トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ322号目次

剱岳・長次郎谷~北方稜
山崎 邦子

山行日 2006年9月30日~10月2日
メンバー (L)金子、荻原、越前屋、山崎

 今年GWの剱岳北方稜線全縦走は、私にとって忘れられない山行となった。残雪時の北方稜線の厳しくも美しい光景に感動し、また、長期の難コース縦走を成し遂げることができたパーティーの素晴らしさも実感した。
 特に印象深かったのは大窓、小窓、三ノ窓と雪壁の登り下りが連続する剱岳の稜線。「快適な雪稜歩き」とはほど遠く、私は越えるだけで精一杯だったが、同時に「この雪がなかったらどんな景色、コースなのだろう」という興味もわいてきた。雪のない時なら、少しは余裕を持って景色を堪能できるかも・・・。裏剱・仙人池あたりの紅葉も見事だと聞くし、これはぜひ秋に歩きたい! と、下山してほどなくリーダー金子さんに計画を依頼。「無雪期の剱岳は行ったことがない」という信じられないお言葉だったので「裏剱の紅葉もいいですよ~」と口説いて、ありがたいことに計画していただいた。しかも、平日に一日休まなければならない計画なのに、荻原さん、越前屋さんという強力メンバーも加わり、心強い限り。早速リーダーから指令が来た。
 L「キミのために計画したのだから、食当、岩つばめの原稿はすべて任せるよ」
 私「はい、何でもやります!」
 L「長次郎谷雪渓と小窓雪渓の状態を調べて」
 私「はい、了解しました!」
 ということで、事前に真砂沢ロッジと富山県警山岳警備隊に問い合わせたところ、「今年は雪渓の状態がとても安定していて、10本ヅメアイゼンとピッケルがあれば問題ない。長次郎谷上部は右俣も左俣も雪が消えているので、シュルンドに気を付けて」とのことだった。あとは天候次第。無雪期とはいえ剱岳北方稜線、悪天なら縦走を断念するしかない。
 9月29日23時、越前屋さん号で八王子を出発し、扇沢のターミナルに2時45分到着。30分ほど寝酒飲みつつ歓談し、就寝。さほど寒くないので建物の隅にザコ寝する。それから朝方までは、観光バスや観光客の出入りが激しく、うるさくてあまり寝られなかった。
 9月30日、快晴だ。始発7時のトロリーバスに乗る。紅葉シーズン到来とあって、すごい観光客の数だ。我々のような大荷物の登山者はあまりいない。北アルプスはもう一般の登山シーズンは終わりなのだろう。黒部ダムまでの往復バスチケットは2500円(バラバラで買うより少し安い)、10kg以上は荷物代がかかり、片道210円を支払う。
 20分ほどで黒部ダムに到着。登山者用出口から林道に出ると日陰でひんやりとする。準備を整えて出発。まずは黒部川畔まで林道をぐんぐん下る。なるほど、最後にここを登って帰るのはウンザリかも(GW最終日、皆がこっちに来るのを反対したのも納得)。雪の時期と全然コースが違う・・・と金子さんがブツブツ。積雪期は水路の上をまっすぐ下るので早いが、無雪期はジクザグと下る。河畔に出て橋を渡り、黒部川に沿った水平道へ。ここから見上げる黒部ダムの観光放水は迫力満点だ。
 ゆるやかなアップダウンを繰り返しながら1時間ほどで内蔵助谷出合に到着。ここから右へ進むと下の廊下だが、ロープが張られて「通行止め」の看板があった。今年は雪渓がかなり残っていて危険、橋が崩壊して修理中と書いてある(※10月21日にやっと開通)。我々は左の内蔵助谷に沿うルートへ。この先は内蔵助平まで約2時間の登りで水場が無いので、ここで沢水を補給。やがて目前に丸山の東壁が迫ってきた。それを見上げて男性3人は登攀談義に盛り上がっている。私にはあの絶壁を登るなんて想像もつかない・・・。
