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剱岳小窓尾根
竹内 豊

山行日 2008年5月3日~5日
メンバー (L)紺野、荻原、竹内

 23:33発。急行能登にて去年と同じように剱に向かう。このGW前は仕事がパツパツで去年と同じく直前に着く。早く来て並んでくれていたふたりに感謝。今年は好天が予想されるのでなんだか山屋乗客が多く感じられた。今回はガイド本に従って新魚津乗り換え。けれども滑川乗り換えの方が、電鉄代金がSAVING MONEYになることがわかった。

5月3日
 馬場島までタクシー。最近は自家用車で入山し、タクシーでの入山は昔に比べると少ないそうだ。登山センターに届出を提出して歩きだす。去年と比べると林道脇には雪が多く残っている。取水口から高巻き、急なルンゼを下って白萩川を詰める。
取水口を越えたルンゼ下降路  けれども残念ながら雪渓が途切れていて、突破出来るかみんなで探ってみるが難しいみたい。やれなくはないがずぶ濡れになるのもいやなので来た道を戻り、急なルンゼを登り返してトラバース路をゆく。雷岩からは大窓がぽっかり見えて、小窓尾根に取り付く前に一休みする。小窓尾根の急登を一歩一歩稼ぐ。途中、リーダーを待っていたら、そこの休憩地点で幕を張る地元山岳会の方がこごみや漬け物を分けてくれた。行程を聞いたら、大分ゆっくりのペースで写真を撮りながら登るそうだ。山はいろいろな楽しみ方があっていいもんだ。私達の予定では2121mあたりまで高度を稼ぐつもりだが、天気もいいし、ビールも飲みたいし、この辺りで幕を張ってもいい気分になってきた。けれども、前方に見える剱尾根に魅せられて、足がつってしまっているリーダーは行動続行を決める。渋いぜリーダー! 1990mで蝸牛山岳会さんの隣に幕を張らせて頂く。蝸牛さんとはご縁があって、我が会の創始者の方が蝸牛山岳会の方と丹沢の沢を登っていたということを丹沢スポーツセンターの方に聞いたことがある。本日の献立は追悼も兼ねて正月と同じ。ビールで乾杯し明日の英気を養う。

次の目標! 剱尾根への思い

5月4日
 5:00出発。予定時間どおりに出発。みんなのヤル気が見える。幕営予定地だった2121m付近は、なるへそなだらかな稜線で幕が張り易そうだ。ここを越えると登攀要素が多くなってきた。急な下降路を下り、雪壁を登り、斜面をトラバースして、ニードル付近に6:40に着く。岩場の稜線上は日があたるためか大分雪が溶けてしまっている。途中の岩場トラバースではいやらしかったので懸垂する。ピラミッド直下の岩場は皆、フリーで抜ける。本当は念の為に上からfixしようと思い、支点を探していたら皆さん登って来てしまった。その後も順調に高度を稼ぎ、雪のない馬の背リッジ岩場をアイゼンでキリキリと軋ませながら歩行し、岩稜帯を抜けて北方稜線に合流する。
北方稜線に合流して一安心  ここまでくると剱も剱尾根ももう直前まで迫ってきて、天気も良いので雪と岩のコントラストと青空がとても良い。小窓王基部で2ピッチ懸垂。天気が良すぎて雪が大分不安定になっているが、ザイルを使用しているので不安感はない。通常は氷化しているそうで山の状態はその時によって違うからおもしろい。ザイル回収はふたりにまかせ、私は幕営地確保で先行する。雪が腐っているので踏み出しの一歩がずり落ちる。本人的にはたいしたことはなかったが見ていた荻原さんの方が驚いていた。申し訳ない。三ノ窓はそんなに広くはないので急ぐ。先行していた蝸牛さん達はもう幕を張っていて、剱尾根を登攀している別動隊の行動を見守っているようだ。私が平なところで危険が少ないと思われる候補地を慎重に決めて、ふたりを待っていると三ノ窓雪渓方面から来るわ来るわ人の群れが。ちょっと到着が遅ければ幕が張れなかったかもしれない。無事に幕を張って、立派なトイレを製作して、伝家の宝刀「菊水」で乾杯していると、トイレを共有させてくれと2人パーティの方が言って来た。いやぁ、こうゆう所での用足しは大変なのでどうぞと快諾する。そうしたら御礼に焼き肉もらっちゃった。本日の夕飯は軽量化麻婆春雨。昨日の豪華食より評判が良く感じるのはやはり「空腹は最大の調味料」ということかな。

