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面白山
成田 義正

山行日 2007年5月19日~20日
メンバー (L)高木、鈴木(章)、飯塚、土肥、山崎、石川、箭内、三澤、前野、成田

 面白山という山名を初めて聞く人もいるかと思うので紹介しておきますと、宮城と山形の県境に位置し、1000m前後の山が連なる二口山塊の北側にある北面白山(1264m)と南面白山(1225m)の二峰からなる山であるが、双子峰ではなく共に独立した山である。二峰を周遊するのに8時間ほどかかる。名前の由来は、(1)仙台から見た時に雪で面が白く見える山があり、「つら」が白く見える山という事でその山に『面白山』という山名をつけたという説があります。(面白山駐車場の案内板より)。(2)面白山の山中には滝があります。そして、その滝の中ほどからは、水流が三本吹き上げるように流れています。その様子がおもしろいという事で、里人はこれを権現として祀り『面白山権現』と名付けました。(面白山高原駅の案内板より)。これが山名の由来といわれているが、別名、北面白山を荷笈い山とも呼んでいたようで、稜線が馬の背のように稜線中部がやや低くなっている容姿からつけられたようだ。
 私にとっての面白山は30数年ほど前になるが仙台に赴任した折に、初スキーの時訪れたスキー場のような気がする。当時はスキーブームで会社の仲間に誘われてスキーを始めたのだが、仙台から仙山線で1時間弱で行けるアクセスの良さから連中とよく行った思い出の場所である。面白山高原駅(当時は面白山駅と言っていた)に着き、駅から直ぐリフトがゲレンデに通じていて便利であるが、ゲレンデのリフト乗り場は急斜面からフラットになるまでの距離が短いため、いつも崖(があった気がするが)ぎりぎりの所で静止した覚えがある(初心者だったので単にヘタだけなのだが)。そんな時、面白山にはハイキングコースもあると聞いていたが、当時はあまり山に興味が無かったので聞き流していた。今では仙台に行く折に近辺の山に登るよう心がけているが、面白山も気になっていた山で、二口温泉から縦走するには交通の便が余りにも悪いので延び延びになっていた。それが今回例会になり、自分の考えていたルートとはちょっと違っているが行きたいと思っていた大東岳も含まれているから、"まあいっか"と参加申し込みをした。ルームでの申し込みはあっこさんを含めて3人だけだった。同時に募集した岩登りの方に希望者が多く、やはり無名の山なのかなと感じていたが計画書を見ると10人の大所帯に膨れていた。どうもルームの後の飲み会で次々参加表明したらしい。高木さんがどうPRしたか知らないが。
 例会は新緑のブナを愛でながら山菜と酒を飲もうと言う趣旨(だと思う)でコースは天童高原-北面白山-権現様峠(泊)-大東岳ピストン-南面白山-面白山高原を一回りする周遊ルートだ。天気は土曜日が朝まで雨、後晴れという予報だったが天童高原に着く辺りから雨が降り出す。登山道は車でも通行できる広い平坦な道で、「あぶらこし」と木の名前を書いたプレートも掛かっている。この先、大いに期待していいようだ。
 長命水で一本入れる。長命水までの我々が来た道は標高900m程の等高線沿いに延びた水平道なので楽に来られたが、面白山高原駅から登ると急登らしいので幾分楽をしたようだ。水場の脇から三沢山へと登って行く。「三沢山なんてあるんだ」と誰か言うと「別名メタボ山なんだよ」と言う者有り。
 ジグザグの急坂をこなすと潅木帯の緩やかな登りとなり山菜は無いか探しているとヒョッコリ開けたメタボ山展望所に出る。一気に展望の開けた山頂は雨も上がって雲が切れ始め北面白山、大東岳、これから辿る南面白山までの稜線が見渡せたのは幸運だった。しかし展望もこれが最後でもあった。
三沢山山頂  山頂から一旦、小さく下る。面白山の潅木帯の斜面に取り付いて、急登から登り上げると面白山の左手の肩に着き、肩からほんの一投足で山頂に到着。山頂には面白山大権現(雨乞いの神様らしい)と書かれた石碑が建っていて、標識は北面白山となっている。地形図の面白山である。残念ながら展望はガスに囲まれているため全く無いのでちょっとだけ休んで、大東岳への縦走路に進む。鞍部から一登りすると中面白山であったが、縦走路の一通過点と言った様相で、山名等の道標の類は一切ない。ここからはひたすら下る。ちょっと平坦になった樹林の中で先頭グループが道端を覗き込んでいる。ユキザサって初めて聞いてどれどれと観察し、よく見廻すと周囲に群生しており取り放題である。まず一つ教わった。そのあとトリアシを見つけて、葉が鳥の足に似ているところから付けられたと教わる。カタクリの葉を箭内さんが1人2枚食べられる分量と制限して採り始める。一緒に採取していると、三澤さんが「葉一枚は残して」「取り過ぎないように」と忠告。これも道々見つけては採っていたので一人数枚は有ったかもしれない。アザミも食べられると教わりアザミの若葉も採取する。
