましとなる。8月も中旬、もう雪渓はないだろうと思っていたが今年の残雪の多さはそんな常識は通用しないようだ。6月に行った狩小屋沢と同じように雪崩で運ばれた樹木でジャングル状態になっている。しっかり埋まっていて崩壊の危険はなさそうなので上を通過する。
ジャングル状態の雪渓  雪渓が途切れるとゴルジュの中に4段の滝が現れる。地元で雑魚どまりと呼ばれるもので下からは全貌は見えない。両岸ツルツルで登れそうもないので左岸から捲くことにする。この沢の捲きは決して楽ではない、踏み跡などは皆無でかなり厳しい。私は草も灌木も生えていないルンゼをトラバース中に滑ってしまう。どこまで滑って行くのかな、マズイことになったなと思いながら滑り落ちて行く。だんだん滝壺が迫ってくる中、ガレになってようやく止まった。たっぷりと冷や汗をかかせてもらった。
 実は昨日、片方の渓流シューズのフェルトが剥がれてまるでフリクションが効かない事態になっていたのだ。自分でフェルトを張り替えたものだが今まで何度もやっていて失敗したことはなかったのだが今回は大失敗だったようだ。やがてもう片方も剥がれてしまい、剥がれたフェルトは焚き火に放り込まれることになる。
 雑魚どまりを捲き終って沢床へ戻ると先行していた3人パーティが右岸から捲いて降りてくるところだった。ここから我々が先行することになる。直ぐに崩壊した雪渓が現れるがここは難なく脇をすり抜けることができた。その先には釜を持った2mくらいの滝がでてくる。釜が深く取り付けそうにないので左岸より捲く。しばらく行くと妖しい冷気と共にスノーブリッジの出現だ。両側が接地しており出口も見えているので大丈夫だろうと急いで潜り抜ける。
冷気と共に現れたスノーブリッジ  左側に流水溝のような溝がある2段の滝を右岸より捲くと魚留の滝10m直瀑となる。一見して登るのは不可能と判る。参考にした記録ではこの滝は左岸を捲いている。左岸を捲くには下の流水溝の滝を降りなければならない。右岸を探ってみると捲けそうだったので下の滝は降りないでそのまま右岸を捲いた。一息つく間もなく直ぐに12m滝直瀑だ。これも登れそうもなく左岸より捲く。今日はここまで登れた滝は一つもない、全て捲いている。
 15m滝を捲いて越えると特徴のある15m銚子ノ滝が出てくる。末広がりのスダレ状で美しい。これも左岸より捲く。
銚子ノ滝  時刻も15時近くなってきたのでそろそろ幕場を見つけなければならないが良い場所はなかなか見つからない。小滝を捲いて越えた標高950m付近にわずかなスペースを見つけて何とかタープを張ることができた。増水したらアウトだが雨は降りそうもないので大丈夫だろう。焚き火をするスペースがないので焚き火は沢の中の水が流れていない所で行う。
2日目の幕場 増水したらアウト

14日 曇り
 今日は昨日とうって変わって登れる滝が多くなり快調に高度を稼いでいく。8m滝を捲いて沢が大きく蛇行して南に方角を変える辺りは広範囲に雪渓で埋まっている。雪渓はまだ安定しており危険は感じられない。
 水が涸れると両側はニッコウキスゲが咲き乱れる草原となり、その中を一本の小路のように続く沢形を辿っていく。遠くになだらかなピークが見えてきたので朝日岳かなと思ったが、それは主稜線から朝日岳へ至る尾根を分けるピークだったようだ。詰めは恐ろしく急傾斜な草付きで早めに左右どちらかへ逃げれば良かったと後悔する。
草原の中の小路となった生保内川  11時30分、羽後朝日岳に到着する。ほぼ同時にマンダノ沢を登ってきた2人パーティが到着。宮城から来たと言うこの人達にグレープフルーツをもらう、旨かった。少し遅れて部名垂沢ルートから軽装の登山者達も到着。つい先ほどまで誰もいなかったと思われる山頂は大賑わいだ。マンダノ沢を登ってきた人の情報によればマンダノ沢に雪渓はないとのことで安心する。彼らは部名垂林道に車を置いてあるので部名垂沢を降りるのなら車の回収をサポートしてあげてもよいと言ってくれた。その言葉に我パーティのメンバーは心が傾いているようで、「そうさせてもらいましょうか」と私が言うのを待っているかのようだ。しかし、そうはいきません。初志貫徹で我々はマンダノ沢を下降しますと申し出は辞退する。
 トンボが群れ飛び、白・黄色・紫の花が今を盛りと咲き乱れる山頂を後にして天狗ノ沢(上天狗沢)源頭を目指す。山頂から踏み跡を下降し始めるとすぐにマンダノ沢を溯行してきたオジサン、オバサンパーティとすれ違う。しかし山には若い人がいないねえ。踏み跡はすぐになくなり、適当に深い藪を掻き分けて下降する。20分程で枝沢に出てすぐに天狗ノ沢の本流に着いた。適当に下降した割には結構すんなり辿り着くことができた。
 しばらくは大きな滝もなくナメの多い沢を下降していく。但し、時々出てくる滑り易い黒い苔には要注意だ。それでなくても私の渓流シューズはほとんどフリクションが効いていないので油断して何度も痛い目に遭う。天狗ノ沢も半ばを過ぎると滝が多くなってくる。よく探せば踏み跡を見つけられるので捲いて下れる。出合の7m程の滝を左岸から捲いて下ると見覚えのある二俣に到着。よく整地された幕場にタープを張る。この日はなぜか焚き火が勢いよく燃えてくれなくてショボショボの焚き火だった。

