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八ヶ岳横岳西壁
その2 石尊稜
竹内 豊

山行日 2007年2月3日~4日
メンバー (L)高橋(俊)、竹内

 『顔面神経麻痺』である。
 山行日まで約一週間前のちょうどルームの日にその痛みはやって来た。普段、頭痛などに患わせられた事がない僕にとってはその痛みは堪え難く、忙しいのに2日も仕事をさぼってベッドにもぐりこんでいた次第である。
 中山尾根の計画は今季の例会のなかで目標としてきた例会である。12月のアイスも事務所の引越で残念ながら参加できず、1月の例会はレベルが高すぎた。今回の計画を逃したら、シーズン終わっちゃうジャン!とあせり、行く事を目標に例会の岩ゲレンデに参加し、無理をいって新婚でもうすぐ一子の父となる高橋さん(めでたい!)にも個人練習につきあってもらった。
 そんな思いを知るわけないと思うが、大学病院の医者は「手術をするなら早めの決断が良いと思いますよ」なんて軽く言ってくださる。その顔はムチャクチャ手術したげ(笑)! ちょっとまてよ。入院になったら時間も金もかかるし自営業には死活問題だよとつらつら考えながら、医者の話を聴いた。
 そこで冷静になって、いろんな事を天秤にかける。もうヨメは残念ながらもらってるし、少々、顔がゆがんでいたっていいじゃん。酒が口からこぼれる程度だろ。それよりも今、お前がしたい事はなんだ?・・・。という事で、いつものとおり、高橋隊長に無理いって参加を自分の意志で決めた。
 結果的にいうと『ムチャクチャ楽しかった!』の一言に尽きた。登攀中、雪壁に向かい合い、緊張感の中にも僕の頭の中ではドーパミン(だったかな・・・。)とやらの各種脳内麻薬が出まくりで充実感いっぱいだった。
 2/3 AM7:00 八王子駅南口集合。雲ひとつない空のもと八ヶ岳へ急ぐ。「ホントにいい天気だねぇ。」なんて話しながら赤岳鉱泉に昼過ぎには到着し、幕を張ったのちに中山乗越まで偵察にゆく。石尊、中山パーティ共にルートを確認し、好天の中、八ツの山並を眺めながらお互いに山情報交換。その後、幕場に戻ってお決まりの酒宴。たまには野郎同士で飲むのもちょっと気楽でいいものだ。そのうち調子がでてきて、歌なども飛び出したが周りの事(?)や明日の登攀の事も考えて20:00時過ぎにはシュラフに潜りこんだ。
 その夜、僕らはシュラフの中で荒れ狂う風の音を聞きながら寝た。明日は残念ながら好天は期待出来ないだろう。案の定、5:00に起床してテントの外を覗くと思わしくない空模様だ。湯を湧かし、茶を飲み、朝食の用意をしながらラジオを付け、隊長の判断を待つ。リーダーにとっては胃の痛くなるような時間だろうと想像する。決行か撤退か?
 坪松さん特製のラーメンをすすり終え、『とりあえず行けるとこまで行ってみましょう。』という事に相成った。
 そうなると皆行動は早い。黙々と準備をする。僕なんか緊張の為か、なかなかメットの顎ひもが決まらず、皆を少し待たせるような感じになってしまった。(あとで良く見たら止め具のゴムが食い込むような形になっていて、家に帰って速攻で改造して切った。)
 偵察してあったのでアプローチは問題なく、鉾岳ルンゼに辿りつく。しかし、夜の降雪と風の為にトレースは埋まっている状態だった。膝上とはいえ起きぬけにはちょっとしんどいが、高橋さんと交代しながら高度を稼ぐ。いつもならひとりラッセルだが2人でやると中々楽しい。そうやって雪と格闘している内に後続が1パーティ登って来たが僕らのトレースを使っている割にはなかなか追い付いてこない。僕と同じ新人さんがいるのかな。
