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滝谷ドーム中央稜&前穂4峰正面壁松高ルート
荻原 健一

山行日 2008年9月13日~16日
メンバー (L)荻原、竹内

 当初の例会計画では、3日間で前穂4峰正面壁のみとしていたが、参加者が竹内君だけで休みの融通が利いたので更に休みを1日とって滝谷ドーム中央稜を加えた。また滝谷と奥又白の両方を狙うため、ベースも当初予定の奥又白池から涸沢へ変更。更にパートナーの竹内君の人工登攀技術に不安があったので、奥又白は北条=新村ルートから松高ルートへ変更。松高ルートは、北条=新村の1本隣りなだけだが、前4正面壁のハング帯の弱点をうまく突いており、A0でも十分突破出来ると判断。こうして当初の計画よりも、ずいぶん贅沢な山行計画となり2人の期待は膨らむのであった。
(9月13日)
 前夜23時頃水道橋で集合して竹ちゃん号で沢渡へ。疲れていたので、竹内君の晩酌には付き合わずさっさと寝る。朝起きると雨。涸沢まで雨の中をてくてく歩く。涸沢まででも結構疲れたのでヒュッテの生ジョッキは最高だった。夜になっても雨は降ったり止んだりで、涸沢は濃いガスの中。明日は停滞かな~??
(9月14日)
 午前2時半起床。ガスは濃いが雨は降っていないよう。3時50分出発。涸沢小屋より一旦奥穂方面へ入ってしまうが、途中で気付き小屋に戻り北穂南稜を登る。30分くらいのロスか?明るくなってくるが、まだガスは濃くとりあえず北穂山頂までというつもりで歩く。3時間弱で漸く稜線。ここより南峰側へ稜線を南下し、一旦下り登り返した所がドームだ。登山道は涸沢側を巻いている。巻き始めの安定したところで9名のパーティーが登攀の準備をしている。ガイドの遠藤パーティー5名と廣川健太郎さんのパーティーが4名。廣川さんはビデオ撮影しながら行くとのこと。我々もここで準備して取付へ向かう。ドームの頭を巻いて下降しコルに出た後、登山道を離れ右へ降りていく。踏跡は結構しっかりしている。途中1箇所懸垂を交えて取付へ。
取付より滝谷ドーム中央稜1P目  上記9名の他に既に先行パーティーが取り付いており、当分順番は回って来そうにない。取付へ向かう途中よりガスは晴れ、青空も見えてくるが滝谷は西日が差す夕方まで日が当たらないので非常に寒く長い長い順番待ちとなった。約2時間半で漸く順番が回ってくる。11時登攀開始となるが、全5ピッチと短く比較的易しいルートなので焦りはない。傾斜は結構あるが、ホールド豊富で岩も硬く予想通り簡単なピッチが多く快適そのもの。3000mの高度感も素晴らしく、7月に集中した槍平小屋も良く見える。ガイドパーティーに不慣れなメンバーがいたので途中も順番待ちがあったが、それでも取付から僅か3時間で終了点に到着。ちょっと物足りない感もあったが、竹内君は充実したようで喜んでいた。その後北穂山頂に立ち、長い長い南稜を下り、本日はヒュッテではなく小屋の生ジョッキで乾杯。明日は午後より崩れるとのこと。明朝3時の出発に決める。
滝谷ドーム登攀を終えて(バックは前穂北尾根) (9月15日)
 2時起床、3:15出発。2時間程で前穂北尾根5,6のコルへ。ここより奥又白側のトラバース道に入るが所々崩壊気味で少々悪い。途中朝焼けの4峰正面壁が美しかった。奥又白沢へ入り雪渓を直上。クライマーは我々の他には3名1パーティーのみ。前穂東壁(多分北壁~Aフェース)に行くようだ。昨日とは打って変わって静かなクライミングが楽しめそうでわくわくする。奥又白沢よりC沢へ入り右へトラバースして取付へ。取付までの踏跡は比較的しっかりしているが所々不明瞭となり先行パーティーも居ないので、ルーファイに気を使う。松高ルートの取付はすぐに見付かり一安心。1P目は竹内君にTOPで行ってもらう。以降つるべで2,3P目までは非常に簡単。4P目が核心で松高ハングが我々の頭上に重くのしかかっている。
 見た目結構厳しそうだが、ハングの乗っ越しに長いシュリンゲがかかっており足をかければなんとかなりそうだ。AOとフィフィにお世話になりなんとか越える。フォローの竹内君はこのピッチは相当苦労することになったが、今後更にステップアップするための良い経験にして貰えればと思う。次の5P目もやや厳しそうだったので私がリードし、フィナーレの6P目は竹内君にやってもらい終了点へ。一度目の握手となるが、5,6のコルまでは気が抜けない。4峰の肩までは崩壊の進んだ岩場を慎重に右上トラバース。やっと北尾根に乗ったと思うのも束の間、今度は4峰肩より4,5のコルへ降りるルートが分からない。ガスはいよいよ濃くなり雨もパラパラで結構焦る。さんざんウロウロしたあげく頭上の懸垂支点に気付いて下降。その後も崩壊の進んだ落石続発の北尾根を下り漸く5,6のコルへ。北尾根は残雪期に一度登っているが、残雪期の方がよっぽど安定しているように思えた。ここで2度目の握手。あとは1時間ほど安定した踏跡を辿り涸沢へ。本山行3度目の生ジョッキをおいしく頂く。天気はなんとか持ってくれて、本降りになったのはテントに入ってからだった。

