トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ325号目次

金木戸川小倉谷
金子 隆雄

山行日 2007年8月12日~15日
メンバー (L)箭内、鈴木(章)、飯塚、土肥、金子

 暑い暑い、とにかく暑い日が続いている。天気予報もこの先1週間以上晴れマークが続いている。そんな都会を抜け出して北アルプスの沢登りに向かう。きっと素晴らしい溯行ができるに違いないという期待にワクワクしながら新宿に集合。首都高、中央道と車を走らせ松本ICで降りる。渋滞もなくすんなり来られた。安房トンネルを抜け、その日のうちに金木戸川林道のゲートまで入った。ゲート前に駐車しゲートの奥にテントを張る。かなり沢山の車が既に駐車してある。

8月12日
 6時半、ゲートを後にして林道歩きを始める。今日も晴天で暑くなりそうだ。45分で北ノ俣川出合にある発電所に到着。意外に短かった。近くに小さな金木戸神社があり無事に溯行できるよう祈願してみる。林道は北ノ俣川に沿って登りトンネルの手前でUターンするように分かれて金木戸川沿いに延びている。
金木戸川林道の第2ゲート 車はここまで  林道から見下ろす金木戸川は思いの外水量が少なくこれなら出合いの本流渡渉も楽だななんて考えていたがとんでもなかった。広河原に着いてみて水量が少ない理由が判った。広河原にある取水堤で取水していたためで、広河原から上流はかなりの水量になっていた。広河原まで2時間強で着いた、ということは奥のゲートまで車で入れたということだ。4時間は覚悟していただけに嬉しい誤算だ。
 林道は広河原で終わっておりその先は踏み跡になる。10分ほどで対岸に谷が見えたので河原に降りる。小倉谷対岸は広い河原になっている。溯行準備をしていると広河原で会った2人組パーティがやってきて無造作に深い瀞へ入っていったかと思うと直ぐに流されて助けを求めている。相棒は、「浮かんでりゃ岸に流れ着くよ」といたって冷静、手を差し伸べる気配もない。確かにザックの浮力で沈むことはないので対岸に流れ着いた。一目見れば深いことが判るのだが水が澄んでいて底が見えるので深いとは思わなかったのだろうか。小倉谷出合の左岸は断崖になっているのでそのまま小倉谷に入ることはできないので断崖を捲いて行こうとしていたが諦めて戻ってきた。この2人組は結局先ほどの瀞を泳いで小倉谷へと入って行った。
 あっけに取られて見ていたが他のパーティも続々到着してきたので我々も腰を上げて出発することにする。出合少し上流の川幅が狭まった急流を渡渉して対岸に渡る。流れが急なのでロープを張って渡る。
急流の本流渡渉  出合から1時間近くは巨岩帯が続く。地形図で太い水線となっている部分だ。単調さに飽きがくる頃ようやくゴルジュっぽくなり最初の滝が現れる。トイ状10mの滝だ。釜は深く両岸ツルツルなので左岸より捲いて越える。釜が深い小滝を右岸より捲くと最初の短いゴルジュとなる。ゴルジュ内の滝は小さいものばかりだが深くて大きな釜をもったものがほとんどだ。今日は泳ぎはないだろうと思っていたが最初の釜で早くも10mほど泳ぐことになる。流れが緩いので楽に突破する。その先も滝は続くが問題なく越えて行く。1番目のゴルジュを抜けてゴーロを少し行くと2番目のゴルジュに突入する。1番目のゴルジュよりも長い。3段11m滝を右岸より捲いて5mほどの懸垂で降り、その先の滝も同じく右岸より捲くとゴルジュ出口に横向きの滝15mが行く手を塞ぐ。谷が右へ大きく曲がっているので右側から水を落としている。この滝は左岸の小沢から捲くが踏み跡があり楽に沢床に戻るとゴルジュは終わり広河原に着く。
初日の幕場  今日の行動予定はこの広河原までだったので早速幕場を探す。直ぐに右岸の河原に広い場所が見つかったのでタープとテントを張る。今回はタープの下で寝るのは絶対嫌だという我がままなメンバーがいたのでタープとテントの両方を持って来ていたのだ。この場所は広くて良いのだが増水には耐えられそうもない。小倉谷全体に増水に耐えられるような幕場はなく、増水したら藪に逃げ込むしかないようだ。
 幕場の前に深い瀞があり、私以外の皆さんは明日のための泳ぎの練習だといって水遊びに興じている。そうこうしているうちに一組また一組と後続のパーティがやってくる。今日出会ったのは3パーティ10人、我々を含めると今日の入渓者は15人となり大変な賑わいだ。この日の夜は星が綺麗だった。箭内さん、土肥さん、私の3人はタープの下で寝たが明け方少し寒かった

