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北アルプス・薮漕ぎ山行
成田 義正

山行日 2008年6月7日~8日
メンバー (L)別所、天城、齋藤(吉)、成田

 何回目かのシニア山行だが、いつも予定通りに運ばないシニア山行なのに今回は珍しく完登した。今回のコースは、昨年の唐沢岳~餓鬼岳~清水岳~有明山が、猛烈な藪漕ぎのため餓鬼岳で時間切れとなったため、その続きを中房温泉~東沢乗越~東沢岳~清水岳~有明山からリベンジすることにした。しかし、やはり例によってスムーズに行かなかったシニア連中でありました。

【土曜日】
 国立を前日22時に出発し快調に2時間で梓川SAに到着。このSAは高台に広場があり東屋の中にテントが張れて快適な場所。お勧めですので是非泊まってみてください。シニアには寝不足が大敵とのことで軽くやって就寝。
藪漕ぎ山行に向かうシニア四銃士  SAより1時間足らずで中房温泉に到着。温泉玄関には秘湯の会の提灯がぶら下り、辺りからは硫黄の匂いがしている。旅館の建物の間に登山道がある。道は沢の中を縫って行くことが多く、出水による荒れがひどくて、石の頭を利用して渡渉を繰り返す。出合までは高度は大して上がらず1800m前後推移する。ブナ平手前で下山者に水場を尋ねてみる。沢沿いでは水の心配はいらないが、高巻きになると沢から離れて行くので水の心配がよぎる。何せ、昨年は水を汲み損ねて雨水を啜りながら登ったので今回はその轍を踏んではならない。マラオ沢に「おいしい水」の標識があるからと聞いてまずは安心。「おいしい水」場はアップダウンがその先も続きそうなのでパスし北燕沢出合近くで補給する。ここで下山者に東沢乗越の状況を尋ねると、雪渓はこの先2ヶ所あり、稜線には雪は無いとの情報。稜線近くの雪渓状況が心配だったので安心してよさそうだ。
北燕沢付近 まだ余裕たっぷり・・・  出合には「中房温泉3.2k 東沢乗越2.1k」の標柱があり、現在10時半、この分なら乗越には12時には到着し、本日は楽勝、楽勝、早く着きすぎて酒が保つかなと内心別の心配をしたが、これからが艱難辛苦の始まりだった。休憩地の周りは行者ニンニクの群生地で今晩のおかずにと採取。右手上方斜面にはもっと群生しているらしく山菜取りの人がビニール袋に次々入れている。山菜を採り始めると時間が過ぎて行くが、まだ時間があるからゆっくりした。採り終えて中房川の河原に戻り「西大ホラ沢出合」の標柱から尾根に取付く。朽ちた階段、崩れた梯子がある一般道だが、沢筋の雪渓に突当るとその先には登山道が見えなくなった。雪渓にはさっきの人が下山した筈の足跡はないし、対岸の尾根や枝沢などに目を凝らして探したが登山道はおろか踏み跡さえ見えない。一本道と勘違いして分岐を見落としたかと思い、引き返して確認したがそんな所は無さそうで、忽然と消えてしまった。さあ、どうしようかと結局1時間も留まった結果、アイゼンを付けてこの沢を詰めることに決め、急傾斜を詰めること1時間、やっと北燕岳支稜に乗ることが出来た。リーダーが言うには長次郎谷に匹敵するくらいの急な谷だったそうだ。
しょうがない 急斜面の沢を登ろう  そこから北燕岳稜線に出るにも藪漕ぎや雪渓を四つん這いなって登り、やっと出た稜線の標高は2400m以上になっていて、目的の東沢乗越より150mも高く登っていた。時計は2時を廻り予定は大幅に狂ってしまった。明日の長丁場に備え、本日は出来るだけ先に進もうと思ったあの時の余裕はとっくに無くなった。それどころか予定地まで行けるかどうか。主脈縦走路であることを確認し、東沢乗越に下る。登山道の腐った雪に足を取られながら乗越に到着。時間は15時半、出合から1時間で来られる所を4時間半かけて到着したことになる。何て言うことだ。普段ならここで幕を張る時間だが、東沢岳まで行くとの号令で重い体を引きずって今度は250mを登り返す。着いてみると360度の大展望。絶景にしばし見とれる。幕は山頂直下の縦走路の雪田に張る。今夜の食当は天城さん。期待していた以上の贅沢な夕食。採った山菜(行者ニンニクだけじゃない。雪ザサ、コシアブラなど多々)の天麩羅やおひたし。かき揚げも出る。メインは卵でとじたカツ煮。腹一杯になってしまい、酒は持ち帰りとなった。