松高ハングを越えて一安心!

(9月16日)
 朝起きると雨は上がっていた。秋晴れの中上高地まで下り終了となる。沢渡でテントを乾かしている間に入った足湯が気持ちよかった。

〈コースタイム〉
9/14 涸沢(03:50) → 滝谷ドーム中央稜取付(08:30~11:00) → 雲稜取(14:00) → 北穂山頂(15:00) → 涸沢(17:00)
9/15 涸沢(03:15) → 奥又白(07:10) → 松高ルート取付(08:30) → 終了点(13:00) → 5,6のコル(16:00) → 涸沢(17:30)

竹内 豊

 荻原さん主催の例会「奥又白 北条新村ルート」に申し込んだところ、残念ながら良い返事を頂けなかった。要は人工登攀の練習不足でちょっとこのルートだと難しいのでは、といった具合だ。ルート図を見てみると核心部はA1となっており、人工登攀経験の少ない私でもだましだましいけるかな?と思っての例会申し込みだったのだが、違うルート図にはA2なんて記述もある。グレードはある程度、個人の主観的な部分もあるので違うルート集を見比べてみるのも重要だと思った。
 例会の都合上、他の参加希望者がいた場合はそちらを優先させなければいけない、ということで〆切りのルーム当日まで希望者を募ったが、残念ながら現れなかったので休みを1日とって、アブミを基本的には使わない表題ルートをふたりで行くことになった。
 正規の記録は荻原さんにお任せするとして私が担当したピッチの感想を記したい、と思う。
●滝谷ドーム中央稜
 前日の睡眠不足での上高地~涸沢アプローチ後、BCで竹内食当のキムチ鍋をたらふく食べて睡眠をとり、休養は十分のはずなのだが、なかなか足が前にでない。後から来た7人パーティに抜かれてしまった。私の勘違いでルート選択を誤り30分程アルバイトする。98年の地震以来、涸沢から滝谷までは一旦稜線に出て、また滝谷を下降してルートを登る。といったスタイルが今は一般的らしい。稜線上で準備をしている先行7人パーティを見ると、荻原さんが人工登攀を教えてもらいにいった知り合いのガイドパーティだった。登高中はまだ暗くて気が付かなかったという訳だ。ガイドパーティが先行していたので滝谷への下降も迷わずいけたが、取り付きではもう1パーティいたので登り始めるのにはかなり待たされた。1P目竹内リード。凹角のクラックを快適に登る。けれども先行者がいたためになかなか自分のペースで登れない。サードフォローのような気分で登攀する。上部はチムニーになっていてどうやら1P目の核心部のようだ。先行者もなかなか上がれず立ち往生してしまっている。凹角から乗越してフェースにいくことも考えたが、ちょっと悪いのでそのままずるずると先行フォローについていってしまった。チムニー内は思ったよりも手がかりがなく苦労する。チムニーを抜けるとビレー点がひとつ。しかしそのままザイルを伸ばして小テラス上に出てしまうがこれはあまりよくなかった。屈折のため、ザイルがすごく重くなってしまいランナーの取り方を考えないといけないと後悔した。また先行がいる場合は不安定ではあるがチムニー内の支点を使用しても良いかもしれない。3P目。岩稜リッジ、特に困難を感じない。5P目。やっと体が動きだした感じがする。滝谷の独特な雰囲気のなか快適に登る。最後の小ハングは右からいくか、左からいくかでだいぶ難易度が違うように思えるが、右からいったほうが自然なラインのような気がしたのでそちらから登る。全体のピッチ数が少ないので調子が出てくる頃にはもう終わりか、みたいな感じだったが思ったよりも岩も安定していて好ルートであり、ドーム中央稜は楽しかったのでまた登っても良いと思った。
