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阿弥陀岳北稜
平 真里

山行日 2007年2月10日~12日
メンバー (L)紺野、小幡、高木、竹内、野口(愛)、平

 この2年、正月は赤岳の山頂から雪の阿弥陀岳を仰ぎ、その姿の良さに見とれていた。この阿弥陀北稜と南稜が、雪稜入門コースと知り、行く機会をうかがっていた折、ルームの後、酔った数人に約束をとりつけて、実現となったのが今回の山行である。

2007年2月10日(土)晴れ
 渋滞で談合坂へ30分遅れで(9時半)集合。美濃戸駐車場にも車が溢れていた。南沢から行者小屋前へ。15時半くらい着。幕営料は、1000円だが、水はもらえるし、トイレもある。小屋はこの連休中は営業とのこと。

2007年2月11日(日)曇り
 5時前起床。トイレの行列に思わぬ時間をとられるが、6時50分ごろに出発。昨夜少し雪が降ったらしい曇り空。文三郎尾根に向う道は、迷うことのない登山道。赤岳に向う登山者とともに登ると間もなく北稜の取り付きへの分岐で、ここにも先行者のトレースがあった。
阿弥陀岳へ向けて  取り付きが肝心というので、尾根を確認して登りにかかる。樹林がまばらになってくると傾斜がぐっときつくなり、ピッケルを打ちこみながら登る。シャフトを持って、鍬のように使っていたら、柄の付け根を持って雪面に押し込み体重をかけるよう直された。そんなこと言っても力が入らない・・・って打ち込む位置をもっと下にすると、効きがよくなった、なるほど。
 尾根が痩せてくると、どうしても足の出が遅くなる。あたりは真っ白で何も見えない。風とともに舞い上がる雪煙・・・不安。「時間がかかっても安全に」という高木さんのご託宣で、ロープで確保してもらう(私だけ)。コンテで前に竹内さん、後ろに小幡さんについてもらった。
 いよいよメインの岩場の下にたどり着く。先行パーティーが二手に別れて登っているのを、脇にまわって順番待ち。ザックを下に敷いて、ツェルトをかぶる。紺野さんからすかさずポットのお湯とかりんとうが出て、ごちそうになった。おいしい、もうずっと順番待ちでいいや。
 クラック沿いルートが空いたというので出発。紺野さんリード、竹内さん確保。目の前の岩角を回りこんでクラックを抜けると、視界から消えた。次が私。借りたタイブロックを9ミリロープにつけて、登りにかかる。
 ピッケルを背中に挿す。岩登りの要領で思い切って足を置き、体を持ち上げてみるのだが、ホールドをどこにも見つけられず、また同じ足場に足を戻す。素手だったら、指で引き寄せるホールドも手袋をはめていてできない。こんなはずでは。怖いので、手を返して体を押し上げる、という手段に頼りきり、全然進めない。風がごうと唸る・・・不安。
 雪壁の前に来てまったく進めなくなった。手がかりがない。ピックを打ち込むが、効いている気がまったくしない。その草つきだ、もっと上、もっと上、と上から紺野さんが叫んでいる。力いっぱい打ち込むが、がつんと岩の音がするたびに失望。後続の野口さんに、ピッケルで足を支えられて、どうにか越えた。難渋した私をよそ目に、続々と終了点に到着。
 2ピッチ目は竹内さんがリード。右に回ればラクなのに、というルートを軽々と直進して登ってしまった。ロープはスムーズに流れ、合図の笛の音が聞こえた。私は最後。先行者の登る姿を足場に注意しながら見ているが、視界にあるのはわずかでその先は登ってみなければわからない。不安。腰につけた懐炉はまったく温かみがなく、指先が痛かった。
 そして誰もいなくなった。これからいったい何が起こるのか。登っていいよ~という声に我にかえると、慌てておぼつかない手で自己確保を解除する。よしいくぞ、と自分に掛け声をかけて、登る。足が届かないだろうな、と思っていたところで、ちょっと往生して、それでも1ピッチ目よりは順調に(自分では)登れた気がした。
 2ピッチ目が終了しても、まだナイフリッジが控えているので、ロープつき。もう、山頂?と信じられないところで、あっけなく着く。11時半前。どうなることかと危ぶまれたが、たどりつけて本当に良かった。心底ほっとして、記念写真など撮影。天気が良ければ、赤岳、横岳が望めたところだろう。
阿弥陀岳山頂  中岳に向う下りも傾斜が急なので、後ろで小幡さんに確保してもらう。ぐんぐん離れてしまう先行者の後ろ姿を目で追うが、足は伴わない。歩き方が悪いのか、すぐに雪に足をとられてしまう。時に後ろ向きになりながら、一気に高度を下げてゆく。
 中岳のコルにきたところで、中岳を越えるか、沢沿いに下りるか決めかねていたが、沢沿いに下りることになる。12時半。ここでロープを外してもらい、深い雪のなかをずぶずぶと尻餅をつきながら下りる。樹林帯に入ると、安心して、八ヶ岳らしい森の中を暖かいテントを目指して楽しく歩いた。
 13時着。缶ビールがあまりにおいしいのは、登頂の余韻があるからか。昼食のおそばの暖かさも胃にしみた。一足先に帰路につく竹内さんを、テント内で見送り、際限のない宴に入る。

2007年2月12日(月)晴れ
 6時起床、8時出発。南沢経由で美濃戸に戻る。途中、凍ったところも多く、アイゼンは外せない。平坦な道も全速力で歩いているのに、なぜか追いつかず。快晴の横岳を恨めしく振り返りながら美濃戸に向った。
 小渕沢の道の駅で温泉に入り帰京。たいした渋滞にも巻き込まれずに、15時過ぎに新宿。早々と帰宅するも、17時から朝まで昏々と眠り続けた。翌日は腑抜けのようになってとりあえず会社の机についた。
 初めての雪稜、と勇んで望んだものの、ほとんど人に登らせてもらったようなもの。登頂できて良かったね、と言われるたびに、居心地が悪くなる。それでも雪の阿弥陀に登れたことはうれしく、同行していただいた方々をありがたく思った。(三峰に入って初めて、自分のわがままが実現しました。)反省することは多く、課題は山積、阿弥陀南稜は遠いなぁ。

 写真は、すべてタケウチさんに撮影していただいたものをお借りしました。ありがとうございます。

〈コースタイム〉
2月10日 美濃戸口(11:50) → 美濃戸(12:50) → 行者小屋(15:30)
2月11日 行者小屋(6:50) → 阿弥陀岳山頂(11:20~11:30) → 鞍部(12:20) → 行者小屋(13:00)
2月12日 行者小屋(8:00) → 美濃戸口(10:30)

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