 まもなく日当たりの良い開放感のある草原の斜面に出て、遥か下に見える最低鞍部の長左衛門平まで一気に下る。長左衛門平は草原状の開かれた場所であり明るい。休むと虫が集まりだし顔や体にまとわり付きうるさい。黒い服には特に群がっている。準備のよい三澤さんはネットを被りスプレーを掛けている。そういえばこの時期に神室山に行った時も虫に悩まされた事を思い出したが準備していなかったのでもう遅い。
長左衛門平  長左衛門平から再びピークへの登り返しになって奥新川峠に到着する。さらにブナ林の中を小さなピークの登り下りが続き次第に周囲の雰囲気が良くなってきて、この辺ならテン場に好い場所だなと感じている内に大東岳への道の分かれる権現様峠に着いた。権現峠ではなく「様」が付く。何か直ぐ隣に神様がいるようで親しみのある言い方だ。今日はこの辺で幕を張る予定だ。水場近くのブナ林の平坦地に張り、焚き火をしようかと準備していたら雨が降り出す。急いでテントとテントの間にツエルトを渡して炊事場を拵え、先ずは乾杯。コシアブラもいつの間に取ったのだろうかいっぱいある(食べ切れなくて翌日希望者に分配)。つまみに天ぷら、バター炒め、おひたしと次々出てくる。途中でエノキ茸も採った。収穫は僅かだが奥新川峠を過ぎてから道の数m離れた倒木で見つけた。よく見つけたものとその眼力に恐れ入った。町で見かけるエノキとは大違いで茶色のナメコ茸をちょっと押し潰した姿だ。
 男達は固まって飲み食いしていたら、「鍋を作って」と命令。さらに炊き込みご飯も炊いたがとても食べ切れない。「さて明日はどうしようか」となり、山寺にも行きたい人がほとんどだが、時間的に山寺か大東岳とのどちらかになるらしく(往復2時間30分)、あっこさんと私は大東岳を主張。まあ、明日になって決めようとなった。
山菜を仕分けして夕食の準備  翌朝は曇りでガスがかかり風も強い。南面白山への道は大東岳の山腹を横切って行く。静かなブナ林が広がり、時折ガスで霞む幻想的な中を淡々と進む。皆が望んでいた新緑のブナに浸っている感じだ。ある人は時々立ち止っては廻りを見渡している。リーダーが突然止まり「この風で稜線に出ても大丈夫かな」と。えっ、また計画が変更になるのか。確かに梢がゴーゴーと鳴っているがこの位なら問題ない。『このまま行こうよ』と言いたいが、言えば逆効果になりそうなので言わない。あっこさんが「心配ないよ。行けるよ」と言ってくれたので、予定通りのコースを行ける事になった。
 小さな沢を横切るようになる。中にはつるつるの土の上を水が流れていてちょっと嫌らしい所もある。道脇にはシラネアオイやイワイチョウの花が咲きほこり、いつの間にか風も無くなり南面白山の基部に辿り着き一本とる。ここから標高差250mのかなりきつい登りとなる。傾斜が緩んだら樹林が急に矮小化し、ピークは間近かと思われたがまだ先だった。
南面白山山頂  南面白山頂で昨夜の残りビールや酎ハイで乾杯。ここが最後のピーク、天気が良ければ大東岳が見える展望地なのにガスに囲まれ残念。山頂から少し行くと足場の悪い下りになる。雨でヌルヌルした急斜面や落葉に濡れた急斜面から最後は岩のゴロゴロした道を過ぎて悪路を終える。尾根に乗ると、再びブナ林の中の歩き易い道に変わる。ここからは今回知ったユキザサを探しながら最後尾を歩く。昨日ほどは生えてないがお土産にはまあまあな位は採れた。1時間ほどでスキー場上部のゲレンデに飛び出す。皆さんは目ざとくて離れているゲレンデ端のタラノ芽やらコシアブラなど摘んでいる。足元のこれもトリアシと教わり昨日と違って茶色いが信用して採らせて貰う。あとはスキー場の中の道をひたすら下るだけだが、昔の懐かしい思い出をたどりながら下る。今はゲレンデの下はコスモスベルグと言うコスモス畑になっていて秋にはコスモスと紅葉と芋煮会で賑わうらしい。
山寺(仁王門)五大堂  天童高原から車を回収し、今度は山寺観光に向かう。入口で玉こんにゃくを食べて力をつけ、急峻な石段を奥の院まで1000段以上登り、観光写真で有名な崖の上にせり出して建てられている五大堂を見て、その近くの展望台から眼下に広がる眺めを満喫する。
 次は天童の最上川温泉「ゆぴあ」で一浴。料金300円と安めなのに設備がよくて、広大な浴槽ともっと広い露天風呂(50人は楽勝)が特徴だ。ずっと脇腹が痛かったので入浴中に見てみると、ダニだろうか黒いのが突き刺さっている。引っ張っても食い込んでいて取れないし、周囲が赤く腫れている。簡単には抜けそうないのでとりあえずタバコの葉でも当てて、ダニが出てくるのを待つしかないと言う。だが、暫くたっても相変わらず刺さったままだった(家に帰ってから引っ張ってみたらポロっと取れたので、案外効果的だったかもしれない)。
 車中は相変わらず賑やかで時間を感じさせずに東川口20時半に到着。山の恵みを頂いた楽しい山行でした。帰宅してからもユキザサのお浸しは自然の甘さが印象的で旨かったです。皆様、山の幸を教えて頂き、ありがとうございました。


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