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ミツバ岳~屏風岩山東尾根
峯川 正行

山行日 2008年4月5日
メンバー (L)峯川、飯塚、山沢、山口、内山、渡辺、藤谷、西尾、河野、森田(純)、(鶴田)

 ミツマタ(三椏)は茶道をたしなんでいなければ、花に全く興味がない30代の男の子にとって見向きもしない花であったはず。茶道における茶花を書物などで調べていると、蜂の巣が小さくなったような感じで掲載され、蕾の姿がなんとも侘びているなあと。それもこの蕾が4月に開花すると、黄色い雪洞のようになるという。
 そんなことが頭の片隅に残っていて、昨年の大集会に参加すると、川崎さんからびっくりするような写真を見せていただく。黄色い絨毯に川崎さんが飲み込まれているのです! その黄色い絨毯というのは尾根一面に広がるミツマタだったのです。開花時期が3月末から4月初旬という情報を伺い、1年温めておくこととしました。
可憐なミツマタの満開時  『ミツマタは、その枝が必ず三叉、すなわち三つに分岐する特徴があるため、この名があり、三枝、三又とも書く。中国語では「結香」(ジエシアン)と称している。春の訪れを、待ちかねたように咲く花の一つがミツマタである。春を告げるように一足先に、淡い黄色の花を一斉に開くので、サキサクと万葉歌人は詠んだという。そしてサキクサは三枝[さいぐさ、さえぐさ]という姓の語源とされる』。以上のようなミツマタの説明が書物にあり、三枝さんの由来はこのミツマタと知ってびっくりでした。
 最近有名なガイドブックに、このミツマタの群生ルートが掲載されてからは丹沢のミツマタはすっかり有名になり、ネットでも山行記事をよくみかける状態です。とういことで、この時期は新松田駅バス停には長蛇の列となります。降車予定の浅瀬入口までは、このバス路線が悪い為に、到着まで1時間を要し、さらに運賃も高い・・・。この渋滞を避けるためにいい手段はないか・・・。山行自体の計画より、取付までの計画が進行しておりました。そして、なんと合計11名も参加とのこと! 私の主観的な山行にこんな多くの方たちが! なんとか長い時間ミツマタを見ていただくことを重点とすることとなりました。
 考えたあげく、このようになりました。新松田駅に8時に集合し、御殿場線松田駅に移動し、8時12分発の電車で谷峨駅に向かいます。この時点でバスよりも時間もかからず、運賃もいくらか安いのです。西丹沢に向かう際に、この方法を使っている方はかなりいるそうです。とにかくバスでは谷峨駅に着くまでも時間がかかるのです。そして谷峨駅に着くと11名を移動すべく、ジャンボタクシーと通常タクシーが2台並んで待っておりました。中川タクシーさんは西丹沢に行くには便利かもしれません。4名ぐらいの山行でしたら、時間とお金を節約できてかなりお得と思われます。おかげさまで、滝壺橋の取付に9時前に到着です! バスでは早くても、浅瀬入口バス停から歩くことを考えても10時くらいになったはずです。
 橋の西側の取付には藪椿が綺麗に咲いておりましたが、今日は「紅」が主役ではなく「黄」が主役なのです。とにかくミツバ岳までは急登でした。植林帯の中、電光形に道もついていましたが、一気に直登です! 皆さんの行いがいいのか、天気も最高でペースもどんどん上がります。途中、キブシを眺めながら春を感じます。思ったほど人影は多くありません。自然林が多くなってくると、青い空に黄色のものが・・・。それがミツマタの群生だったのです。なんとも妖艶な香りに導かれ、向かう先はまさに秘密の花園。おまけに富士山まで綺麗に見えるのです。
ミツバ岳からミツマタ群生と富士  まさに歓喜をあげたくなるほどです。いままでミツマタというものは背丈ぐらいのものしかみたことがなかったのですが、大木のようなミツマタを初めて見て感激でした。ミツマタが三又を繰り返し、ネズミ講のように大きくなった結果がこの大木なのです。しばらくまったりとして、ミツマタ大木の前で記念撮影をして権現岳を目指します。ここからはアップダウンも少なく、時折現れるミツマタを愛でながらのんびりと進みます。この付近はまだ満開ではなく、白い感じのミツマタです。西側に見える椿丸を眺めながら、今後はあちら方面にも行きたいなあと思いながら権現岳へ急ぎます。
 11時前に権現岳に到着です。ベンチがあったのでひとまず腹ごしらえです。私はてっきり真っ直ぐ行くのが今日のルートかと思っていたのですが、ベンチの横が正規のルートでした。真っ直ぐ行くルートは浅瀬入口方面で、立ち入りを抑制する看板がありました。ここから一気に二本杉峠まで下降です。1週間前にも地蔵平への偵察でここを通っており、見覚えのあるベンチです。ここはまさしく峠道で西側の地蔵平へのメインルートであり、「さかせ古道」と言われたこの道はかつて武田信玄が北条征伐のために道志から城ヶ尾峠、地蔵平、二本杉峠、中川温泉を通ったと言われています。ちなみに信玄にちなんだ名称はいくつか丹沢には残っており、昨年歩いた旧東海自然歩道にも信玄平という地名があり、かつてその場所に陣をはったとのこと。また白水沢も将兵が米をといだ水を流したとか。なんとも心くすぐられる山域なのです。
 しばしの休憩の後、しばらく巻道を進むと旧二本杉峠となり、西側方面は枝でとおせんぼをしてある地蔵平へのさかせ古道の入口です。ここから屏風岩山への急登が始まります。かなり土が露出し滑りやすく、雨の時の下降はかなり気を遣いそうな所です。這うように登っていると薄暗い樹林帯の中にまぶしい黄色が目に入ってきます。ここが第二のミツマタ群生地のようです。樹林帯の中でちょっと残念なのですが、ミツマタはすばらしいので、しばらく腰を下ろしてミツマタの香りに包まれることとしました。この場所でもそれほど登山客が多くなく、今日は桜見物にみんな行ってしまったのでは?と思うほどでした。ここからはしばらくなだらかな気持ちのいい尾根歩きとなり、多少ルートが屈曲したりしますが、あっという間に屏風岩山に到着です。
 山頂はそれほど広いわけでもなく、先客のお犬様とご主人はお昼寝をしているので、邪魔にならないようにと東峰で昼食をとることに。この山頂からもう少し北側に進むと、やはり昨年訪れた旧大滝峠にたどり着くのです。東峰へは綺麗なトレースが付いていて、東峰は鹿の糞が多いですが、気持ちのいい所です。鹿柵の横で昼食タイムです。ここで予定通りに歩いていただいた皆さんにグレープフルーツをアッコさんに習ってプレゼントいたしました。
 東峰からの屏風岩山東尾根はエアリアでは無線地帯ですが、びっくりするほど歩きやすいルートです。鹿柵が時々出てきて、少し興ざめしてしまうのは丹沢なのでしょうがないです。東峰からすぐに下った1,010m付近で南東方向へ派生する尾根があり、取付の白テープもしっかりとありました。これは、おそらく中川温泉からのルートなのでしょう。この分岐の目印はアセビの古木のようです。この分岐を見やりながら、東方向へまっすぐ下ります。実はこの付近からある「届け物」を探すべく、キョロキョロしておりました。前日、川崎さんが友人と一緒に同じルートを歩かれたそうで、昨晩メールで「お手紙」をある場所に置いてきたという連絡を頂き、一体どこにあるのかわくわくしていました。しばらく歩いていると先方で、「あったー」という声が!なんと「山岳郵便 三峰さま」という封書が一番目立つ木に添えられていたのです。こんなことは初めてなので何かうれしい気持ちになってしまいました。中には「もうひと頑張りです。最後の尾根が一番のミツマタ天国です!」と書かれていました。
群生地手前で山岳郵便を発見!  この最後の尾根700m付近が今日の最大のミツマタの群生地となります。手紙の後に虎ロープ帯が始まり、ミツマタもまたぽつぽつと現れます。左方向には畦ヶ丸がそびえています。いよいよミツマタが賑やかになってきて、鹿柵もまた出現です。鹿柵の左側か右側なのか迷ったのですが、ミツマタ樹林の下にちゃんと下道が付いていました。ミツマタの藪道を歩いたのは初めてでした。ここは正しくミツマタ天国であり、花の道、ミツマタの絨毯・・・。いくつも形容詞がつけられそうな素晴らしい場所です。
 この場所の写真を昨年見たのだと思い出しました。毎年規模を広げているらしく、野生化してこれほどミツマタは大きくなるのか?ミツマタの繁殖力に脱帽です。ここでまた記念撮影をして、ミツマタを堪能してルンルン気分で下山です。

