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爺ヶ岳から白馬鑓温泉
箭内 忠義

山行日 2007年8月4日~7日
メンバー (L)平、福間、箭内

はじまりは途中下車から
 軍刀利沢の帰りに立川で途中下車し、K氏に導かれて宴会に突入した。店はK氏お勧めの例のあの店である。真理ちゃんと日本酒を酌み交わしていたら、ひょんなことから夏には爺ヶ岳から鹿島槍かな、と話が進んだ。6月10日のことであった。
 実現したらいいなあ、と思っていたがパーティーがなかなか集まらない。真理ちゃんと俺の2人きりで決行したらボコボコにされ、白眼視され、確実に村八分になるのは目に見えていた。
 そこに救いの神様が現れた。福間ねーが行ってあげるよと手を挙げてくれたのだ。福間ねーあんがとさん。
 リーダーの真理ちゃんは行き帰りのバス・電車等を詳しく調べあげ、一番便利で安く行ける組み合わせを考えてくれた。そのうえ、切符の手配までしてくれた。青春切符というのを初めて使った。

8月4日 曇
出だしは薄いガスのなかへ
 扇沢までタクシーで行くと登山口は大勢の人で溢れていた。
 寝不足な体に朝飯を詰め込み、私たちも山へ足を一歩踏み入れた。昔は一歩踏み出すときはやたら気合が入ったりしたが、今は恬淡とした気持ちでいられる。年かもしれない。大気は薄いガスがかかっており、暑くはないのでかえってよかった。
 扇沢を左に見て柏原新道を登って行った。
 最初は樹林の中のジグザグ道だ。前後にたくさんのパーティーがいた。
 先頭はリーダーの真理ちゃんだ。グングン登っていく。途中振り返ると樹林の間から扇沢方面が見え、ほっとした気分になった。
 2千メートルを越え、稜線になってくると様々な花が見られるようになった。色々な高山の花が見られると思ったら、気分がウキウキして来た。
 程なく種池山荘に着いた。種池という池が本当にあった。
山荘を目前にした美女2人  山小屋はとても立派な建物だ。今は、北アルプスの山小屋ならどこでも生ビールがでるのが当たり前だというが、本当なのかなと思った。種池山荘についてはあえて確かめなかった。
 山荘から爺ヶ岳に向かい歩いていたら雷鳥がいた。「おーおー」と思ってカメラを向けたがうまく写せなかった。爺ヶ岳の頂上はガスっていた。
爺ヶ岳の頂上はガスの中だった  そういえば、昔、正月合宿で白沢天狗尾根から爺ヶ岳を目指したのを思い出した。豪雪で肩までのラッセルで敗退した。
 先頭でラッセルしていた大久保さんが交代と言って最後尾になった。ふと、振り返ると、みんなから丸見えの中、オオキジでしゃがんでいた。大胆な人だった。
 時間が早かったが予定通り冷池山荘の幕場でテントを張った。食当は俺だった。夕食は何を食べたのだろうか記憶がない。しかし、山小屋があるので冷たい缶ビールが美味かったこと、女性2人に囲まれて気分がすこぶる良かったことだけはおぼえている。

8月5日 快晴
 今日は3時30分起床、5時出発だ。8月の5時はもう明るいのです。今日も先頭はリーダーの平真理だ。タッタ、タッタと進んでいく。
 はえーんだよおー。
 ついていくのがとっても辛かった。沢だと滝が出てきたり、徒渉があったりして、立ち休みする機会がたくさんあるのだが、尾根歩きは休憩と言われるまでずっと歩きつづけなくてはならない。当然だけど。
 今日も雷鳥に出会った。このコースは雷鳥が多い。登山客を楽しませてくれるワイ。また、カメラを向けたがうまく写らなかった。下手だねー。
 鹿島槍には思いのほか早く着いた。雪のある時と無いときとでは随分と雰囲気が違っている。南峰、北峰と越えていき、急な斜面で鎖やはしごがあったけれど、取り立てて問題となるところはなく快調に飛ばしていった。 雷鳥を写した写真です、見えるかな  重大な発見をした。それは平真理さんは普通の登山道はすこぶる早足だが、岩場になると急にブレーキがかかるのだ。よしよし、それでいいのだ。
 花も様々な種類の花が咲いており、一つ一つ名前をいいあてっこしながら楽しんでいった。悔しいかな花名人は福間ねーだっ、やっぱり。コマクサが何箇所かでみられたのが特に良かった。 雪割草の一種かな  五竜岳の頂上からの景色はなかなか良かった。疲れがすうーと消えていく感じがした。
 五竜山荘の幕場でテントを張った。予定通りである。
 今夜の食当は平真理ちゃん。鮭ご飯と○○だった。軽量化をはかりながら、とっても美味しい食事だった。ごっつぁんでした。勿論、今日も冷てぇー缶ビールが美味しかった。もち、ロング缶です。