黒部の巨人・丸山の東壁  一般登山道ながら内蔵助平までの道は思ったより悪い。まずは沢の中の岩場を登る。雨や雪に持っていかれたのか、ところどころ崖が崩れていて、落石に注意しながら進む。矢印はあるがどこでも歩けるようでルート取りがややこしい。樹林帯に入るとコケむした岩や木の根の滑りやすい急登になる。鎖が付けられたいやらしいトラバースも何カ所かあった。
 晴天なのはうれしいが、登りはかなり暑い。日陰ではマイクロフリースを着ていて丁度いいが、日差しを浴びると汗だく。これが曇ったり雨になったりすれば一気に寒くなる。秋から初冬の山の怖いところだ。
 汗を拭き拭き急登し、やがて道がなだらかになると、内蔵助谷にかかる立派な鉄橋を渡って内蔵助平に到着。雪渓の雪解け水なのか、このあたりの道は水があふれてまるで沢状態。小広場になっている真砂岳への登山道分岐で一服し、さぁ出発という時、私のデジカメ充電器が無いことに気づいた。ついさっきまで写していたので落としたばかりだ。皆に待っていてもらい、最後に写真を撮った所まで空身で戻ると道の真ん中にポツンと落ちていた。往復20分ほどのタイムロス。8月の生保内川では、朝日岳下りのヤブ漕ぎでデジカメ本体を落としてしまったし、どうも今年はカメラ運が悪い。三度目に気をつけねば・・・。
 ここからハシゴ谷乗越までは涸れ沢の中を行く。石がゴロゴロの道に直射日光が注ぎ、反射して暑い!「まるでアスファルト道路だ~(汗)」と愚痴もでる。最初はダラダラの登りで標高も上がらないからよけい長く感じる。やっと斜度が出ると今度は大岩帯で腿上げの連続。暑さと腿上げで、久々の縦走だという荻原さんは足をつってしまった。ベテランでもその時の気候や健康状態によって何がおこるかわからないのも山。暫らく休憩したら無事復活したので、一気にハシゴ谷乗越へ。
 乗越ではすぐ傍らの展望台に寄る。晴天だから眺望は抜群だ。剱岳本峰は見えないが、八ッ峰の一端(多分)が目前に見え、北には池ノ平山から仙人山。明日の目的地、池ノ平小屋もよく見える。東には黒部別山とその後方に爺ヶ岳。紅葉も思ったより進んでいて、ツツジやカエデなどの赤、黄が美しい。
 ここまで来たらあとは真砂沢まで下るだけ。地図にはコースタイム約1時間半とあり、先が読めたので「のんびり行こうよ」なんて言いながら下るが、皆早い。下りが特急になるのはベテラン山屋の性(さが)らしい・・・。ハシゴ谷の名の所以なのか、何カ所もハシゴがあり一気に標高を下げていく。その後も残置ロープのある急坂が続き「帰りはここを登り返すのかぁ~」とゲッソリしたが、とにかく今日は真砂沢ロッジに着いてゆっくりするのが先。やっと時間的にも体力的にも余裕が出てきたのでキノコを探してみると、ナラタケがあちこちに出ていたので採りながら下る。
 真砂沢出合いで木橋を渡り、左岸の河原を登ってロッジへ向かう。真砂沢に出た所に「ロッジまで15分」の標識があったのでもうすぐだと喜んでいたら、出合いから30分以上もかかって到着。すぐだという期待があっただけに何だか最後はドッと疲れてしまった。
 とにかく、まずはビールで乾杯。もうすぐ小屋終まいだということで「本日のみビール400円」。やった~! 小屋前のテラスベンチに座って本日の慰労会。「へぇ~、いつも雪に埋まっていて見たことなかったけど、真砂沢ロッジってこうなっているのかー」と感慨深そうな金子さん。そういう方は珍しいかも?
