トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ328号目次

鳳凰三山~早川尾根
峯川 正行

山行日 2008年8月13日~15日
メンバー (L)峯川、道祖土

 あれは3年前・・・。三つ峠で怪我をした際に、しばらく甲府の病院で静養していたときです。何もすることもなく、ただ病室から見えるオベリスクをじっと眺めていたような気がします。この鳳凰三山は10年前の大学時代に"登山"というものを知らず、旅行気分で登り、それがきっかけで山登りにはまってしまった山なのです。その際は薬師岳小屋での小屋泊まりで、南御室小屋で受け付けをした際に、小屋番に「若いのにテント泊をしないとはなんということだ!」と初めて小屋泊まりをする私は怒られた記憶があります。
 春先に膝を痛めてしばらく山に行っていなかったので、リハビリ登山という趣で鳳凰三山と早川尾根をつなげた山行を暑いお盆の時期ですが単独で行くという計画を致しました。その後、ルームの際に道祖土さんに、多分日程が合わないなあと思いながら軽く話をしてみると、なんとちょうどその日程が空いているではないですか。
 ということで道祖土さんの新車フォレスターで芦安無料駐車場に夜向かうことに。現地に1時くらいに着き、テントで仮眠をしていると、3時くらいからかなりの雨が降り出してきます。んーこのまま雨が続けば、最悪は夜叉神峠でお酒を飲み続けるテント泊でもいいかなあと思いながら、6時くらいまで横になっていました。
 5時10分の山梨交通の広河原行きのバスが出発した後の、7時40分のバスでゆっくりいくことと致しました。その時には奇跡的に雲が切れてきて晴れ間が出て、天気が回復してくれそうです。バス停では私たちを含めても数人くらいでそれほど混雑しておりません。ガソリン高騰と北京オリンピックの影響なのか、南アにはそれほど人は入っていないのかもしれません。
 10年ぶりに夜叉神登山口から登り出します。来る直前に奥多摩のボッカで足裏に豆を作ってしまい、歩くのも最初は痛かったのですが、なんとか騙せそうです。快適な路を1時間ほど歩くと見覚えのある夜叉神峠に到着です。まだ雲が多いようで北岳は見えませんでしたが、テーブルではお父さんと子ども達が楽しそうにお話していて、なんとも微笑ましかったです。ここからは今日の幕営場所の南御室小屋に向けてのんびりと歩いていきます。10年前に歩いた記憶を辿りながら歩いているのですが、やはり樹林帯は全く覚えておりませんでしたが杖立峠の景色はなんとなく覚えておりました。以前歩いていた際は、「ただ早く歩くこと」を実践していて、他の登山客に「そんなに早く歩かないで、綺麗なお花をみなくちゃだめだよ!」と駄目出しされたことを、ヤマオダマキの花を見つけて思い出しました。それにしても10年前にはデジカメもなく、APSカメラで24枚しか撮れなかったことも景色に記憶がない一因なのでしょうか。苺平付近では千頭星山、甘利山への分岐もあり、いつかこちらのルートも歩いてみたいなあと。
茶花でも使われるヤマオダマキ  時間も余裕があったので、道祖土さんと辻山分岐であるこの場所で北京オリンピックの平泳ぎの準決勝などをラジオで聞いていると、辻山方面から100リットルザック軍団がぞろぞろ出てくるではないですか!大学生だと思うのですが、ここにザックをデポせずザックを担いだままで、なんとも気だるそうな顔をしていたので、これは野呂川沿いから辻山への新しい藪ルートを開拓したのでは?!と瞬間的に考えてしまい、すぐに話しかけてみると、ただのピストン・・・。ザックをデポすればいいのに・・・。
