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唐沢岳・餓鬼岳
天城 敞彦

山行日 2007年9月15日~17日
メンバー (L)別所、成田、齋藤(吉)、天城

 昨年の同時期にシニア山行として唐沢岳から餓鬼岳を経て、さらに東沢岳で一般縦走路を離れ東餓鬼岳、清水岳を走破して有明山へというプランが出された。高瀬ダムから唐沢岳までと東沢岳から有明山までは登山道はなく、東沢岳から有明山までは記録も見当たらない。
 高瀬ダムから唐沢岳までは、唐沢岳の幕岩の開拓に当たった山嶺登高会の山森欣一氏による唐沢岳北尾根から山頂を経て唐沢岳D沢を下った記録があり、それが別所さんから渡された資料にあった。山森氏はよく知っている方なので電話で更なる情報をいただいた。
 このルートはほとんど歩かれていないだろうが登るならB沢から山頂までの間にはショッパイところもあり、D沢のほうがよい、金時の滝のガリーを登るのならば落石に気をつけろとのことだった。
 あいにく昨年は悪天が予想されたため中止となり今年の9月15日から17日の連休に再度同じプランが出され、4人のメンバーが集まった。しかしシニア山行とはいえまったく道のないところを2つも繋ぐなんて別所さんも過激だなぁ、大丈夫かなぁと一抹の不安と期待を覚えつつプランの面白さに惹かれて当日を迎えた。

9月15日(土)
 信濃大町朝6時集合。夜行バス組は寝不足気味、ビジネスホテル宿泊組は二日酔い気味。タクシーにて高瀬ダムへ。ここから唐沢沿いに行くが、幕岩を登るクライマーによるのであろう赤布が丁寧に付けられている。私は草付に備えてスパイク付きの地下足袋を履いたが、他の3人は登山靴。堰堤のはしごの手前は水が深く、靴をぬらすのを嫌って石を投げ込んでルートを作る。金時の滝は左岸の樹林帯を巻くルートに赤布がついていたが右岸のガリーを行く。かなり不安定だったが上部にはザイルも固定されており、何とか登りきる。やがて左岸からA沢、B沢が入ると幕岩が威圧的な全貌を見せる。「大町の宿」と呼ばれる岩小屋も確認できた。
金時の滝: この横のガリーを登った  本流沿いに行くとやがて大きな滑状の滝に行き会う。別所さんがトップで取り付いたが登山靴では難しそう。やめていただいて左岸の窪状から巻くことにする。しかし窪から左にルートを取ると大きなガレ沢に出た。当然、先ほどの沢が本流のD沢だと思いガレ沢を渡ってさらに左へ行くルートを探そうとしていたところリーダーが丁寧に読図をし、地形を見て「これがD沢だ」と言う。沢床はこちらのほうが高いが幅ははるかに広い。確かにそう言われればそのようにも思える。しかしまったくの涸れ沢で水が取れそうもない。かといって先ほどの沢まで戻るのもかなりシビアだ。ここはアラブではなく日本の山なのだからということでどこかで水が取れることを期待してそのまま沢を詰めることとなる。
 傾斜はそれほどでもないがグズグズで足の置き場を選ばないと足場が崩れて消耗する。支流や、岩場の下など水がありそうなところを探してみるが、見事なまでに伏流となっていて水はまったくない。成田さん、齋藤さんは準備よく水を汲んでいたが、別所さんと私は水が涸れる直前で水をとろうと思っていたのでほとんど持っていない。最後の草付を潅木を頼りに登りきると、ドンピシャでめざす2100メートルのコルに出た。もし先ほどの沢(C沢)をそのまま詰めていたらどうなっただろう。水は取れただろうが、上部で行き詰まり、30メートルザイル1本ではにっちもさっちもいかなくなったかもしれない。この沢に入れたのはほんの偶然だった。幕場を探して尾根を北上する。あまり広くはないが何とか張れそうな場所を見つけ小枝を入れて傾斜を補正する。しかし寝ているとずるずると下がってしまいあまり快適とはいえなかった。水は成田さん、齋藤さんのそれぞれ2リットルずつ計4リットルしかない。2リットルを今晩と明日朝の食事に、残りの2リットルを4人で分けて明日の行動水に当てることにする。