 真砂沢ロッジは小屋というより石室のようなたたずまい。正面に剱沢が一望でき、圧巻だ。確かにもう9月末だというのに割れ目も無くびっしり雪がついている感じ。剱岳から下ってきたツアー客に状況を聞いたら、とても歩きやすかったとのこと。彼らは6本ヅメアイゼンだったし、まずは心配なさそうだ。
真砂沢ロッジのテンバ場にて  テントを張った後、しばらく日向ぼっこしながら外で宴会をしていたが、日が陰ってくるとさすがに剱沢から吹き降ろす風は冷たい。夕食はテント内ですまし、本日は寝不足&8時間行動&明日本番の早出につき、18時過ぎには就寝となった。ZZZ・・・
 10月1日、3時起床。今日は行動時間が長く、はっきりとコースタイムも読めないので、朝食はお茶漬けで素早くすませて早発ちを心がけた。真砂沢の小屋オヤジ情報では、5時半の日の出頃に長次郎谷出合いにいると良い、そうすれば一日で池ノ平小屋までは問題なく行けるとのこと。真っ暗の中、アイゼンを装着し、ヘッドランプを点けて4時半に出発。
 テン場からすぐに剱沢に入る。雪面は硬く締まっていて歩きやすい。アイゼン、ピッケルもよく効く。私は10本ヅメ、荻原さんと越前屋さんは12本、なんと!金子さんは14本ヅメだ。GWの北方稜線で紛失してしまい「これしかなかった」そうだが、初めて見た。見るからに重そうで、それが夏山靴に装着されているのは何だか不思議。さすがに今回は重量感たっぷりで紛失することは無さそうだ。
 越前屋さんがトップでぐいぐいと登り、長次郎谷入口には30分ほどで到着。ようやくうっすらと空が白じんできた。この辺りから金子さんが遅れだす。アイゼンの重さのせいか、どうやら靴ズレ気味らしい。後で聞くと「少しめまいと吐き気もした」とのこと。皆で「高山病だ~」と笑って片付けたが、当の本人としては辛いところだったと思う。
 長次郎谷の雪渓もしっかりしていて快適に歩を進める。やがて正面彼方に熊の岩が見えたころ、右側(東)の八ッ峰の際から朝日が昇り、源次郎尾根や下方の山々を紅く染めだした。その荘厳な景色に感動し、しばらく足を止めて見入る。うす曇りだが眺望はいい。今日もなんとか天気は持ちそうだ。
長次郎谷左俣へ  上部にくると、ところどころ雪渓が切れ出し、熊の岩の下あたりからは岩場も出始める。岩場のアイゼン歩きに手こずりながら左俣へ。この先はどうやら雪は無いようなのでアイゼンを外し、ピッケルをしまう。水もここで補給する。遅れていた金子さんと合流し、長次郎谷の最後の詰めに突入。アイゼンを外して歩きやすくなると思いきや、ここが本日第一の核心部だった。道らしい道の無いズルズル&ザラザラの超悪ガレ場。少しでも悪いところに入るとすぐに落石をおこしてしまう。4人がそれぞれ距離を置き、微妙にズレたルートで登ったので「ラーク」を回避できたが、とにかく足場が不安定で、最後尾の金子さんはいつ上方から石が落ちてくるかと冷や冷やだったろう。私は八ッ峰側の岩壁を伝って登ったが、手で壁を押さえながら登れたので、壁の落石に気をつければ比較的登りやすいルートだったと思う。
 そんな苦闘の末、やっと長次郎のコルに到着。胸をなでおろすと同時に雪渓の歩きやすさも実感。「やっぱり雪山の方がいい」と私以外の面々は思ったに違いない。

長次郎谷上部のガレ長次郎のコルから八ッ峰を望む

 コルに出ると西側の展望が望めた。直下には池ノ谷が切れ落ち、その横には早月尾根が張り出し早月小屋も見える。コルの両側には岩峰がそそり立ち、なだらかな鞍部に思えたGWの雪景色とはまったく異なる景色がそこには広がっていた。
 コルに荷物をデポし、空身で剱岳山頂を往復。GWの記憶を呼び覚ましながら道をたどる。雪壁を直登してすぐだったと思っていた道も、無雪期は岩の間を抜けながらジクザグ登るので20分ほどかかった。よく見ると岩場に小さな矢印が付けられている。