●奥又白・前穂4峰正面壁松高ルート
 涸沢から五六のコル目指して早朝出発する。ヘッデン歩行しながら一般道ではないガレ道を慎重に進む。五六のコルを越えた後もザレた沢を下降し、一部崩れたところもあるので注意が必要だ。鞍部に出ると道がある程度安定してくる。ここで日が昇り、前穂正面壁が朝日で焼かれてとてもきれいだった。その後もひたすらガレ沢を下降して、奥又白雪渓に取り付き、軽アイゼン・バイルで目的の4峰正面壁まで詰める。雪渓が途切れたところで装備を外し、ふたりでルーファイしながらルートがどこかと登高する。1P目竹内リード。トポ図には2級の表記があるが割と立った不安定な草付きなので案外気を遣いながら登る。ホールドやスタンスに堆積している小石や砂を避けながら、割ともろい岩をたよりに登ったので結構疲れた。体感的には3級でもおかしくないなとは思った。3P目も草付きフェース。なんか今日はほんとにぼろい所ばっかりだな、と思い、またまた肝を冷やしながら登る。4P目核心部松高ハング、荻原リード。3P目の上はかなり大きなテラスになっており、壁がよく見える位置にビレー点を移動した。トポ図ではA0で簡単に越せる。との記述があるが、延々と長いアプローチを歩いて消耗していたせいもあると思うがふたりとも苦労した。私はフォローだったがヌンチャクを1本取り忘れてしまい、そのクライムダウンで腕がパンプしてしまってA0の乗越しが結構大変だった。垂壁にはシュリンゲが垂れていて、その右下方にクラックスタンスがあるのでそれをうまく使えば良かったのかもしれない。5P目荻原リード。本来なら竹内が担当なのだが、消耗している私をみて荻原さんがかわってくれた。垂壁自体は短く、一部A0で越えるところのみ悪い。ここはふたりとも問題なくいく。6P目竹内。前のピッチをかわってもらったので最終ピッチは竹内担当。上部までくると岩も安定してきて楽しく登る。本来なら多分左にそれれば終了点があると思われたが、直上しヤブ漕ぎしてハイマツでビレーした。北尾根までのふみあとはあまり明瞭ではなく、ふたりで道を探しながら登る。稜線上に出たら、少し登り、ビレー点があるのでここでラッペルする。この下降が解らず30分くらいうろうろした。北尾根の下降も長く、数年前にあった残雪期の北尾根例会の話や、その時参加していた越前屋さんの話をしながら五六コルまで降りる。松高ルートはいまのところ「もうお腹一杯」という感じがした。
 涸沢ベースにするとどちらの登攀エリアへもアプローチ可能だが、アプローチ自体が長くてアップダウンもあるのでアルパインクライミングの基礎である体力が必要だと思った。今回は男性2名ということもあって、偵察も兼ねてエリア概念把握といった別の目的もありこのような贅沢な計画とした。今回のように涸沢ベースにして、2つのエリアの登攀を目的とするのなら用意周到に準備していくことをおすすめする。またふたりとも基本的には初見で入っているので非効率な所もあったかもしれない。しかし、残念ながら先輩からの技術・知識フィードバックがとぎれがちになっている今、もう若くない私達が手探りでやっているクライミングを暖かく見守ってほしい。これからも宜しくお願い致します。

1P目滝谷凹角フェース2P目登攀中。ガスが出て来て滝谷ムード満点
前穂正面壁に差し込む朝日はとてもきれいに壁を朱に染めた下に見えるは奥又白雪渓

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