トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ327号目次

八ヶ岳・旭岳東稜
竹内 豊

山行日 2008年3月8日~9日
メンバー (L)高橋(俊)、竹内

 事故の後、気持ちも段々と山に戻って来た。この山行は本当にまた冬山に向き合えるのか、という分岐点の山となった。目標を八ヶ岳西面の登攀か権現東稜にするかそれとも旭岳東稜にするか慎重にふたりで検討した結果、ザイルも最近あわせてないし山旅として変化のある旭岳東稜に決めた。このようにパートナーや仲間と何処の山に行くか?計画はどうするのか?というやり取りは結構好きだ。自分がリーダーでなくても自分の山になるような気がする。これからもこういった丁寧な山行を重ねて信頼を築けたら、と強く思う。
 旭岳東稜のルート取りとしては赤岳沢出合小屋付近にベースを張りアルパインスタイルで抜けても良いが、今回は天候判断の上、ツェルト泊+軽量化スタイルで登ってみた。小淵沢道の駅で待ち合わせをして、高橋さんの車で仮眠後、早朝に美しの森駐車場に向かう。駐車場に着くと1パーティが出発準備をしている。私達も準備を終える頃また1台車が入ってきた。天気の割にはやはり東面は入山者が少ないのだな、と実感する。雪が少なめの林道を歩きながらお互いに久しぶりの山なのでなんか緊張するね、などと話しながらいくと目の前には真っ白な雪山が見えてきた。その東面の壁には三角形に雪がついていないところがあって、それが初めの目標にしていた権現東稜のバットレスだということを高橋さんに教えてもらった。無粋な土石流止めを越えしばらくすると赤岳沢出合小屋についた。ふむふむ。なるへそ噂どおりの良く手入れされた小屋だ。小屋に着く前に抜かしてきたパーティはどうやら天狗尾根に行くようだ。一本の後、先に進むとカモシカとの出会いがあった。後発のパーティは空身になって私達の後から偵察にきている。権現沢に入って取り付き易いルートを探すために奥まで詰めてみるがなかなかよい斜面がない。しょうがないので下降して権現東稜に分かれるところの急な沢から取り付く。ここからはトレースはもちろんない。陽が高くなって雪が腐ってきたため、ふたりであへあへ言いながら足場を固めて着実に高度を稼ぐ。一歩一歩ごとに潜るので結構大変だった。ふたりで協力しながら支尾根に飛び出し視界が開けると東面が先程より随分大きくせまってきた。さらに痩せたリッジを詰めると若干のクライムダウン。そこで私はアイゼンの前歯がはずれてずり落ち、高橋さん大笑い。まぁ落ちても止まることが解ってはいたが自分の雑なクライミングに嫌気がさす。その後もラッセルしながら詰め2300(だったかな)付近で日も暮れてきたし、五段基部までいっても快適なビバークサイトではないので、ふたりで周りの安全性を確かめツェルトを張る。テントに比べると快適とは言い難いがなかなか綺麗に張れたのでは。軽量化麻婆春雨で簡単に食事をすませた後、高橋さんはタカマタギに入山している小堀さんに「いまツェルトビバークちゅう・」なんてふざけてメールを打っている(笑)。実をいうと私はあんなことの後だったのでそんな余裕はなくて、出来るだけ足指先を暖めるようにしていた。
 翌朝、ツェルトを畳み出発準備をしていると下から小屋出発のガイドパーティと思われる2人組が登ってきた。まもなくすると3人パーティも登ってきた。あとで聞いてみると4:30発、5:00発だったそうだ。私達も含めて本日は3パーティだね。と話しながらラッセルをお互いに交代しながら五段の宮までの短い距離の高度を稼ぐ。五段の宮手前の雪壁で私がラッセルを変わったがハマってしまい、その横をひょいと2人パーティが抜けていったので取り付きは2番手になった。
結構な高度感  とりあえず竹内リード。1段目は最後の灌木ホールドに乗り越す部分がちょっと勇気がいる。2段目はアイゼン前歯での立ちこみが悪いように感じた。3段目は核心でクラックに腕を突っ込みジャミングで登るのだが、ダブルアックスに換えようとした時に外れそうになり、かなり焦る。アックスが決まればバランスクライミングで登れると思うが、本日は晴天すぎて雪の状態がだんだん悪くなっているため、後から登る程怖いのでは、と思った。3段越えて1ピッチ切る。2ピッチ目は高橋さんリード。4段目、雪壁不安定な感じ。5段目、灌木をホールドに快適に登る。そこで五段の宮突破。
五段の宮  正直うれしかった。その後も狭いリッジをツルベで頂上までザイルを伸ばす。天気はサイコーでロケーションもベスト。ふたりで写真を撮り合いながらゆっくり慎重に歩き、旭岳頂上に昼着。遠くには富士山も見え気持ちよかったー。
 下降路のツルネ東稜まで快適に歩く。けれどもスカイラインからツルネの分岐点は視界が悪い時などは分かりにくい。またツルネ東稜自体の下降路も慎重に歩かないと分かりにくいのでご注意を。赤岳沢出合小屋で1本とって、林道をずんずん進む。途中で権現に行ったパーティと情報交換し、来季に権現に行ければ良いなと思った。そして無事に駐車場に着き、無事に帰って来られた、五段の宮をふたりで突破した、など成果の多い山行となった。
 山野井泰史さんの講演会時に最後の質問で私が恐縮ながら質問してみた「オルカ頂上に立った時どんなことを感じましたか?」という問いに対して『まだまだ俺はやれる』という感想を頂いた。行く前は「本当に冬山大丈夫か」「五段の宮大丈夫か」「ツェルト泊大丈夫か」などさまざまな不安がよぎった。けれども今回の山はレベルは違うがピークに立った時、私も「まだまだもう少しやれるかな」と同じことを感じた。付き合ってくれたパートナーに感謝したい。

まだまだもう少しやれるかな
〈コースタイム〉
3月8日 美しの森駐車場(8:00) → 赤岳沢出合小屋(10:20~10:50) → 旭岳東稜取り付き(11:45) → 支尾根稜線(13:45) → 幕営地(17:00)くらい
3月9日 幕営地(7:00) → 五段の宮(8:15) → 登攀開始(8:50) → 旭岳頂上(11:50) → ツルネ東稜分岐(12:50) → 美しの森駐車場(15:30)くらい

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ327号目次