 山頂9時半着。混雑というほどではないが、別山尾根&早月尾根からの登山者が祠の前にたむろしていた。越前屋さんが「人が多くて嫌だ、写真撮ってさっさと行こう」と急がすので、登頂の余韻に浸る間もなかったが、確かに今回は登頂して終わりではなく、これからの北方稜線縦走が目的。祠の前から山名看板を拝借して記念撮影、立山や毛勝三山の眺望を満喫して長次郎のコルへ戻る。
剱岳山頂・看板を拝借!  いよいよ「北方稜線・秋」に突入だ。私以外は「一般の道だよ」と呑気に構えているが、念のため全員ハーネスを装着。一応、知人の情報では懸垂下降もザイルを出すところもないとは聞いているが、それでも内心ドキドキだ。まずは金子さんトップでコルから長次郎ノ頭へ岩場を登るが、いきなり道が切れていて引き返す。数メートル下方のルンゼに残置ロープが見えたというので、長次郎谷を少し下ってルンゼから登る。最初から道が不明瞭とは「これは大変かも・・・」と思ったが、以後は迷う所もなく、また申し訳なさそうに小さなペンキ印もあって(山頂に北方稜線進入禁止の看板がある以上、大々的にマーキングはできないらしい)、難しいルーファイをすることなく、スムーズに縦走することができた。
 以後、池ノ谷乗越まで荻原さんトップ、越前屋さん、私、金子さんの順で進む。縦走路は思っていた以上に普通の道で歩きやすかった。もちろん岩稜帯で気を抜けないが、岩棚が格好の登山道になっていて快適だ。天候もまあまあで、後立山連峰(白馬、五竜、鹿島槍まで)がバッチリ見え、GWに歩いた毛勝三山の稜線も一望のもと。見回せば剱尾根や小窓尾根など360度が剱岳の岩峰で、もちろん登れはしないけれど、それらを間近に仰ぐ贅沢な場所にいることの快感、そして感動・・・と、ウットリ景色を眺めている私の横で、男性3名は現実的な登攀計画を練っているようだ。とても話に付いていけないので、ひたすら私は景色を満喫することに専念した。もう二度と来られないかもしれないしね。
 今回最も嫌らしいと思ったのが池ノ谷乗越への下り。ほぼ垂直に近い(私はそう感じた)壁で高度感もけっこうあった。滑落したらもちろんアウト。上部は斜度も比較的ゆるく、手、足のホールドもしっかりあって難なく下れたが、池ノ谷乗越まであと少しという下部にはホールドがあまりない。下から単独登山者が登って来たので、落石の心配から先に行ってもらうが、その間、岩にへばりついて足場を探す。「ちょっと怖いなぁ・・・」と泣きごとを言いながら何とか池ノ谷乗越に降り立つ。かなり足場と足場の間隔が広かった。こんな時は身長とスタンスがあって良かったと思う。
 池ノ谷乗越からは池ノ谷ガリーの長い下りだ。GW時はこの雪壁直登がとても印象に残っているので、景色もよく覚えている。正面には小窓ノ王が望めた。「あの小窓ノ王下のバンドをトラバース気味に懸垂下降したっけ」。池ノ谷乗越から見ると、そのルートはとても急峻に見えた。「まさか、あそこを登るんじゃないよね・・・」。しかし、ルートはほぼGW時と同じだった。池ノ谷ガリーの道は三ノ窓までGW同様、チンネの側壁に沿ってついている。今回違うのは雪壁の登りではなく、かなり不安定な岩クズのザレ道を下るということ。道は長次郎谷のザレ場以上に細かい岩石が体積し、浮石&浮き砂状態。踏み込むと足を持っていかれそうになる。斜度もあり、とにかくバランスを取りながら素早く下るしかない。
