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槍平集中追悼山行
その2 横尾本谷右俣
内藤 美智子

山行日 2008年7月19日~21日
メンバー (L)荻原、別所、菅原、高木、山崎、飯塚、渡辺、内藤

 お正月に雪崩事故で亡くなられた越前屋さんと金指さんの追悼山行に参加させていただいた。わたしはお二人をあまり存じ上げていなかったのだが、同じ会のメンバーとして冥福を祈り、また雪崩事故の現場もぜひこの眼に納めておきたいと思った。槍平集中としていくつかのコースの中で横尾本谷右俣から槍ヶ岳を越えて槍平へ向かうパーティーに入れてもらう。

19日(土) 天気:晴れ
 前夜東京を出発して沢渡の駐車場にテントを張り仮眠した。上高地に移動前にここで共同装備を分けパッキング。体力的に不安だったわたしは個人装備を切りつめてきたので共同装備が入ってもこの時はそれほど重くは感じなかったのだが、2日目長時間歩いた時はだんだんと重く感じ、やはり体力のなさを痛感したのだった。
 タクシー(1台4000円)で上高地に移動。3連休とあってたくさんの登山者がいた。今日の行程は長く、早々に出発する。横尾方面へ向かう登山者は多く、幅の広い登山道に列を成している。
 明神、徳沢、横尾。ここまでは道はほぼ平坦で林間なので日陰となって歩きやすかった。ここで少し長めに休み、横尾橋を渡って涸沢への登りに入る。左手に屏風岩を見ながら進む。相変わらず登山者が多く、横尾までと違って道幅が狭くなったので追い越し追い越されに気を遣う。道は屏風岩を東から北へ回り込むようにつけられている。
 横尾から1時間ほどで本谷橋に着く。本谷橋からはいよいよバリエーションルートに入る。橋右側に張られたロープはその境界のようなものだろうか。
 横尾本谷は水量はあるが滝はほとんどない。別所さんによれば、昔は槍穂の稜線への登路としてガイドブックに載っていたそうだ。今は登るパーティーもそれほど多くはないようだが、ヤブの中を歩くところは踏み跡が残り、目印のテープなども見られる。沢沿いではあるが巻き道と川原歩きの連続でとても暑い。昨夜は睡眠不足で荷物も重く、へばり気味。休憩の時に冷たい沢の水で手や顔を洗えるのが救い。
本谷右俣沢沿い歩きへ  右俣に入ってすぐに小滝がある。沢靴ならばどのようにもルートがとれるのだが、靴を濡らしたくないと思うと悩んでしまう。結局、少し手前で流れを跳んで右岸から巻いた。
 わたしは流れを跳ぶ時に6月末に入川本流で流された時のシーンがプレイバック。安全策をとって濡れていない岩の上ではなく、より近い流れの浅瀬に跳んだためわたしだけ靴が濡れてしまった。しかしそのあとに右岸から左岸に戻る時にほとんどのメンバーが靴を濡らす羽目になってしまった。
 その次の小滝は左岸の大岩にアブミ状になった古いフィックスロープがあり、それを使って大岩に上に登るのだが、岩の上に木の枝が張り出しているためザックを背負ったままだと通り抜けられず手間取った。
 この後、少し登ると雪渓が出てきた。まだ傾斜がゆるかったのでアイゼンは付けずに歩く。雪渓が終わったところはお花畑となっており、雪解け水が小さな流れを作っていた。予定では今日は南岳の天場までだったが、メンバー全体の疲労を考えてやむなく、この天上の楽園でビバークすることになる。
快適な雪渓、間もなく天場へ