8月13日
 5時起床、7時出発。今日も快晴で谷にはすでに陽が射し込み始めている。蝉も沢音に負けじとガシガシ鳴いている。他のパーティは皆出発していて我々が最後になったようだ。ゴーロ帯を約1時間で吊橋跡に着く。右岸の大岩にワイヤーだけが残っており、左岸より水量の多い沢が出合っている。
 ここからが核心部の3番目のゴルジュとなる。厄介なゴーロ滝を越えると長い瀞の先に2条4m滝が現れる。捲くことも可能らしいがかなりな大高捲きになりそうなので当初から泳ぎを覚悟していた所だ。先行パーティが取り付いている最中であり、更に順番待ちのパーティもいるので我々もしばらく待つことになる。前の2人パーティが登り終え、いよいよ我々の番だ。瀞の長さは15m~20mくらいだろう。リーダー命令でMs.陽子が泳ぎに挑戦する。左壁沿いに泳ぎあと少しという所で流れに押し戻される。ライフジャケットを着ているので水の抵抗を受け易いようだ。何度かトライして無事に側壁に取り付くことができた。取り付く所にはうまい具合に水中にスタンスがあって立てるので、ここに立てれば後は問題ない。後続はロープに頼って楽をさせてもらう。
リーダー命令で泳ぐMs.陽子  側壁を登った後は右へトラバースして5mほどの懸垂で沢床に降りる。しばらくは難所もなく進んで行くと右岸より50mくらいの滝で支沢が出合ってくる。滝と言うよりも断崖から水が落ちてくるといった様相だ。この谷の支沢はほとんどが大きな滝で出合っている。それだけ谷が深いということなのだろう。
 谷が左に曲がる所に釜の深い5m滝が現れる。ここは右岸をへつって突破するのだがここでも順番待ちとなる。先行が行ってから箭内さんがザイルを引いて右岸のバンド状をへつり、滝の水流左端を水を浴びながら登って行く。途中に長いシュリンゲが残置されているのでこれを使うと楽にへつれる。8×10mのナメ滝を快適に登ると右岸より60mの大滝をかけて支沢が出合い核心部のゴルジュが終わる。更に小ゴルジュの中の5m滝をシャワークライムで直登するとナメが始まる。ホッとする一時だ。
突然現れる40m直瀑、迫力満点  ナメをヒタヒタと気持ち良く進み、細長い瀞を従えたナメ滝を越えると忽然と40m直瀑が現れる。まだ先かなと思っていただけに突然現れたこの滝には驚かされる。どのくらい深いか想像もできない釜を持ったこの大滝は凄い迫力で、近づくと瀑風が凄い。しばし見とれる。この滝を登るのは不可能で捲くことになる。釜のすぐ右のルンゼを登り、小滝が出てきたら左の笹の急斜面を登る。正面が岩壁で進めなくなるので左上して行くと踏み跡らしいものが出てくるのでこれを辿ると小尾根の鞍部にでる。かなり急で高さも滝の倍くらい登ることになる。鞍部からの下降はかなり急で、出だしを懸垂したが降りてみたら懸垂するほどでもなかった。あとは笹を掴みながら急斜面を下って沢床に戻る。結構大変な高捲きだった。
 しばらく進むと正面から支沢が出合い、本流は2条5m滝をかけて右に曲がっている。この滝を越えて少しで二俣に着く。右俣も左俣も大きな滝で出合っている。本流は右俣だが右俣の滝は越えられないので左俣の滝を右岸より捲いて、更にナメ滝を3つ越えた所より右の藪に突入し小尾根を越えて右俣に降りる。藪漕ぎの途中で2段40m滝を捲いている先行パーティの姿が見えた。降りた所は2段40m滝の少し下流で左岸より支沢が出合っている。二俣を過ぎると水量は半減する。
二俣の大きな滝  順番待ちや高捲きに時間を費やしたため予想外に時間がかかり右俣に降り立った時にはすでに15時を過ぎていたので今日の行動を終えることにする。ほんの少し下流の左岸に泊れそうな場所があったのでタープとテントを張る。増水してもすぐに逃げられるような場所なのでまあ良しとする。
 この夜はペルセウス座流星群が一番よく見えるという日だったのだが、生憎と暗くなってから雲がでてしまい星一つない夜になってしまった、残念。