 しかし、そこは皆様さすがベテラン、どんな道でも下りの早いこと。三ノ窓着12時少し前で「だいたい予定通り」とリーダー。ここまでくれば時間も読めて、池ノ平小屋には14時過ぎには着くだろうと想定。チンネの大岩壁を見上げながらゆっくり昼食休憩を取った後、小窓ノ王下のバンドを登る。近づくと池ノ谷乗越から見た感じより実際は傾斜がゆるく、雪山登山者が残置したロープも張られていて案外簡単に登れた。つくづく急斜面は下るより登る方が楽だと思う。
 登りきって振り返ると、池ノ谷ガリーの壁が目前に広がる。GWもここから雪壁のガリーを見渡し、その雄大さに圧倒されるとともに「いったいどこを登るのー?」と、多大な疑問も抱いたのだった。そうそう来られない場所に季節を違えて二度も立ち、こうして景色を見比べることができてとても感慨深かった。

GWの池ノ谷ガリー(2006.5.5)小窓王下から望む池ノ谷ガリー(2006.10.1)

 ここからは小窓ノ頭から池ノ平山への稜線通しのルートもあるが(GWはこちらを歩いた)、我々は東斜面の草付きをトラバース気味に下って小窓へ。実は、当初計画では池ノ平山も踏んで池ノ平小屋へ下る予定だった。しかし前情報で「池ノ平山稜線はヤブ漕ぎになるから、行くなら鋸を持参するといい」と言われ、リーダーともども「ヤブ漕ぎは嫌じゃ、却下。小窓雪渓下ろう」となった次第。
 ここまでくると道はもう普通の登山道。途中には木イチゴの実もなっていて食べながら下る。一カ所、幅2~3メートルの雪渓トラバースがあり滑落に要注意と聞いていたが、かなり溶けていて幅1メートルも無かった。多分、夏まではかなり残っているのだろう。
 この辺りから雲行きが怪しくなり、ミゾレ混じりの小雨が降り出した。天気予報通りだ。金子さんは上下しっかり雨具を装着。他3名は上だけ着たが、着た途端やんでしまった。金子さんが雨具を脱ぐとまた降りそうなので、脱がないで下さい! 命令を一同で出し、小窓雪渓へ。ここからはGWに懸垂下降で小窓に降りた池ノ平山の壁がよく見える。小窓ノ王とチンネを間近に仰ぎ、小窓ノ頭への稜線を歩く人影を見て、ここでも「ど、どこを登るんだろう・・・?」とビビりながら思ったっけ。
 雪渓取り付きで再びアイゼンを装着。小窓雪渓は広々として傾斜もゆるく、下るには格好のルートだ。快適に下っていたらアッという間に池ノ平小屋への分岐・旧鉱山道入口に着いてしまった。「気持ち良く下っていたのに、20分も歩いていないぞー!!」と越前屋さんが怒りの声。「2万5000分の1地図にかかれているルートよりかなり上だね」と荻原さん。「でも右手の三の窓側から滝が落ちています。この滝を過ぎてしまったら下り過ぎと聞いていたのでここだと思います」と私。登り口の岩には大きな○印のマークもあり間違いない。しかし、このマークはガスった時には見逃しそうだ。いつしか雨足は強まってきたが、何とかまだ視界はきいていたので良かった。
 アイゼンを外して旧鉱山道に入る。あまり良い道とはいえず、トラバースの岩は崖側に傾いていて滑ったら落ちそうで嫌らしい。最初はなんだ、この道は・・・という感じだったが、やがてしっかりと鎖やロープも張られた良い道となり、眼下に平ノ池が見えるとほどなく小屋に到着。既に雨は本降りだったが、振り返ると裏剱の岩峰が何とか見えた。しかし明日の予報は雨。今回の私のもう一つの目的だった『池越しに見る紅葉の裏剱』は断念。
 小屋到着15時。今日は10時間行動、さすがに疲れた。雨の中、すぐにテントを張る気力もないので、まずは小屋に入って毎度のビールで乾杯。ストーブが焚かれていて暖かい。数人の登山客がコーヒーを飲みながらくつろいでいる。テント泊は我々だけだ。誰かから「たまには小屋泊まりもいいよね~」と出る。たまにはそれもいいと思う。しかし、今回は却下。温まったところで暗闇の雨の中、テントを設営。無事に北方稜線を縦走できたことに乾杯し、夕食&宴会タイムへ。
