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南八ヶ岳・権現岳
箭内 忠義

山行日 2007年11月23日~25日
メンバー (L)天城、成田、齋藤(吉)、箭内

11月23日(金)快晴 清里~美しの森~出合小屋
天城さん、リーダーデビュー
 別所さんに頼まれて天城さんがシニア山行のリーダーとなってくれた。
 山行のリーダーには特別に権限があるんです。何しろ、判例では、山での事故の場合、過失が認定されるとリーダーに刑事上の責任、民事上の責任を問うことがほとんどなんですから。
 責任を問われるということは、反面、権限があるということになります。権限が及ぶ範囲において責任を負うことになるので、リーダーは山行中は絶対的な権限があるといっていいんです。パーティーに指示、命令を発し、判断を迫られるときには、明確に決断しそれを断行していく権限があることになりますね。
 今回は、そんなリーダーに天城さんは初めての挑戦だそうです。気合が入りますね。表情がどこか凛々しく感じます。本当かな。
 さて、集合は中央線、小淵沢駅午前10時です。私は「特急あずさ」新宿8:03発で参加です。超豪華山行だなあ。豪華といえば年令も豪華です。4人の合計231才でした。なかなかのものです。
 全員が遅れることなく集合です。小淵沢駅から小海線に乗り換え清里へ、そこからタクシーで美しの森の駐車場へ到着。
 ここから林道を歩きます。青空が美しい。天城さんはリーダーとしてのプレッシャーを重く感じているようでした。「どっちの方向に行くのかな」などと言っているから「まっすぐ行くと地獄谷ですよ」と促して歩き始めました。
 20数年前の正月に地獄谷をへて天狗尾根や旭岳東稜に行ったことがあるので不安はありません。道が整備され歩きやすくなっているのには助かりました。林道から地獄谷の沢沿いの道に入っても概ねきちんとした道になっていました。堰堤が何箇所も造られていました。昔は凍った滝を登った記憶がありますが、すべて堰堤になっていました。
 2時間30分ほどで出合小屋に着いてしまいました。楽なことこのうえなし。
出合小屋、煙突の見栄えはいいのだが  小屋の中にテントを張りました。ストーブがあったので齋藤さん天城さんたちが、さっさと焚き木を持ってきて火をつけました。最初は炎も出て暖かかったのですが煙もモウモウと部屋の中に充満してしまい、目はあけられない、息も出来ない状況になってしまいました。ストーブで料理も出来ると期待したのですが、煙のためストーブはあきらめました。
 2人組パーティーが天狗尾根の偵察から帰ってきて、煙で大変ですよ等々話好きの人でした。じきに大学生位の若者4人パーティーが到着し出合小屋に入ってきました。リーダーがてきぱきと指示を出し静かに整然と荷物の片付けや食事の準備等をしているので感心してしまいました。このパーティーは明朝5時頃、やはり静かに小屋を出て天狗尾根に行きました。
 入山初日の食当はリーダー天城さんです。天城さんの食事は気合が入っていました。リーダーとして特別な思いがあったのでしょうか、何とロースステーキです。
1人に1枚ずつあるのです  そして、このステーキに解禁されたばかりのボジョレヌーボー赤ワインがつきます。更に、インスタントではなくクラムチャウダーを作ってくれました。そして、最後はバランスを考えて、シシトウ、もやし等の野菜炒めです。下界でもそうそう食べられるものではありません。ご馳走さまでした。ゲップ。
 今夜の月は満月に近く、雲なき天空に煌煌と輝き、地上は銀色の世界となっていました。美しい。
11月24日(土)快晴 出合小屋~ツルネ東稜~権現岳~青年小屋
天城リーダー、貧血になるも決断した
 5時起床、7時出発です。朝食も終わり、出発の準備をしていたらリーダーの天城さんがクラクラと貧血を起こしているというではありませんか。一瞬、敗退か、ここから戻ることになっちまうのかと一抹の不安が胸をよぎりましたが、なんとか回復してくれて良かったです。
 さて、ツルネ東稜に向けて出発です。出合小屋の前あたりに、左岸から赤岳沢が入ってきています。そこが天狗尾根の末端です。ちょっと進むと右岸から権現沢が入ってきます。ここが旭岳東稜の末端です。更に進むと沢がYの字のように二俣に分かれているところに来ます。ツルネ東稜の取り付き地点です。
ツルネ東稜の道標がついています天狗尾根です
 齋藤さんが先頭に立ちぐいぐいとひっぱってくれました。ルートは明瞭な踏跡になっています。登山道ですね。
 高度があがると右手に天狗尾根の岩峰が見えて来ました。成田さんが「いけるかなあ、行きたいなあ」とかなんとか言いながら食指をそそられているようでした。
 稜線に出ると俄然景色が良くなります。風の強い箇所はありますが、快晴で天空は青一色です。
 雪は薄くついており岩場っぽいところからアイゼンをつけていきました。たいして困難な所もなく、ほどなく権現の麓、頂上まで1分という所に着きました。
後ろに赤岳が聳えています青年小屋です
 権現から今日の幕場の青年小屋がはっきりと見えます。一気に駆けるように下っていきました。
 青年小屋の冬季小屋の中に今日もテントを張りました。
 青年小屋の水は、乙女の水と呼ばれています。皆1人2リットル3リットルと汲んできて「よいではないか。よいではないか」とよく飲んでいました。乙女の水を飲んだからといって別に若返るわけではありません。じさまは、じさまです。しかし、気分はちょっと若返るかもしれません。
 今夜の食当は、成田さんです。成田さんのメニューは分かります。成田シェフ定番の「酢豚」です。持参した玉ねぎとピーマンを炒めた酢豚はなかなかいけるのでした。
 夜、明日の行動は編笠山から下れば時間が短縮になる等、話していたが天城リーダーは断固として決断しました。「西岳をまわっていきます。ドン」

11月25日(日)快晴 青年小屋~西岳~富士見ゴルフ場
天城リーダーは熱燗3本、目をつぶってかたむけた
 2月のシニア山行では西岳から青年小屋まで丸1日かかった。ルートがよく分からず深いラッセルがあったからでした。今回、逆のコース、青年小屋から西岳は約1時間で着いてしまいました。道がハッキリしているというのは有難いことなのだなあと実感してしまいました。
西岳山頂です最後の林道です
 西岳からはひたすら下ります。前半部分は急坂なので一気に高度が下がります。
 中盤からはたらたらと下っていきます。天気がよいのでひたすら下りもあまり苦になりません。
 最後の林道を下ると、富士見高原ゴルフ場に出ます。  ゴルフ場の隣にある「鹿の湯」(500円)で汗を流し落し、タクシーで小淵沢に行きました。
 これで今回のシニア山行も終了です。
 駅前の蕎麦屋に天城さんと2人で入りました。天城さんは、おでんを肴に熱燗をたて続けに3本美味しそうに飲み干しました。熱燗を美味しそうに飲んでいる顔を見て、リーダーとして事故もなく無事に終えることが出来てほっとしているのだろうなあ、と思いました。
 だから俺は「天城さんありがとうございました。」と頭を下げました。


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