 その後は大学生軍団の後ろをのんびりとラジオを聴きながら小屋に向かいます。今回、山域によって自動でサーチしてくれるラジオを購入して、初めて鈴の代わりラジオをつけて歩いたのですが、結構飽きることなく歩くことができて驚きました。若い頃はラジオを聴きながら歩いたらオジサンになってしまうと思っていたのですが、私もすでにオジサンなのです。
 幕営地である南御室小屋は当然昔のままでなんとも懐かしかったです。以前はここで薬師岳小屋での小屋泊の手続きをして、小屋番の人に例の文言で怒られたことを今でも覚えています。あの時本当に悔しくて一人でぶつぶつ怒っていたような気がします。でも、反骨精神でテント泊をしなくては!という思いになったことも事実です。なので言われなければ登山を続けようなどとは思わなかったかもしれません。などと昔のことを思い返して小屋の前のベンチに座っている時間はまだ13時過ぎです。今回の山行はリハビリと今後の山登りをどのように進めていくかを考える山行であるのでのんびりでいいのです。まずは担ぎあげたビールを冷たい水で冷やします。幕営地は思っていた以上に広く、道祖土さんが奥の高台のいい場所を探してくれてすぐにテントを設営です。その後は冷えたビールと網焼きのサラミ、ソーセージなどほぼ宴会でその後はお昼寝です。たまにはまったりテント泊はいいですね~。今日の食当は私だったのですが、定番となってきているビーフシチューでした。ルーはレトルトで許してもらいましたが、お肉と野菜などは自宅で下味をつけて炒めてきたので美味しく食すことができました。こんなことをしているのでテント泊では最近太って帰ってくることが多いのですが・・・。
 翌日は5時半くらいに行動開始。天気は朝から素晴らしい天気で夕方までは持ちそうです。しばらく砂払岳までは樹林帯の急登です。花崗岩の白い砂利が見えてくるといよいよ森林限界です。北岳にかかっていたガスも切れそうで、綺麗に眺めることができそうです。岩場の横にはなんとも可憐なタカネビランジが群生しております。この花が好きなので写真を必死に撮っていると、道祖土さんはずっと先にいってしまいました。昔のお花にあまり興味がなかった私みたいでなんとも可笑しかったです。
タカネビランジと北岳  一旦樹林帯に下っていくと、こちらも懐かしの薬師岳小屋です。佇まいは全く同じですが、中を覗くと寝る場所や全ての箇所の木材がすべて新しくなっていました。あの時はここで雑魚寝するのが本当に苦しくて、あまり寝ることが出来なかったです。お土産品を見ていると、味のある「鳳凰三山」と書かれた手拭いがあったので、バンダナ代わりに買ってしまいました。最近いろんなところで手拭いを買っているような気がします。ここから一登りで薬師岳です。なんと幸運なのでしょうか。全く雲もなく、北岳が圧倒的な存在感で迎えてくれました!大学生達が楽しそうに騒いでいるのがなんとも微笑ましいです。私も学生の時から山に登っていればなあと。10年前と同じポジションで写真を撮ることを決めていたので、道祖土さんと北岳をバックにデジカメで撮影です。ここからが白砂の快適稜線ルートで、天候にも恵まれて最高のロケーションです。
 観音岳まで思った以上に時間があることを再認識しましたが、素晴らしい山々の景色は全く飽きさせることがありません。北岳からいよいよ甲斐駒に眺める対象は代わり、やはり甲斐駒はかっこいいなぁと道祖土さんとお互いに言い合っていました。
 道祖土さんはこの稜線を歩くのが初めてなのですが、気に入っているようでした。そして地蔵岳に近づくと、病室からよく見えていたオベリスクが迫ってきます。今回の早川尾根への分岐ポイントである赤抜沢ノ頭でザックをデポして、オベリスクのお膝元まで行ってみることとしました。