確かに三又に枝が伸びていますフィナーレを飾った圧巻のミツマタ絨毯

 下山ルートが急降下で厄介という事前情報だったのですが、580m付近で尾根が2つに分かれる所で、当初は急降下をする大滝橋方面への北東尾根を下る予定でしたが、どうも南東方向の尾根へ踏み跡が伸びていて結構歩かれている感じです。こちらを歩いてみることとしましたが、正解でした。ザレの部分もありましたが、大滝橋南側のヘアピン部分の車道に降り立ちました。どうも下部は最近刈り払いされたようで、川崎さんのお話では昨年はここは完全な藪で車道に降り立つのは大変だったようです。この「ミツマタ祭り」のためにミツマタ新道ができたようです。このまま中川温泉まで歩き、バスに乗りますが、やはりバスは大混雑です。玄倉で乗車できないくらいになってしまったので、谷峨駅で降りて、桜を眺めながら荷物整理をして電車を待つことに。谷峨駅はのんびりしていて好きです。
 松田駅に降り立ち、また川崎さん情報で「駅前の屋台で・・・」という言葉が気になり、探していると、なんとバス停の横にその屋台が!朝この場所にいても、ここにこんな屋台があることなど全く気付きませんでした。生ビール3杯1000円という恐ろしい金額にもびっくりですが、お店の方がとてもいい方で、新松田の帰りは必ず寄ることを誓いました。最後に総勢11名で乾杯です。初めての大所帯での山行で、時間通り歩けるか心配でしたが、案ずるより産むが易しで、素晴らしい天候でミツマタも堪能でき満足な山行でした。皆様有り難うございました!

ミツバ岳・ミツマタ大木にて

〈コースタイム〉
松田駅(8:12) → 谷峨駅(8:26) → 【タクシー】 → 滝壺橋取付(8:50) → ミツバ岳(9:53~10:06) → 権現岳(10:54~11:15) → 二本杉峠(11:45~11:50) → 900m付近ミツマタ群生地(12:15~12:25) → 屏風岩山(13:10) → 東峰(13:20~13:50) → 680m付近ミツマタ群生地(14:45~14:55) → 車道(15:25)


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