曇天の中をラッセル  下部岩壁の下で違う稜線に取り付いてしまった為、やっとここで彼等にほんの短い距離だがラッセルしてもらい石尊稜に上がってもらった。岩壁前でザイルを出し、彼等に先行を譲ったのだが遠慮するという事なのでありがたく頂く。1P目下部岩壁、竹内リード。思っていたラインを引けず。あまり観察せず登るのはまずかった。2P目は高橋さんリード。やっぱり切り方や支点の取り方が上手い。高橋さんは経験だと言うが、果たして僕にもそんな日が来るのかはなはだ疑問だ。
YCC三峰@ACE Shunsuke!  以後、ツルベで登る。途中、リクエストによりカメラを出したのは良いが、それに手間取りザイルワークがおざなりになったり、寒風と顔面神経麻痺(笑)の為、コールが上手く発声出来ず、「ひレぃかいジョ?♪」(※注/ビレイ!解除!)なんて通るのか通らないような発声でホント大の大人が情けなくなってきた。おまけにこれもしょうがないケド、やっぱり麻痺の為、顔面左半分は涙と鼻水がとまらずハンカチで拭いながらの登攀と相成った。
 そんな珍道中を見るに見かねてか雪稜中間部のコルまで来るとあれあれ?。曇天模様だった空がにわかに晴れ渡ってきたのである。天候の回復により、二人とも余裕が出て来たのか、隣の尾根を登攀する荻原隊を見つけ、お互いに「MOTO~!」なんてコールを掛け合い励ましあいながらの楽しい登攀となった。
 上部岩壁下の稜線はコンテで行く。
 そのまま上部岩壁をトラバースして抜けてしまう事も出来たが、好天の為、雪面が若干弛んで来た感覚が僕のなかで不安要素としてあったので岩壁直登ルートに変えてもらう。
 小休止の後、高橋さんリードで上部岩壁突破! 次は竹内がガリーを詰めるがそこはまさに風の通り道で強風のなか、例のごとく涙と鼻水を垂らしながら支点に取り付く。
新人(?)奮闘中!  今思うとトラバースしておけば強風に悩まされる事なく抜けられたが後の祭り。その後はアンザイレンせず稜線まで抜けて石尊峰付近に無事到着し、パートナーの高橋さんと固い握手を交わしお互いの健闘を讃えた。鼻は垂れていたが本当にうれしかった。
 下降には地蔵尾根を使った。「荻原さん達はもう降りてるかな?」なんて会話を交わしながら行者小屋で大休止。
 行動中は殆ど何も食べられなかったのでここでお昼にする。そこから30分くらい歩き幕場のある赤岳鉱泉へ。そこでビールを買い、午後のけだるい日ざしの中、乾杯!
 ほんとにパートナーと飲むそのビールは充実感という味が効いていてウマかった。
 そのうちに先に降りていると思われた荻原隊も合流し、無事を讃えあい、情報を交換して美濃戸口まで駆けるように下山した。
 そして例のごとく、延命の湯につかり、双葉SAで食事をして帰京したわけだが、男5人がカツ丼やら親子丼やら、タンパク系どんぶりを横一列に並んで喰らっている姿は、もしかしたら他のひとには異様に見えたかもしれない。

〈コースタイム〉
BC(6:30) → 下部岩壁取り付き(8:30) → 中間部コル(11:00) → 上部岩壁取り付き(12:00) → 小休止10分 石尊峰(13:00) → 行者小屋(13:50) → BC(14:20)
※コースタイムは記録をきちんと取れなかった為アバウトです。

追記: またまた初体験という事もあり、今回の山行によって自分の中で様々な課題がみえた。初めて試す技術もあり、辛抱強く付き合ってくれた高橋さん、一緒に登りはしなかったけど精神的支柱となってくれた仲間達に感謝したい。これからもよろしくです。


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