8月14日
 今日も天気が良い。出発も昨日と同じくのんびり7時過ぎ。朝一番の仕事は2段40m滝越えだ。出発してすぐにこの滝の下に着く。下段は水流左端をシャワークライムで何とか登れたが上段は登れそうにもなく左岸より捲く。下段も含めて左岸のルンゼから捲くことも可能だ。高く登り過ぎてしまったようで大高捲きになってしまった。枯木が立っているあたりからトラバースした方が低く捲けたような気がする。
 次に現れたのはこの谷最大の落差を誇る大滝だ。40m以上はあると思われる。地形図の1900m付近に載っている滝記号の滝だと思われる。着水するすぐ上辺りに岩が張り出しているのでこの滝は釜を持っていない。右岸のガレたルンゼを落石に気を使いながら登り、倒木帯に入って捲く。降りた所が滝の落口のすぐ上だったので緊張する。ここは開けたスラブの台地で大休止とする。
 この先もまだまだ滝場は続くがもう困難なものはない。ナメ滝をいくつか快適に越えて行くとしばらくナメが続き、二俣になった所に少人数なら泊れそうな場所がある。この辺りまで来ると遠くに笠ヶ岳が見えるようになってくる。左へ進み2段20m滝を階段状の右壁を登って越え、更にナメ滝を越えると階段状の多段滝が続く。もう深い谷の中ではなく目の前に広がる開けた空間の奥に見える笠ヶ岳を眺めながら、どこでも登れる滝を各自思い思いに楽しく登って行くと奥の二俣に到着。ここにはほんの少しだけ雪渓が残っていた。
遠くに笠ヶ岳が望まれるようになる  1:2の割合で水量の多い右へ進む。3mチョックストーン滝、続く4m滝を左から越えて3m滝を過ぎると水が涸れる。水がなくなってからが結構長い。ガレが延々と続き嫌になるが、藪とどっちがいいと問われれば藪よりはましかなと答えると思う。
 上方に○印のある岩が出てきてようやくガレから解放され踏み跡にでる。この踏み跡は登山道と言っていいくらいしっかりしており笠ヶ岳山荘まで続いている。どこから来ているのか興味あるところだが、今は廃道となっている小倉谷左岸の南西尾根上にあった登山道に続いているのではないかと思われる。この歩き易い道を辿ること25分で笠ヶ岳山荘に到着。山荘前の広場は大勢の人で賑わっている。先ずは山荘でビールを仕入れる。ギンギンに冷えたビールの美味いこと、○○荘の発泡酒とは違い本物のビールだ。
 計画では本日下山だったが、下山するにはあと5~6時間はかかりそうだ。車の回収時間などを考えると風呂にも入れないだろうし、下山を強行してもいいことはないので今日はここのテント場に泊ることにする。予備日を1日取ってあるので無理をしなくてもいいのだ。テント場は抜戸岳方面へ5分ほど下った所にある。水は穴毛谷源頭の雪渓まで下れば取れるが、山荘で無料でもらえるのでわざわざ雪渓まで下ることもない。笠ヶ岳山荘に着いた時はテントも疎らだったテント場もだんだんテントが増えてきたので場所がなくなる前にと、ほろ酔いでフラフラする足取りでテント場まで降りる。一番端にテントを張り、フライの代わりにタープを上から張る。今日もタープの下に寝ようと思っていたのだが吹き抜けるが風が冷たく寒そうだったのでテント内に寝たのだが寝苦しくてよく眠れなかった。

8月15日
 暑くなる前になるべく降りておこうということで今日は3時起床。5時前にはテント場を後にしたが、水の確保やトイレの順番待ちなどで結構時間を費やしてしまった。下山ルートは笠新道から新穂高温泉へ降りるルートとクリヤ谷から槍見温泉へ降りるルートの2通りあるが、槍見温泉へのルートをとることになった。
 クリヤ谷経由で下山するには先ずは笠ヶ岳に登らなければならないが、笠ヶ岳山荘から25分の至近距離だ。笠ヶ岳には初めて登ったがフレーク状の岩をかき集めて積み上げたような岩だらけの山だった。山頂から西側の笠谷方面を見下ろすと笠ヶ岳の影がくっきりと浮かび上がっている。そのうちに笠谷方面にガスが湧いてきたかと思うとまん丸の虹がでてブロッケン現象が現れた。丸い虹の真ん中に自分の影が映りとても幻想的だ。ブロッケン現象は見たことはあるが虹の中に自分が映るというのは初めてだ。珍しいものが見られて得した気分だ。
 約15分で山頂を後にして下山にかかる。クリヤ谷コースは土砂崩れのため一部通行困難との張り紙が笠ヶ岳山荘にあり、そのせいかこのコースを下山する人はほとんどいない。確かに途中で崩れた跡はあるがほとんど問題なく通過できる。クリヤ谷に入る手前辺りから錫杖岳の岩壁群が見渡せるようになる。自分は登ったことはおろか見るのも初めてだが登ったら面白いのだろうなと思える。今はもうそんな気力はないけど。
 笠ヶ岳から約5時間で槍見温泉に到着した。クリヤ谷辺りは涼しかったが下界はまだ猛暑だった。タクシーを呼んで金木戸川林道に置いてある車の回収に向かう。槍見温泉から金木戸川林道のゲートまでタクシー料金は10,570円だった。車の回収後、奥飛騨温泉郷の「ひがくの湯」で温泉に浸かり帰途に就いた。本日は帰省のUターンのピークにあたり、かつ諏訪湖の花火大会もあるので中央道の大混雑が予想されたが、うまく時間をずらしたので大渋滞にはまり込むこともなく帰ることができた。

笠ヶ岳山頂でのブロッケン 見辛いかな
〈コースタイム〉
12日 ゲート出発(06:30) → 発電所(07:15) → 広河原(08:40) → 小倉谷出合(08:50~09:30) → 横向きの滝(13:15) → 幕場(広河原)(13:50)
13日 幕場発(07:00) → 吊橋跡(08:10) → 40m直瀑(12:35) → 二俣(14:20) → 幕場(15:20)
14日 幕場発(07:10) → 奥の二俣(10:50) → 登山道(13:30) → 笠ヶ岳山荘(13:55)
15日 笠ヶ岳山荘(05:20) → 笠ヶ岳(05:45~06:00) → 槍見温泉(11:10)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ325号目次