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富士山・執杖流し
アルプス別所

山行日 2006年8月19日~20日
メンバー (L)別所、野田、佐藤、鈴木(章)、(楢原)

 仙塩尾根を踏破して三峰(みぶ)岳への稜線に出たとき、影絵のような富士山を見て「来週はあそこですね!」と疲れた中にも、ヤル気の言葉を発したのは先輩シニアの野田さんだそうだ。
 その野田さんと月曜日に南アの仙丈~蝙蝠岳縦走を終えて土曜の11時に八王子に集合してくれたのは章子さん。そして今回の計画に興味を持って、前から参加を申し出ていて、車を都合してくれたあきらさん。ルームで希望され参加が決まった楢原さん。以上4名と私で計5名が今回のシニア山行メンバーです。

8月19日
 夕食材を買い終えて、午後3時に富士宮五合目登山口に到着した。
 ここの駐車場は車道に沿って車が斜め一列に10台20台と駐車出来るスペースが何箇所にも分かれてトータル500台止まれる駐車場であった。従って、登山口に近い駐車場と遠い駐車場では距離と高低差がある。タイミングもあってか、幸いにも登山口近くに我々は車を駐車でき、近くにテント場も確保した。
 例によって、楽しい夕餉に入る。しかし此処は、標高2,400mそして明日は3,776mの剣ヶ峰まで登るのである。中国の大姑娘山から帰ってきたばかりの章子さんに"高所登山では、酒とタバコは禁止だよ"*と何度も言われたにもかかわらずビール、チュウーハイ、日本酒と飲んで、ご機嫌でシュラフに入りました。
*:実際翌日、登りの遅い人(別所)がいました。

お中道を行くお中道と執杖流しの出合い

8月20日
 5時に登山開始、富士宮登山道を六合目まで辿る。その道は朝早いのに拘わらず多数の登山者が上下していた。
 六合目小屋跡からはお中道に入り、左方向に踏み出す。そこから1時間半弱で、執杖流しの出合い(約2,560m)に着いた。
 お中道は初めて辿ったが、影富士を追うように日陰の中を多少上下して歩いた。さすがにこの高度、暑くなく駿河湾方向と南アルプスの景色を楽しめた。普通、初めての沢の取り付きを見つけるのはたいていドタバタするのだが、今回は「案内書」*のおかげで問題なくたどり着きました。
*:今回の山行には、野田さんの知人の大貫先生から"登攀注意事項"「案内書」を頂いており、全面的に参考にさせてもらいました。

 執杖流し(しつじょうながし)は幅20m位の岩床が富士山の頂上目がけて、千メートル以上も斜上しているスラブの沢である。
 名前の由来は知らぬが、確かに沢である、しかし川床から両岸ともそんなに立ち上がってない、場所によっては川床と岸が同じ高さである。即ちこの「流し」は火山流が流れ下り、固まった跡である。と私は理解した。

沢登り(下から)こんなゴーロ状もあり

 剣ヶ峰までは途中3回の休憩を経て、11時半過ぎに到着した。美味しいみかんをいただき休憩し、周りを見回すと、日本一の山に登ったと喜んでいる人と、くたびれちゃっている人達で混雑していた。

頂上建物が見えてからが長かった剣ヶ峰 3,776m

 12時 記念写真を撮って下りに入る。八合目辺りから霧雨が降り出し、14時15分に五合目駐車場に着いた頃には本降りになっていた。
 下りに使った富士宮コースは登り下りとも、同じ登山道を使うので、我々は下りながら、他の登山者とすれちがったり、追い抜いたりした。また、そこでは登山者が、青ざめた顔色でうずくまったり、道に伏していたり、よろよろの足取りで歩いていたりして、富士山登山模様を展開していた。
富士宮登山道(人気も日本一?)  今回の登山は、天候に恵まれ、無事帰還することが出来ました。お試しの楢原さんは問題なく踏破されました。章子さんは連投の疲れも見せず、快調に登ってました。あきらさんは上方、下方からシャッターチャンスを覗い、コースのアドバイスを含め、全般に渡って気使いしてくれて、リーダーはとても助かりました。
 リーダーの別所は皆から置いていかれ、休憩毎に皆様をお待たせしました。夏の富士山頂へ他の誰とも会わずに登頂できたことは愉快であったし、バリエーションルートの恩恵、魅力であると思いました。

 資料を収集して下さった、野田さん、ありがとうございました。

沢登り(上から)
スラブの凹みに溜まった火山礫に乗ると滑る上部では岩稜を行く
執杖流しの沢登りについて
(1) 沢は一直線に3,776mの頂上まで約1,200mの落差をもって続いている、多少左右凹凸があって、頂上のドーム跡建造物が途中見えなかったりするが、大きな紆余曲折が無いのである。
(2) 沢床はスラブであるが、靴底を乗せる凹凸がいくらでも見つけられ、ホールド、スタンスとも豊富で初級の岩登りが数時間続く状況である。
(3) 途中からゴーロ帯が出てくるが、沢中を辿ったほうのが、足場が得やすいと判断した。沢中を外すと火山礫ダマリやもろい岩に接することが多いと思う。
(4) 但し、沢中は落石に遭う可能性は高いかもしれない。落石は5m以内で止まればなんとも無いが、いったん弾んでスピードが付いたら手が付けられないだろう、砲弾となる。
(5) 山頂近くになると、沢の形体は消えて、斜面に成ってしまう、火山礫と岩稜がミックスしてくるので、岩場を選んで登った。火山礫斜面はずり落ちるので、登り辛い。3,500mの高度で足を捕られると、ほんとにイライラする。
(6) 登山はグループが固まって行動すべきである。起こした落石に遭わない為にも。もし他のグループが居たら、いっしょに登るか、後塵を拝した場合は、諦めるか、2,3時間後にスタートすべきだ。スラブを数百メーター落ちてきた落石はヘルメットで受けきれないでしょう。沢に曲がりがない。
(7) 雨中では両手を使っての登降になりそうである。もし途中で降られたら、登頂か下山か短時間の方を選ぶことになるだろう。しかし、水の流れるスラブを上下するのが容易かどうか、試す機会が無く、不明である。
(8) もし雨が強く、スラブが滑滝のようになったら滑落の危険が増し、より困難になるでしょう。場合によっては、岩と火山礫の濁流が下り来るかも知れない。
(9) このルートは古いマップに6時間の登行と記されている。昔は登られていたのかもしれない。
(10) 無雪期に少人数の山屋さんで登るとすれば上記の"落石"の心配と天気があるが、静かで一般登山道と違った雰囲気の富士登山になり、得をした山行になるでしょう。
以上
岩稜を選んで登る

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