8月6日 快晴
 今日も起床3時30分、5時出発だ。日本の正しい縦走スタイルです。昨日は遠見尾根を見ながら歩いていたが、今日は、前方右手に唐松から伸びる八方尾根が良く見える。
 今日、先頭を歩くのは福間ねーだ。不帰キレットの岩場があるので真理ちゃんが代わってほしいと頼んだのだ。
 なるほど、昨日まであんなにたくさんの登山パーティーでごった返していたが、不帰にきたら、ぱったりとパーティーがいなくなった。登山者が激減した。
 一峰、二峰、三峰、そしてキレットと越えてきたが岩壁をトラバースして登山道が作られており、空中に浮いた丸太の上を歩いたりするので確かに高度感があり若干の恐怖心もでてくるようだ。唐松からの年配パーティーはほとんどいなくて渋滞にならずに助かったが、白馬方面からは大学生らしき若者グループがわいわいと賑やかに登ってきていた。
 キレットを越え、しげしげと振り返ると岩峰が青空高く聳え立っていた。なるほどすごいところだと思った。昔、5月の連休に杓子尾根から入り、キレットを越え不帰三峰B尾根アルファールンゼを登攀したことがあったが、雪のキレットなどをどのように登っていったのだろうと感慨に浸ってしまった。
不帰嶮で振り返る  天狗の頭を越え、天狗山荘に着いた。ここは小屋の目の前に雪渓が残り、その雪渓から融け出た水が飲めるようになっていた。とっても雰囲気の良い所だった。男女2人のパーティーがテーブルで休んでいたが、男性が生ビールと三角形に切られたスイカをお盆にのせ大事そうにそおうっと、そおっと運んでいる姿が何かとっても良かった。俺たちもここでテントを張ってもいいかなあ、真面目に考えてしまうほど良い所だった。
来週も見てね~  名古屋からきた単独の女性登山者は俺たちと同じルートで、抜きつ抜かれつしていたが、ここでお別れとなった。朝日小屋にいる知合い(恋人か)に会いに行くという。そのまま栂海新道を進み親不知、日本海まで抜けるという。一人で長距離、長期間の山行とはすごい人だなあと感心してしまった。親不知まで行ったらお風呂はあるかなあと心配していたが、福間さんが登山道を終了した目の前にホテルがあり温泉に入れること、駅までも送ってくれることを教えてあげていた。さて、未練な気持ちを断ち切り、白馬鑓温泉を目指した。行く手に見える鑓ヶ岳は真っ白な岩石で覆われた、白い山だった。鑓は登らずに、我々は天上の楽園、白馬鑓温泉へと下っていった。登山道の周りには一面にクルマユリ、ハクサンフウロ、キンポウゲ等々色々な花が美しく咲いていた。大きな岩に温泉のマークが書かれ矢印がつけられていた。珍しく、おかしくもあった。
 白馬鑓温泉小屋は以前来た時よりもかなり増築されており、あちこちにベニア板が打ち付けられていた。温泉ブームを反映してか登山者もわんさかと溢れていた。
 しかし、露天風呂のそばにテントを張れるのはうれしい。源泉かけ流しの風呂にゆったりと入った。
 湯上りにはテントの外に腰掛け、3人で並んでビールを飲んだ。美味しかったことこのうえなし。お酒というものは、誰と飲むかということが大事です。どこで飲むかというのも大事です。どんな状況で飲むかというのも大事かもしれない。すべてが最高の中で飲めるというのは幸せの極致だった。今夜の食当は福間ねーだった。野菜のナスを持ってきてくれた。マアボナス+アルファーで美味しく、幸せの時だった。

8月7日 快晴
 今日はただ下るだけ、帰る日なので4時起き6時出発となった。昔の登山マップでは白馬鑓温泉から猿倉まで2時間とかコースタイムが載っているが、最新の地図では3時間とか4時間となっている。どっちなんだろうかと思ったが、歩けば分かることだ。陽射しがまぶしくチカチカするくらい天気がいい。今日の先頭は岩場がないのでまた真理ちゃんだった。グングンと飛ばしていく。何パーティーも追い抜いていった。途中雪渓が残っており歩きづらそうなところが何箇所かあった。真理ちゃんは雪渓が多分残っているだろうということで雪渓用にわざわざ杖・ステッキを買ってきていた。そのステッキは最初からずっと箭内が使っていた。おにゅうの杖だったのに下山した時は傷だらけになっていた。申し訳なかった。
 花を眺め、身体中が汗でぐっしょり濡れそぼる頃に猿倉に到着した。バス停に着いたらいっぺんに疲れが出てきてベンチに座ったらもう一歩も歩きたくなくなっていた。
 バスの運転手さんが白馬駅前にある温泉を教えてくれた。勇んで行ったらちょうど清掃中だった。仕方なく松本まで出た。 福間ねーが素早く「スーパー銭湯」を探してくれた。駅から徒歩15分、湯船が10個以上もあり、客がほとんどいなくて空いていたので全部の湯船に入っていたら約束の時間よりも15分も遅刻してしまった。
 駅のそばの蕎麦屋でビールで乾杯しそばを食べて今回の山行の打ち上げとした。
 これが福間さんとの最後の山行になるとは思わなかった。メモリアル山行となってしまった。グスン。

〈コースタイム〉
8月4日 扇沢(06:20) → 種池山荘(10:00~10:30) → 爺ヶ岳南峰(11:35) → 爺ヶ岳中峰(12:00) → 冷池山荘(13:10)
8月5日 幕場発(05:00) → 布引岳(05:50) → 鹿島槍南峰(07:00~07:25) → 鹿島槍北峰(07:50) → キレット小屋(09:05) → 北尾根ノ頭(11:00) → 五竜岳(13:05~13:40) → 五竜山荘(14:30)
8月6日 幕場発(05:00) → 唐松岳頂上(07:50) → 不帰一峰(09:50) → 天狗山荘(12:40~13:30) → 白馬鑓温泉(16:00)
8月7日 幕場発(06:00) → 猿倉バス停(08:40)

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