9月16日(日)
 朝食は水を使わなくてすむということで別所さん特製のパンをいただく。広い尾根を稜線をはずさないよう気をつけて登っていく。ところどころブッシュに阻まれるが、はじめのうちはまあ歩きやすかった。天気はよい。針ノ木岳、蓮華岳、南沢岳、烏帽子岳、三ツ岳などが見える。「いいルートだ。こんな人の匂いのないところを歩けるなんて幸せだ」と喜んでいた。
左から、餓鬼のコブ、餓鬼岳、東沢岳  やがて森林限界に達し唐沢岳が間近に見えるようになる。岩峰を越え最後の登りになったがここからはびっしりとしたハイマツ帯。もがいてももがいてもほとんど進まない。10メートル進むのに何分かかっただろうか。手も足も疲れるし、喉は渇くし、息は上がるしで泣きたくなった。いやになって私はやや尾根をはずしてハイマツと草付の境目あたりを登った。そこも岩に阻まれたりいやらしい急な草付を登ったりと苦労はしたがハイマツの藪漕ぎよりはましだったのだろう。尾根に戻って「MOTO!」とコールをかけるとかなり後ろのほうから声が返ってくる。雨も落ちてきた。
唐沢岳直下のハイマツの藪漕ぎの終了  11時、ようやく藪漕ぎから解放され山頂直下の岩場に出た。後続が来るにはかなり時間がかかりそうだったので山頂に行く。花崗岩が林立し燕岳と似た山容だ。500cc弱配給された水も残りは4分の1を切っている。雨はやんでいたが葉に付いた水滴をなめたり、コケモモやクロマメノキの実を食べて多少なりとも渇きを癒す(実は私はキノコが採れたらクリーム煮にしようと200ccの牛乳をもってきていたので、山頂で皆で回し飲みしようかと思っていたのだが、藪漕ぎの最中に喉の渇きに負けて一人で飲んでしまった。いささか良心の痛みを感じているのでここで白状します)。
12:20山頂にたどり着いたシニアメンバー  やがて成田さん、ややあって別所リーダー、齋藤さんも登ってきて4人そろって写真撮影などしながらしばし感激に浸った。別所さんは「遠くからこの山を何度も見ていていつか登りたいと思っていた」と感慨深げに言う。それが山登りの原点なのだろうと思う。今日は餓鬼岳を越え、さらに有明山まで行く予定だったが、この時間ではとても無理なので今日は餓鬼岳小屋のテント場までとし、今回は有明山への縦走はあきらめることになった。
 ここからは一般登山道なので先ほどの藪漕ぎに比べれば天国と地獄の差があるが、水が少ないのが辛い。雨がパラつくと葉に付いた水滴をフライパンに集めたりする。小さなアップダウンを繰り返し何とか餓鬼岳小屋へ。缶ビール600円、水1リットル200円だがこの状態では安いもの、ビールの美味しかったこと!
 今日のテン場はきれいに整地してあり昨日とは雲泥の差。ビールをたっぷり飲んで充実した1日を終えた。

9月17日(月)
 今日も好天。予定していた東沢岳から有明山へと続く稜線を目で確認する。いつか来ることがあるのだろうか。7時出発。小屋から電話でタクシーの予約をして一番短い白沢堰堤コースを下る。沢に下りつくと梯子が多くなり、堂々とした魚止めの滝が左に見える。予約時間ぴったりに林道入り口について信濃大町へ。駅前の旅館の内風呂で汗を流し、再度ビールで乾杯をして帰路についた。
餓鬼岳を下る朝

〈コースタイム〉
9月15日 高瀬ダム(07:05) → 金時の滝(08:05~09:15) → B沢出合(11:30) → C沢出合(13:00) → D沢のコル(15:45) → 幕場(16:00)
9月16日 幕場(06:45) → 唐沢岳手前稜線(08:50) → 唐沢岳(12:10~12:30) → 餓鬼のコブ(15:00) → 餓鬼岳展望所(15:45) → 餓鬼岳小屋(16:35)
9月17日 餓鬼岳小屋(06:55) → 大凪山(09:05) → 魚止めの滝(11:45) → 林道入り口(12:55)

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