20日(日) 天気:雨~曇り
 前夜は寝不足と疲れから一人で夕方から寝てしまっていたが、他のメンバーは別テントで宴会をしていた模様。わたし以外の女性達はしっかりアルコール類も担ぎ上げていたようでその体力に感服する。最近は前夜発で山に行くと体調が悪くなることが多いのだが、たっぷり休息をとらせてもらったおかげで調子は良さそうだ。
 夜は夏用シュラフでも暑く感じるほどで明け方の冷え込みもないと思っていたら案の定空はすっかり雲に覆われてしまっている。これから目指す稜線は完全に雲の中。南の空はわずかに青空が見えていたが、それもすぐに見えなくなってしまった。
 雨具を着込んで出発する。天場を離れるとすぐに雪渓となったので軽アイゼンを付ける。1時間ほど雪渓を登った後、お花畑の間の急なガレに移る。20分ほど登ると尾根上に乗り、ここを少したどると登山道に出た。天狗原から南岳への登山道の途中だ。天気さえ良ければここまで来るとバーンと槍ヶ岳が見えるはずなのだが、全く何も見えない。登山道を1時間弱で槍ヶ岳と南岳の分岐に出た。
 天気がひどくなるようなら槍ヶ岳へ行かずに南岳から最終目的地の槍平へ下ろうかという話もしていたが、小雨程度になったので予定どおりに槍ヶ岳に向かう。ただ稜線に出たせいで風は少しあり、雨具を着ていても寒い。きのうは暑い暑いと言っていたのに何という違い!分岐からしばらくはゆるやかなトラバースが続く。やはり一般道は歩きやすい。
 中岳からの下りにはハシゴがある。大喰岳はガスで何も見えないのでピークと気付かずに過ぎてしまいそうになる。ガレの堆積で賽の河原のような景色だ。
 とにかく景色も何も見えないのでただ粛々と歩いていたが、飛騨乗越で突然にぎやかな歓声に包まれる。東鎌尾根パーティー、槍平から槍ヶ岳に登頂したパーティー、そしてわたし達3パーティーが偶然にもここで邂逅した。しばし再会を喜び、東鎌パーティーは南岳へ、槍平パーティーは飛騨沢へ、我々は山頂へ向かった。
 槍岳山荘前に着く頃にはときどきガスが切れて槍の穂先が望めるようになってきた。山荘横にザックを置き、槍ヶ岳山頂へ。山頂に着く頃には青空になりますようにと祈りながら登る。岩場、ハシゴが続き、天気が今ひとつのせいで人は少なめだというが、やはり列を作って登ることになる。山頂直下のハシゴは向かって左が登り、右が下りの一方通行になっている。祈りも虚しく、晴れることなく真っ白な景色の槍ヶ岳山頂だった。でもわたしにとっては初めての槍ヶ岳山頂、やはり嬉しかった。
山頂にて集合写真  狭い山頂に次々と人が登ってくるのでゆっくりはしていられない。全員で記念写真を撮るとすぐに下山する。下りもハシゴなので列を作って順番を待つ。わずかの間に混雑がひどくなったようだ。山荘の前に戻ってくるとちょうどガスが切れて槍の穂先が顔を出した。周囲のガスも沈みこんで白一色だった景色が色彩を取り戻す。だが遠くの山々を眺められるほどは晴れてくれなかった。そして槍ヶ岳の姿も一瞬のことですぐにまたガスに覆われてしまった。
 午前中より天気が良くなってきたので槍平へまっすぐには下らずに千丈沢乗越から中崎尾根を奥丸山まで行くことになる。千丈沢乗越まで行く途中で荻原さんの左靴底が剥がれてきてしまった。テーピングテープでグルグル巻きにして急場をしのぐ。
 千丈沢乗越から少し下ったところから中崎尾根に入る。天気はあまりよくならず、展望がいいコースらしいがやはり何も見えなかった。樹林帯で蒸し暑く、また虫が多いのにも閉口した。長時間行動に疲れてきたが、お花はいろいろ咲いていて慰めになった。槍平への分岐にザックをおいて奥丸山を往復する。やはり景色は見えなかった。再び降りだした雨の中を槍平へ下る。槍平には大勢のメンバーが待っていた。

21日(月) 天気:晴れ
 今日は全パーティー新穂高温泉へ下山する。わたし達は沢渡までバスで戻らなければならないので10時台のバスに間に合わせるため早めに出発する。今日は急な登りも下りもないので気が楽だ。少し行くと前日応急処置をした荻原さんの靴がまた剥がれてしまったので、テープを貼りなおしたりしてゆっくり目に歩く。
 1時間ほどで滝谷出合。休んでいるうちに稜線が晴れて滝谷の岩場が見えてきた。滝谷出合を過ぎると谷の間から錫杖岳の稜線が見えてくる。白出沢出合につく直前にとうとう荻原さんの靴裏は左右ともに完全に剥がれてしまった。幸いここからは林道歩きになる。穂高平で休憩をいれ、1時間半で新穂高温泉。ここまで下ると下界の暑さが待っていた。

〈コースタイム〉
7/19 上高地(06:40) → 明神(07:25~07:35) → 徳沢(08:15~08:25) → 横尾(09:15~09:35) → 本谷橋(10:30~10:45) → 天場(13:55)
7/20 天場(05:45) → 登山道に出る(07:15~07:30) → 南岳分岐(08:20~08:40) → 槍岳山荘(11:00) → 槍ヶ岳山頂(11:00~11:25) → 槍岳山荘(11:55~12:20) → 千丈沢乗越(13:00) → 奥丸山(15:05) → 槍平(16:05)
7/21 槍平(05:35) → 滝谷出合(06:25~06:35) → 白出沢出合(07:30~07:45) → 穂高平小屋(08:20~08:40) → 新穂高温泉(09:25)

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