15日 晴れ
 3年前に下降しようとしてできなかったマンダノ沢下降への再挑戦だ。二俣からいきなり巨岩帯が始まる。巨岩帯は登るのも疲れるが下降もまた大変で体力の消耗が激しい。右に左にと踏み跡を探して捲いて降りる場面が多い。二俣から1時間強でジャジャ淵(蛇体淵)に着く。私がマンダノ沢下降に拘った理由の一つはこのジャジャ淵を見てみたかったからだ。淵の下流の右岸には広くて平らな良い幕場もある。
マンダノ沢のジャジャ淵(蛇体淵)  ジャジャ淵の下は少しの間だけ河原となるが直ぐにまた巨岩帯となる。30分程下降した所で単独で溯行してくる年配の方と会う。彼は天狗ノ沢を登って朝日沢を下降する予定だと言う。更に延々と巨岩帯の下降を続け、出発から4時間弱で堀内沢との出合に着く。以前堀内沢を下降したときは2時間半程度で林道まで行けたので今回もその程度で行けるかと思っていたがとんでもない、1.5倍くらい時間がかかった。前回というのは10年前のことでその間にすっかり衰えてしまったということか。
 夏瀬林道から夏瀬温泉へ向うために小玉川林道へ入る。小玉川林道は所々崩れている箇所もあるが山道だと思えばどうということもない。玉川に架かる吊橋を渡り15時丁度に夏瀬温泉に到着した。
 夏瀬温泉は近くまで来たことは何度かあるが立ち寄るのは初めてだ。ここの一軒宿は何年か前に廃業したのだが、乳頭温泉のどこかと提携(実質買収か?)し「都わすれ」という名前で高級温泉旅館に生まれ変わって昨年オープンしている。別棟で休憩所が無料で解放されていて小汚い我ら山屋には有難い。ここでタクシーを呼んで車の回収を行う(携帯は通じないので旅館の公衆電話を使う)。
 車の回収を待っている間、休憩所でシトナイ沢へ入ったという単独行の人と少し話したがシトナイ沢も雪渓が凄くて止めて戻ってきたそうだ。ちなみにその人は生保内川へ行く積りで間違ってシトナイ沢へ入ってしまったそうだ。
 車が来てから入浴料500円の温泉に入り、風呂から上ると既にかなり遅い時間になっていたので半端な時間に帰ると電車がない時間になるので朝帰りすることにする。盛岡に出ていつも寄る店で焼肉と冷麺を食べてから帰途に就く。

夏瀬温泉へ続く吊橋
〈コースタイム〉
12日 大平トンネル発(8:10) → 林道(8:45) → 入溪(9:20) → 幕場(12:10)
13日 出発(07:20) → 滝又沢出合(08:20) → 根菅沢出合(09:20) → 雑魚どまり(10:10) → ショトメノ沢出合(12:45) → 赤倉沢出合(13:40) → 銚子ノ滝(14:40) →幕場(15:10)
14日 出発(07:00) → 朝日岳(11:30~12:00) → マンダノ沢二俣(泊り)(15:05)
15日 出発(06:20) → ジャジャ淵(07:30) → 堀内沢出合(10:10) → 夏瀬温泉(15:00)

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