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一ノ倉沢・衝立岩ダイレクトカンテ
坪松 聖幸

山行日 2007年9月7日~8日
メンバー (L)荻原、坪松

 その週は、台風が関東に上陸し、今週も中止かな?(9月2日にもトライしましたが、天候不良の為に断念)と思っていましたが、岩も乾くだろうということで、前日東所沢駅に集合して一ノ倉沢の駐車場へと向かう。三ッ峠で人工登攀の練習をし、アブミへの立ち込む感覚も少しながらつかみ、大分自信がついたので、初の人工ルートで緊張もするが、4ピッチだけなので少し気が楽である。(しかし、この考えは、甘かった・・・。)
 駐車場へ行く前に指導センターに寄って登山届けを提出する。1パーティーが同じくダイレクトカンテに向かう計画書を出していたが、天候により中央稜に向かうと書いてある。駐車場に入ると、あまり車も駐車しておらず、台風の影響もあってか、シーズン中でもひっそりとしている。その日は、仕事疲れもあってか、直ぐに就寝する。明日は、岩が乾いているだろう・・・・。たぶん・・・。
 翌朝、暗いうちに起きて出合を出発。しばらくは、ヘッドライトを頼りに沢沿いを歩き、藪の中を通る。5月に来たときと違って雪渓が無くなりテールリッジの末端までに時間がかかる。寒いと思って厚着をしてきたのだが、とても暑く多量の汗をかく。テールリッジ末端の岩場も少し濡れているが、登れない程ではないのでぐんぐんよじ登り、中央稜基部まで上がる。そこで軽い食事と水分を取り、ギヤを取り出して、登攀準備を整える。どうやらダイレクトカンテに取り付くのは、我々だけのようである。衝立スラブを水平にトラバースして藪の踏み跡をたどって取付に着くのだが、岩場が湿っておりロープを出して、懸垂下降気味に衝立スラブを越える。藪の上の方にフィックスロープが張ってあったのだが、そちらは違うらしいので更に右に移動し、取付付近にたどり着く。上を見るとハングしている岩場が見える。ルート図と照らし合わせて登るルートをイメージする。あんな所にアブミでぶら下がるのか・・・・・。
これが衝立岩正面壁だ!  1ピッチ目は、坪松リードで草付きを右上するが、残置支点が見あたらなくて、ルートを間違えたろうかと不安になる。ピナクルや灌木で支点を取り、凹角と思われる所を直上すると、残置のハーケンが現れてほっとした。どうやら自分のルートファインディングは、間違っていないようだ。もう幽ノ沢の時のようなクライムダウンは、ご免だ。更に左にトラバースするが、ロープが屈曲して流れが悪くなって重たい。10m程進めば、ビレイ点があるがピッチを切り荻原さんに進んでもらう。2ピッチ目は、荻原さんリード。いよいよここから人工登攀の開始である。ハングを越えてピナクルを目指す。大きな墜落に備えて手袋を着けてビレー。支点がいつ抜けるか分からないので、リードもビレーも緊張する。慎重に進み途中で前進用の支点が抜けていたのでハーケンを打ち足し、チョンボ棒を使って突破する。ピナクルの上まで行って上から確保してもらい、自分も前進する。セカンドなので、あまり支点の効きを確かめなかったが、本当に効いているのか不安だ。それに思ったよりも登攀に時間がかかる。アブミを付け替えて行くという単純作業だが、けっこう腕力も使う。フィフィをもっと上手く使わないと。腕を休ませながら進んで2ピッチ目終了。
2P目終了点より  3ピッチ目は、大ハングを目指して登り、右へトラバースする。坪松リード、出だしの所で錆びたハーケンがあり、シュリンゲがついている。怪しそうだったので、シュリンゲを引っ張ってテストしてみたが、体重を掛けるぐらいは、大丈夫そうに見えた。アブミを掛けて体重を乗せたときだった。ビンッと音を立ててハーケンがちぎれて3mくらい落ちた。ビレー点より下に落ちたが、特に身体をぶつけた所もなく、大丈夫だ。アブミも幸いなことに落とさずに済んだようだ。(後で気付いたのだが、ギヤラックに着けておいた、買ったばかりのデイジーチェーンとテープスリングを落としてしまったようだ・・・。)すぐさま登り返して、抜けた所にハーケンを打ち足して、アブミを付け替えながら、ハングを目指して登ってゆく。怪しい支点もあったが、信頼のおけそうな支点にヌンチャクを掛けてロープをセットしていく。岩壁に足が着かない時は、アブミに立ち込んでぶら下がるが、少しフラフラしてしまう。大ハングを右にトラバースしていくがここも怪しい支点があり、体重を掛けるのが怖い。何とか、確保支点までたどり着くがそこは、テラスなどなく、アブミにぶら下がったままでの確保となりビレー器が操作しづらく、アブミに乗せているお尻が痛くなってくる。高度感もあり、下を見下ろせば中央稜を登り終えた人が、「ガンバレー」と手を振ってくれたのでこちらも手を振り返して応える。頑張ろう!あと1ピッチだ。
 いよいよ最終ピッチだ。荻原さんリードでフェースを右上する。その上は、どのようになっているか、下からは見えない。ロープの流れは悪くなっているが、順調に進んでいるようだ。やがて上から解除の声が聞こえ、ビレーを解除してロープアップしてもらう。右上する所は、問題なく越えて行けたが、問題はその後のトラバースだった。岩から染み出しがあって、そこを越えるのに苦労した。セカンドであったからよかったが、トップで行ったら間違いなく怖い思いをしただろう。
 最終ピッチが終わりやっと上り終えたという感じであった。達成感よりもたった4ピッチだけなのにだいぶ時間がかかったなというのが、一番最初に思ったことだ。今までで一番緊張した岩登りであったと思う。帰りは、北稜を懸垂下降し、略奪点まで行く。初めから大汗を掻いていたのでバテバテである。衝立前沢を下り、駐車場まで行く頃には、あたりが暗くなっていた。高速に乗る前に湯に浸かり疲れを取ってから帰途に就いた。
北稜の懸垂下降  今回も、とても疲れたが充実した山行ができたと思う。まだまだ技術的には、自分としては未熟な所もあるし、人工登攀がこんなにも時間がかかるとは、思わなかった(ただ単に自分の技術不足なのだろう・・・。)しかし、得られるものもあり、確実に自分の力になったと思う。

〈コースタイム〉
駐車場発(05:00) → 中央稜取付(07:30) → ダイレクトカンテ取付(08:30) → 終了点(15:00) → 駐車場着(18:40)


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