快適な白砂の稜線オベリスクとお地蔵様に再会

 お地蔵様はやはり静かに佇んでいました。10年前は確かガスってしまい、オベリスクぐらいしか見えなかったのですが、実はお地蔵様の後ろにはご本尊というべき甲斐駒がどっしりと鎮座ましておりました。以前陶器で実際にお地蔵様を造る計画もありました。数年前に不慮の事故で亡くなった友人を弔うために造るつもりだったのですが、今回は間に合いませんでした。お地蔵様に今回の山行の無事を祈って、初見の早川尾根に向かいます。高嶺への登りは思いの外きつかったです。それにしても小屋が営業していることに起因しているのか、予想以上に人影が多いです。夏場はかなりの人気コースのようです。高嶺では新しい指導標を打ち込んでいる作業に出くわしました。どうも横で話を聞いていると、山梨の某山岳会で山梨県より委託されているようです。担ぎ上げ等も含めご苦労様です。やはり真新しい指導標は気持ちがいいものです。高嶺でしばらくのんびりして、白鳳峠に向かいますが、頂上からの下りが鎖などもなく結構急な感じで、冬季などはかなり気を遣うことになりそうだなあと。ガレ場を一気に下って行くのはなんとも退屈ですが、ここでもラジオが役に立ちました。ここまで足裏の豆をなんとか誤魔化してきましたが、反対側の足裏が怪しい状態となってしまいました。そこで白鳳峠で靴を脱いでみるとびっくり!靴底のインソールが左右逆に収まっていたではないですか!これが豆のできた原因だったのでした。本当に気づいてよかったです。ほっとしてラジオを聞いていると、オリンピック平泳ぎでなんとまたまた金メダル獲得のニュースが。あまり水泳には興味がないのですが、この時ばかりはナショナリズムがくすぐられてなんとも嬉しかったです。
 ここからは暫く樹林帯のアップダウンで広河原峠に13時前に到着です。この分だと今日も小屋でのんびりできそうです。高嶺から小屋の場所を凝視していたのですが、なかなか見つからず、どうも樹林帯の中にぽつんとある感じなのでしょうか。広河原峠で一休みして、暫く登っていくと黒い建物が見えてきました。どうも最近色が黒色になったようです。小屋についてすぐにテントを設営していると、先に受付だと怒られてしまいました。ここではまず麦茶を頂き本当に美味しかったです。そして昨日に引き続き、金網を持ち出し、小屋の前のベンチでケムケム宴会をしていると、「占領しないように」とまた怒られてしまいました。どうもこちらの小屋番の方には怒られてばっかりです。今日のテントは他に2張りくらいで比較的静かな幕営地でした。水場はすぐ近くて、尾根近くでよく水が湧き出るなあと不思議でしょうがなかったです。小屋にはかなりの人が泊まっているようで、やはりお盆のこの時期はかなり人気があるルートのようです。
アサヨ峰への最後の登り  翌朝は北沢峠のバス待ちを考慮して5時に行動開始です。最終日もお天気に恵まれたのでした!やはり山登りは雨より晴れのほうが脚は前に進みます。しばらくは樹林帯の登りとなります。樹林帯の合間から朝日に照らされた北岳が垣間見えます。早川尾根ノ頭と思える三角点を発見しましたが山名板などもなく不遇な扱いです。さらに高度を稼ぎ、ミヨシノ頭からは輝く甲斐駒と進むべきアサヨ峰、そして後ろを振り返ると歩いてきた早川尾根とオベリスク。そしてその右側には富士も見えます。すばらしい光景で道祖土さんとこの光景をしばらく喜び合っておりました。ルート自体は全く問題なく、なんとも快適なルートです。なにより景色がいいので疲れがふっとびます。アサヨ峰への最後の登りは、這松帯となります。途中岩場なども多少出てきて、冬季は気を付けるべき場所かもしれません。アサヨ峰には先行していた単独のおじさんがニコニコしていました。やはりこんな天気では頑固そうなおじさんもニコニコしてしまうはずです。

