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北岳バットレス第4尾根
平 真里

山行日 2008年9月6日~7日
メンバー (L)小幡、平

 前の週、越沢バットレスで実施するはずだった予行練習は、雨のため中止。リーダーの小幡さんと組むのは初めてで、準備不足のまま迎える当日に、かなりの不安を抱く。気持ちを代弁するかのように、週末の予報も雨だった。
 9月5日(金):新宿駅22時45分集合。ムーンライト信州が満席だったので、23時発のかいじに乗車。週末の最終列車とあって、通勤客が多いが、座席は多少空きがあった。雨の予報はちょっと後ろにずれたものの、実施できるのかどうかは、いまだはっきりしていなかった。
 9月6日(土):甲府駅0時38分着。登山者は、ほか1パーティだけ。改札前にて仮眠。シュラフカバーをかぶっただけなのに暑かった。3時半起床、4時のバスに乗るべくバス停に並ぶ。臨時便が出て2台目に乗車。うつらうつらしているうちに、6時すぎ広河原到着。
 荷物を整理し6時半、出発したときには、ほとんどの登山者はいなくなっていた。天気予報を確認すると、午後から雨。大樺沢沿いの登山道を登ってゆくこと2時間強、二俣のバイオトイレの音がして、分岐が近いことを知る。二俣を過ぎ、左の雪渓を横目に、水が汲めそうなところを探しながら登る。適当なところで登山道から離れ、水を汲んでいると、ヘルメットをかぶったパーティが通り過ぎていった。同じルートだろうか。途中でのビバークに備えて、水を2リットル補給。登山道に戻ってさらに歩く。天気の崩れは微塵も見えず、日が照りつけて暑い。バットレス沢出合に10時ごろ着。
 傾斜が増して、ちょっと進んでは息が切れる。先頭は小幡さんに交代してもらう。振り返られるのがつらいけど、何度も立ち止まらずにはいられない。沢を詰め、bガリー下に着いたころは、くたくただった。3人組の1パーティがすでに登攀準備をしていた。11時くらい。
 1ピッチ目は私から、と言われ、ルートを見上げる。終了点は見えており、クラックで迷うところはないので、安心して登る。1箇所、ピンにヌンチャクをかけ忘れ、下ってかける。支点をつくるのにもたつき、コールしてようやく引き上げにかかる。
 2ピッチめ、小幡さんがさっさと登った後を追っかける。着いたところで、再びロープをたたんでザックにしまう。踏みあとを辿って、草地、岩場を、足もとに注意しながらトラバース。巨大な涸れ沢の向こう岸に、赤ペンキで4尾根と書かれていて、cガリーだとわかる。さらに上の目印を辿って登る。いったん、登攀にかかってからの歩きなので、非常に長く感じられた。13時前、第4尾根取り付き着。誰もいない。
 すでに疲労困憊の私のリードではスピード的に無理、と判断され、リードは小幡さんに委ねる。広いテラスでビレイしていると、先行していた3人パーティが現れた。踏みあとを辿っていったら、違う場所に出てしまったとか。
 コールがあったので、登りにかかる。足場がわからず、クラックの右に回りこんでみると、もう1つビレイポイントがあった。こっちかな、と無理に体勢を変えてみたが、上がれない。後続も気になったので、しょっぱなからいきなりヌンチャクをつかんで強引に体を上げた。そこを越えると、手足とも豊富で登るのに困るところはない。ザックが重くて踏み込むのに度胸がいるだけである。フォローの気安さで力任せに登る。
 途中、ロープがあと10mになったら必ず声をかけるよう注意された。1ピッチ50mを越えるところはない、と安心していたら、1回足りなくなってしまったのである。下りられる場所だったから良かったものの・・・。上に着いてみると、既存のビレイポイントのさらに上、岩角にロープをまわして支点をとり、ビレイをしてもらっていた。
 左右どちらに回り込むほうが良いのか、本で予習していたことはすでに消し飛び(だいたい何ピッチ目かわからなくなっていた)、ロープを追って登るだけ。途中、まったく足場のないところで、ここが核心。つまり5ピッチ目、ということだけわかった。ヌンチャクをつかんで立っても、次の手がかりらしきところに届かない。いざとなったらぶら下がるつもりで、何度か試みて伸び上がって取る。リッジに上がって、這い登れるのがありがたい。
 直後わずか10mの懸垂下降。ここまで来たからには、上まで抜ける、と宣言される。まだ青空。余裕があれば景色も目に残っていたに違いないのだが。
 懸垂はロープ1本にして、巻き直しに時間をとられるが、後続の姿は見えない。支点は2つあり、手前側の方にかけて、小幡さんに続いて、私が降りる。やや広めのテラスで、再び登る準備。
 あと、20m、10mと叫んでも、いっこうにロープが止まらないので不安になる。もういっぱい、と言ったところで少し緩み、コールがあって登りにかかる。このスラブはちょっとフリーっぽい登り方ができて安心する。
 最後は、私がロープを引っ張っていって肩がらみであげるように、とのこと。落ちるような場所ではないが、ロープで後ろに引っ張られているようだった。広い終了点につくと、座り込んで綱引きのようにロープを引く。
 小幡さんが上がってきたところで、本当に終わりか確認したら、どっと全身の力が抜けた。16時。これで明るいうちに肩ノ小屋まで行ける。登攀具をしまい、30分ほど休憩。後続パーティが先にコンテで登っていった。ガイドさん2人とお客さん1人の構成らしい。
 山頂めざして立ち上がり、私が先頭を歩いた。ようやく花にも目がゆき、北岳固有種のタカネマンテマらしきものも発見。
 17時山頂着。誰もいなかった。静かな山頂で、きょうの余韻に浸る。
 名残惜しいが、肩ノ小屋目指して下る。小屋の屋根が見える前に人声が聞こえてきた。受付を済ませ、テントを張る。周りのテントから漂う夕餉の匂いをよそに、ジフィーズの夕食はあっという間に終わってしまった。
 日没。月は細く、天の川がはっきり見えた。明日も晴れるだろう。20時半就寝。シュラフカバーにダウンを着込んで寝たが、寒くて何度も目が覚めた。
 9月7日(日):5時起床。快晴。小屋前には、日の出を見る人々が並んでいた。簡単な行動食を口にして、6時出発。
 団体をはじめ多くの登山者とすれ違う。白根御池に7時半着。大休止で朝食。小屋前にはテントわずか1張り。きょうも岩場は空いていそうだ。小屋は昔と比べてすっかりきれいになっていた。小屋の前から、昨日懸垂下降したマッチ箱がはっきり見える。小幡さんは、懸垂のところに人が見えるという。
 9時広河原着。祝杯を上げて10時20分のバスを待ち、芦安で温泉に寄って帰京。
 体力不足と手際の悪さを思い知らされるも、予報外れの晴天と待ち時間なしの登攀で非常に恵まれた2日間だった。リーダーの小幡さんの辛抱強さに感謝しています。次回までにはもっと練習して(初のアルパインというだけでなく、ザックを背負って登るのも、テント装備にするのも初めてだった)、登ることを楽しみたい。

〈コースタイム〉
9月6日 広河原(06:30) → 大樺沢 → バットレス沢出合(10:00) → bガリー下(11:00) → 第4尾根取付(13:00) → 終了点(16:00) → 北岳山頂(17:00) → 肩ノ小屋(18:00)
9月7日 肩ノ小屋(06:00) → 白根御池小屋(07:30) → 広河原(09:00)

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