 夜半から雨はますます強くなる。明日は下るだけだから雨でもまぁいいか。天候が一日違いじゃなくて本当に良かった・・・。縦走の余韻を胸に20時頃就寝。
 10月2日、朝から雨。今日も総合的なコースタイムが読めず、トロリーバスの最終時間に間に合わないと一大事なので「5時出発」とのリーダー命令。しかし大雨に暗闇では危ないので、明るくなるのを待って結局5時35分に出発。周囲は真っ白、裏剱の岩峰はまったく見えない。でも、ここは別コースでまた来ることができる。紅葉の絶景はまたの機会にとっておくことにしよう。
 二股までは北股コースと仙人新道の2コースあるが、前者は雪渓が残りあちこち割れていて危険ということなので新道を下る。剱沢まで下る道はかなりの急降下だ。ところどころ展望が開ける場所にはベンチもあって、天気が良ければ裏剱を目の当たりにできるはず。残念! そんな景色を想像する間もなく、どんどん下るリーダー。1ピッチで二股まで下ってしまった。ここから真砂沢の丸太橋までは河原のゴーロを行くが、増水したらやばそうな道だ。ほとんど平行移動なので1時間弱で懐かしい真砂沢出合に到着。あとは初日来た道を黒部ダムまで戻るだけだ。長そうで辛いなぁと心配していたハシゴ谷乗越の登りも意外とスムーズで、どんどん歩を進めるリーダーのペースで内蔵助谷出合までアッという間に着いてしまった。まぁ~雨で眺める景色も何もないので、ひたすら下るしかないのだけど・・・。さすがに黒部川からダムまでの登り返しには一同ヘロヘロ。しかし、結果的にはトロリーバスの最終17時を心配するどころか、黒部ダムには13時半には到着。遅いより早いに越したことはない。ビショビショに濡れた服をトイレで着替え、コーヒー飲んでホッと一息。観光客でごった返す駅構内で現実世界に引き戻されつつ、トロリーバスで扇沢へ。薬師の湯に入浴し、帰途に着く。
 三日間とも比較期余裕のあるコースタイムで歩けて、少しでも足手まといにならないよう軽量化を図った甲斐があった。また、つくづく今回もGW同様、天候とメンバーに恵まれて縦走できたと思う。感謝と感激でいっぱいだ。メンバーの皆さん、お世話になりました。ありがとうございました。
 剱岳はやはり素晴らしい山だと思う。私と天候の相性もいい(と思いたい)。今度はいつ、どのルートに行こうか。自分のレベルを考えながらこれからも剱岳のいろんなルートにチャレンジしていきたい。

〈コースタイム〉
9/30 扇沢(7:00) ⇒ 黒部ダム(7:20) → 内蔵助谷出合(8:20) → 内蔵助平(10:30~10:45) → ハシゴ谷乗越(12:30~12:45) → 真砂沢出合(14:10) → 真砂沢ロッジ(15:00)
10/1 起床(3:00)・真砂沢ロッジ(4:30) → 長次郎谷出合(5:00) → 左俣入口(熊の岩)(7:30~7:45) → 長次郎のコル(9:00~9:10) → 剱岳(9:30~40) → 長次郎のコル(9:55~10:05) → 長次郎ノ頭とチンネ間の幕場(10:50) → 池ノ谷乗越(11:25) → (池ノ谷ガリー) → 三ノ窓(11:50~12:00) → 小窓雪渓取り付き(13:40) → 旧鉱山道入口(14:00) → 池ノ平小屋(15:00)
10/2 起床(4:00)・池ノ平小屋(5:30) → 二股(6:40~50) → 真砂沢出合(7:40) → ハシゴ谷乗越(9:05) → 内蔵助谷出合(11:00~11:10) → 黒部ダム着(13:30)・発(14:20) ⇒ 扇沢(14:40)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ322号目次