歩いてきた早川尾根と富士味のあるアサヨ峰山名板と北岳

 とにかくこのアサヨ峰からの360度の展望は事前に写真などを見ていましたが、実際の景色はさらに凄いものでした。天候に恵まれたことに本当に感謝致しました。写真を取り合っていたりしましたが、北沢峠のバスの関係もあるので早々に栗沢山に向かいます。
 ここからはしばらく岩稜帯の下降が続きます。神経を使う箇所も幾つかありました。途中数人の単独行の方ともすれ違いますが、仙水峠からのピストンの方もいました。しばらく景色を楽しみながら進むと栗沢山に到着です。ここでも数人が景色を楽しんでいました。
甲斐駒を眺めながら栗沢山へ  アサヨ峰に行くか迷っていた方に、アサヨ峰の方が景色がいいですよと薦めてしまいました。いよいよここから仙水峠への一気の下降です。道祖土さんはここからのびる尾根伝いの北沢駒仙小屋へのルートかと思っていたようですが、私がどうしても仙水峠に行ってみたかったのです。3年前に高木さんと訪れた仙水峠をまた再訪してみたかったのです。目の前には甲斐駒が立ちはだかりますが、しばらくするとガスが立ちこめて見えなくなりました。とにかく一気に下降してしばらくすると樹林帯に入ります。時間的にも北沢峠のバスにも問題なく間に合い、北沢駒仙小屋前でまったりと乾杯ができそうな時間だったので、周辺をきょろきょろしながら降りていきます。仙水峠には10時前に到着です。栗沢山への取り付きはこんなゴーロ帯だったのかなあと思い返してしまいました。降り立った時にちょうどガスが晴れて、摩利支天が聳えておりました。後はのんびり北沢峠を目指すのですが、仙水小屋の水場を楽しみにしていたので顔を洗っていると、小屋番のおじさんがぶつぶつ何かいっているので、半分取り合わないで顔を洗っていると、道祖土さんが"翻訳"してくれました。どうも「使う時は使います!と言え」と言っているようでした。でも登山道脇なので言う前に使うでしょう!北沢駒仙小屋に降り立つとびっくりでした。今まで北沢駒仙小屋と書いていたのですが、歩いているときは「北沢長衛小屋」と思っておりましたが、いつのまにか北沢駒仙小屋と変わっておりました。経営が南アルプス市に移ったようです。当たり前のように小屋でビールを買い、ベンチで乾杯を致しました。天候にも恵まれて本当に良かったです。やはり山は天候に左右されるなあとつくづく感じました。
 その後は北沢峠にて恒例のバス待ちですが、思いのほか混雑していなかったような気がします。やはりガソリン高騰と北京オリンピックが影響しているのでしょうか。広河原からは乗り合いタクシーに乗り、いろんな山の情報を仕入れたり致しました。吊尾根の話があったので冬季には池山吊尾根から北岳に登りたいなあと。私にとっての思い出の鳳凰三山と味わいのある早川尾根の山行は今後の山登りに対してGOサインを出すものだったような気がします。周囲の状況によりあまり大した山には行けないですが、地道に山と向かい合って行ければと思いました。
 そして、こんなまったり山行にお付き合い頂いた道祖土さん、誠に有り難うございました。なお、今年よりこの林道南アルプス線でバスもしくは乗り合いタクシー乗車の際は、「利用者協力金」となるものが発生し通常料金に100円プラスされ、山梨県に落ちていく仕組みとなっております。このお金が明らかに環境保全、ルート保全に使われていれば全く問題のないルールかと思います。別の所に流れていなければですが・・・。

〈コースタイム〉
8月13日(雨のち晴れ) 芦安駐車場(07:40) => 夜叉神登山口(08:00~08:10) → 夜叉神峠(09:00~09:15) → 杖立峠(10:30) → 苺平(12:15~12:25) → 南御室小屋(13:00)【幕営】
8月14日(晴れのち曇り) 南御室小屋(05:35) → 薬師岳小屋(06:35~06:50) → 薬師岳(07:00~07:15) → 観音岳(07:40~07:50) → 赤抜沢ノ頭(08:50~09:00) → 地蔵岳(09:15~9:20) → 赤抜沢ノ頭(09:35~09:50) → 高嶺(10:35~10:50) → 白鳳峠(11:35~11:50) → 広河原峠(12:45~13:00) → 早川尾根小屋(13:35)【幕営】
8月15日(晴れ) 早川尾根小屋(05:00) → 早川尾根ノ頭(05:15) → ミヨシノ頭(06:35~06:45) → アサヨ峰(07:30~07:45) → 栗沢山(08:35~08:55) → 仙水峠(09:40~09:50) → 仙水小屋(10:20) → 北沢駒仙小屋(10:40~11:30) → 北沢峠(11:50~12:55) => 広河原(13:15) => 芦安駐車場(14:05)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ328号目次