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幽ノ沢V字状岩壁右ルート
平 真里

山行日 2008年10月5日
メンバー (L)荻原、平

 幽ノ沢に行かない? 声をかけてもらったのは3回目。最初は無理しないでセカンドでいいんだよ、ということばに背中を押され、秋ならば、と答えたのは、今年7月の集中山行。ホントに行くのかと思っていたら、9月に入って、T-Wallからの帰り道、日程をあわせて正式に決まる。北岳バットレス4尾根で初めて本ちゃんを経験してからまだ1か月も経ってないのに。
 10月4日(土):予定通り上野駅のホームで10時15分待ち合わせ。前日、日曜日に雨が降りそうだから、これから行けない?とケータイに電話があったのは、まだ帰宅していない午後8時。キビシイです(私)、東所沢に22時でどう?(荻原さん)、キビシイですって!(私)、最寄駅どこだっけ?どこが便利なんだろう。(荻原さん)、キビシイです、準備もしてないんですよ~(私)。というわけで、5日の登攀になったのである。秋晴れの車窓を、明日は雨か、と恨めしく眺めながら、水上駅へ。
 水上駅13時半のバスに乗り、ロープウェイ駅に着いた。登山指導センターへ届を提出して歩き出す。この時期、指導センター脇のゲートは閉じており、車両侵入禁止になっている。少しは混雑が緩和されることを期待した。
 登山者と観光客が入り混じり、何組もの人々とすれ違う。一ノ倉出合でしばし休憩。異様な圧迫感を誇る岩壁を前に、観光客は写真撮影なんかしている。看板に概観図があり、荻原さんがルートの解説をしてくれた。
 幽ノ沢出合に着いて、幕場適地はないかと歩き回ったが見当たらない。もう暗くなりかけていたので、人も通らないだろうと林道にテントを張った(が、その後、日も暮れてから、団体登山者が通ったのである。遠くから人声がしたときは、何か出たのかと思って驚いた)。
 夕食を済ませ、就寝は20時ごろだったろうか。星が出ていた。どうか明日も晴れますように、と祈りシュラフにもぐりこむ。
 10月5日(日):3時半起床。手っ取り早く朝食、準備を済ませ、4時半出発、のはずだったが、まだ真っ暗。これで沢を歩くのは危ないから、と少し明るくなるまで待機することになる。もう1度寝るわけにもゆかず、今日のルートをおさらいしておく。5時ごろテントを撤収。出発するころにはわずかに空が明るくなってきた。
 沢がナメで滑るとイヤなので、沢靴を持ってきたが、水量が少なく靴を履くような箇所はなかった。ところどころフィックスロープもある。右岸で1箇所、濡れて滑りそうなところで、ロープを出してもらう。誰もが苦労しているのか、支点が3箇所も作ってあった。
 名高いカールボーデンの前で休憩。全体を見渡すと、右ルートはおろか、左ルートに取り付いているパーティもいない、貸切である。ルート図のコピーと照らし合わせるが、結局、はっきりとはわからず。V字状は、凹んだところを指すのではなく出ているところを指しているのか、と得心したのみ。
噂のカールボーデン  早速、ロープを出して登る準備。ビレイポイントは見えているし、声も届く。心穏やかに登る。2ピッチでトラバースになる。何度も写真で見たところだ。1足目、下がるところが遠く、お助け用シュリンゲ(かけてあった)にぶらさがる。トラバースして尾根状のところを登りにかかるところで、荻原さんが振り返ってにんまりし、ちょ~簡単、I-II級だ、という。騙されないよう気をつけよう。登りきったところで今度は下りになったらしく姿が消えた。支点は見えるところで1箇所きり、ロープは空中に漂っている。不安。山の向こうから、ハーケンを打っている音が谷にこだました。コールのあとそろそろと続く。
 この先、T2のはずが潅木でルートがわかりにくい。下がきれているようなので上へ。途中でT2が斜め下に見えた。先のトラバース以上に緊張するところはなく、順調に登る。荷物も日帰り装備で軽い。
 ハング手前から左に抜けるところは、ハーケンのベタ打ちになっている。ここが核心?何かが違う気がした。その後、チムニーをどうやって登ろうかと思案していたら、中に入らないほうが良いよ、と上からアドバイスが。
振り返ると・・・  さらに左の草付きに逃げてあと2ピッチ、草付II級80mを残すのみ。安堵。
 さて、尾根はあのあたりかと見当をつけるが、どちらに行けば良いのか。ピンも見つからず、右側を登る。今回、もっともロープの出がゆっくりだったのが、この最後の2ピッチだった。傾斜は急、ほとんど草をつかむのみで足も滑り、加えて藪コギ。幸いにして潅木があるので、ところどころに支点をとってくれていた。
 ようやく藪から出て、岩を攀じるときの安心感。ビレイポイントに着くも、再び右の藪へ。力任せに登ると、岩場では問題なかった腕もパンプしそうになった。
 傾斜が緩くなり、潅木になったところで終了点の石楠花尾根に到着。ちょうど正午でお昼ごはんだ。靴だけ履き替えた。
 まだ堅炭尾根に出るまでは足もとが悪いと本にあるので、コンテで登ってもらう。ロープを出したり、巻いたりするタイミングがうまくゆかず手間取る。草混じりの岩は登りにくく、いったん止まってロープで引っ張ってもらうことも2回ほど。慣れていればもっとスムーズに行けるのだろう。
易しいってうれしい  1時間ほどで堅炭尾根に到着。明瞭な登山道に入る。もう雨が降ってきても大丈夫。ありがたいことに、薄日も差していて、眼下の紅葉が鮮やか。つくづく良い時期に来たと思った。
 道は良くても急な下り。滑りそうで慎重に下る。林道手前で休憩して、幽ノ沢出合に15時半ごろ着。荷物を回収してロープウェイ前を目指した。
 ロープウェイ前に着いたのは、17時。最終バスは16時57分に行ってしまったので(そもそも間に合う時間に着くとは予期されていなかった)、タクシーを呼んで水上の温泉に行く。汗を流して帰京した。
 お付き合いいただいた荻原さん、ありがとうございました。噂と違って(スミマセン)、常に安全を気遣い、かつ楽しませようとする姿勢には感謝するばかり。正直、今季、2度も本ちゃんに行けるとは思っていませんでしたよ。

〈コースタイム〉
10月5日
幽ノ沢出合(05:20) → 取付(07:50) → 終了点(12:00) → 堅炭尾根(13:00) → 幽ノ沢出合(15:30)


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