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屏風岩東壁・雲稜ルート
荻原 健一

山行日 2007年9月22日~24日
メンバー (L)荻原、坪松

 このルートは2年前から計画してはパートナー不在で挑戦すら出来なかった。衝立岩正面壁ダイレクトカンテも同じ。個人的には2年前から充分に挑戦する資格はあったと思うのだが、パートナーがいなけりゃしょうがない。作るしかないのだ。そして今年こそは思っていたところに、坪松君という新星が現れたので今年の春頃この計画を彼に話して「2007年9月屏風・ツイタテ企画」が始まったのだった。まず第一弾は、彼がLで出してくれた5月の二子山中央稜。ここを2人でツルベ登攀して手応えをつかむ。第二弾は6月の一ノ倉沢烏帽子奥壁・変形チムニー。更に6月~8月にかけて人工登攀の特訓をマンツーマンで行い、8月には剱のチンネ左稜線にも行った。先日の衝立岩正面壁ダイレクトカンテは上記の一連の練習と登攀実績に基づいて完登出来たものであり、決して奇跡でもまぐれでもないのだ。そしてこの企画の有終の美を飾る予定の穂高屏風岩雲稜ルート。ついに挑戦する機会を手に入れたのだ。自ずと行く前から気分は高揚し興奮していた。天気にさえたたられなければ、今回も十分成功出来る自信を持っていた。

9月21日~22日
 前夜22時に八王子駅に集合して、つぼっち号で沢渡へ。渋滞で1時間ほど集合が遅れたので駅の周辺をぶらぶらしていると北鎌尾根(L越前屋さん)隊とご対面となる。沢渡の岩見平駐車場での「集中?」を約束してお互い車上の人となる。沢渡にてお互いの無事を祈って軽く一杯。北鎌隊の明日は長いので、お邪魔にならぬよう早々?(でも夜中の2時過ぎ)に就寝とする。
 翌日6時に起床すると北鎌隊は既に出発した後だった。我々は本日は横尾までなので時間はたっぷりある。ちんたら準備してバスで上高地へ。上高地から横尾までは約3時間。10時半くらいに到着。幕を張ってT4尾根取付まで偵察へ行く。横尾谷の渡渉地点の目印となる岩小屋跡には標識がある。

1ルンゼ押出しへの渡渉点目印1ルンゼ上部より屏風岩東壁

 ガイドブック等では渡渉が必要だと案内されているが、この時期は水量が少なくルートを選べば飛び石づたいで濡れずに渡れる。渡渉したところが、1ルンゼ押出しだ。このまま1ルンゼを小1時間詰めると屏風岩東壁が圧倒的な迫力で我々の前に立ち塞がる。
 いよいよこの壁に挑戦する時が来たかと思うとぞくぞくして気持ちが高揚する。明日は暗い中のアプローチとなるので、T4尾根の取付や渡渉ポイント等を再確認しながら横尾に戻る。幕場着は、午後の2時過ぎくらいだったか?ビールを飲み夕食を食べ午後7時くらいには就寝する。

T4尾根1P目 9月23日
 午前2時半起床。3時半出発。T4取付着は4時50分。登攀可能になる時刻が5時半だから1番手でもおかしくないのだが、既に5人組みの先行パーティーが取付で待機していた。後で聞いたのだが、大阪の泉州山岳会のパーティーとのこと。この山岳会はこの日、東壁ルンゼにもパーティーを出しており会歴60数年、岩壁・雪稜を中心とした立派な山岳会である。この後、我々はこのパーティーと夜の9時過ぎまで同様の行動をとることになる。5時半過ぎに漸く明るくなりT4尾根を登り始める。アプローチと言っても1P目IV級、2P目V級を含む4Pの立派な岩のルートで侮れない。
 さて先行パーティーだが、リーダーは大ベテランだが、比較的不慣れなメンバーも含まれておりペースはあがらない。T4尾根は予定の倍近い時間がかかってしまった。T4尾根の終了点がそのまま雲稜ルートの1P目取付のテラスとなる。
雲稜ルート1P目  1P目は20m程の簡単なフリールート。2P目はすべてフリーだと相当なレベルのピッチだ。我々はA0&A1で突破。3P目のトラバースもいやらしいので、ポイントではアブミを出す。4P目が核心だが、単純な垂壁の人工登攀であまり困難を感じない。先日の衝立岩正面壁ダイレクトカンテに比べれば支点もそれほど悪くなく精神的にもきつくなかった。5P目は10m程のトラバースだが、頭を押さえつけられてあまり気持ちよくない。このあたりから雨が降り出す。この日雲稜ルートに取り付いたのは3Pだが、我々の後続パーティーは何回も来ているからとのことで4P目終了点から懸垂で退却を始める。ここからは先行パーティーとの2組のみだ。6P目は雨に降られながらの登攀になる。雨が降ってなくても5級以上あるんじゃないの?(トポ図は何故か3級)と思われるピッチで今回一番厳しく感じた。7、8P目も乾いてりゃそれ程でもないのだろうけど(トポ図では4級程度でまぁそんなもの)、濡れているのでいやらしかった。でも雨はこの頃から止み気持ちは楽になる。9P目は簡単で程なく終了点に到着。懸垂で下降する場合は、8P目で終了するらしい。終了点では、苦楽を共にした泉州山岳会と固い握手。登攀後の握手はいつもいいもんだ。ここから屏風の頭へは約1時間。途中1箇所悪いところがあるが、ロープを出すほどではない。屏風の頭からは踏跡も明瞭となり、涸沢まで1時間半で下れた。涸沢着10分前くらいで暗くなり懐電歩行となる。かなり疲労を感じていたので、涸沢で大休止。カップラーメンがうまかった。涸沢から約2時間で横尾に到着。到着時間は夜の9時を過ぎており、振り返ると本日の行動時間は18時間! 飯は勿論ビールを飲む元気もなく、テントに着くと同時に倒れこむように寝てしまった。

9月24日
 明るくなり始めた頃適当に起床。昨日予定していた夕食を朝食とする。泉州山岳会に挨拶をして横尾を後にする。3時間ほどで上高地へ。松本ICへ向かう途中、温泉に入りそばを食べながら飲んだビールは格別にうまかった。
 最後にこのプロジェクトを通して私の想定以上に急成長し、本当の意味でのザイルパートナーになってくれた坪松君に心から感謝したい。これからもヨロシクね!

〈コースタイム〉
9/23 横尾(03:30) → T4尾根取付(04:50~5:30) → 雲稜取付(07:30~08:00) → 雲稜終了点(15:30~16:00) → 屏風の頭(17:00) → 涸沢(18:30~19:00) → 横尾(21:15)


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