小窓基部の懸垂下降点

5月5日
 本日は5:15発。割と寒く、そのあたりが15分遅れか。急登ではあるが階段状にトレースがついている池ノ谷ガリーを登る。
胸をつく急登の池ノ谷ガリー  池ノ谷乗越に出ると八ッ峰主稜が目の前に迫る。いつか登りたいものだ。稜線に出ると360°の大展望で大変気分がよろしい。長次郎のコルからは胸をつく急登だが気分良くスカイラインを歩く。遠くにはスキー初めに滑った剱沢も見えて、その剱沢小屋のあたりは色とりどりのテントが張られている。そして蟻の列のように続々と人が登ってくるのが見える。
 6:50頂上着。私はいままで殆どピークをひとりで踏んできたので、仲間とピークを踏めるように「とっておきの山」を幾つか残している。去年のGW合宿では残念ながら実現が不可能だったので、今回剱のピークを皆で踏めてとても良かった。下降路は雷鳥に見送られながら予定どおり早月尾根を使った。カニのハサミや獅子頭は特に問題を感じなかったが、小屋近くの下降路は下から団体パーティが見守っていたのと、アイゼンの前歯がなかなか決まらず少しあせった。早月小屋でアイゼンやギアを外し、空身になってあとはおのおの尻セードやグリセードで楽しく降りた。

仲間と踏むピークはひとりとはまた違った趣きがある快適な早月尾根

 樹林帯に入り1100m付近で後ろを振り向くとリーダーがいない。少し待ってみるがなかなか降りてこない。これは雪が付いている沢筋を下ったのかなとコールを何回もかける。1回返事があったように感じたが確信が持てない。しょうがないから馬場島まで降りて合流出来なかったら空身で迎えに行こうか。と話しながらいくと、遠くに見慣れた体格が馬場島で待っていた。それをみて大笑い。リーダーは平謝りでタクシーにすぐ乗り、去年と同じ温泉に行くと、ロング缶ビールを奢ってくれた。どうもごちそうさまでした!

 富山駅の駅ビル内の居酒屋で富山のうまいもので打ち上げの後、座って帰りたいとのことなので6時間後発(笑)の夜行急行能登を選択。立ち食い富山そばや銀嶺立山を楽しみながらだらだら待つが、並んだ看板・ホームが違うというアクシデントがあって焦った。けれどもなんだかんだいって座れたから良かった。
 今回は天気に恵まれ、予備日を消化することなく、3日目の昼過ぎには下山してしまうという順調なペースで山を終えることが出来た。またコース自体も入山パーティが多かったし、技術的にも私的には雪の状態が良かったのであまり困難を感じなかった。しかし、山がいつもこんな優しい顔をしているわけがなく、今回の山こそ特別としたい。また小窓尾根を登高中、常に見えていた剱尾根の思いもリーダー初めメンバー内でも盛り上がったに違いない。皆さまありがとうございました。

〈コースタイム〉
5/3 馬場島(8:00) → 取水口(8:40) → 雷岩(11:00) → 1650m(13:30) → 1990m幕営地(15:30)
5/4 1990m幕営地(5:00) → ドーム(8:05) → 三ノ窓幕営地(13:20)
5/5 三ノ窓幕営地(5:15) → 剱岳頂上(7:00) → 早月小屋(9:15) → 馬場島(12:20) → 帰京翌朝

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