やっと着いた東沢乗越

【日曜日】
 夜半に雨がぱらついたようだが、朝は曇っていても燕岳の稜線や市街地も見え、予報は良い方に外れたようだ。本日の勝負は東餓鬼岳から清水岳の間の藪漕ぎにかかっている。厳しければ撤退(いつもの)もありえる。稜線は白い砂礫のまあ平坦な道で、大パノラマの中を東餓鬼岳に向かう。とは言っても、這松に潜ることもあり簡単には進まない。
東餓鬼岳山頂 後ろは燕岳稜線  東餓鬼岳も素晴らしい山頂で、来た甲斐がある。這松と岩の造形美も素晴らしい。最後の展望の後、東餓鬼岳から這松帯に突入。前が繁って見えないため切れ落ちている場所に出たり、バックしたりして15分ほど悪戦苦闘していたら急に藪が薄くなった。もっと長い藪漕ぎを覚悟していたのにこの程度で助かった。清水岳までは赤布、山仕事用のマークなど一切無い。獣道を辿ったり、尾根を忠実に辿るのだが、尾根が広がると確認し合っていても外れていることもある。だが人数が多いと互いに注意し合うのが心強い。先頭を歩いていて後ろから着いて来ないなとコールすると別な方角から応答が聞こえてきて自分の間違いに気付いたり、先頭が直進しそうな時は左の尾根に曲がるように声をかけたり、その掛けた人も自分が先頭の時には別方向に行きかけたり。もし、一人で来ていたら何度も間違えてその内、行方不明になっていたかも知れない。
 清水岳到着。最高点には高さ1m程の朽ちた太い木に赤テープが巻いてあるだけの殺風景な山。進行方向には次の目標2283mが見える。ここからはシラビソ樹林帯が続く。苔の生えた倒木も延々と続き、フカフカの絨毯道は秩父にいる感じだ。既に藪は薄くなってきて、あってもトラバース気味に避けて通れる。薄っすらとある踏み跡はいつもの山の感じ。2166mは気づかずに通過していて2283mピークに到着。この山には名前が付いていないが有明山から見ると正面に目だって見えるので地元では何らかの名前が付いているのかも知れない。ここで、リーダー、取って置きの稲荷ずしを皆に振舞ってくれた。さっきランチにしましょうと言っていたが、自分はランチと言える良い物なんか持って来ていないのでいぶかしかったがこのことだったのか。酢と紅生姜が効いて美味い。疲れた体に良く効く。ご馳走様でした。こんな重いものをここまで運んでいたとは驚きました。
 急斜面を転がるように下ること30分、中房温泉からの登山道(裏参道)と合流。空身で有明山に向かう。有明山は細長くてピークが3つあり、左右が切り立っているので眺めが良い。北岳、中岳、南岳と3山全部廻ろうと出発し、信仰の山なので各山の祠にお参りしながら進んだが、南岳は中岳から10分ほど離れているようなのでおっくうになり中岳で引き返す。
 最後は中房温泉までの900mの大下り。この下りは最初から最後までずっと急降下の連続。針葉樹林帯だから展望はあまり無いし、岩場の昇り降りを繰り返す。後続が遅れているので三段の滝を見に往復したりして、有明山最短距離を2時間半掛かって終点の有明荘に着く。有明荘の入浴は5時までだが特別の計らいで、だだっ広い露天風呂で汗を流す。

大露天風呂でくつろぐ

【最後に】
 コースミスについて。一体何処で間違えたのか今でも不思議だ。西大ホラ沢出合から尾根に乗ったのは正しい筈で、その後に分岐点を見落としたとしか思えない。間隔を空けて登っていたのに、全員が間違えたことになる。記録を見てみると東沢乗越から問題なく出合に降りているので間違えそうな所は無さそうに思える。一般道で間違えるなんて何で?
 有明山について。安曇野の正面にデンと立ちはだかるかなり目立つ山。別名「信濃富士」「有明富士」と呼ばれ、深田久弥は一度は百名山に選んだそうだ(その後、日光白根山に変わったとか)。帰りの蕎麦屋に飾ってあった写真で見た有明山の黒いシェルエットが富士山そっくりで印象的だった。登山道は2本あって縦走も出来るが。急峻で崖やザレが多く標高の割には登り甲斐があるようだ。チャンスがあれば試してみてください。穂高駅前の蕎麦屋「田舎家」は凄く美味かった。リーダーご馳走様でした。


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